広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■東雲(15)

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2020年3月9日、お茶の水女子大の合格発表があり、桐絵は合格していた。
 
「どっち行くの?」
と彩佳は尋ねた。
 
「早稲田かなぁ。女子大ではボーイフレンド見つけられないし」
「どういう基準で選んでるのよ?」
「フィアンセの近くの大学に行こうとしているアヤに言われたくないな」
「別にフィアンセという訳ではないんだけど」
「夫だっけ?」
「妻だったりして」
「まあ今どきレスビアン婚も悪くないと思うよ。この本あげるね」
と言って、桐絵は彩佳に
"Lesbian sex for beginners"
という本を渡した。彩佳が目を丸くする。
 
「どこでこんな本を」
「神保町で昨日見つけた。図解がたくさん入ってるよ」
 
3月10日、東大の合格発表があり、彩佳は落ちていた。自己採点では合格水準ギリギリくらいの気がしたのだが、たぶん微妙に届かなかったのだろう。
 
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これで彩佳は青山学院大への進学が確定した。
 

2人は宏恵と連絡を取ってみた。
 
「ああ、宏恵はお茶の水合格したんだ」
「うん。4月からは東京生活。でも家賃高そうだね」
「それでさ、今こちらで言ってたんだけど、3人でひとつのマンション借りない?」
「あ、それいいね。どのあたりにするの?」
 
「いくつか候補はあるんだよね。今私たちが通っている高校の近く、赤羽付近は、駅から少し歩く場所ならわりと安い物件がある。あと都心だけど、早稲田大学や明治大学の近くはけっこう安い学生向け物件もある。あと意外に便利なのが副都心線の沿線。池袋・新宿・渋谷にダイレクトにアクセスできる」
 
「じゃ、そちらに任せた。池袋にアクセスできれば私は問題無い」
「OKOK。それで家賃・光熱費は3分割で」
「うん。それで」
 
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なお、彩佳たちの高校女子寮は3月24日までに退去すればよいことになっている。
 

3月10日、政府は新型コロナウイルス感染拡大を歴史的緊急事態に指定した。
 
3月11日、WHOは新型コロナウイルスの流行についてパンデミック相当である、との見解を示した。
 

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3月9日、★★レコードの町添社長は、無観客演奏と別途定める厳しい基準をクリアした方式での演奏を除く、全てのライブ・サイン会の中止要請を出した。
 
この基準というのがなかなか厳しい。50項目以上にわたる基準が定められているが、主な点だけあげても
 
・窓を開放するか換気扇を動かしていて、建築基準法に定められている必要換気量30m3/人時 を確実にクリアしていること。
 
・演奏中は窓やドアを必ず開放して演奏する。騒音問題で許されない場合は、そういう会場は使用しない。
 
・空調を使用したり空気清浄機を使う場合はULPA以上のフィルターを使用する。
 
・演奏中は立ち上がり、声援、一緒に歌うこと禁止。テープなどを投げること禁止。客同士で肩を組んだりするの禁止。ウェーブ禁止。
 
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・客からのお花・プレゼント禁止。客との握手やハイタッチ禁止。
 
・サイン会をする場合はシールド設置・手袋着用。握手は“エア握手”まで。
 
・スタッフは全員マスク・手袋着用。
 
・入口に赤外線方式の検温設備を設置し、熱のある観客を確実に排除すること。
 
・座席は最低1m以上の間隔をあける。立見方式は禁止。
 
・トイレの感染防止対策(それができない会場は使用しない)。
 
・物販では客と声でのやりとりが発生しないようにする。レンタルビデオ店のようにタグと商品を交換する方式推奨。現金のやりとり禁止。スマホ決済推奨。
 
社内に医師の資格を持つスタッフを含む審査委員会を設け、その審査に通らない限り実施は許可しないものとした。
 
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取り敢えず仙台のクレール若林店はこの基準合格の第1号となった。エヴォン銀座店は落とされた!それで永井が仙台まで来て、和実からクレールで取った対策に付いて聞いたが「そこまでしてるのか!」と絶句していた。クレールのメイド衣装“プラスチック・スタイル”にもギョッとしていた。
 
しかし永井は500万円掛けて銀座店の改装をして5月頭には再審査で合格した!メイド衣装もプラスチックスタイルは採用しなかったものの、フェイスシールドと手袋着用は3月中に即導入した。またクレールにならって、オムレツにメッセージを描くのは客席ではなく厨房でおこなう方式とした(注文時に指定してもらう)。
 
エヴォンは銀座店のみならず全店“飲食店営業”なので、営業自粛要請の対象外である。他の飲食店同様、店舗営業は夜8時までとし、その後夜10時までテイクアウトのみの運用としたが、このテイクアウトが物凄い売上になり永井は驚いた。
 
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しかし小規模のライブハウスで審査合格した所は希だったので、エヴォン銀座店はセミプロのミュージシャンにとって貴重なライブスペースになったようである。(但しエヴォンの自主基準で管楽器の使用を当面の間禁止とした)
 
これはテレビでも報道されたので、見学に来るライブハウス経営者も多かったが、物凄い改装費用が掛かる上に、入れられる客数が少なくなるので、二の足を踏むライブハウスが多かったようである(そもそもライブハウスは厳しい経営状況の所が多い)。
 

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ローザ+リリンは3月8日に仙台で震災イベントの仕事をした後、ドライバー会社の矢鳴さんの運転するアテンザで東京に戻った(千里は青葉と一緒にオーリスで高岡に向かった)
 
3月9-10日(月火)はローズクォーツの音源制作に参加する。この日は『Rose Quarts Plays Pops』の残っている曲を保留して、先に『Rose Quaars Best』の中の曲を4曲収録した。これまでケイ以外のボーカルには歌えなかった『雨の夜』、『空中都市』、『ウォータードラゴン』、そして『夏の日の想い出』という難曲である。どれも声域が2オクターブ半以上ある曲ばかりである。
 
難しい曲が続いたが、『ウォータードラゴン』の譜面を見たケイナは
「マリナとパート交替していて良かった」
と言った。さすがのマリナもこの曲を仕上げるには4時間掛かった。この曲は偶然スタジオの横を通り掛かった丸山アイが
 
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「ボクに監修させて」
 
と言って、伴奏も一部録り直させた上で、メインメロディーを歌うマリナに細かい指示を出していたが、本当に龍が水面から飛びあがっていくような演奏にしあがり
 
「これ、ケイのオリジナル版より格好良い」
とヤスが驚いていた。
 
最後の『夏の日の想い出』はローズ+リリーのレパートリーでもあり、ローザ+リリンは“耳を塞いでいても歌える”くらい歌い込んでいるので1発でOKが出る。丸山アイも
 
「君たち、よく歌い込んでいるね」
と褒めていた。
 

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「なんとかこれで完成しましたね」
 
「でも『Rose Quarts Plays Pops』もまだ少し残っているし『Rose Quaars Best』の他の曲はもう録音する時間がないですね」
とケイナが言うと
 
「来週はPopsの曲の残りをやって、下旬からBestの作業本格的に始めるから」
とタカがいう。
 
「下旬から始めて3月中に何曲いけますかね?」
「4月いっぱいには全部終わると思う」
「あのぉ、私たち3月までですけど」
「5月まで延長されてるけど」
「え〜〜〜!?」
 
それでケイナとマリナは契約が取り敢えず5月まで延長されたことを知ったのであった。板付社長に電話すると
「あ、ごめーん。言うの忘れてた」
などと言っていた。
 
「でも、私妊娠しちゃったから、代理ボーカルが終わったら、仕事のペースを落とさせてもらおうと思っていたんですが」
とマリナが言うと
 
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「あれ?赤ちゃんできたんだ。おめでとー」
とタカは言った上で
 
「今年はどっちみちもうライブできないから問題無いよ。音源制作では座って歌えばいいし」
などと言っていた。
 

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それで打ち上げ代わりに、甲斐窓香が全員に軽食(スタバのサンドイッチ)と飲み物(コーヒーまたはビール)を配り
「祝杯は各自の家でお願いします」
 
などと言っていた時、スタジオの傍を通り掛かった!雨宮先生が入ってくる。
 
「いい人たちがいた」
と雨宮先生は言った。
 
「さ、みんな帰ろうか」
とタカは言ったが、雨宮先生は
 
「君たちにおいしい仕事をあげるよ」
などと言っている。
 
タカが出ていこうとするので、他のメンツもいいのかな?と思いながらスタジオを出ようとする。しかし雨宮先生はスタジオの入口に立って
 
「頼む。ちょっと助けてくれ」
と言った。
 
「一体何ですか?」
とサトが尋ねる。
 

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「実は、明日の夕方までに、WindFly20のCDの音源制作を終えないといけないのに、月村山斗さんが入院したんだよ。新型コロナで」
 
「え〜〜〜!?」
「それで曲が無いんだ。君たちで作ってくれないか?」
「シングルですか?」
「アルバムだ。最低12曲は必要だ」
 
「あのぉ。それいつ収録するんですか?」
「明日」
「1日で12曲吹き込むんですか!?」
「あの子たちの音源制作はいつもそんなものだよ。どうせ聴く人なんて居ないし。ファンは店頭で各自10枚20枚買ってきて押し入れに放り込む」
 
「うーん・・・」
「なんか間違ってるなあ」
 
「だけど月村先生は一晩で12曲作るおつもりだったんですか?」
「本当は締め切りは半月前だった」
「ああ」
「だけど月村さんもオーバーワークだからさ、遅れに遅れて、もう限界と言っていたところで倒れたんだよ。それで高熱が続くからもしかしてというのでPCR検査したら陽性だった。今面会謝絶。家族さえも会えない」
 
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「大丈夫ですかね」
「祈るしかないね」
 
「月村さんが歌詞を書いたらすぐ曲を書かせるつもりでアマチュアの作曲家を12人スタンバイさせていたらしいが、歌詞がないと依頼できん」
「その人たちに歌詞も書かせたら?」
「無名作曲家の作詞作曲作品なんて使えん。あんたたちなら一応ミュージシャンとして名前が通っているから使える」
 
「名前が必要なのか」
 
「まあね。この業界で大きな力を持つ月村山斗が歌詞を書いた作品で、有名なWindFly20が歌うから商品になる」
 
「やはり何か間違ってるなあ」
 
「とにかく体裁は整えないといけない。だから駄作でもいいから、一応曲として形のある曲を揃えないといけない。既存曲ではないものを12曲ね。今、毛利に1曲、ゆまに1曲、松居美奈と長尾泰華にも1曲ずつ頼んで、千里に4曲頼もうとしたら、あいつ口がうまいから1曲に減らされた」
と雨宮先生が言うので、みんな吹き出しそうになったのをこらえた。
 
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丸山アイは4曲程度を断ったというのは2番だろうなと思った。3番なら松本花子を動員すれば1晩で8曲くらい作れるだろう。もっとも、雨宮さんは、あまり“甘やかしては”いけないが。
 

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その時、雨宮はアイに気づいた。
 
「アイちゃんがいるじゃーん。アイちゃん朝までに2曲くらい作れない?」
「作曲料を印税にプラスして1曲200万円頂きますが」
「100万に負けてよ」
「だったら1曲だけなら」
「取り敢えずそれでいい。頼む」
「じゃ、他の方にも1曲100万円で」
「仕方ないわね。レコード会社に払わせる」
 
緊急事態だし、きっと出してくれるのだろう。WindFly20のCDは間違い無く100万枚は売れるから、その程度の予算は出るはずだ。今Fly20系の中でも最も勢いのあるグループだ。
 
もっともここにいるメンツの中には、窓香のように全く作曲の素養など無いし“名の通ったミュージシャン”には該当しないメンツもいる。それで話し合って、下記のメンバーが1曲ずつ朝までに書くことにした。
 
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タカ、ヤス、マキ、マリナ、丸山アイ。
 
「書く」のレベルは時間が無いので最低限手書きのコード譜まであれば良いことにした。
 
その後は仕事の速いアレンジャー(4人スタンバイさせているらしい)を使って編曲させ、WindFly20・・・・の坂出モナ、佐藤小百合、鈴木ひかり、岸下クリム、中村大希の5人に歌わせる。実はWindfly20のメンバーの中でまともな歌唱ができるのはこの5人だけである。他のメンバーはライブではコーラスをするが、音源制作の時は、女子音大生がコーラスをする。でないとまともな音源にならないらしい。
 
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