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■春変(2)

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ちなみに書類に「星良」と書いたら「苗字から書いてください」と言われた!運転免許証を見せて納得してもらう。
 
手続きを終えた後、そのまま“お持ち帰り”していいですよと言われたが、スタートさせ方を忘れていて!お店のお兄さんを不安にさせる。
 
「最近の若い人はみんなセルだよね」
と言って、キックスタートの手本を見せてくれる。
 
「あ、思い出した」
と言って、やってみたら、無事スタートさせることができた(実はセルスタートも忘れていた)。
 
バイクスーツは買った方がいいですよと言われたので、そのままオートバックスまで行くことにする。それにしてもヘルメットは必要なので、そのバイク屋さんで赤いヘルメット(フルフェイス)を1万円のところ、これもオマケしてもらって7000円で買った。女の子だから親切にしてくれている感じもあり、やはり女って得だよね、などと思う。それでオートバックスで、ヘルメットと割とお揃いの赤いライダースーツ、グローブを合計15000円で買った。
 
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これでバイト代が全部無くなっちゃった!!
 

でもせっかくだから少し走ってくることにした。学費を少し使い込むことにして、ガソリンを満タンにし、非常食・お茶と念のため下着の替えを買って、北の、亀岡方面に走って行く。亀岡方面を選んだのは、最初奈良方面に行こうかとも思ったものの、大阪市街を通過する自信が無かったからである!!
 
最初はやはり久しぶりの走行で不安もあり、40km/hくらいのゆっくりペースで走ったが、少しずつ本来の速度を出せるようになっていった。亀岡にお昼ころ着いて、コンビニに駐め、トイレを借り、おにぎりとお茶を買って食べた。
 
スマホの地図を見て、国道9号を山陰方面に少し走ってみることにした。
 
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速度厳守して走り、30分走っては休み、30分走っては休みしていたら、夕方近くになって唐突に凄いループ橋があり、目が回った!
 
だめだー!休もう!と思い、少し走った所にあったガソリンスタンドで満タンにしてから、どこか休む所が無いかと尋ねる。すると、少し行った所に温泉があるから、そこで泊まればいいですよといわれた。
 
良は休憩してから豊中に帰ろうと思っていたのだが、夕方だし泊まってもいいかなと思った。
 

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それでどのあたりか場所を尋ねると
 
「あそこちょっと分かりにくいんですよ。僕が車で案内しますよ」
とGSのお兄さん(推定40歳)が言う。
 
「え?でもお忙しいのに」
「なーに、この時間帯は、お客さん少ないですから」
などと言って、彼は事務所の中の別のスタッフに声を掛けると、GS横の空き地に行く。駐めてあったミラに乗り、良を誘導してくれた。そのミラに付いていくが、ミラって意外と上手い人が乗ってるよね、などと思った。
 
それで国道を少し行った後、脇道に入り、数回分岐を折れてから、やがて一軒の温泉宿の前に到着した。なるほど、これは誘導してもらわなかったら辿り着けなかったなと思った。
 
「ありがとうございました」
と御礼を言う。
 
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「ここは弁天様の湯といって、女性ホルモンを刺激する成分があって、入った人はみんな美人になるそうですよ」
と言ってから
「お姉ちゃんみたいな美人はますます美人になるね」
と付け加えた。前半だけなら“美人になる必要がある人”と取られるかもと思って付け加えたようだ。優しい性格の人だなと思った。
 
「それ男の人はどうなるんですか?」
「男なら女になって美人になる」
「だったら、女の子になりたい男の子は来るといいですね」
「ああ、可愛い男の子はみんな女の子になればいいと思うよ」
 
賛成!
 
それでお兄さんは帰っていった。
 

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旅館前が駐車場になっているようである。他にも3台車が駐まっている。良はバイクを駐めると旅館の建物に入っていく。ややかすれた筆文字で《奥宮温泉・弁天湯旅館》と書かれた看板が出ている。この看板自体40-50年経ってそうだ。
 
「お泊まりですか?」
と帳場の女性(推定70歳)が声を掛けてくる。
 
「はい、予約してませんけど、もし空いてたら」
 
「大丈夫ですよ。空いてますよ。お一人様?」
「はい、そうです」
「お車ですか?」
「あ、バイクです」
「ああ、ツアーリングとかいうのだっけ?」
「ツーリングかな」
 
("touring"をどう音写するかの問題なので、ひょっとすると女将さんの発音が原語に近いかも?)
 
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記帳したら例によって「苗字から書いて」と言われて、以下同文。
 
「では案内しますね」
と言って、女将さんはそのまま良を案内してくれる。
 
「フロントを離れていいんですか?」
「ああ、めったに客は来ないから。今夜は今のところ、あんた1人だし」
「駐車場に車が駐まっていましたけど」
「あれは私のと仲居さんのと板さんの」
 
なるほど、この人以外にも仲居さんがもう1人いるわけか。
 

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2階の8畳ほどの部屋に案内された。女将はお茶を入れてお菓子と一緒に勧めてくれた。
 
「食事は18時になったら1階の食堂で。その時はまた案内しますから」
「ありがとうございます」
「お風呂は離れになるけど、1階からそのまま渡り廊下を通って行けますから。天然温泉・掛け流しなんで、24時間いつでも入れますよ」
 
「分かりました」
 
今は17時すぎである。お風呂に入っていたら食事の時間にぶつかる気がしたので、仮眠することにした。布団はまだ敷かれていなかったが、押し入れから毛布を取り出してそれを身体に掛けて寝ることにするが、トイレに行っておこうと思う。スリッパを履いて廊下を歩きトイレに行く。
 
男女の表示が無い。
 
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共用トイレなのかな?と思い、中に入ると個室が2つあり、どちらも洋式である。小便器は無いんだなと思いながら個室に入って用を達した。手を洗って部屋に戻った。そして眠った。
 

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「お食事の用意ができました」
と、40歳くらいの仲居さんが呼びに来てくれたので目を覚ます。この人がもう1人の従業員なのだろう。年齢的に女将さんの娘さんだろうか?などとも思った。降りて行って食堂に入ると、50代の3人連れの女性客がいた。良の後で着いたのだろう。言葉が九州弁だ。この言葉は熊本あたりかなと思いながら、良はのんびりと食事をした。
 
「あんたはどこから来たの?」
と声を掛けられる。
 
「大阪の豊中市という所です」
と答える。福岡出身と言ったら長時間この人たちと話すことになり面倒そうと思ったので、そのことは言わない。
 
「知らないねぇ」
「マイカタ市なら聞いたことあるけど」
 
それ枚方(ひらかた)市のこと?
 
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「昔、万博をした吹田市のそばですよ」
「ああ、太陽の塔の!」
「村田英雄だっけ?こんにちは、こんにちは、とかいうの」
 
三波春夫じゃなかったっけ?
 
「まだ生まれてないので分かりません」
「そうよね。私たちもまだ生まれてないもん」
 
そうか?雰囲気的には生まれていた気がするけど。
 

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良はあまり長時間話したくなかったので
 
「今日は疲れたので寝ます」
と言って、部屋に引き上げた。
 
部屋に戻ると布団が敷いてあったので、服を脱ぎ、下着だけになって布団に潜り込み、そのままスヤスヤと眠ってしまった、
 

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目が覚めたら23時である。トイレに行ってからお風呂に行って来ようと思った。持参していたタオルとシャンプー・コンディショナー・ボディソープのセット、着替えを持ち、1階まで降りて行く。案内版に従い、食堂の中を通りぬけて!向こう側の廊下を進む。途中から渡り廊下になっていて、温泉棟がある。
 
戸惑う。
 
男女の表示が無い。
 
たったひとつあるドアから食事の時に会った3人組のおばちゃんが出て来た。
 
「あら、こんばんわ」
「こんばんは。こちら女湯ですか?」
「そうだよ。今誰も入ってないよ」
 
「だったら男湯は?」
「あんた男湯に入るつもり?」
「やめときなよ。痴漢で捕まるよ」
 
いや、私、女湯に入ったら痴漢で捕まりそうなんですけど。
 
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「ここは女湯だけだよ」
「だったら男の人は?」
「この旅館には女しか泊まらないからね」
「え?ここ女性専用ですか?」
 
「川を挟んでこちらが女専用の弁天湯、向こうが男専用の大黒湯。各々女だけ、男だけで過ごせるからのんびりできていいんだよ」
 
「夫婦はどうするんですか?」
「別れ別れで。あるいはどちらかが性転換するか」
 
「それ妻が男に性転換するか、夫が女に性転換するか悩ましいね」
「私、ちんちん付けて男になってみたーい」
「旦那から、ちんちん取り上げてあんたが男になったら?」
「それだと結局ばらばらに泊まることに」
 

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そんな感じで、おばちゃんたちは大声でおしゃべりしながら「じゃね」といって引き上げて行った。
 
良は困った。
 
この旅館には男湯が無い!?
 
そもそもGSの人は、自分は女の子だと思ったから、女性専用の棟に連れて来てくれたのだろう。
 
どうする?
 
良がしばらく悩んでいたら、若い方の仲居さんが通り掛かって声を掛けた。
 
「どうかなさいました?」
「あ、入ります、入ります」
 
それで良は女湯に入ってしまったのである!
 

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誰も居ないならいいよね?
 
と自分に言い訳して中でおそるおそる服を脱ぐ。誰に見られる訳でもないが、タオルであの付近を隠して浴室に移動する。まずは洗い場の椅子に座る。髪を洗い、顔を洗う。胸を洗っていて、もう少しおっぱい欲しいなと思う。女性ホルモンとか飲んだほうがいのかなぁ。でもどこに売ってるんだっけ??大阪市内の大きな薬屋さんとか行ってみようかななどと考える。
 
腕を洗い、お腹を洗い、あそこを洗うが、女湯に入っているのに、こんなもの付いているって間違っているよなと思う。またバイト頑張って、性転換手術の代金を貯めなきゃと思った。
 
足まで洗ってから浴槽に浸かる。
 
硫黄の臭いがして、温泉ってのもいいよなあと思う。そういえば女性ホルモンが入っているって言ってた??この浴槽に浸かってたら少し女の子っぽくならないかななどと期待する。
 
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それでボーっとして、多分15分くらい浸かっていたろうか。急に首がガクッとなる。うっかり眠りそうになってしまったようだ。あがらなきゃと思ったら、脱衣場に誰か入ってきた感じである。
 
嘘!?
 
まだ他にも女性のお客さんいたの?と焦る。良は取り敢えず、お股の物体を足ではさんで隠した。
 
入ってきたのは、30歳くらいの女性である。
「こんばんは」
と言われるので
「こんばんは」
と答える。
 
彼女は身体をざっと洗うと浴槽に入ってきた、何も無い胸を見られないように腕を組む。
 
「ね、ね、もしかしてXS250は、あんたの?」
「あ、はい。実は今日買ったばかりなんですけど、試し乗りでここまで走ってきました」
 
「いいねぇ。いくらした?」
「込み5万円なんですけど」
 
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「それは素敵な値段やね」
「バイト代でそのくらいもらったばかりなので、全部つぎ込んじゃいました」
「うんうん。若い内はそれでいいんよ。うちも就職したてで250cc買っちゃってローン返すのに苦労した」
 
「それは大変でしたね」
「イントネーションが九州かな」
「福岡から4月に出て来たばかりなんです」
「女子大生?」
「はい」
 
返事はしたものの“女子”大生というところに少し抵抗感を感じた。私、女子大生を主張していいのかなあ。確かに大学生だし、女湯に入っている以上は女子のはずだし。しかしこの人、胸大きいなあ。Dより大きいよね?Eカップ?それともF??
 
「お姉さんはお勤めですか?」
「うん。私は食堂の姉ちゃん」
「へー」
「なかなか休みが取れなくてさ、夜中走ろうと思ってここまで来たけど、眠くなったから、ここで泊まることにした。明日早朝に帰らなくちゃ」
 
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それでこの時間にきたわけか。
 
「お姉さんもバイクですか?」
「うん。CB600F Hornet。私も最初は250ccから始めて、400ccを経て600ccまで来たけど、もっと大きいのが欲しいなあと思ってる。でも高いよね。あ、私は渚(なぎさ)」
 
「私は星良(せいら)です。でも大型バイクって凄く高いですよね」
「そうそう。四輪なら、かなりいい車が買えるくらいする。まあ道楽だね」
「でも楽しいですね」
 

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