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■春変(15)

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「ナプキン持ってきてる?」
「あ、はい」
と言って、いつもバッグに入れている生理用品入れ(100円ショップで買った布製のやや乙女チックなもの)を取り出す。中からナプキンのパックを1個取り出す。
 
「あるなら安心ね。じゃそれをショーツにつけてしばらく安静にしてなさいよ。ここは長居できないから、宿が近いなら戻って休んだ方がいいかも」
と看護師さん。
 
「そうします」
それで夏樹は頭が混乱する中、ナプキンのパックを開けて中身を取り出し、シートを剥がして粘着面をパンティの股布に当てる。そしてパンティを穿き直した。
 
(ナプキンの付け方は、何度も“生理ごっこ”をしているので慣れている)
 
それで夏樹は頭の中が混乱するまま服を着て、看護師さんにお礼を言うと脱衣場を出た。そして旅館に戻ったが、旅行バッグの中からナプキンの予備を取り出すと、替えのパンティも持って、旅館のトイレに入った。
 
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そして便器に座ってしばらくボーっとしていた。
 
夏樹はさっぱり分からないと思った。なんで生理なんか来たんだろう?と考える。月山神社に参拝して三日月の石を拝んだから、月の者が来たとか?
 
まさか。
 
でも卵巣とか子宮とか無いはずなのに・・・と思うが、10分くらい考えていて、夏樹には大きなパラダイムシフトが起きた。
 
生理が来るってことは、つまり自分には卵巣や子宮があるということでは?
 
つまり自分は完全な女性になっていて、要するに妊娠だってできるかもということでは?まあ、さすがに37歳での出産は辛いかもしれないけど。
 

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時間軸がずれているが、星良のほうに話を戻す。
 
(実は夏樹と星良は完全に時間軸がずれている。夏樹は9/20に四国に来て、9/24に香南市で千里と接触して性転換。9/27に道後温泉を訪れ“初潮”が来る。そして10/2に霊山寺まで打ち終えて千葉に戻っている。星良はその後10/4に大阪を出て四国入り。10/7に道後温泉で千里と接触した。星良が四国を出るのは10/10になる。詳しくは後日掲載する予定の四国Xチャートを参照)
 
道後温泉で危ない所を千里に助けてもらった星良は、道後温泉で1日過ごした翌日(10/8)は、まずは松山市内観光をした。本当は昨日、朝道後温泉に入った後、市内観光するつもりだったのが、完全に1日ずれてしまった。
 
旅館を出てすぐの“道後ぎやまんガラス美術館”を見た後、松山城に行くことにする。予定としては、午後から坊ちゃん列車に乗って、坊っちゃん列車ミュージアムなども見ようと思っていた。
 
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(ロープーウェイより面白そうだから)リフトで登ろうと思ったら、何だか団体さんでも来たのか、チケット売場に凄い列ができている。仕方ないので待っていたのだが
 
「君」
と声を掛ける人がある。
 
「はい?」
と言って振り向くと60代のご夫婦である。
 
「君、若いだろう?女子高生?」
とご夫婦の夫の方が尋ねる。
 
「大学生ですが」
 
でも若く見れるのは嬉しい。
 
「若い子はこんな楽なものに乗らずに歩いて登りなさい」
「はい?」
「私たちと一緒に来るといい」
「はあ」
 
それで、よく分からないまま、星良はご夫婦と一緒に遊歩道を登り始めたのである。
 

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「この人、待つのが嫌いなだけですよ」
と奥さんの方が言っている。
 
「たしかにかなり待ちそうだなとは思いました」
「同じようにして、去年は男山を登らされたんですけどね」
 
「男山?」
「石清水八幡と言ったほうが有名かな」
「あ、聞いたことあります。鎌倉かどこかでしたっけ?」
「鎌倉にあるのは、鶴岡八幡宮。石清水は京都ですよ」
「あ、そうでした?」
 
「徒然草に、仁和寺の僧・石清水に参る、という話があったの知らない?」
 
「知りません」
「こういう話なのよ」
 
と言って、歩きながら奥さんは話してくれた。(徒然草52段)
 
仁和寺の僧が年を取るまで石清水八幡に参拝したことが無かったので、ある時思い立って、ひとりで参拝に行った。それで麓にある極楽寺・高良などを拝んで帰ってきた。そして人に言う。
 
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『ようやく念願を果たしました。聞いていたのより、ずっと良い所でした。それにしても参拝に来た人がみんなお山に登って行っていましたが、あれは何でしょうね。八幡様に参拝するのだけが目的で、遊びに来た訳でもないので私は山には登らずに帰りましたが』
 
と。
 

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「それ、石清水八幡の本体は山の上にあるというオチですか?」
と星良は尋ねた。
 
「そうそう。あそこも結構な山の上だから、観光客はみんなケーブルカーで登る」
「でも歩いて登っている人も多かったぞ」
「この遊歩道も結構歩いている人いますね」
「1時間くらいで登れるから、こんなのは歩いた方がいいよ。健康にもいいし」
と旦那さん。
 
「あなたは息があがってるみたい。私たち年寄りだからペース遅いのに」
と奥さん。
 
「一昨日も金比羅さんで運動不足を感じました」
と星良は答えたが、なんだか今日は特に疲れやすい気がした。旅の疲れが溜まっているのかな?
 
「金比羅さんは私たちは明日行くつもり。やはり歩くの?」
と後半は夫に訊く。
 
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「あそこは歩いて階段を登る以外の手段が存在しない」
「でも裏参道はあるんでしょ?」
「そんな所から行くのは邪道だ」
 
しかしともかくも、1時間ほどで星良たちはお城のある所まで登ったのである。結構疲れたなと思っていたら、奥さんが「おやつ」と言って、売店のアイスをおごってくれた。
 
「ありがとうございます」
「私も、若い女の子と一緒に歩けて楽しかったからね」
 
ああ、私はちゃんと女の子に見えているよね?
 
ご夫婦からは、名刺代わりにと言って、お遍路の納札を頂いた。レリーフが施され、切り紙もされている上品な和紙の納め札である。
 
「素敵な紙ですね」
「まあ本職だからね」
「本職?」
「この人、製紙工場を経営しているのよ」
「へー。それは凄い」
 
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どこかの町の製紙工場なのかな、くらいに星良は思った。
 
しかし、渚さんの納札、千里さんの納札、そして八重夫婦の納札、それぞれ個性豊かだ。自分は信心も無いし、お遍路とかするつもりは無いけど、自分ならどういう納札を作るかな?などと星良は考えていた。
 

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星良は頂いた納札を見ていてふと思ったので、
 
「お名前は、やえ・たつみさんですか?」
と尋ねてみた。
 
「よく読めたね」
と旦那さんは感心している。
 
旦那さんの方の納札には“熊本県・八重龍宮”と書かれているのである。多分“りゅうぐう”ではないだろうと考えていたら、唐突に“たつみ”という読み方を思いついた。正解だったようだ。「読めた人にはこれをあげることにしている」と言われて、素敵な切紙の栞も頂いた。
 
「私の名前は読める?」
と奥さん。
 
えっと・・・
 
奥さんの納札には“熊本県・八重響姫”と書かれている。「読める?」と訊かれたからには、きっと単純な「ひびき」とか「おとひめ」ではない。
 
「くらみさんですか?」
 
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「正解!あなた凄いよ。これ読んだ人、あなたが3人目」
 
と奥さんは喜んでいる。唐突に思いついて言ってみたのだが、以前にこれを読んだ人が凄いぞと星良は思った。響くというのは音で聞いているということでつまり暗闇でも音で分かるということ。だから“くらみ”ではないかという気がした。しかしほとんどなぞなぞだ!
 
「私はお遍路ではないので納札は持っていませんが」と言って、星良は名刺代りに一昨日観音寺の道の駅で買った一筆箋に“豊中市・星良”と書いて、奥さんに渡した。
 
「つつ・あきらさん?」
と奥さんが即読んだのには驚いた。
 
「苗字を“つつ”と正しく読んでもらったのは初めてです」
 
「なんか“ほし”ではない気がしたのよね」
と奥さんは言っている。凄い勘だ。それに「星」に「つつ」という読み方が存在することを知っている人自体がひじょうに少ない。星の古名なのである。月(つき)の世界から転生してきた、かぐや姫が“筒木”(つつき=竹)の根元に置かれていたというのは、とても意味深である。
 
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「難読氏名大会になったね」
などと旦那さんの方が笑っている。
 
「だけど、私、星良と署名すると、よく苗字から書いてと言われるんですよ」
「ありがちありがち」
 
「舘元という知り合いがいるよ。“たて・はじめ”という名前なんだけど、たいてい“たてもと”という苗字と思われて『下の名前までお願いします』と言われてしまう」
「やはり苦労している人いますね〜」
 

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一息ついた所で、トイレに行ってから、城内を見て回る。
 
ちなみにトイレは昨日接着剤タックしてもらった後、既に5回くらい行っているが、まるで女の子になったかのように、凄く後ろの方からおしっこが出るのがいいなと思った。それに、ふだんの状態でするおしっこは「飛ぶ」感じなのが、タックしている状態でのおしっこは単純に「落ちていく」感じなのである。将来、性転換手術を受けて本物の女の子になれたら、もっと感じが違うのかな、などと星良は考えていた。一週間くらいはもつと千里さんは言っていたけど、ずっとこのままならいいなと思う。自分でもできるように頑張って練習しようと星良は思った。
 
天守閣に登る。
 
また階段だ!
 
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でも1時間遊歩道を歩いたのに比べたらすぐである。そして眺めは素晴らしかった。
 
「歩いてここまで来たから、よけい素晴らしいのかも」
「ああ、それはあると思うよ」
 
結局帰りも歩いて下まで降りることになる。
 
降りたところで「お昼をおごってあげますよ」と言われ、瀬戸内海名物の鯛飯とカキフライの御膳をごちそうになった。とても美味しかった。
 
星良はご夫婦に、よくよくお礼を言って別れた。
 

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カフェで少し休憩し、またトイレで「女の子みたいな」おしっこをしてから、佐田岬を目指す。時間が無くなったので、ぼっちゃん列車はパスだ。
 
松山市内を出たのが13頃半である。走りやすいR56ではなく、海岸沿いのR378を走り、八幡浜市内でR197に折れる。ここを30kmちょっと走ると大分への国道フェリーの船着き場がある。ここから更に県道256号を8kmほど走って(正確には国道197号と県道256号の間で県道255号を2kmほど通る)、佐田岬灯台の駐車場に到着したのは17時少し前だった。
 
「間に合ったかな」
 
この日の日没は、前夜ネットで確認しておいたのでは、17:48である。
 
駐車場から展望台まで距離としては500mくらいなのだが、これを歩くのに20分くらい掛かった。今回の旅では金比羅さん、松山城、と脚力を使う所が多いなと星良は思う。
 
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展望台に到着すると、もう夕日は海のすぐ近くである。星良の他は若いカップルが3組、夕日を見ている。星良はそのカップルたちを見ないようにして、灯台や豊予海峡を見ていた。
 
この海峡で豊後水道と瀬戸内海(伊予灘)が分けられる。速吸瀬戸(はやすいのせと)の別名もある、潮流が極めて速い海域である。“関鯖”“関鰺”が獲れる海域だが、同じものが愛媛県側に水揚げされると“岬鯖”“岬鰺”と呼ばれる。
 
やがて太陽が海に触れると、どんどん沈んで行き、太陽は水面下に没してしまった。
 
カップルたちはキスしたなと思った。それで星良は彼らに目をやらないように気をつけて、しばらく太陽が沈んだ後の西の海を見詰めていたが、やがてカップルたちを放置して遊歩道を戻る。既にキス以上のことを始めている組もあったような気もしたが、視線をやらないようにした。
 
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駐車場に戻ると、あまり暗くならない内に、県道256号・国道197号を走り、八幡浜市まで来る。
 
ここで夕飯に“八幡浜ちゃんぽん”を食べる。あっさり系のお魚スープ??に具だくさんで、なかなか美味しかった。
 
夕飯を食べている間に八幡浜市内の旅館を予約したので、そこに入って宿泊手続きをした。夕飯はどうなさいますか?と訊かれる。一応ちゃんぽんを食べてきたのだが、まだ入りそうな気がしたので、頂くことにした。お魚をふんだんに使った御飯で美味しかった。
 

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渚さんにメールしてみると、向こうは明日いっぱいでは終わらず、多分10日の朝までかかりそうということだった。それで直接電話で話したのだが、渚さんの最後の巡礼地となる鳴門市の霊山寺(りょうぜんじ)で落ち合おうということにした。すると星良は明日1日かけて鳴門市まで行けばよいことになり、楽勝である。
 
場合によっては夜中に出発しようかとも思っていたのだが、渚さんの状況を聞いて明日の朝出ることにした。
 
お風呂に行ってくることにする。
 

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もちろん女湯に入る気満々である。
 
千里さんからは、おっぱいを大きくするまでは女湯は控えるように言われたのだが、松山ほどの都会ではないし、大丈夫だよね?などと思う。それに私、今“ちんちんが無い”状態だから、男湯には入れないもん、などとと勝手な言い訳を自分にしている。
 
それでタオルとお風呂セットを持ち、地階まで降りた。大浴場は地下にあるようなのである。エレベータを降りてから青と赤・2本の線が引かれているのに沿って進む。廊下の突き当たりで、矢印が左右に分かれる。
 
青い線は左、赤い線は右に進む。星良は赤い線に沿って、右に曲がった。
 
ドキドキ。
 
どうか人が多くいませんように。
 
女と描かれた赤い暖簾をくぐる。
 
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うっそー!?と星良は思った。
 
人が多いのである。
 
(21時頃来れば人が多いのは当然)
 
星良は戻って、時間をずらしてまた来ようかなと思った。
 
ところが星良が立ちすくんでいたら、中にいた21-22歳くらいの女の子が声を掛けた。
 
「どうかしたの?」
「いや、ここは女湯だよな、と思って」
「私たちが男にみえる?」
「ここが男湯で、ここにいるのがみんな男だったら凄いね」
と隣にいる27-28歳くらいの背の高い女性(?)が笑って言っていた。
 
がっちりした身体付きで、背も高く(180cm近い)、声も低いし、髪も短いので男のようにも見えるのだが、女湯の脱衣場にいるということは、きっと女なのだろう。
 
しかし何かそういう会話を交わしたことで、星良は戻るに戻れなくなってしまった。
 
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