[携帯Top] [文字サイズ]
■春変(16)
[*
前p 0
目次 #
次p]
それで、どうしようと思っていた時、後方から
「失礼します」
と言って、星良を脱衣場の中に押し込むようにして入ってきた女性がある。
「みなさんお休みの所、大変失礼します。私は八幡浜署のものです」
と言って、女性は黒い手帳を開いて、身分証明書のようなものを提示した。
警察!? 嘘、私、逮捕されちゃう!
ああ、千里さんの忠告を聞かなかったばかりに、とさすがに星良は後悔した。
「実はこの旅館の女湯に男が侵入しているという通報があったので確認に来ました」
などと女性警官(私服なので刑事なのかも)は言っている。
星良も含めて全員顔を見合わせている。
さっき星良に「ここにいるのがみんな男だったら」と言った、背の高い女性(以下Bさん)が手を挙げた。
「それ多分、私のことじゃないかな。男と間違われて通報されるのには慣れっこ」
と言っている。
「この子、バレー選手なんですよ」
と隣にいる、最初に星良に声を掛けた女性(以下Aさん)が言う。後から聞いたら姉妹だったらしい。全然似てない姉妹だ!しかも年長と思っていた背の高いBさんの方が妹で、21-22歳くらいと思った人Aさんが姉で28歳だったらしい。女の年齢は分からんと星良は思った。
「でも脱いでみれば分かるね」
とAさんが言うので
「じゃ脱ぐね」
と言って、長身のBさんは服を脱いで裸になってしまう。Cカップくらいのバストがあるし、お股には何も突起物は付いていない。女性の裸を見て、興奮する星良ではないが、意外に女らしい身体つきなので、ちょっとドキドキした。
「間違いなく女性ですね」
と女性警官は言った。
「この子だけ脱いだら可哀想だから、私も脱ぐね」
と言って、Aさんも脱いでしまう。
Eカップくらいの大きなバストがあるし、やはりお股には何もついていない。
「だったら、誤報だったということかな。失礼しました」
と言って、警官は帰ろうとした。ところがそこで40歳くらいの女性(以下Cさん)が言った。
「その子たちだけ脱いだら可哀想だよ。私も脱ぐよ」
と言って、彼女も脱いでしまう!
微妙に崩れた体形の女体が露わになる。むろんお股には何も付いていない。さすがにこの裸体はあまり直視したくない気がした。
「んじゃ私も」
と言って、70歳くらいの(たぶん)女性まで脱いでしまう。あまり詳述したくないが、確かに生物学的には女であることが確認できる。
それで他の客も「私も」「私も」と言って、次々と脱ぎ始めたのである。
「みんな脱いじゃうの?」
「どうせお風呂に入るんだし」
「それもそうだ」
などと言っている人たちもいる。
星良はヤバいと思った。「誤報でしたね」と警官が納得した所で帰ってくれたら何も問題なかったのに、これでは星良はやはり逮捕されちゃいそう!
それで焦っている所で、警官は「ちょっと待って」と言い、浴室とのドアを開ける。
「入浴中のみなさん、私は警察のものです。大変申し訳ないのですが、みなさん立ち上がってこちらを見ていただけますか?」
と声を掛ける。
それで10秒ほどで「ありがとうございました。失礼しました」と言って、こちらを向く。浴室にいた客は全員、女と確認できたのだろう。
残りは脱衣室にいる客である。15人ほどいる中で10人くらいが服を脱いでしまい、まだ脱いでないのは、星良を含めて5人である。
「そこの子、変な疑いを掛けられない内に脱いじゃえばいいよ。どうせ今からお風呂に入るんでしょ?」
とAさんがいう。
星良はどっちみち逮捕されるのなら、早く逮捕されても遅く逮捕されても同じだと思った。それで覚悟を決めて服を脱ぐ。
最初にスカートを脱ぎ、パンティまで脱いでしまう。下半身の裸が露わになるが、これはお股をタックしているので、女の股間に見えるだろう。実際Aさんも「ほら、女の子だったね」と言ってくれた。
でも問題はその先である。
ポロシャツを脱ぐとまるで胸が膨らんでいるかのようなシルエットのTシャツが見える。これはブラジャーをしているからそう見えるだけだ。そのTシャツを覚悟を決めて脱ぐ。この時、星良は「あれ?」と思った。ブラジャーの中身が異様な気がした。
ブラジャーを外す。
“豊かなバスト”が露わになる。
「間違いなく女の子だね」
とCさんも言った。
星良は混乱していた。
何でおっぱいがあるの〜〜〜?
しかし残るは4人である。
30代の女性が言った。
「私、実は乳癌の手術で、おっぱい取っちゃったの。だからおっぱいが無いから女に見えないかも知れないけど」
と言って、彼女は服を脱いだ。バストは確かに切除した跡が残っている。ちなみにお股には何も無い。
「たいへん失礼しました。女性であることを確認できました」
と警官。
「あなた先に浴室に行ったら?」
と4番目に脱いだ70歳くらいの女性が言う。
「では失礼します」
と言って、彼女は浴室に移動した。
残りは3人である。
「私はおっぱい取ったわけじゃないけど、おっばい小さいから恥ずかしかったのよね」
と言って、27-28歳の女性が脱いだ。
確かにこの年齢でAカップサイズというのは小さい気がした。でも個人差の範囲だと思った。ちなみにお股には何も無い。
残りは2人だ。顔を見合わせている。
「私、レスビアンなんです。実はうっかり、ちんちんを付けたままここに来てしまって」
と言って、ひとりの女性が服を脱ぐ。おっぱいは結構あるのだが、お股に異様なものが付いてるので、ぎょっとする。しかし彼女はその突起物まで、服を脱ぐかのように、取り外してしまった。
私のおちんちんもあんな風に取り外せたらいいのにと星良は思った。
「トイレにでも行って、外してこなきゃと思ってたんですよ」
とその女性。
「失礼しました。でもベースは女性であることを確認しました」
と警官。
残るは1人だ。
その時、Cさんが言った。
「通報したの、あんたじゃないの?なんかさっき背の高い子見て変な顔してこそこそとメール打ってたし」
「だからどうだと言うのよ?結局みんな女だったから問題ないじゃん」
とその女性は開き直ったかのように言っている。
「誰が通報したかは詮索しませんが、よろしかったらあなたも脱いでください。その後で、お詫びに私も脱ぎますから」
と女性警官。自分も脱ぐというのは凄いが、むろん“任意捜査が完了”した後だろう。
「脱ばいいんでしょ?」
とその女性は文句を言うと、着ていた浴衣を脱ぎ、ババシャツを脱いだ。
シーンとする。
その人にはまるで胸が無く、男のような胸だったのである。
「嘘!?なんでこんなに胸が無いの?」
とその人は焦るように言った。
「下も脱いでください」
と女性警官が厳しい声で言う。
その人がおばちゃんパンツ(ズロース?)を脱いだ。
女性には普通存在しないものがそこから出てくる。
女性警官はその人に歩み寄ると
「刑法130条建造物侵入罪で現行犯逮捕する」
と言って、手錠を掛けてしまった。
そして警官は他の客に
「私の裸もお見せする予定でしたが、この人を連行しなければならないので、またの機会に」
と言った。
「待って。私、本当に女だって。さっきまで、ちんちんなんて無かったよ。このお風呂に入る前も座ってトイレしたんだから。そうだ、保険証を見て」
などと逮捕された人は言っているが、
「戸籍上女であっても、実際に男であれば、不法侵入は成立しますよ」
と警官は言い、その人に服を着せた上で連行していった。
「びっくりしたぁ」
「あの人、全然男には見えなかったのに」
「人は見かけによらないもんだね」
「しかし結局通報した本人が逮捕されたってこと?」
「究極の自爆通報だな」
「お金が無くて、留置場で夜を過ごしたかったとか?」
「宿代は踏み倒し?」
「請求されると思うけど」
などと残った客は言いあった。そして全員浴室に移動する。逆に浴室に居た客は「もう終わった?」といって、みんなあがってくる。何か騒動が起きているようなので、あがるにあがれずにいたようである。
星良は何だかよく分からないけど、助かったぁと思い、お風呂に入って、何故か膨らんでいるバストを洗い、それからタックしているお股を洗い、浴槽に浸かった。さっきの騒動の余波でまだみんなざわざわしている。
「君は女子高生?」
とAさんが訊いてきた。
「大学生です」
と星良は答える。実はまだ「女子大生」を名乗る勇気が無い。でもAさんは
「ああ、女子大生なんだ。それにしては若いね」
と言った。
バイクでツーリングに来て、金比羅さん・善通寺・銭形と見たあと、昨日は道後温泉に泊まり、今日は佐田岬の夕日を見て来たと言うと
「四国北側ゴールデンコースだね」
と言われる。
「鳴門の渦は見た?」
「帰りに友人と見るつもりなんです」
「でもバイクかぁ。いいなあ。私も免許取りたかったけど、親に反対されたのよね」
と言っている。
「今から取ればいいですよ」
「今度は旦那に賛成してもらえないでいる」
「大変ですね!」
「三従という奴だね。幼にしては親に従い,嫁しては夫に従い,老いては子に従う。女なんて面倒だよ。私、男に生まれたかった」
とAさんがいうと
「私はいつも男と間違われるから、いっそ男でもいいけど、性転換したらバレーやめないといけないから、女でいいや」
とBさんが言う。
確かにスポーツ選手の性別問題は厳密だろうと思ってから、星良はあれ?と思った。千里さんって、元男の子なのに、元日本代表と言ってたけど、それって女として日本代表になったのだろうか?それとも男として日本代表だったのだろうか?後者だとしたら性転換したから日本代表を辞めた??前者だとしたら性転換した後で日本代表になった?そんなことできるんだっけ???
星良はAさん・Bさんと話していて、この2人が姉妹であることを聞き驚く。しかもAさんが姉であることにも驚く。
「だいたい私が年上と思われるんだよね」
とBさん。
「ついでに兄と妹と思われるよね」
とAさん。
「まあいいけどね」
彼女たちと湯船の中で話していたので、30分近く浸かってからあがった。
部屋に戻る。
なんでバストがあるんだろうと疑問は感じたものの、細かいことは気にしないことにして(!?)、トイレでまた女の子風のおしっこをしてから、その日は寝た。やはり松山城の登り降りが効いたのか、その夜はぐっすりと眠った。
ちなみに、逮捕された人は、警察署での身体検査でも確かに男であることを確認され、男物の下着をつけることを強要され、男性未決囚と同じ監獄で恐怖の一夜を過ごすことになる。(但しどう見ても女にしか見えないので、たまたま同房だったヤクザの幹部が「絶対この人に手を出すな」と他の未決囚に厳命したことから、彼女は無事であった)
翌日朝、高知から弁護士も連れて駆けつけて来た“夫”は、妻は間違い無く女なので、男だというのは絶対間違いだと主張。弁護士の圧力もあり、再度身体検査をした所、女だということが確認された。それで検察に身柄を送られた上で即不起訴が決定され、釈放された(逮捕した場合、必ず送検が必要)。
夫は不当逮捕で訴えたいと息巻いていたが、妻の方は「もうこれ以上の面倒は嫌」と言ったので、告訴はしないことにした。なお、一晩男の身体を経験して再度女に戻ったせいか、もう7-8年セックスレスになっていたのが、夜の関係が復活。翌年、結婚15年目にして、2人の間に初めての子供が生まれることになる。
なお、この件では「深夜に男の監獄に侵入するなんて、さすがの私も恐かったよ」と千里2が文句を言ったとか言わなかったとか。
ちなみにこの生まれた子供だが・・・産んだのは夫の方ではという噂が、親しい友人の間にはあったらしいが、多くの人はまさかと言った。ただ少数の古い友人は「そもそもあいつ実は女ではという噂が昔からあったし」と言った。
ちなみにこの件で千里3は「人間は各々自分の本来の姿で生きるべきよね。割れ鍋に綴じ蓋っていうけど、鍋に穴があいてたら、蓋で煮炊きすればいいのよ」と謎の言葉を残している。
[*
前p 0
目次 #
次p]
春変(16)