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■春変(8)

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アリスは冷えた身体を温めようと結局20分くらい浴槽につかってから上がった。
 
用意してもらっていたバスタオルで身体を拭き、貸してもらった下着を身につける。ちょっとサイズが大きかったが気にしない。ただ、いわゆるおばちゃんパンツなので、布にゆとりがありすぎて、男性器の形がもろに出てしまう。アリスが普段穿いているビキニ・ショーツなら、後ろに向けた男性器をしっかり押さえてくれるので、穿いた状態を見ると、まるで何も付いてないように見えるのだが。
 
早くこういう邪魔なものは取ってしまいたいと思う。彼との仲があのまま進んでいたら、去年くらいにアリスは性転換手術を受けて、今年くらいに結婚していたはずだった。でも彼の命日に金沢ドイルさんと遭遇したのは、きっと彼の導きなんだろうなと思う。金沢ドイルさんは、そのあたりを曖昧にした感じがあったけど、彼は多分私の守護に入ってくれている。だから、このお遍路の旅は、彼と私の新婚旅行なんだと思っていた。
 
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ハネムーンベビー、できちゃったりして!?
 
私も赤ちゃん産みたいなあ。
 
私に妊娠能力があったら、絶対彼が遺した精子を自分で受精するんだけど。
 

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お風呂からあがってロビーに行くと、さっきの長身女性が居た。
 
「今あがりました」
と報告する。
 
「ありがとう。お腹の内容物が少し落ち着いてからいこうかな。あなたは食事に行くといいですよ」
 
「ちょっと雨に濡れて疲れたので、もう少し休んでからにします。今食べると全部吐いてしまいそう」
 
「ああ。それはあるかもね」
 
それで彼女としばらく話していた。彼女は千里さんと言ったが、こちらの性別には気づいていたようだ。それで食事の間にお風呂に入ってしまうことを提案してくれたようだ。
 
「私、リードされたの初めて」
とアリスが言うと
「私も元男の子だから」
と彼女は言った。これにはびっくりした!アリスは自分がそうなので、本物の女性と、男の娘を見分ける目はかなり発達している。そのアリスにも彼女は天然女性にしか見えなかった。
 
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彼女は既に性転換手術も終えて、戸籍も女性になっているらしい。
 

「いいなあ」
「アリスちゃんも早く手術しちゃいなよ」
「手術したいです!」
 
「でも千里さんはどうしてお遍路しているんですか?」
とアリスは尋ねた。
 
「実は2年前に結婚したんだけどさ」
「相手は男性ですか?女性ですか?」
「男性。でもその彼、建築会社に勤めていたんだけど、新婚3ヶ月で工事現場で事故死しちゃって」
 
「え〜〜〜!?」
「ショックで私、3ヶ月くらい茫然自失だったよ」
 
「それ私も同じです」
と言って、アリスは婚約者が自分との結婚を両親に反対されて、思い悩み、自殺してしまったことを語った。それで自分も3ヶ月くらい茫然自失で、その間の記憶が飛んでいることも。
 
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「やはりお遍路に来る人ってみんな何か悲しみを抱えているよね」
「そうかも知れない気がします」
 

「でも彼が死んだこと、自分のせいだと思わない方がいいよ」
と千里さんは言った。
 
「はい?」
 
「彼、病気だったでしょ?」
「よく分かりますね。そんなこと言ってないのに」
「彼はたぶん病気・・・癌かな?それのせいで、余命幾ばくも無かったと思う。闘病で物凄い苦しみをしないといけないから、そうなる前に死んだんだよ」
 
「嘘!?」
「帰ったら、彼の御両親に訊いてみなよ。きっと御両親は知っていると思う。元々余命があまり無かったことをあなたが知ったら辛いだろうと配慮して、真相は言ってなかったんじゃないかな」
 
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「そんなこと言われると、急にそんな気がしてきました」
 
多少思いあたるふしがある。
 
「だから、このお遍路は彼が新たな段階に進むために必要なものかもね」
「新たな段階・・・彼はやはり成仏してないんでしょうか?」
「彼・・・昭聡さんかな?昭和の昭に、池田聡の聡で“あきさと”」
「なんでそんなのが分かるんです!?」
 
「彼はちゃんと成仏してるよ。そして今、あなたの守護に入っている」
「それはそんな気がしていました」
 
「だからこの旅が終わった時、きっと博美さんも昭聡さんも新たな段階に進むことになると思う」
 
「私の本名も言ってないのに」
とアリスは言った。
 

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「あ、ごめん。アリスちゃんだったよね。私は本人を見れば本名はすぐ分かるよ。ちなみに戸籍名は博隆だけど、もう長いこと、通称の博美で過ごしてるね」
 
「なんでそんなことまで分かるんです!?」
 
「私の妹はもっと凄いよ。あの子に見詰められたら、一瞬で全てを見通されてしまう」
 
「もしかして姉妹で霊能者か何かですか?」
 
「妹は霊能者してるよ。川上瞬葉というのだけど、最近は金沢ドイルという名前のほうが通っているかな」
 
「金沢ドイルさんのお姉さんでしたか!」
 
「ドイルと会ったの?」
「実はお遍路の旅を勧めてくれたのが、ドイルさんなんです」
 
「そうだったんだ!」
「菩提を弔うのにいいと言われたのですが」
「たぶんドイルは今私が言ったようなことを全部見透かした上で、お遍路が、博美ちゃんにとっても、昭聡さんにとっても有用だと思って、勧めたのだと思う。ふたりで一緒に旅するから、ハネムーンみたいなものかもね」
 
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「あ、それは少し考えていました」
 
「ただ、残念なことに、このハネムーンが終わったら、彼はより高いレベルの霊に進化して、博美ちゃんの守護からは離れると思う。それでもこの旅を続ける?」
 
アリスは一瞬躊躇した。彼とまた別れないといけない?
 
「続けます。それが彼にとって必要なことであれば、私は彼のために努力します」
 
「そして博美ちゃんは、きっとママになるね。私、こういう予言は割と当たるんだよ」
 
これだけの霊的感覚の発達している人の言葉なら当たるかも知れない気がした。やはり代理母さんにアキちゃんの精子で妊娠してもらうプロジェクトは進めよう。日本国内では難しいだろうけど、東南アジアに行けば、やってくれる病院は多分ある。
 
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結局アリスは千里と1時間以上話していた。その間にぼろぼろ涙が出たが、千里さんはアリスが泣くにまかせておいてくれた。
 
「今日千里さんと話せて良かった」
「心の中にあまり色々溜め込まないほうがいいよ。あなた自分のご両親とは絶縁状態みたいだけど、彼の御両親が色々相談に乗ってくれているなら、そちらを頼りなさいよ」
 
さり気なく、また当ててるし!
 
「そうします。今日は本当にありがとうございました」
「私も旦那亡くしてからずいぶん泣いたしもね」
「そうでした!本当に大変でしたね」
 
「私も自分に区切りをつけるためにこの旅をしているんだよ。博美ちゃんも頑張ってね」
「ありがとうございました。そうだ、今日の見料は?」
「私はただの素人だから、そんなの料金とか取らないよ。今日は夫を亡くした女同士、少しおしゃべりしただけ。私そもそも大して霊感があるわけでもないし」
 
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これだけ当てまくって“霊感が無い”というのは、さすがに無い。
 
でも最後は千里さんとハグして別れた。それで食堂に行ったら、食事を出してくれた。
 
「川島さんと随分長く話してましたね」
「なんか似たような境遇だったので、共感してしまって」
「お遍路に来られる方って、みんな色々抱えているんですよ。でもいろんな苦しみはこの1200kmの旅路の中に置いて帰ればいいです」
「ありがとうございます。そうします」
 

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アリスは雨に濡れながら長時間歩行してクタクタに疲れていたこと、お風呂にゆっくり浸かったこと、そして千里さんと話して、物凄く心が楽になったこと、などもあり、ぐっすり眠った。
 
目が覚めた時、今自分がどこにいるか分からなかった。ふとスマホを見る。
 
17:50 !??
 
えっと・・・・・
 
トントンと障子をノックされ、女将さんが顔を出した。
 
「あら、高浜さん、目が覚めました?」
「すみません。こんなに寝過ごすとは」
「いえ、構いませんよ。もう1泊なさる?」
「お願いします!」
 
「あなたの服、朝までには乾いてなかったからどうしようと思ったんだけど、今もうだいたい乾きましたよ」
 
「ありがとうございます!ちなみに千里さんはもう出ましたよね?」
「ええ。朝出かけられましたよ。今日は最御崎寺まで歩くとおっしゃってましたが、もう着いて、今頃は室戸岬付近で宿に入っておられるでしょうね」
 
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ああ。やはり普通のお遍路さんはそのくらい歩くんだな。私も来年までにはもっと身体を鍛えよう、とアリスは思った。
 

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「そろそろお食事ですから、食堂にいらしてくださいね」
と言って、女将さんは下がった。
 
取り敢えずトイレに行こうとアリスは思った。かなり溜まっている感覚だ。たぶん20時間近く眠っているから当然である。よく漏らさなかったものだ。
 
(実際には昨日水分不足の状態で長時間運動しているので摂取した水分はその不足した分の補充にほとんど使われてしまっている)
 
それでトイレに入る。お風呂は女湯に入れないアリスだが、トイレは小学5年生の時に「自分はこちらを使う」と決めて以来、ずっと女子トイレしか使っていない。
 
個室に入り、浴衣のすそをめくり、パンツを下げて便器に座る。
 
物凄い量のおしっこが出る。わあ、凄いと思いながら、アリスは何か違和感を感じていた。
 
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何だろう?
 
と思ったものの、あまり深く考えないまま、トイレットペーパーを取って、あれの先を拭こうとした。
 
え?
 
その拭こうとした“あれ”が見当たらないのである。
 
何で?
 
と思って、自分のお股をよくよく見たアリスは思わず声を挙げそうになった。
 
何これ〜〜〜!?
 

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その夜(9/22)、高浜アリスは初めて堂々と女湯に入ることができた。
 
その日は40代の2人組の女性客も泊まり、お風呂の中でも彼女たちと一緒になったものの。彼女たちとお風呂の中でおしゃべりをする余裕もあった。
 
そしてアリスは9/23以降、元気いっぱいに遍路道を歩き、結局生見で余分に1日泊まった以外は予定通り歩いて、9/29夕方、高知市の五台山竹林寺(31番札所)で、今年のお遍路を打ち上げた。
 

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アリスはいったん志賀町に戻ってから、毎日ウォーキングを続け、11月にまた四国に来て、9月にいったん打ち上げた竹林寺から、43番明石寺(西予市)までの約400kmを歩く。そして2020年春に続きを歩こうと思っていたのだが、コロナ騒動で延期せざるを得なくなった。
 
「どうせ身動きできないし、昭聡さんの赤ちゃん産んじゃっていいですか?」
「あなた妊娠できるの!?」
 
アリスは昭聡の親友だった男性に父親の振りをしてもらってお医者さんを欺し、まんまと昭聡の冷凍精液を自分の子宮に投入してもらって妊娠に成功した。妊娠中は、ずっと昭聡の実家で過ごし、2020年12月、昭聡の忘れ形見・聡美を出産した
 
聡美の父親欄は空白である。昭聡が死んだ後に妊娠しているから、認知は不可能である。しかし、耳の形が昭聡にそっくりだったこともあり、昭聡の両親は、物凄く喜び、凄い可愛がりようであった。またこの出産をきっかけにアリスは自分の両親との仲も修復に向かうことになる。
 
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ちなみに、聡美の出生届は、アリスが戸籍上男性だったため一旦保留されたが、妊娠・出産の事実をもって(裁判所の審判を経て)アリスの戸籍上の性別は半ば強制的に女性に変更され(ついでに名前も博隆から博美に変更が認められる)、その上で博美の子供として、聡美は無事戸籍に記載された。
 
博美がお遍路を満願したのは、聡美が1歳になった後、2022年の春であった。
 
「昭聡さんの霊は、聡美ちゃんの守護に入ったみたいだよ」
と《きーちゃん》から報告を受け、千里は
 
「まあ、奥さんより娘の方が可愛いかもね」
と言った。
 
「聡美ちゃんは男の子だけど」
「そうだっけ?女の子に変えてあげようか?」
「余計な親切はやめよう」
 
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