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■東雲(21)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-08-15
青葉は3月13日の夕方、自分の車March NISMOを運転して東京に向かった。彪志のところで仮眠してから、お昼前にラピスラズリと合流し、『作曲家アルバム』の“五輪前”放送最後になる、松居夜詩子さんの御自宅を訪問した。
松居夜詩子さんは元アイドル歌手で、マーメイドクラブという集団アイドルに所属していた。解散後、ソロ歌手としても活動。俳優の片原正太郎と結婚を機に引退し、片原峰子・片原元祐の姉弟を産むが、その後“ママドル”と称して歌手としてカムバック、『月のささやき』などのヒット曲を出した。しかし次第に、歌手活動より、作曲家活動の方がメインになって現在に至る。
息子の片原元祐は現在中堅の俳優で『ほのぼの奉行所物語』の主演でもある。
娘の片原峰子も里山美祢子の芸名で女優として活動しているが、作曲家の本坂伸輔(1974-2014)と結婚し、愛菜・萌菜の姉妹を産んでいる。その愛菜(2005-)は現在、集団アイドル“ホワイト▽キャッツ”の中核メンバーで、同グループのピックアップメンバーで作る“キャッツファイブ”のメインボーカルである。萌菜も4月から中学生なので、芸能活動を始めるのではと噂されている。
というのが、一応“公式”のプロフィールなのだが、青葉は過去に関わった事件のおかげで、“重大な秘密”を知っている。
松居夜詩子さんは実は元男の子だが“女の子にしか見えないから女の子歌手として売り出しましょう”と言われて、勝手に性転換手術を受けさせられて女の子になり、女の子歌手としてデビューしたという人である。従って実は片原峰子・片原元祐は、夜詩子さんの子供ではなく、片原正太郎の愛人さんの子供である(戸籍上は夜詩子さんが産んだことになっている:いわゆる“藁の上からの養子”)。
そして実は片原峰子も生まれた時は男の子だったのが、本人の強い意志で女として生きたいと言い、ずっと女性として生活している。睾丸は小さい頃に除去したものの、心臓が弱いため性転換手術を受けることができず、結果的に戸籍の性別も修正できなかった(改名だけしている)ので、本坂伸輔とは正式に婚姻届けを出すことができなかった。愛菜・萌菜は、本坂伸輔が別の女性に生ませた子供である(通常の養子手続きで本坂伸輔と片原峰子の子供にしている)(*6)。
(*6)いったん峰子の養子にした上で伸輔の養子にしたので、2人は伸輔・峰子双方の遺産相続の権利が生じた。また峰子も2人の親権を持っている。
そして更に実は愛菜も生まれた時は男の子だったのが、女の子になりたいと本人が言うので名前も女の子名前に改名し、睾丸を除去し女性ホルモンの投与を行っている(普通にセーラー服を着て女子中学生をしている)。
つまりこの家では親子孫の3代にわたって性転換が行われているのである(但し現時点では性転換手術を終えているのは松居夜詩子のみ:夜詩子の場合は、女の子になりたい気持ちなど全く無かったのが強引に手術を受けさせられている。当初はショックだったものの、女になってしまった以上女として生きるしかないと開き直って50年間生きてきている−女として生きているし、夫の片原正太郎のことも好きだが、個人的には自分は男だという意識を今でも持っているらしい)。
更に実は青葉も知らないことだが、片原峰子の元マネージャー田中淑子は男の子を3人産んだものの、その3兄弟が全員性転換して女の子になり、三姉妹になってしまったという人である(3人とも性転換手術済み)。その長男だったのが性転換後は長女になったのが、龍虎のC学園での同級生で、しばしばローズ+リリーの音源制作やライブにも参加している田中成美である。この三兄弟→三姉妹はまだ全員未成年なので戸籍上の性別はまだ変更できず、男のままである。ちなみに田中淑子は自分の産んだ男の子に全員女性指向があることに気づいた段階で、もうひとり子供を作っている。これは女の子で現在まだ小学2年生だが、この子が性転換して男になったりしない限り、淑子は孫の顔を見ることができる可能性もある。
さてそういう訳で、松居夜詩子さんは元男性なので(本人の意識が男性だということを考慮すると“元男性”ではなく普通に“男性”と言うべきかも)、東雲はるこが元男の子であることに即気づいたようである。
「性別のことはわざわざ言う必要もないよね」
などと言っていた。
「でもはるこちゃん、性別のことは別に隠さなきゃと思う必要はないよ。私が元男だったこと知ってる人、たぶん20-30人いると思うけど、私はそのことを特に恥ずかしがったりはしてない。性別の変更なんて、ただの病気治療みたいなものじゃん」
「個人的には私も“性別を直した”んじゃなくて“性別を治した”感覚なんですよ。男の子という病気にかかっていた」
と、はるこは字を書いて説明した。
「うん。それでいい。だって風邪にかかってそれを治したことを恥ずかしがる人いる?性別の変更なんて、風邪を治すのと大差ないよ。だから、ちょっと性別がおかしかったから、治しました、くらいの感覚で思っていたほうがいいね。まあもっとも私は、治してほしくもないのに治されちゃったけどね」
「どういう事情だったんですか?」
と朱美が訊くので、松居夜詩子さんは
「大宮万葉さんはこの話知ってたよね」
と言って、当時のことを説明した。
「デビュー前にちょっと手術受けてくれって言うからさぁ。何の手術ですか?と訊いても詳しく教えてくれないのよね。君のためになる手術だからって言われて。歌手がデビュー前に美容整形したりする話は聞いていたから、まあいいかと思って同意したらさ、麻酔から醒めたら、お股に包帯が巻かれてるじゃん。そして包帯取ったら、おちんちんが無くなってて、縦に裂け目ができてるから、何?何?これどうしたの?って最初事態が把握できなかった」
と夜詩子さんは苦笑しながら言う。
「そんなのありですか〜?」
と町田朱美は驚いている。
「まあ昔は全てが適当だったのよ。歌手がデビュー前に性別直すのはよくあることだよ、とかプロダクションの社長は言ってたよ」
と松居夜詩子さん。
「よくあったんですか〜〜?」
と朱美は言っているが、
「いや、多分今でもある」
と青葉は言った。
「あるかもね」
と夜詩子さんは言っている。
「****ちゃんとか怪しいと思わない?」
と夜詩子。
「個人名あげるのはやめましょうよ〜」
と青葉。
「アクアちゃんが私の時代に生まれていたら、有無を言わさず性転換手術されちゃってるよね」
「ああ、それは間違いないです」
と青葉も笑って言った。
「アクアさんって・・・性転換手術してますよね?」
と東雲はるこが不思議そうな顔で訊く。
「してないよ。あの子はまだ今の段階では男の子だよ。将来どうするかは分からないけど」
と青葉。
「うっそー!?てっきり性転換済みと思ってた。中学生で性転換したって凄いなあと思ってたのに」
と、はるこは言っていた。
「まあそう思ってる人は多い」
と夜詩子まで言っていた。
以上の会話はもちろん放送されなかったし、そもそもカメラを停めていた!
でも東雲はるこは「あの時、松居夜詩子さんと話せてよかった」と後々まで言っていた。この日のやりとりで、自分が“女として生きている”ことにかなり自信を持てたようであった。
歌唱の方は、松居夜詩子さんが書き、夏樹了子さんが歌ってヒットした『涙のロックンガール』をラピスラズリが生歌唱した。いつもは町田朱美がピアノを弾き、東雲はること町田朱美で三度唱するのだが、ロック曲なので今日は朱美はギターを弾き、それに合わせて2人で三度唱した。使用ギターは朱美愛用のギター YAMAHA FS820 である。FGシリーズより小さな目のボディなので、小柄な朱美によく合っている。
松居夜詩子さんは2人の歌に頷きながら聴いていたが終わるとパチパチパチと拍手をしてくれた。そして
「懐かしいなあ。私も最初に買ったのはヤマハFGだったよ。もう壊れちゃったけどね」
と言っていた。
「FGシリーズって、意外に愛用者がいますよね」
「そうそう。何十万円もするギターを持っていても、FGが一番のお気に入りって人が意外にあるんだ」
と松居夜詩子さんは言っていた。
この日は時節柄ということで、歌唱時以外は、マスクを装着してのインタビューとなった。
マスクで顔の半分が隠れるので
「あんたたち。せっかくの美人がもったいない」
などと松居夜詩子さんは言っていた。
「お化粧するのが半分で済むと言っていた人がいました」
と青葉は言っておく。
「男の人もヒゲソリをサボれるらしいよ」
「日本人がみんな怠け者になるかも」
「今回の騒動では、怠け者になって出不精になるのがいいみたいよ。私も買物は週に2回しか出ないことにした」
「そういう人が多いみたいです」
この日のインタビューでは最初に性別問題の話をして、自分を全部さらけ出してしまったせいか、普段あまり発言の無い東雲はるこが結構よく話してくれて、青葉もやりやすかった。
この日の松居夜詩子さんへの取材で、オリンピック前に放送する分の収録は完了した。オリンピック後もこの番組が続くかは未定である。そしてオリンピックが本当に実施されるのか自体怪しいなと青葉は思い始めていた。そしてついでに、青葉はまだ〒〒テレビに入社前である!
3月22日(日)は青葉が4年間通ったK大学の卒業式だったのだが、最初はマスク着用のお願いとか、熱のある人・最近海外に渡航した人などは出席しないようになどという通達があったのが、直前になって、とうとう、このような発表がなされた。
卒業式は学域・学類,研究科の代表者および学長表彰者のみで挙行することといたしました。式典の様子は本学Webサイト内でLive配信を行います。
出席者以外の方の会場付近への出入りを禁止します。また,会場付近での花束贈呈や胴上げも同様に禁止します。学位記修了証書を受領するため来学する学生以外のキャンパス内の立入りはご遠慮願います
ということで、青葉は当日は卒業式には出ないことになり、ライブ中継を見ることになった。
青葉の卒業式に臨席しようと、埼玉から駆け付けてくれていた桃香・
千里(+京平・早月・由美)、彪志は
「残念だったね」
などと言いながら、一緒に卒業式の中継を見た。
(セレナを千里が運転し、助手席に桃香、2列目に彪志と京平、3列目に早月と由美を乗せて走って来た)
卒業式の後はみんなでファミレスにでも行こうと言っていたのだが、結局高岡の自宅でお祝い会をすることになる。千里がお魚とお肉を買ってきてくれて、お刺身を切ったほか、千里が串揚げを揚げて、みんなで頂いた。桃香は千里が持ち込んだクルスカンポのビールを開け、彪志にも勧める。結局ビールは青葉が1缶飲んだほかは、この2人で11缶開けてしまった。
彪志は酔い潰れてはいたものの会社があるので千里が送っていくことにし、(幼稚園再開の可能性がある)京平だけを連れ埼玉に戻ることにする。早月と由美は高岡に置いたままで、桃香は当然放置である。彪志君には3列目で寝ていてもらい、京平は2列目のチャイルドシートに座らせて、深夜埼玉に向けて出発した。
(揺れると辛いだろうと思ったので彪志君が眠った所で彼のアパートに直接転送!し、千里は京平だけを連れて、のんびりと翌日の昼くらいまで掛けて埼玉に戻った)
この夜は、早月・由美は、桃香の部屋に寝る予定だったのだが、早月が「お母さん、くさーい」などと言うので、結局、早月・由美は1階の朋子の部屋で一緒に寝ることになって、朋子は孫たちと一緒に寝られるので喜んでいた。桃香は翌日夕方まで寝ていた。
コロナ禍の中で、県境をまたぐ移動はできるだけ控えてということになっていることもあり、また朋子が「埼玉より富山の方が少しは安全だと思う」とも言うので、このあとしばらく桃香は早月・由美とともに高岡に居座ることになる。結局千里とセックスできない!
卒業式の翌日3月23日は、青葉は〒〒テレビに行って、既にたくさん話しているし、仕事もしていて今更ではあるものの漆野報道部長と、砂原アナウンサー室長にあらためて挨拶しておいた。その時、ニュースの時間なのにニュースを読む予定のアナウンサーが見当たらないという話があり、青葉は初めて(生で)ニュースを読むことになった。
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