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■春変(11)

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お風呂からあがった夏樹は、会社の課長の携帯に電話して、どうしても予定通り進行できず、日曜日(9/29)までに終わらないようなので、有休の延長を願いできないかと話した。
 
そんなの困るよとか言われるかなと思ったので
「代わりに12月にお願いしていた有休は無しでいいですので」
とも言ったのだが、課長は何だかご機嫌がいい。
 
「ああ、お遍路を1週間ってのは、無茶な気がしたよ。無理せずに走ってね。君が無理して怪我でもされたら、その方が困るよ」
 
随分優しいじゃん。
 
「どのくらいまで掛かりそうなの?」
「今のペースだと、火曜日の夕方か、ひょっとすると水曜日の朝までかかりそうなので、その日の日中走って帰って、10月3日から出社させて頂ければと」
 
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「だったら、10月6日の日曜まで休んでいいからさ、そちらにいい温泉あったじゃん。えっと、有馬温泉だっけ?」
 
「有馬温泉は兵庫県です。四国は道後温泉です」
 
「あ、それそれ。温泉にでもつかって、ゆっくり身体を休めておいでよ」
 
夏樹はこれはもしかして首の通告では?もう永久に出社しなくていいよとでも言われないかと不安になった。ところが課長は思わぬことを言った。
 
「それで君が四国から戻ってからでいいから、ちょっと行ってきて欲しい所があるんだよ。ここもパイプオルガンの納入先なんだけど、やはり最近調子が悪いみたいでさ。これもう40年前に導入した所だから、場合によっては新しいものに更新することも考えないといけないかも知れない」
「40年前って、かなりのものですね。それで場所はどこですか?」
 
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「チタなんだけどね」
「ああ、知多ですか」
 
国内ならいいやと思った。こないだの中国は大変だった。
 
「ケノ湖とかいう、美しい湖のそばの教会なんだよ。この教会自体の建築が高名な建築家の設計らしくて、美しいという話」
 
「へー。それは楽しみですね」
と言いながら、夏樹は、知多半島に湖とかあったっけ?と考えていた。毛野湖??
 
(知多半島の湖というと、美浜町に鵜の池という外周1.8kmほどの池がある)
 

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「ところで君、ロシア語はできたよね。確か一度レニングラードだかにも行ってもらったことあったし」
 
レニングラード??ロシア語??
 
「ペレストロイカ以降、元のサンクト・ペテルブルグの名前に戻ったんですが。あの・・・・知多って、愛知県の知多ですよね?」
 
夏樹は急に不安になった。
 
「いや、そちらの知多じゃなくて、ザバイカリエの首都なんだけどね」
「座倍狩江(?)って愛知県のどのあたりですか?」
 
夏樹は国内の案件であってほしいと思った。
 
「バイカル湖の東300kmくらいの場所なんだよ。ザバイカリエって東バイカルという意味。ここは日本と同じ時間帯に属している。つまり時差が無いんだな。日本から直行便があれば、2700kmくらいだから、ジェット機で3時間半もあれば着くと思うんだけど、日本からの直行便が無いから、いったんモスクワまで7400kmほど西行してから4700kmほど東行しないといけない。なんか無駄だけど仕方ないね。また坂本君と2人で頼む」
 
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夏樹の淡い夢は打ち砕かれた。ああ。老酒(ラオチュー)や白酒(パイチュー)が終わったと思ったら、今度はウォッカか!
 
もう酔った勢いで女装したら叱られるかしら??
 

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追って課長からメールがあり「10月7日出発でチケットを取っておくから、もしそれまでに四国が終わらなかったら、一度戻って来て、チタの案件が終わってから続きをやって欲しい」ということだった。
 
10/07(Mon) NRT 12:15 (SU263 777-300ER) 16:05 SVO (9'50 時差-6h)
10/08(Tue) DME 20:05 (U693 A320) 10/09 8:10 HTA (6'05 時差+6h)
 
NRT:成田国際空港
SVO:シェレメーチエヴォ国際空港
DME:ドモジェドヴォ空港(国内線)
HTA:チタ・カダラ空港
 
確かに時差6時間の距離を西行した後、時差6時間の距離を東行するのは無駄な気がするが、夏樹は焼山・お鶴・大龍で充分登ったり降りたりをしたので、それに比べればまだマシな気がした。
 
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同じモスクワ近郊でも、シェレメーチエヴォ国際空港とドモジェドヴォ空港の間は90kmほど離れており、両空港間の移動時間は最低でも3時間、運が悪いと6時間かかることもあると聞く。月曜日の16:05に到着して、その日の20:05のチタ行きに乗るのは、“物凄く運がよい”場合を除いて不可能だろう。ロシアではそういうのは期待しないほうがいいので素直に翌日にすべきである。
 
結局、日本からモスクワに飛ぶ便は(日本の)お昼に出発してからモスクワに(同日)夕方到着する便しか無く、モスクワからチタへは、(モスクワの)夕方出て(チタの)翌日朝に到着するものしかない。日本から行くのにどうしても足かけ3日かかるという何とも大変な所である。マイル数は
 
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NRT-SVO 4660 miles
DME-HTA 2940 miles
 
となり合計7600 mile. 地球0.3周の距離である(地球1周は4万km≒25000マイル)
 

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福岡から大阪に出て来て豊中市内の大学に通う星良(つつ・あきら)は、4-5月の10連休の間に働いたバイト代で諸経費込み5万円という爆安バイク(Yamaha XS250 1986年?式)を衝動買いしてしまった。しかしその後も、ちゃんと大学に通う傍らバイトにも励んで、5月から9月までのバイト代が30万円に及んた。内20万は学費に使ったものの、残り10万ほどの資金で、バイクの遠出をしてこようと思った。
 
前期の試験が10月3日までに終わり、良はひとつも落とさなかったので、後期の授業が始まる10月15日までの間、10日ほど時間的余裕がある。それでこういう計画を立てた。
 
10/5 大阪→香川(高松か善通寺あたりで泊・讃岐うどんを食べる)
10/6 香川→愛媛(銭形を見て、じゃこ天を食べて、道後温泉泊)
10/7 佐田岬を見る。
10/8-9 大阪に帰る
 
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なんともアバウトな計画だが、無理せずに『疲れたら休む』という方針で走ろうという趣旨である。要するに目的地は四国西端の佐田岬である。
 

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四国に渡るルートとして、良は最初“大鳴門橋で四国に渡り、しまなみ海道で帰ってくる”という計画を立てた。鳴門の渦が見たかったし、しまなみ海道はとても美しいと聞いた。
 
ところが
「本四連絡橋って料金高いよね」
という話を聞く。
 
それで確認したら、片道4000円もすると知り、青くなる。
 
(神戸鳴門は4580円、瀬戸大橋は3480円、しまなみ海道は3980円)
 
それで景色は諦めることにして、フェリーを使おうというのを考えた、大阪から行くのなら、神戸からのジャンボフェリーが楽かなと思う。料金も2000円だし(と思った)。ところがよくよく料金表を見ると、バイクの場合、バイク料金に加え、一般旅客運短が必要なことが分かる。一般旅客運賃は1800円で、結局、橋を使うのと大差無くなる。
 
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そこで宇高フェリーを使うことにした。これだと片道1430円で、これには運転手の運賃も含まれている。
 

良は10月4日の夜22時に豊中市のマンション近くの駐車場を出た。4日の午後に買物をして非常食などを買いそろえ、夕方から仮眠しており、充分な体力をもっての出発である。
 
大阪中央環状線から、伊丹市で国道171号に乗り南西に進む。西宮で国道43号に移り、少し行った所で国道2号に乗る。良は夜中に出て来てよかったと思った。この道を昼間走る勇気は無い。
 
国道2号を150kmほど走るのだが、良は途中2ヶ所、沿線のコンビニで休憩した。そして夜中3時すぎに岡山市の青江交差点から国道30号を南下。午後4時前に宇野港に到着した。
 
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(10/5)朝1番の便(宇野6:25-7:30高松)に乗ることができた。良は船内ではひたすら寝ていた。
 
高松に着くと、朝からやっているうどん屋さんに入り、朝御飯に讃岐うどんを食べる。良は、やわらかうどん(うろん)文化の博多の出身ではあるが、元々博多では腰の強い“牧のうどん”のファンだったので、讃岐うどんは自分の好みだと思った。ぶっかけを頼んだのだが、こういう、うどんの食べ方があったのかと新鮮な驚きだった。
 
午前中は市内の有名観光スポット・栗林(りつりん)公園を散策する。可愛い手鞠のストラップがあったので記念に買っていく。焼き団子を食べて一息つく。
 
お昼は市内のうどん店で、また讃岐うどんを食べる。そして午後は国道32号を走って琴平町(ことひらちょう)に行き、金刀比羅宮(ことひらぐう)を見学した(参拝する気持ちは無い)。
 
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町営駐車場(1時間100円)に駐めて、取り敢えず階段下まで歩いて行く。最初は商店などが左右に並んでいる階段を登り始める。
 
「これは・・・・結構あるな」
と登りながら思う。
 
やがて備前焼の狛犬さんがいる(ここまで113段)。この段階ではまだ余裕である。もうかなり登ったぞというところに大きな門がある(365段). 門があるから、ここに神社があるのかなと思うが、そうではないようだ。更に登ると、巨大なスクリューが置かれている広場があった(431段)。写真を撮っていたら、50代くらいのご夫婦が「写真撮ってもらえませんか?」と声を掛けてきて、スクリューを背景に、ご夫婦のコンデジで写真を撮ってあげた。そのお礼に良も自分のスマホで、ご夫婦の奥さんの方がやはりスクリュー前で良の写真を撮ってくれた。奥さんの方が撮るんだなと思う。夫のほうは下手なのかな?
 
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本宮はまだ上ということなので、更に階段を登る。
 
「かなり来たぞ。そろそろかな」
と思った所に神社があるので、やっと着いたかと思ったら、それはまだ本宮ではなく旭社というところだった(628段)。更に登って、やっと本宮に到着。ここまで785段である。時間も駐車場を出てから1時間ほど掛かっている。
 

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取り敢えずお賽銭を100円入れ、手を2回叩いてお参りする。それで本宮の写真を撮っていたら、30代くらいの女性が「撮ってあげようか」と言って、本宮を背景にして良の写真を撮ってくれた。
 
「でも大変な所ですね。階段登るので疲れて、普段の運動不足を感じました。少し休んでから降りなきゃ」
などと言ったら
 
「奥社には行かないの?」
と訊かれる。
 
「おく?」
 
「この更に上に奥社があるんだよ。ここからまた階段を600段くらい登るけどね」
「ここまで既に600段くらい登った気がするんですけど」
「うん。それと同じくらいある」
「ひぇー」
「もう帰る?」
「いえ。せっかく来たから登ります」
 

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この奥社への階段の位置が少し分かりにくい。その女性に教えてもらったが、この人と言葉を交わしていなかったら、気づかずにこのまま帰っていてかもと思った。道は今までより狭く、通っている人の数も少ない。しかし良は階段を登っていった。
 
「これは・・・本当に・・・辛い」
 
良はやはり朝のジョギングとかした方がいいのかなぁ、などと思った。実をいうと、筋肉が付いて男っぽくなりたくないという理由で、これまでむしろあまり運動をしないようにしていたのである。
 
そして良が本宮の所から階段を登り始めて40分ほどして、やっと奥社に到達する。ここまで本宮から583段、いちばん下からは1368段である。
 
「着いたぁ!」
と思わず声をあげる。
 
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取り敢えず100円入れてから手を2回打つ。目を瞑ってお祈りする。
 
何お祈りするんだっけ?と思ったが、分からないのでいいことにした。ここで20分くらい休んでから降り始めるが、その時になってから
 
「あ、早く女の子になれますように、とお祈りすれば良かった」
と思いついた。
 
まあいいや、神社やお寺でお祈りして翌朝起きたら女の子になってた、なんてことはないだろうし、などと思う。なお、写真はまた例によって、40歳くらいの性別微妙な人が撮ってくれた。
 
この人は、見た感じも性別曖昧だが、声も男女どちらにでも取れる感じだった。自分も性別曖昧なタイプかな?などとも思うが、あまり男と思われたことはない気もする。中高生時代は男子制服を着てても「応援団か何かですか」と言われ、男装女子中高生と思われていた感じがあった。むろん普段着で出歩いていると、ブティックの前で店員さんから声を掛けられたり、化粧品のサンプルもらったり、美容室のチラシもらったり、一度は生理用品のサンプルまでもらい、自分が女性に分類されていることを自覚していた。
 
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あの時もらった生理用品のサンプルは記念にバッグの中に入れたままにしている。
 

下りは上りよりは速いものの、結局1時間くらい掛けて、階段のいちばん下まで辿り着いて。
 
「だめ。この状態でバイクに乗ったら事故る」
と思ったので、手近な所にあったうどん屋さんに入り、じゃこ天を乗せたうどんを食べた。ここで結局1時間近くぼーっとしていた。
 
時刻はもう17時すぎである。
 
「今日はここで泊まった方がいいな」
と思い、ネットで検索して近くのホテルに予約を入れ、そこに行ってチェックインした。
 
旅館に泊まって、大浴場に行くというのも、やってみたい気がしたが、少し恐い気もして、個室にお風呂が付いているはずのホテルにしたのである。
 
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翌日(10/6)は、朝7時に起きたが、ぐっすり眠って疲れは取れている感じだった。コンビニで買ってきた朝御飯を食べ、9時に出発。国道319号を北上して、善通寺(ぜんつうじ)に行く。
 
ここをまた見学する(例によって参拝する気は無い)。
 
境内を歩き回り、適当にスマホで写真を撮っていたら、自分と似たような年の男の子が「撮ってあげるよ」と言って、五重塔を背景に写真を撮ってくれた。
 

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春変(11)

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