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■春変(22)

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この日(10/5)は物凄く快調な気がした。
 
邪魔なものが無くなったことで、バイクに乗ること自体が凄く楽になった。実を言うと、タックしてバイクに乗っていると、結構痛いのである。しかしそれを我慢することが自分の課題だと思っていた。ところが座席と自分の身体に挟まれる余計なものが無くなり、痛みも無くなったことで、体力の消耗も小さくなった気がした。
 
この日は松山市内の48.西林寺から51.石手寺までを打ち、道後温泉に泊まった。お遍路は朝の内に終わってしまったのだが、道後温泉では1泊することを最初から決めていた。
 

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渚は19歳の時からずっと女湯に入っていた。当時からおっぱいは本物であったものの、お股は“ニセモノ”であった。初期の頃は多少の罪悪感があったが、その内、全く平気になった。しかし誤魔化しているのは事実だった。だが、この日、渚は初めて、何の誤魔化しもなく女湯に入ったのである。洗い場で、割れ目ちゃんを開いて、中までシャワーで洗うことができるのは初めてのことで、物凄く感動した。
 
そのことにあまりにも感動していたので、湯船に浸かっていて、だいぶ立ってから、湯釜の所に“何も無い”ことに気づいた。
 
「あれ?無くなってる?」
と渚が声をあげて言ったので、近くにいたおばあさんが尋ねた。
 
「あなたどうしたの?」
 
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「そこに、以前、恵比寿・大国の像がありませんでした?」
と渚はそのおばあんに訊く。
 
「あれは元の女湯だね」
「ここは女湯じゃなかったんですか」
「ここは元男湯だったけど、性転換して女湯になったんだよ」
「そうなんですか?」
 
「今ここ工事してるでしょ?それで女湯を潰して、そこに新しい風呂場を造っている最中なんだけど、その工事中に2つあった男湯の片方を女湯にして、暫定的に営業しているんだよ。男湯を女湯に性転換したから、その時入浴中だった男性客も巻き添えで、女に性転換されたけどね」
 
「ああ、親切ですね。男の身体のまま女湯にいたら痴漢になっちゃう」
 
「そうそう。みんな女になれて喜んでいたよ。これでお嫁さんに行けるとか言って」
「よいことです」
 
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「そういえば、こないだ近所の共学の高校が女子高に性転換してさ、来年からは女子のみ募集するんだけど、在学している男子生徒は巻き添えで性転換して、全員女子高生になっちゃった」
 
「ああそれも親切ですね。男子大は少ないけど女子大は多いから、進学先が増えていいんじゃないんですか?」
 
「そうそう。フライトアテンダントになりたいけど、男だからなれないと言ってた生徒もこれで憧れのフライトアテンダントになれるというので、喜んでいたらしいよ」
 
「それは良かった。男のパーサーはほとんど採りませんからね」
と言いながら、性転換ネタの好きな婆さんだなと渚は思った。
 
「校内の男子トイレ・男子更衣室も女子トイレ・女子更衣室に改造したけど、女子トイレが広くなって、元々女子だった生徒には好評らしい」
 
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男子更衣室は別に改造しなくても、女子更衣室との壁を取っ払うくらいでよくないか?
 
「ただ恋愛中だったカップルはレズのカップルになっちゃって困ったらしいけど」
とお婆ちゃん。
「レスビアンは時代のトレンドですよ。堂々とレズればいです」
と渚は言った。
 
「全校600人の男子生徒を性転換するから手術だと時間が掛かるんで、性転換薬を注射したらしいね、翌朝目が覚めたら男子高校生だったのが、女子高生に変身。なしありありから、ありなしなしに一晩でチェンジ」
「楽でいいですね。性転換手術って痛いらしいし」
と言いながら、私も性転換薬を処方されたんだっりして?と思うが、そのようなものを注射された覚えはない。しかしよく「ありなし」なんて用語を知ってるな。
 
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「朝トイレで立ってしようとした子は、そうか、女の子になればちんちん無くなるんだと、ちょっと寂しかったらしい。でもおっぱいが膨らんだのはみんな喜んだらしいよ。女子制服は学校からプレゼント。ブラジャーやパンティはサイズがバラバラだから自己負担」
 
「まあそのくらいはいいでしょう」
 
「女子野球部になっちゃった元男子野球部は今年は特例で男子の大会に出たけど、来年からは女子の大会に出るらしいよ」
 
まだこのネタ続けるのかよ!?
 

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「まあそれで恵比寿・大黒の像があったのは、その取り壊された元の女湯だね」
 
「なるほどー。女湯のシンボルだったのに無くなっていると思って」
 
「無くなっていると言うから、あんたちんちんが無くなったのかと私は思ったよ」
とおばあさん。
「ちんちんが付いてたら大変ですね。幸いにも私には付いてないですが」
と渚。
「私は付いてたけど、もう50年前に取っちゃったよ」
「マジですか?」
「冗談冗談」
 
しかし、元男で今70歳くらいで、50年前に性転換したのであれば、それってカルーセル麻紀さんとかの時代に性転換手術を受けたことになるぞ、と渚は思った。それに異様に性転換ネタが好きなのも納得できる。ひょっとしてベテランのゲイボーイだったりして!?胸は普通に垂れているから、シリコン豊胸した胸ではなさそうだけど(シリコンの胸は垂れないから年を取っても若い子のように形を保っている)。
 
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「手術はやはりモロッコで?」
「当時はモロッコしか無かったね。マラケシって町でね」
「よくご存じですね。マラを消す町なんですね」
「そうそう。よくそういうダジャレを言ってた」
 
詳しいじゃん。この人、本当に性転換者だったりして?
 
でも私も年取ったら、こんな感じのおばあちゃんになれたらいいなと渚は思った。
 

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翌日(1/6)は52.太山寺から打ち始めて、62.宝寿寺まで打った。打ち終えてからどこかで何か食べようと駅(伊予小松駅)方面に走っていたら、うどん屋さんを見たのでバイクを駐めて店内に入る。
 
適当に空いてる席を探していたら意外な顔を見る。5月に養父市で深夜の女湯で出会った男の娘であった。
 
「あ、渚さん」
「セーラちゃんだったね」
 
それで渚は彼女(“彼”ではなく“彼女”でいいだろう)と同じテーブルに座り、話し始めた。
 
「へー。バイクでお遍路ですか!すごーい」
「ふーん。君は道後温泉に行くのか」
 
それで渚は唐突に思い至った。
 
「恵比寿・大国の像を見るためとか?」
とセーラに尋ねる。
 
「ええ。そんな話も聞いたし」
 
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それは女湯だけにあったのである。つまり女湯に入る気なんだ?
 

「今、恵比寿・大国像は見られないよ」
と渚は言った。
「そうなんですか!?」
 
それで渚は現在工事中で、恵比寿大国像があった女湯は取り壊して今新しい浴室を作っている所で、現在は元の男湯が2つあったのを、一方を女湯として使用していることを説明した。星良はとても残念がっていた。
 
しかしそれより重大な問題があった。そこで渚は訊いた。
 
「ところでタック覚えた?」
 
「あ・・・・」
と言ってから、星良は聞き返した。
 
「私の性別分かってました?」
「私もあんたと同類だったからね」
「そうなんですか!?」
 
渚は自分も男の子だったから、星良の性別はすぐ分かったことを話し、タックできるのなら、何とかなるかも知れないけど、人の少ない時間に短時間であがるように言った。星良が「タックは覚えた」というので、渚はてっきり、ちゃんと接着剤タックしているものと思ってしまったのである。
 
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実際にはこの時点で星良はテープタックしかしていなかったのだが、テープタックはショーツには響かないようにできるが、裸になったらテープを貼っているのが一目瞭然なので、まさかそんなもので女湯に突撃するつもりとは思いも寄らない。
 
星良には、万が一警察に捕まった場合は、痴漢ではなく、本人が女の子になりたい子なのであることを証言してあげるから呼んでといい、スマホの番号とメールアドレスを交換した。
 
また渚は、四国からの帰りは一緒に大阪までツーリングしようと約束し、渚がお遍路を終える予定の10日頃に、鳴門市で落ち合うことにした。
 
それで渚は、この子マジで逮捕されないよな?と一抹の不安を感じながら星良と別れたのであった。
 
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その後、渚は翌日(10/7)には63.吉祥寺から69.観音寺までを打って、夕方砂絵を見る。ちょうど渚が行った時には、40歳くらいのベテランっぽい男性ガイドさんが。30代の女性3人組を案内して砂絵の解説をしていた。
 
渚は長年の勘でこのガイドさん、たぶん“女の人になりたい男の人”だと感じた。今はきっと仕方なく男性として生きているのだろうけど、自分にとっての本来の姿に戻って、女として人生を送れたらいいね、と心の中でお祈りした。
 
夜に星良にメールしてみたが、道後温泉ではちょっとトラブルはあったものの、たまたま元男の娘という人が助けてくれて、無事逮捕されずに済んだということだった。ついでに、タックもその人にきれいに整えてもらったと言っていた。
 
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そういえば、私もチェックしてあげたら良かったなと渚は思った。きっと接着剤の留め方が不完全で、外れそうになったのかな?などと思う。渚も初心者の頃は焦ったこともあった。しかしまさかテープで留めていて、それが完全に崩壊してしまったとまでは思わない。普通はやばいと思ったらさっさとあがってしまうものだし。あれは半分くらいまで外れると“内部のもの”の圧力で飛び出してきてしまうのだが、3割程度の外れまでは何とか女の形をキープできる(勃起能力喪失済であることが前提)。
 
結局セーラは1日道後温泉で過ごしてしまったので、明日(10/8)に松山市内観光してから佐田岬に行くということだった。結果的にはうまく10日に鳴門で会えそうだ。
 
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10/8は、70.本山寺から80.國分寺までを打った。もう満願は目前である。高松市内の旅館で、大浴場(もちろん女湯)に入ってきてから星良にメールしてみると、夕方佐田岬を見て来て、今夜は八幡浜市の旅館に泊まったということであった。
 
八幡浜市ならホテルもたくさんあるだろうに、旅館ってわざわざ女湯に入るつもりだなと思う。しかし元男の娘にタックを直してもらったのなら大丈夫だろうと渚は思った。(まさか警察が来たとは思いもしない)
 

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10/9は、81.白峯寺から、とうとう88大窪寺までを打った。大窪寺で結願の証を頂いた。しかしまだ88番と1番の間の道を通っていないし、霊山寺でも満願之証を頂きたい。もう夕方なので、明日朝いちばんに霊山寺に入ることにして、その日は大窪寺近くの旅館に泊まった。
 
星良と電話で話したが、彼女は鳴門市内の旅館に泊まっているという。どうも“女湯に入る”ことに完全に味をしめてしまったようだ。それなら、逮捕される前に、さっさとおっぱい大きくしたほうがいいぞと渚は思った。
 

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その星良は10/7の道後温泉はヒヤヒヤだったし、10/8の八幡浜市の旅館では警察が女湯に男がいるという通報でやってきたりして焦ったものの、10/9の鳴門市の旅館では何のトラブルもなく、ゆっくりと女湯に入って身体を休めることができた。千里さんにやってもらったお股のタックは完璧で。まるで本物の女の子のお股みたいだし、なぜかバストが膨らんでいて、裸になっても女の裸にしか見えない状態である。
 
10/10の朝7時半頃、星良は旅館を出ると、愛車Yamaha XS250に乗って、鳴門市内・霊山寺に向かった。お寺の駐車場にバイクを駐めて門前まで行く。
 
何人かのお遍路さんが門が開くのを待っていた。
 
7:55頃、渚がやってくる。
 
ハグして再会を喜んだ。
 
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「セーラちゃん、まるでおっぱいがあるみたい」
と彼女から言われる。
 
「なんかよく分からないんですけど、おっぱいがあるんですよね」
「おっぱいがあるの?」
「なんか突然できちゃったんですよ。よく分からないけど」
「実は女になっていたりして」
「まさか」
と星良は言ったが、渚は何か考えているようだった。
 

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8時に門が開くので、中に入って一緒にお参りする。良は納札とか写経は持っていないので、お賽銭を入れて合掌するだけである。
 
それで渚は88ヶ所の御朱印が押された納経帳を提示して「四国八十八ヶ所霊場満願之証」というのをもらっていた。
 
「それで終了ですか?」
「高野山まで付き合わない?」
「高野山に何かあるんですか?」
「そこで89番目の御朱印をもらって、更に京都の東寺で『成満証』をもらうんだよ」
「へー!」
 
星良は、学校は10月15日からだし、バイトもシフトは10/16以降に入れてもらっているので、それまでは付き合えると思った。それで渚と一緒に行くことにした。
 

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