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帝の求婚。
語り手「かぐや姫というのが類い希な美人であるという評判を帝(みかど)、つまり天皇がお聞きになって、内侍(ないし (*142))の中臣房子という者を召して、言いました。『多くの男の身を滅ぼしてそれでも結婚しないらしいかぐや姫という女。いったいどれほどの美人なのかお前が見てきなさい』と」
それで中臣房子(小野寺イルザ:友情出演)が侍女たちを連れてかぐや姫の家を訪問しました。
侍女たち:竹原比奈子・神谷祐子・山道秋乃・水端百代 (Flower Sunshine)
最初、女房頭の藤(花園裕紀)が出ますが、帝の使いというのに驚いて、竹取媼(入江光江)が出て来ます。お店のほうに居る竹取翁のところにも使いを走らせます。媼は中臣房子に応接間の上座を勧めてから、伏して問います。
「このように汚い所に大変恐れ入ります。どういうご用件でしょうか」
中臣房子が言います。
「私は、かぐや姫と言うのがたいそうな美人という噂なのでどれほどの美人か見て参るよう帝(みかど)に命じられたのです」
「分かりました。伝えて参ります」
(*142) 中臣房子は、内侍司(ないしのつかさ)の長官である尚侍(ないしのかみ)であったと思われる。この時代は尚侍(ないしのかみ)が本当に内侍司の長官を務めていた時代である。
内侍司(ないしのつかさ)は天皇の秘書室であり、多数の女官(女孺:にょじゅ)で構成される。男性職員は居ない。女孺たちは文などに勝れ知識も豊富な超エリート女性たちであったと思われる。女性だけで構成される部署は最初は多数あったのだが、全てここに統合されてしまった。
内侍の女官たちのもうひとつの役割は賢所(かしこどころ)におかれた三種神器(*143) のひとつである、八咫鏡(やたのかがみ)を守ることである。
賢所(かしこどころ)は内侍の女孺たちが詰めていることから“内侍所”(ないしどころ)と呼ばれることもある。この鏡の守護のため、霊感の発達した女性も多く採用されていたと思われる。
かぐや姫は実は内侍司の女孺として超適格である!
(*143) 三種神器(さんしゅのじんぎ/みくさのかむたから)は下記の3つである。
(1) 八咫鏡(やたのかがみ)。本体は伊勢の内宮(ないくう)にあり、皇居賢所にあるのは、あくまでも分霊(レプリカ)である。そもそもこの鏡の本体を祭る場所として伊勢の神宮が作られた。この分霊は平安時代に度重なる内裏の火災で焼損し、新たな鏡が鋳造されて、焼損した鏡の破片と一緒に収めてある、
(2) 天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)別名草薙剣(くさなぎのつるぎ)。本体は名古屋の熱田神宮境内某所(*144) にあり、分霊が皇居の天皇の寝室である夜御殿(よるのおとど)にある。
壇の浦の合戦で失われたのは皇居にあった分霊のほうである。合戦の後で海中から剣を発見したという報告があったものの神宝の剣ではないと判定された。その後、伊勢の神宮にあった別の古い剣が新たな分霊として皇居に納められた。
(3)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。本体が夜御殿(よるのおとど)にある。天皇の最も重要なお仕事は、剣と璽の番をすることである!
三種神器は全て箱に入っており、この箱は天皇でさえ開けることを許されない。しかし重みや振った時の音で中に何か入っていることは確かである。
(*144) 公式には熱田神宮の本殿にあることになっているのだが、戦後進駐軍により(武器とみなされて)接収されることを恐れて境内のある場所に隠し、その後そのままになっているという説がある。妄説かもしれないが、ありうる話という気もする。でも境内にあることは確かだと多くの霊能者が言う。それらしき波動をある場所で感じるらしい。
平安時代になると、天皇の女御(妻)になる女性をいったん尚侍(ないしのかみ)にしてそれから女御に昇進(?)させる、または女御にできないような身分の低い家出身の女性を尚侍の名目で事実上の妻とすることが多くなり、内侍司の事実上の長官は本来次席である典侍(ないしのすけ)になった。
更に時代が下り、平安中期頃になると、この典侍まで事実上の天皇の妻になってしまい、内侍司の事実上の長官は本来は第3席である掌侍(ないしのじょう)になってしまう。現代の会社で言うと、社長秘書室長と社長秘書室副室長が実は社長の愛人で、社長秘書室長代理が事実上の秘書室の責任者である、みたいな話である!
しかし奈良時代は、まだ、内侍司の女官は本当に天皇の秘書をしていた。
『とりかへばや物語』で女の子として育てられた兄君は尚侍(ないしのかみ)として宮中に行き、女性皇太子の秘書を務めていて、皇太子に“犯られてしまう”(逆レイプ)。
「ひつぎのひめみこ様、なりませぬ」
「よいではないか、よいではないか。お前が男だから悪いのだ」
尚侍は最終的には天皇の妻になるが最初から妻にするつもりで尚侍にしたわけではない。
藤と桐が「粗末なものですが」と言って麦湯とお菓子を中臣房子と侍女たちに勧めている間に、媼はかぐや姫の部屋に行きます。
「かぐや、帝(みかど)のお使いが来て、あなたがどれほどの美人なのか見たいとおっしゃっています」
と翁が言いますが
「私は別に美人でも無いので会いません」
と、かぐやは言います。
「何を言っているのです?帝のお使いですよ。粗末には扱えないでしょう?」
「別に私は恐れ多いとも思いません」
かぐや姫がどうしてもお使いに会わないと言うので媼も困ってしまい、応接間に戻って、中臣房子に伝えます。以下、媼は何度も応接室とかぐや姫の部屋を往復して双方の言葉を伝えることになります。
「私は帝が興味を持って頂けるような家の女でもありません。山の中から出てきた卑しい身分の女です」
「低い身分の女でも宮仕えしている例は多数ありますよ。私は帝からかぐや姫を見てくるよう命じられました。かぐや姫を見ずに帰ることは許されません。この国に住んでいる者が帝の命令に従わないとは、どういうことです?」
「帝の命令に従わない不届き者ということならば、私を死刑にしてください」
語り手「中臣房子もかなり頑張り、竹取媼も何度も両者の間を往復します。お店から戻って来た竹取翁も恐縮して媼と一緒にかぐや姫を説得するのですが、どうしてもかぐや姫は出て来ません」
「数時間に及ぶやりとりをして、とうとう中臣房子も根負けしました。それで帝の所に戻り、どうしても会ってくれなかったことを報告します」
ここで帝の姿が初めて映像に出る。
アクア扮する帝(みかど:天皇)が中臣房子(小野寺イルザ)の報告を聞きます。
「かなり時間を掛けて説得したのですが、自分は美人でもないし身分も低い田舎娘なので会わないと言って出て来てくれないのです。この国に住む人が主上(おかみ)のお言葉に従わないとはどういうことです?と言ったのですが、不届き者ということであれば死刑にして下さいと言って、言うことを聞かないのです」
帝(アクア)は笑って答えます。
「さすが多くの男を破滅させ、死なせた女だな。稀に見る強情な女とみた。そんな女は放っておこう」
「はい」
「そなたも大儀であった」
「ありがとうございます」
(視聴者の声:なるほどー。アクアは帝と二役か。アクアは女役だけはしないからね」「アクア姉がかぐや姫でクア弟が帝かな」「だったら最後は帝と結婚してハッピーエンドかな」)
語り手「帝もこの時は、そんな強情な女のことは忘れてしまおうと思いました。それでどこどこの皇女だとか、どこどこの王(*145) だとかとの婚儀の話、また様々な重臣の娘とかとの縁談の話をしていたのですが、どれもあまりパッとしない女であったり、純粋培養で面白みの無い娘であったりします。文など書いても返事が全部明らかな代筆です」
(*145) 現代では天皇(過去の天皇を含む)の男系子孫で2親等以内の者(子・孫・兄弟姉妹)を、男性は親王、女性は内親王といい、それより血統が遠い者は、男性は王、女性は女王という。この親王・内親王が当時の皇子・皇女に相当する。ただし当時の運用は結構恣意的である。天皇の子でも皇子・皇女になれない場合もあるし、多少親等が遠くても皇子・皇女になる場合もある。
また当時は王・女王は性別によらず、どちらも王と呼んでいた。だから“額田王”(ぬかたのおおきみ)は女性だが王である。のちに女性は特に女王と書くようになった。
「その内、ふとかぐや姫のことを思い出しました。皇子だろうか大納言であろうが、言うことを聞かない。そんな強い娘は、めったに居ないでしょう。それで帝は竹取翁を宮中に呼び出します。竹取翁は驚き、正装して参上しました。竹取翁は宮中の作法など全く分からないので、草笛皇女の所の女房に付添いをお願いしました」
御簾の中の帝と清涼殿の庭に伏した竹取翁(藤原中臣)が話します。そばに草笛皇女の所の女房(七尾ロマン)も一緒に伏しています。
(竹取翁は殿上人ではないので清涼殿に上がることはできない)
(この場面はアクア無しで撮影している。撮影時の代役は早幡そら。後日アクアがアフレコした)
「そなたの孫娘を私にくれ」
と帝(みかど)は単刀直入に言いました。
竹取翁は庭に伏した姿勢のまま申し上げます。
「大変恐れ入ります。先日御使いの方がいらしたのに、大変失礼なことをしてしまいました。しかしあの娘はとうてい宮仕えなどしそうにありません。自分は身分も低いし、美人でもないしなどと申しております」
「ほんとに面白い女だな。その強情な所が気に入ったぞ」
「面目ございません」
「身分が低くて会えないというのであれば、さぬきの造(みやつこ)よ、そちに五位の位(*146)を授けよう。そなたが貴族であれば、身分が低いからということもあるまい」
「ははぁ。そのように娘に伝えます」
と言って竹取翁は下がった。
(*146) 原文は“かぶり”(冠)。貴族に取り立てるということで、具体的には従五位下(貴族の中でいちばん下の位階)を与えることを意味する。この位にある男性を大夫(たいふ)、この位の女性を命婦(みょうぶ)と呼んだ。
(命婦は大夫の妻ではなく本人が五位である女性。日本では位階は男女ともに与えられた。もっとも同じ位階にあっても女性は給料が安かった!)
なお大夫(太夫)という言葉は、東宮太夫など職名を表す時は“だいぶ”と読み、五位の男性の意味で使う場合は“たいふ”と濁らずに読む。
貴族の一番下(通貴)ではあるが、地方ではこれに叙せられるのは物凄い名誉であり、後の時代には実際の位階によらず、また性別によらず、偉い人への尊称として使われ“たゆう”と読まれるようになった。
それで竹取翁は、家に帰ってかぐや姫に伝えます。
「帝(みかど)が私に五位の位階を授けると言ってる。お前も貴族の娘ということになるから、身分が低いからといって遠慮することはないぞ。帝の元に参上しなさい」
(この場面もかぐや姫は御簾の中に居る。竹取翁はかぐや姫の部屋の中で座って会話する。もちろん撮影時は早幡そらが代役する。つまり、早幡そらと藤原中臣は、セットだけ移動して同じ組み合わせで会話している!)
「父上、私は帝(みかど)とは結婚しません。五位の位を授けるから結婚しろというのでしたら、父上その位をもらってください、私は宮中に参上した上で、帝に抱かれる前に自殺します」
「自殺するなどとたやすく言うものではないよ。子供を失うことが親にとってどんなに辛いことだと思う?」
「私の言うことが嘘だとお思いなら、試しに結婚させてみてください。そして私が翌朝まで生きているか、お試しになるとよいでしょぅ。私のために5人の方々がご苦労なさって、財産を無くしたり(車持皇子のこと)、行方不明になったり(石作皇子のこと:彼は世間的には行方不明だが、かぐや姫や車持皇子などは実情を知っている)、命まで落とした(中納言・石上麻呂のこと)方まであるというのに、帝(みかど)がお召しになったら、ひょいひょいと靡くようでは、亡くなった方があまりにも可哀想です」
「これ以上そのような気の毒な人を出さないように、お前もいい加減結婚したほうがいいと思うのだけどね」
翁はそれでもかぐや姫の説得を試みたのてすが、どうしてもかぐや姫は、うんと言いませんでした。
竹取翁は宮中に参上して、位階は辞退することを伝えた上で、かしこまって報告します。翁は清涼殿の庭に伏しています。草笛皇女の女房も一緒に伏しています。帝は御簾の中です。
「娘は、どうしても結婚したくないと申しております。無理にお召しになったら自分は死んでしまうと申しているのですが如何致しましょうか」
「ほんとに強情な娘だな!」
と言って帝(みかど)はとても楽しそうです。
「朕(ちん)はますます気に入ったぞ」
「恐れ入ります」
帝は少し考えてから言いました。
「よし。かぐや姫が宮中に来ないのであれば、朕(ちん)がそなたの家に行こう」
「え〜!?私の家はたいへん粗末なもので、とても主上(おかみ)にお越し頂くような家ではございません」
「構わぬ。正式の御幸(みゆき)をすれば姫も警戒するだうし、狩りにでも行くような振りをして、途中そなたの家に立ち寄ろう(*147)。そして姫の部屋にそのまま押し入れば何とかなるだろう」
レイプ宣言!
(*147) 原文「造麿(みやつこまろ)が家は山本近かなり。御狩りみゆきし給はんやうにて見てんや」。
ここで「見る」はもちろんセックスしちゃうという意味!
“山本”は山の麓という意味で、ここだけ読むと竹取翁の家は最初にあった竹を採るのに住んでいた場所から移動していないようにも見える。しかし5人の貴公子が毎日通ってきていたという記述があったから、家は都またはその近くに移動していたはずである。これも複数の物語を合体させる際に起きた不整合か。
ここでは山の麓にかぐや姫の家があるという設定は採用しなかった。