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■東雲(12)

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ケイナは“一通りのこと”をして、そのまま眠ってしまったが、30分ほどで目が覚めた。それでマリナは徳島でのできごとを語った。
 
「醍醐さんと話したら、うっかり2度性転換しちゃったみたい。男に戻りたいなら戻してあげるよと言われたけど、このままでいいですと言った」
 
「マリナって女になりたかったんだっけ?」
「そんなつもりは無かったんだけどねー。女の身体にハマっちゃったみたい」
「だったら、女のまま生きて行くの?」
「そのつもり」
 
ケイナはしばらく考えていたが、やがて言った。
「もう1回やらせて」
「いつでもどうぞ。私、ケイナの奥さんだし」
「そういえばそうだった」
「だから、私の身体はケイナの物なんだよ」
「俺のもの?」
「うん。だからケイナの自由にしていいんだよ」
と言ってマリナはケイナにキスをした。
 
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ケイナが目覚めたのはもう朝だった。コーヒーの香りがする。
 
「あなたぁ、おはよう」
と言ってマリナがケイナにキスをする。そしてコーヒーを渡す。強烈な香りがする。こないだハワイに行った時に買ったハワイコナである。(たくさん買ったので小分けして冷凍している)
 
ケイナはそれを飲みながら、マリナの顔を再度見た。
 
「朝御飯もできてるよ」
「ありがとう」
 
一緒に朝御飯を食べる。
 
「俺、マリナと結婚してもいい気がしてきた」
「既に結婚している気がするけど」
「そういえばそうだった!」
 
「もし良かったら、この子のこと、認知してくれない?」
とマリナは言う。
 
ケイナはまた考えていた。
「お前、戸籍も女に直してしまったと言ったな」
「うん」
 
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「だったら婚姻届け出そうよ」
「いいの?」
「世間的には俺たち既に結婚していることになっているから今更だし」
「それはそうだよね」
 
婚姻届けについては、双方の親の所に郵送して各々の署名をもらってから提出しようということになる。持参したい所だが、2人はあまりにも忙しすぎた。
 
「マリちゃんの予定日も10月らしいから、ちょうど同じくらいのお腹の大きさになると思うよ」
 
「それは便利だな」
 

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Timeline
 
2.11(祝) マリナが妊娠に気づく
2.13(木) 西東京市の賃貸マンションから三鷹の分譲マンションに引越。
2.15(土) 税理士からの連絡で税金の追納が必要なことをケイナが知る。
2.16-17(日月) 木原弁護士と一緒に業者を回って借金を整理完済。
2.18(火) ケイが亮平からマリの妊娠を聞く。マリナは病院で妊娠確認。深夜ケイは感染対策会議でツアー中止決定。
2.19(水) ケイからマリの妊娠を聞く。マリナは自分も妊娠したことをケイナに告げる。
 

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2月24日(天皇誕生日の振替休日)、八雲春朗は原野妃登美のアパートを訪ね、(ドアだけ閉めた玄関先で)あらためて彼女に謝罪するとともに、彼女に自分が所持していた妃登美のアパートの鍵を返却。そして500万円の手切金を現金で渡して、2人の関係を清算した。
 
「どうしよう?妊娠出産の費用も兼ねているんだろうけど、私絶対出産までにこれを使い込んでしまう自信がある」
 
などと妃登美はひとりごとを言った。むろん田舎には帰りたくない。田舎に帰れば“世間体”のために適当な男と結婚させられるのは明らかである。
 
翌日2月25日には、春朗は今度は氷川真友子のマンションを訪れ(リビングに上げられたのでそこで)、やはりあらためて真友子に謝罪するとともに、彼女のマンションの鍵を返却。妃登美と同額の500万円の手切金をやはり現金で渡して、2人の関係を清算した。実はこの時、礼江も居たのだが、寝室のベッドの下!に隠れていた。
 
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春朗が帰ってから、真友子は言った。
「こんなにもらっちゃった。これでのりちゃんにエンゲージリング買ってあげようか?」
 
しかし礼江は言った。
 
「エンゲージリングは私がまゆちゃんにあげるよ。マンション売ったのでもらったお金があるから」
 
「なるほどー」
 

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妃登美と真友子との関係清算ができた所で、春朗は高木佳南に電話して言った。
 
「エンゲージリングを買ってあげるよ。今度の日曜とか一緒に見にいかない?」
「私、カルティエがいいなあ」
「いいよ。じゃ、カルティエに見にいこう」
 
と言って、3月1日に一緒に銀座に出てカルティエに行くことにしたのである。
 

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ケイナはマリナに言った。
 
「俺たち、ハワイで結婚指輪は買ったけど、婚約指輪がまだだったじゃん。でも今俺金が無いから、4月くらいまで待ってくれない?」
 
「いいよ。いつまでも待つよ」
とマリナは幸せそうな笑顔で言った。
 

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ローズクォーツのマネージングをしている、UTPの大宮副社長と甲斐窓香、★★レコードの八雲礼江係長と坂口平太、そしてローズクォーツのタカはZoomで会議をおこなった。
 
「4月からの新しい代理ボーカルどうしますかね?」
 
「それなんですけど、実はローザ+リリンが忙しすぎて、彼女たちに吹き込んでもらいたい音源の制作作業が3月中にはとても完了しそうにないんですよ」
とタカが状況を説明する。
 
「それって次の代理ボーカルに歌わせる訳にはいかないの?」
と大宮副社長がごくまっとうな疑問を述べる。
 
「マリナは3オクターブ声が出るんです。だから昔ケイが歌っていた時代の曲で長く演奏不能になっていたような曲もあの子には歌わせられるんで、ベスト盤の曲目ラインナップを少し見直したんです。あんなボーカルは簡単には得られないから、ローザ+リリンで録りたいんですよね」
とタカ。
 
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「あの子、そんなに声が出るんだ!?」
「じゃ取り敢えず5月くらいまで延長する話をしましょうか」
 
「それと次のボーカルのオーディションが困難な情勢なんですけど」
と坂口が言う。
 
今のコロナの情勢ではバンド演奏をバックに生歌唱をさせるのは問題がありすぎる。
 
「ああ」
「それは確かに困ったなあ」
 
大宮副社長はザマーミロ鉄板の板付社長に連絡し、取り敢えず5月までローザ+リリンとの契約を延長できないか打診した。板付社長は
 
「全然OKです。永久に代理ボーカルやらせてもいいですよ」
 
と快諾したが、この件を本人たちに連絡するのをきれいに忘れていた!
 
それで契約延長のことをケイナとマリナが知ったのはそれをタカから直接聞くことになる、3月中旬になったのである。
 
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2月25日(火)、国立大学の前期試験が行われ、桐絵はお茶の水女子大、彩佳は東大の試験を受けた。結果発表は3月10日である。
 
2月28日(金)、安倍首相は、全国の学校に当面の休校を要請した。
 
3月2日(月)に卒業式を控えていたC学園ではパニックになる。急遽理事会が開かれ、かなりの議論の上でこのようなことを決めた。
 
・取り敢えず3月いっぱいは休校する。出席日数が不足する生徒についてはレポートで授業に代える(芸能人でギリギリの子が数人いる)。
 
・月曜日の卒業式は、卒業生と3年生の担任教師・校長・教頭のみで行う。来賓は全てキャンセルすることにし、すぐに連絡する。校歌斉唱もしない。
 
すぐに生徒たちに連絡したが、龍虎たちも彩佳たちも、取り敢えず卒業式は実施されるということでホッとした。
 
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「卒業式で、龍は女子制服着るよね?」
と彩佳が尋ねる。
 
「男子制服着るよ!」
と龍虎(龍虎M)。
 
「女子制服着ればいいのに。普段は半分以上女子制服着てるくせに」
「あれは気分で」
 
むろん女子制服を着て学校に来ているのは(たいていは)Fである。Mが女子制服を着ていることもあるが、多くは男子制服が見つからなかった場合である(龍虎のマンションではよくあること)。
 
むろんMも女子制服を着るのは平気だし、女子トイレや女子更衣室を使うのも平気である。龍虎はMにしてもFにしても本当は恋愛がよく分からない。Mは実は女の子の下着姿や裸を見ても何も感じない。実を言うとMはオナニーする時、自分のペニスが切られてしまうシーンを妄想しながら、している。
 
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1月の段階でアクアのゴールデンウィークのドームツアーが発表され、2月1日(土)からファンクラブの先行予約を受け付けていた。
 
しかしコロナの問題から、コスモス社長とケイ会長は、2/18に、大阪府知事のイベント自粛要請が出た段階で、TKRの松前社長、沖縄にいる紅川相談役とも話した上でツアーの中止を決めた。
 
既にチケット代を払っていた人には即座に現金で返還する。これはチケット代相当の郵便局小為替またはQUOカードを送付することでおこなった。普通郵便なので昼間不在の人もすぐ受けとることができて好評であった。(QUOカードを希望した人が9割だった)
 
またファンクラブを通してチケットを申し込んでいた人には(当選していなかった人も含めて)全員に、ライブができないお詫びとして、お正月のツアー時のビデオDVDを無償で送り届けたが、これが物凄く好評であった。
 
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(オークションで高値取引されないように、一般発売もすることを同時に発表しており、これは3月4日に発売された)
 

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さて、3月2日(月)の朝、龍虎のマンションでは男子制服が見つからなかった!
 
こういう事態はよくあること!なので、普段ならどこかに予備の男子制服をキープしておくのだが、最近仕事が忙しいこともあり、その作業をするのを忘れていた。
 
仕方ないので龍虎はこの日、女子制服で学校に出て行った。
 
龍虎が女子制服を着ているのは、いつものことなのでむろん誰も何も言わない。天羽飛鳥(松梨詩恩)なども
「ああ。龍ちゃんはこちらの制服を着ている方が、何となくほっとする」
などと言っていた。むろん飛鳥は女子制服である!
 
今年の卒業生で男子制服(というより学生服だが)を着ていたのは武野昭徳のみであった!
 
「武野君も女子制服着る?予備があるよ」
「遠慮する!」
 
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武野君のスカート姿が可愛いのは確認済み!であるが、さすがに卒業式なので彼も辞退した。(スカートなんか穿いてたら彼の両親が仰天するだろう)
 
なお、武野君も成美も卒業後は都内の音楽大学に進学する予定で2人とも既に合格している。
 
「でもなんで予備とかあるのさ」
「龍が万が一にも男子制服着てきたら、みんなで脱がせてそれを着せようと思っていたんだけどね」
「田代さんも大変だなあ」
 

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熊谷から田代の両親も来ていたが、龍虎の女子制服姿を見ても、もちろん何も言わない。
 
卒業式は短時間に終えようということで、体育館で1人1人に卒業証書を渡すのはやめ、名前を読み上げて1人ずつ返事するようなこともやめ「卒業生98名」とだけ校長先生が言い、卒業生総代が代表して卒業証書を受けとった。校歌も実際には歌わず、今の学年の生徒が歌唱しているのを録音したものが流された(予行練習の時にたまたま録音していたもの)。
 
でもクラス単位の記念写真を撮ったので、龍虎はこれに女子制服で写ることになった。
 
その後、各教室で担任から各自卒業証書を受けとったが、結局、龍虎は女子制服のまま、証書を受けとった。なお、龍虎は先生からは「田代」と呼ばれたが、実際に受けとった卒業証書は戸籍通り“長野龍虎”名義である。
 
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(体育館で卒業式に出たのはFだが、教室で卒業証書を受けとったのはM)
 
そのあと、他の卒業生との記念写真も女子制服のまま写った。同級生たちと“濃厚接触”が発生するのでここはまたFに交替した。実際、どさくさに紛れて腕を組んだり、胸に触ったり、胸を揉んだり!抱きついたりする子もいる。彼女らは龍虎に抱きついて女の子のような感触でも全く気にしない。実際、龍虎は本当は女の子なのだろうと思っている子がほとんどである。
 
(元々女の子なのか、性転換して女の子になったのかは意見が別れる。ふたなり説も一部にはある)
 
なお、こういう写真をネットに投稿したり、流出させるような同級生はいない。
 

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卒業式の日は仕事は休みにしてもらっていた。
 
本当はこの日は、彩佳・桐絵の両親も含めて一緒にお食事でもしようと言っていたのだが、コロナの折、集まるのはやめにして、Zoomを使ってリモートで卒業記念会をした。福井の志水照絵(龍虎の最初の里親)も参加した。(田代夫妻は長野支香と春風アルトも誘ったが、ふたりとも遠慮すると言った。龍虎を育ててきた田代夫妻に悪いからだろう)
 
各々食事を用意して、彩佳と桐絵は都内のホテルの部屋から、龍虎は自分のマンションから、照絵は福井の実家から参加したが、なかなか楽しかった。
 
お互い眠くなったらいつでも寝ていいということにしていたので、疲れがたまっている龍虎は1時間ほどで眠ってしまったが、その後は龍虎の両親や照絵が代わりに色々おしゃべりして、卒業お祝い会は3時間ほど楽しく続いた。
 
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(お祝い会に参加したのは、両親がいるので女体に気づかれては困るからMである。Fは千里の葛西のマンションに行って寝ていた)
 
 
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