[*
前頁][0
目次][#
次頁]
「もったいのうございます。確かに有無を言わさず会ってしまえば(犯っちゃえばという意味)あの娘も受け入れざるを得ないでしょう」
「日取りは決めないぞ。突然行くぞ」
「分かりました。家の者にも何も言わないことにします」
それで翁は取り次ぎの女官(大仙イリヤ)に筆と紙を乞い、自分の家の見取り図を描いて女官を介して帝に献上しました。
(視聴者の声「アクア弟がアクア姉をやっちゃえば近親相姦なのでは」「お芝居だし。『ロミオとジュリエット』でも『白雪姫』でも『陽気なフィドル』でもアクアとアクアでキスしてたぞ」「そもそも、アクア弟にちんちんとか無いはず」「ちんちんなんてとっくの昔に取ってるよね」「そそ。男だというのは戸籍と意識だけの問題で身体は既にほぼ女同然のはず」)
「ただ恐れながらお願いがあるのですが」
「申してみよ」
「私の家には、かぐやを狙って、毎日のように不逞(ふてい)の男が侵入を試みては、警備の女房に撃退されております。主上(おかみ)がおいでになった時何も目印が無いと、その手の者と間違えられて警備の者に叩き出される恐れがあります」
「ほほお、そうなるとどうなるのじゃ?」
「木刀で叩かれて、矢を射かけられて、それでも撤退しなければ最後は斬られるかと」
「あはは。それは面白い。矢を射かけられてみたいものだ」
と帝がおっしゃるので竹取翁は恐縮しています。
帝は少し考えてから
「しかし斬られるのはあまり心地良くない。造麿(みやつこまろ)、そちが何か目印になるものを朕(ちん)に賜れ(*148)」
「ははぁ」
それで竹取翁は少し考えた上で、紙に「月月月」と書き、隅に「竹」と書いて女官に渡しました。
「ではその日はこれを持って行くことにしよう」
(*148) 時代劇でよく使われる「たもれ」(「たまはれ」の縮約形)は中世以降の形でこの時代には無い表現。
映像は翡翠の首飾りを着けて、うっとりと銅鏡を見る、大納言の奥方(桜野みちる)。
「素敵ね〜。あの人、また浮気しないかしら?また首飾りをねだるのに」
画面の隅に現代の服を着た森原准太が小さく映り
「もう勘弁して〜」
と言う。
語り手「その日、帝(アクア)は、狩衣(かりぎぬ)姿で、ごく少数の供のみを連れてかぐや姫の家に来ました」
護衛(赤石:新田金鯱、白岩:タイガー沢村)
女房(近江:原町カペラ、中川:石川ポルカ)
連絡係・山口少将:花貝パール(男装)
★音楽:薬王みなみ『姫狩り』
“グーテルバッハ作曲『インドの虎狩り』に加糖珈琲が歌詞を乗せたもの”と表示された直後、その下に
“↑真っ赤な嘘です”と表示された。
かぐや姫の取次ぎの藤(花園裕紀)が応対に出ますが、帝は
「これを翁に」
と言って、「月月月」と書いた紙を渡します。藤は首をひねりながら紙を翁に渡しました。翁もいつ帝がいらしてもいいようにここしばらくは店に行かず、家の方に居ました。藤には
「麦湯と最上級のお菓子と果物をお出しして」
と言って、すぐ飛んできます。
帝は護衛の2人と女房の1人にはここに留まるよう言い、ひとりの女房のみを連れて、静かに物音を立てないように、翁の後に付いて廊下を進みました。
この日、かぐや姫は天気も良いので、部屋の表の御簾を降ろし、自分は帳台から出て、桃と箏の合奏をしていました。音を鳴らしていたので、足音に気付きませんでした。
唐突に翁と一緒に狩衣姿の男性、そしてそのお付きっぽい女房が現れたので、かぐや姫は驚いて帳台に入ろうとします。しかし狩衣姿の男性は部屋に駆け込むようにして、かぐや姫の手を掴みました。警備の松と竹は、翁が一緒なので戸惑っています。かぐや姫は自分の袖で顔を隠しました。
帝はひと目かぐや姫を見て、なんという美女なのだろうと思いました。この美貌に迷って男たちが身を滅ぼしたのも納得だと思いましたが、彼女の顔はあることを思い出させました。
「怖がらなくて良い。朕(ちん)は帝(みかど)である」
帝ということばを聞いて、かぐや姫の一番近くにいて、姫と“乱暴な男”との間に身体をわりこませようとしていた桃は仰天しています。駆け寄ろうとしていた松と竹も呆気にとられています。
「その顔をもう一度見せなさい」
「嫌です」
なるほど、帝という名前を聞いても恐れ入りもせず、言うことも聞かないのは本当に大した女だと帝は思いました。
「乱暴なことはしないから(←犯る気満々)逃げないで」(*149) (*150)
と言って帝は手を放して座りました。かぐや姫も袖で顔を覆ったまま座ります。(実際に袖で顔を覆っているのは早幡そら!)
桃は厳しい表情でかぐや姫の隣に座り、かぐや姫の後ろには桜と橘が寄ってきて座りました。松と竹は所定の位置に戻ります。桃は万一帝が乱暴なことをしてかぐや姫が嫌がったら、斬り捨てられたり死罪にされること覚悟でそれを妨害するつもりでいます。
紫は翁に促されて、麦湯とお菓子・果物を差し上げるために出て行きます。帝は自分に付いてきた女房の近江に何か囁き、何か文を書いて渡します。近江が出ていきます。近江が退出したので、すぐに中川が代わりにこちらに来ました。
(*149) 男の「何もしないから」は絶対嘘だし、女の「何でもいいよ」は絶対嘘。
(*150) 原作では帝がかぐや姫を捉まえようとすると「かぐや姫、きと影になりぬ」とある。“きと”は急にという意味である。北陸方言では、魚などが新鮮なのを“きときと”と言うが、この言葉の類語か。この“影”の解釈に竹取物語の翻訳者はみんな悩んでいるが、もしかしたら光の塊と化したのかも。元々が光輝く姫だし。
どっちみち物理的に捕まえることができない状態になったものと思われる。物凄くSF的な展開である。
ここではその展開は採用しなかった。
帝は言いました。
「お主の顔には見覚えがあるぞ。今から14年くらい前。お主、崖から落ちそうになったことがあったろう?」
翁が「あっ」という声を挙げます。駆けつけて来ていた媼も同じように声をあげます。
「あの時助けて頂いた」
と翁。
「うむ。あれがまだ東宮(はるのみや)にもなる前の私だよ」
と帝。
それを聞いて、かぐや姫は初めて袖をおろし、素顔を見せます。帝はあらためてかぐや姫を見て、美しく育ったなあと思いました。
「あの時私は、お互いにもう少しおとなだったら求愛したいと言った」
「確かにおっしゃいました」
「もうお互いにおとなになった。あらためてそなたに求愛したい」
「仰せには応じかねます」
とかぐや姫は笑顔で答えます。
「ははは。本当に強情な女だな」
と帝も笑っています。
(この場面、帝とかぐや姫は向かい合って座っており、カメラは交互に双方の顔を映す。片方は後姿である。その後姿を演じているのは実は今井葉月と早幡そら)
帝の護衛2人もこちらに来て、最初は松と竹の近くで立って控えましたが、お互い落ち着かないので、右側に松と竹、左側に帝の護衛、と位置替えしました。
ふたりの会話は穏やかに続きます。会話をしている内に垣を乗り越えて侵入しようとした男がいたので、速攻で竹に排除されました。
「凄いな」
と帝。
「日常茶飯事なのでもう気にならなくなりました」
とかぐや姫。
やがて、宮中まで往復して来た山口少将(花貝パール)が戻って来て帝に笛を渡しました。
「主上(おかみ)、持って参りました」
と言って細長い繻子(しゅす:サテン)の袋を渡します。帝はその袋から笛を取り出しました。
「これはあの時、お礼にともらった笛だよ」
「そんなものを取っていてくださったなんて」
帝が笛を吹きます。かぐや姫は箏を引き寄せその笛に合わせて合奏しました(*151).
(*151) 笛を吹いているのは狩衣を着て後姿の今井葉月、箏を弾いているのは女性衣裳のアクア:実はアクアM!。Fの方は狩衣を着けて別室で待機している。役割交替する時は、女性衣裳の早幡そらと狩衣のFに交替する。
MとFはたいていFが男役、Mが女役をしている。性別逆で演じるのは、Fの女装とMの男装では同一人物に見えないからである。
本来は狩衣と女性衣裳の着替えには1時間掛かるがアクアは控室に入ると5分で出てくるので、やはりアクアは2人いるんだろうなと、多くの人が思っている。
早幡そらも一応箏が弾けるがアクアほどうまくはないので音はアクアが弾いたものを活かしている。でも一応箏が弾ける人なので、わりとちゃんと絵になった。
帝がかぐや姫の家に行幸なされたことを知って群臣がかぐや姫の家に集まってきます。藤と紫に桐まで動員されて、その方々の応対に走り回ります。来た人の中には、あの大伴大納言まで居ました!阿倍御主人は代理を派遣していました。しかし集まった人たちは、笛と箏の合奏の音が流れてくると
「なんて美しい合奏だ」
「この笛は主上(おかみ)ですな」
「箏がかぐや姫かな」
「美しく響き合っている」
と褒め称えました。
(まあ帝の演奏をけなす人はいない!でも視聴者は「さすがアクア。美しい」と言った)
応接間のほうは次第に宴会になっていったようです。翁と媼は多分このまま帝はかぐや姫を宮中にお連れになるだろうと思い、応接間のほうの応対に出ました。また翁は、帝がこんな粗末な家に泊まることはないだろうとは思ったものの、念のため紫に床の用意を命じました。
帝とかぐや姫の語らい、そして時折する合奏は、夜中まで続きました。
「かぐや、僕(*152)はもう君を離せない。僕と一緒に宮中に行こう」
と帝は言います。
「嫌です」
とかぐや姫は笑顔で答えます。
帝は苦笑します。
「あるいは造麿(みやつこまろ)が床を用意してくれているらしい。そこで僕と一緒に休まないか?」
「夜遅いですし、どうぞお休みになってください。私はこの部屋で寝ますから」
女童の2人はもう遅いので休ませて、かぐや姫のそばには桃だけがいます。もちろん松と竹もいるので、何かあっても?安心です。
帝は頭を抱えて苦笑します。
「ほんとに君は凄い女だよ。仕方ない。後ろ髪を引かれる思いだけど今日は帰る」
「はい」
「また来てもよいか?」
「このような粗末な家でも良ければいつでもどうぞ」
「君とおしゃべりしたり、合奏したりできるよね」
「私のつまらない話や、つたない箏や和琴でもよければいつでも」
(*152) “朕(ちん)”というのは、あくまで天皇が公的な場で使う1人称であり、プライベートな場では“わたくし”とか“ぼく”を使う。“ぼく”を使うのは基本的に同母の兄弟姉妹や、妻とその側近などくらいである。帝はかぐや姫とすっかり打ち解けている。
それで帝はまるで自分の魂がずっとここに留まってるかのような気持ちで、お帰りになることになったのです。帝はお立ちになる前にかぐや姫に歌を書きました。
「帰るさの行幸(みゆき)もの憂く思ほえて背きてとまるかぐや姫ゆゑ」(*153)
(*153) 「帰るさ」の“さ”は移動を表す動詞の終止形に付く接尾語で、〜の時、〜の途中という意味。「背きて止まる」は、自分の心が身体の移動に背いて留まるという意味と、かぐや姫が自分の意向に背いてここに留まるという、2つの意味を掛けている。
「帰りの行幸がとても辛く思える。私の心は帰らずにここに留まるし、かぐや姫は私に背いて宮中に来てくれないし」
かぐや姫は返歌をします。
「葎(むぐら)生ふ下にも年は経ぬる身の何かは玉の台(うてな)をも見む」(*154)
(*154) 葎(むぐら)は蔓草の類いで、転じて雑草全般を言う。玉の台は現代風に言うと“玉の輿”。
「雑草が生えているような貧しい家で長く暮らしてきた私がどうして玉の台などに昇ることができましょうか」