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■春変(21)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-06-14
 
《こうちゃん》は、アクアFが自分も(女と記載された)パスポートが欲しいと言っていたなと思い、(本来の上司である美鳳さんは恐そうなので優しそうな)佳穂さんにお願いして、3人の龍虎にあわせた戸籍を作ってしまった。戸籍の創成は矛盾が起きないように親とかそのまた親とかの戸籍まで連動して作る必要があるので難易度が高い。レベルの高いハッカーなどにもかなり困難だが、神様なら、わりと容易に作ってしまう。
 
ちなみにこれまでの龍虎の戸籍はさいたま市(未成年後見人である長野支香と同じ所に置いている)、住民票は東京都北区赤羽にある(これはまだ代々木への引越前)。そこで、佳穂さんはFの戸籍はその赤羽に作ったが、住民票は常総ラボに置いた。そしてNの戸籍は現在千里3が住んでいる川崎市に置き、住民票も同じ場所に置いた。そして各々の戸籍・住民票に基づき、パスポートを申請したのである。
 
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Mの戸籍:埼玉県・住所:東京都(東京都で申請している)
Fの戸籍:東京都・住所:茨城県(茨城県で申請)
Nの戸籍:神奈川県・住所:神奈川県(神奈川県で申請)
 
Mがパスポートを見て
「偽造?」
と尋ねたが、《こうちゃん》は
「人聞きの悪いこと言うな。そのパスポートは全て正式に発行されたものだ」
と言い、怪しまれないように都県を分散して戸籍を作成していることを説明した。
 
ちなみにFの戸籍は女性で作っているが、Nの戸籍も女性で作っている。女と表記された戸籍とパスポートを見てFが喜んでいるが、Nは
 
「私の性別も女になってる〜!」
と戸惑ったように言った。
 
「お前、もう女の子になりたい気分になってるだろ?」
「少し」
「男の戸籍にして後から変更するのは大変だから、手間を省いて最初から女にしといたぞ」
と《こうちゃん》は言った。きっとNは高校卒業するまでには女の子になりたいと言い出すだろうと彼は思っていた。
 
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「じゃ私、もう戸籍に合わせて女の子にならないといけないの?」
「お前がその気なら、今からでも手術してやるけど」
「今からというのは、まだ待って!」
と焦ったようにNは言った。
 

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浜川渚は9月21日(土)から10月14日までお休みをもらうことにしていたのだが、仕出しの注文が入ったりして、連休が全部潰れてしまい、連休明けの24日(火)も忙しくて、結局お店を退出してワルキューレに乗ったのは24日夜22時であった。
 
1ヶ月近く休むので、その間、自分の代わりに、ホステス時代の友人でわりと料理が上手い、中国人の愛華(アイファ)ちゃんという子に料理担当の臨時代理を頼んだ。彼女は11月に結婚する予定で、8月に結婚準備のために仕事(ユニクロに勤めていた)を辞めたものの、暇だ暇だとこぼしていた。
 
料理のレシピはしっかり書いておいたし、実はスープを一週間分くらい冷凍している。愛華は「これ毎日20食限定とかで出そう」などと言っていた。また、渚がマウント・フジを辞めたのではないことをお客さんに納得してもらうため、毎日のレポートをツイッターにあげることにしていた。(結果的にフォロワーが増えた)
 
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大阪を出た渚は最初、出雲を目指した。
 
中国道・米子道・山陰道と夜通し走り続けて、9/25早朝に出雲に到着する。湯の川の道の駅で、施設内で寝袋にくるまって寝る。そして早朝から出雲大社にお参りして、自分と竜太が結婚できますようにとお祈りした。
 
それから9号線を走り続けて午後下関に至る。高速に乗って関門橋を越え、九州道・二丈浜玉道路などを経て唐津に至る。実は唐津に友人の楓が住んでいるのである。鳥取土産の“因幡の白うさぎ”を渡して
 
「ごめん。少し寝せて」
と言って熟睡する。ゴロ寝していたのだが、タオルケットを掛けてくれていた。
 

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1時間くらいで起きるつもりだったのだが、翌朝まで寝ていた。
 
「ごめんねー」
「いいよいいよ。うちは旦那と2人暮らしだし」
「旦那さんもごめんなさい」
「うちは全然構いませんよ−」
と言っている旦那さんは、スカートを穿いているし、メイクもしている。おっぱいもあるように見えるのはフェイクか?しかし普通の人が見たら女性にしか見えない。女装趣味のある男性と結婚したとは聞いていたが、スカートが似合っていてメイクも自然だ。まあ仲良くやってるならいいよね、と渚は思った。
 
「へー!赤ちゃんできたんだ?」
「うん。私も年齢的にそろそろ子供産める限界だし、この人もいつまで男性機能があるか分からないから、最初で最後の子供になるかもね」
「そんなこと言って、今から10人できたりして」
「そこまで産む自信はない!10人目産む時、私いったい何歳なのよ?」
「外国では60歳くらいの出産例もあるみたいだよ。そうだ、半分は旦那さんに産んでもらったら?」
「あ、それもいいね」
などと言っていたら、旦那さんは産みたそうな!?顔をしていた。
 
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「そうだ。蘭と会うんでしょ?これお土産に持ってって」
と言って、唐津名物の松露饅頭(太原)を預かった。
 
(松露饅頭の製造元は太原と宮田があり、各々ファンがいる。楓は太原派のようだ)
 
「ありがとう。じゃ持ってくね」
と言って朝御飯まで頂いてから出発した。
 

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(9/26)伊万里経由で佐世保に出て、西海橋で古い友人の蘭と会った。彼女は高校時代の友人なのだが、渚が出た高校のあるむつ市大湊は海上自衛隊の基地があり、海上自衛官の息子・娘が多い。蘭は佐世保の出身で、父の転勤に伴い、大湊に来て、そこの高校に通っていた。その後、舞鶴を経て結局佐世保に舞い戻り、現在は佐世保市内で一人暮らしである。実は両親との折り合いが悪く、同じ市内に住んではいるものの、あまり行き来はないらしい。
 
彼女と西海橋でデートし、その後、ハウステンボスも散策した。むろんパスポート代は渚が出している。
 
「そうそう。これ、楓から言付かった」
「サンキュー。松露饅頭好き〜」
「こちらは来る途中の鳥取で買った」
「へー。因幡の白うさぎか」
 
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「ところで楓、結婚とかする予定は?」
「全く無い。子供産む年齢とか考えると、いいかげん結婚したいんだけどね。私、彼氏と3ヶ月以上続かないのよ」
 
それはやはりこの子の性格に問題があるよなという気はする。浮気っぽい所があるのである。それで恋愛は多くしているはずだが、結婚を考える段階まで進んだことがないようだ。
 
実は渚が代理母を依頼するとしたら、この子がいいかもと目星を付けていたのである。(楓は第二候補だったのだが、自分たちの子供を妊娠したとあっては頼めない)
 
それでそれとなく、彼女の意向に探りを入れに来たのが、今回の旅のひとつの目的であった。むろん、正式に依頼する場合はあらためて会いに来るが、この日丸一日掛けて探りを入れた感じでは、報酬次第では代理母になってもいいような雰囲気であった。
 
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ただこの子は竜太とセックスさせたら、竜太を誘惑しかねないから、やるとしたら絶対人工授精だなと渚は思った(楓なら彼女の旦那が許してくれたら竜太とセックスさせてもいい)。蘭は家庭争議を引き起こす常習犯である。
 

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夕方、蘭と別れ、西九州道・長崎道・九州道・関門橋・中国道・山陽道と走り、夜中に広島県の宮島口に到着。予約を入れておいたビジネスホテルに泊まる。
 
(9/27)朝からフェリーで宮島に渡り、厳島神社でも、竜太と結婚できるように、お母さんが自分を嫁と認めてくれるようにと祈願した。フェリーで宮島口に戻り、山陽道を通って宇野へ移動する。
 
宇高フォリーで四国に渡り、鳴門市に到着したのが夕方である。この日は鳴門市内の旅館に泊まった。
 

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ちなみに渚は堂々と女湯に入る。実際、胸もかなり膨らんでいるので、男湯に入るのは不可能である。
 
9/28朝からお遍路を始める。朝一番に霊山寺(りょうぜんじ)に行き、初日は11番・藤井寺まで打つ。
 
9/29は12.焼山から17.井戸寺まで。
 
9/30は18.恩山寺から24.最御崎寺まで打って、室戸岬近くの旅館に泊まった。むろん女湯に入る!
 
渚は大きなお風呂にゆっくり入った方が疲れが取れる気がして、ホテルより旅館に泊まるのを好む。男湯か女湯かという問題は、ホステス始めて2年目頃に既に解決済みである(当時はまだAカップサイズの胸しか無かったが、取り敢えず少しでも膨らんでいれば、渚の容姿なら不審に思われることはない)。
 
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10/1は25.津照寺から高知市内の31.竹林寺まで。
 
10/2は32.禅師峰寺から37.岩本寺までを打ち、足摺岬まで走って、岬近くの旅館に泊まる。
 
10/3は足摺岬近くの38.金剛福寺から月山神社を経て40.観自在寺まで打った。
 
9/28 41.6km
9/29 73.2km
9/30 165.7km
10/1 115.6km
10/2 108.2km
10/3 187.9km
 

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10月4日は、少し寝過ごしてしまい遅く起きたのだが、9時頃出発して、まずは41.龍光寺を打ち、42.佛木寺を打ってから、次の43.明石寺に進むのに歯長峠を越える愛媛県道31号を登って行く。この道は時々通れないこともあると聞いていたのだが、佛木寺のお坊さんに確認した所では今日は大丈夫ということだった(お遍路道になっていた旧道は、ずっと通行止めが続いているが、車が通れるトンネルは抜けられるので、お遍路さんも現在はここはトンネルを通る)。
 
それで道を走っていたら、前方に歩きお遍路の女性がいた。
 
急な坂道を結構な速度で歩いているが、あんな速いペースで歩いていたら、力尽きて倒れないかと心配になった。こんな所で倒れたら何時間も誰にも発見されないかも知れない。そこで渚は彼女のそばでバイクを停めた。
 
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「お姉ちゃん、歩きなの?乗ってかない?」
「ありがとうございます。でも私は歩きお遍路なので」
「ちょっと車に乗るくらいバレないって」
「同行二人(どうぎょうににん)と言って、遍路は1人で歩いていても弘法大師様と一緒なんです。誰も見ていないと思っても、弘法大師様が見てますよ」
 
それで彼女と話していたら、彼女が作曲家でレーサーでもある醍醐春海であることに気づく。
 
「『ハートライダー』で、冬の北海道をバイクで走破したの、あんただったよね?あれ感動したよ」
と渚は言う。バイク好きならあの番組は見ている人が多い。
 
「あれ酷いんですよ。私が下見で1度走行してきたら、『ああ、生きて帰ってきたか。だったら番組にするかな』って」
「あはは、テレビ局ってそんなものだよ」
 
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結局醍醐春海とは、30分近くバイクを押しながら話したが、レーサーでもある彼女なら、行き倒れになることはあるまいと渚も判断した。それで先に行かせてもらうことにする。彼女とはバイクグローブを外して(醍醐さんも軍手を外して)素手同士で握手して別れた。渚は山を降りた所で派出所(駐在所?)を見たので、念のためと思い、そこに寄ってお巡りさんに言った。
 
「今、歯長峠を女性のお遍路さんがひとりで歩いて越えていて、たぶん1時間程度でこのあたりまで降りてくると思いますが、もしいつまでも来ないようだったら見に行ったほうがいいかも」
 
実際には、千里は30分後にはこの派出所前に到達し、警官も安心した。
 
「ああ、無事だったね」
「お勤めご苦労様です」
「いや先行したバイクの女の子が女の歩きお遍路がいたから、ちゃんと降りてくるか気をつけててと言っていたんだよ」
「彼女とは30分くらい歩きながら話しましたが、心配してくれたんですね。お巡りさんもお気を使わせて」
「自分は仕事だからね。じゃこの先も気をつけて」
「ありがとうございます。南無大師遍照金剛」
 
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それで千里は警官と握手して納札も渡し、先に行った。
 
一方渚はこの日、47.八坂寺までの191.8kmを走り、松山市内の旅館に泊まった。
 

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10月5日朝、渚は夢を見ていた。
 
男として会社勤めしていた自分が朝起きたら女の子になっていて、それで仕方なくスカートスーツを着てお化粧して会社に出ていったら、
「女になったのなら、悪いけど給料下げるから」
と言われ
「男女差別反対!」
と言った夢だった。
 
なんか現実感のある夢だったなと、実際に目が覚めた時、渚は思った。渚は高校を出た後、男性として就職してすぐに女装癖がバレて首にされている。しかし男性用の背広とか着て会社に出ていっていた自分が今では信じられない。
 
「人間、自分にとって不自然な生き方をしてはいけないよ」
と自分に言い聞かせるように言った。
 
朝御飯前にトイレに行ってくる。いつものように女子トイレに入り、個室に入って、浴衣の裾を分け、パンティを下げて便器に座る。そしておしっこをするのだが、その時の感覚が変だった。
 
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あれ?どうしたのかな?
 
と思って、自分のお股を見た渚は、それから15分近く、個室の中で固まっていた。
 

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