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(*15) この当時はまだ貨幣が一般的ではない。近畿地方では米、また絹や麻などの布、が貨幣の役割を果たしていた。日常の取引には米を使うが重いので、旅先などでは、絹・麻を使用した。絹は高額取引用、麻は少額取引用である(この当時は木綿は無い)。
日本で最初に貨幣が発行されたのは708年に元明天皇が平城京を作るための労賃として支給するのに“和同開珎(わどうかいちん)”を発行したのが最初である。和同開珎は1枚が労働者1人1日の労賃に相当し、だいたい米2kg程度の価値であった。当時は補助貨幣が無いので、まだ充分な貨幣経済は成立していない。
(*16) 後述するように時代設定を奈良時代初期に想定しているので、当時の都は平城京(奈良市)であるが、“なんと素敵な平城京”710年には天皇の執務所が作られた程度で、都の機能が藤原京から完全に移転するには10年以上掛かったものと思われる。だからこの市(いち)は藤原京の市である。
(*17) 行李(こうり)とは、竹・柳・籐(とう)などを編んで作った蓋(ふた)付きの箱で衣服を入れて保管したり運んだりするのに使用するもの。現代でいえばプラスチックの衣裳ケースのようなもの。1960年代頃まではよく使用されていた。
(*18) 竹取物語が書かれたのは、平安時代初期で、だいたい9世紀後半と考えられる(鳴くよウグイス794平安京)。
物語の中に“頭中将(とうのちゅうじょう)”という官名が出てくるが、この職が設けられたのは810年のことである。また富士山の煙について描写があるが、富士山が噴火したのは864年7月(貞観大噴火)であり、また905年に完成した古今和歌集の序に「今は富士の煙も立たず」とあるので、富士山が煙を上げていたのは、864-905の間に限定される。
そしてその時代に「今は昔」と書かれたのだから、舞台設定は8世紀前半(701-750頃)より以前と考えられる。
(864以前では富士山は781, 800, 802 にも噴火している。それ以前の噴火については記録が残っておらず不明。802-864の間は恐らく噴火していない)
一方、5人の求婚者の中に実在の人物がいて、その生存年代は下記である。
阿倍御主人(あべのみうし)645?-703
大伴御行(おおとものみゆき)646?-701
石上麻呂(いそのかみのまろ)640-717
物語の途中で亡くなってしまう石上麻呂がリアルでは最も長生きである!
これらの人物の実際の年代から見ると舞台設定は、5人の貴公子の求婚が行われたのが670年頃に想定されそうである。
ところがこの考え方には重大な問題があり、五人の貴公子の求婚を670年とすると帝との交際が675-678ということになり(*19)、この時代の天皇は天武天皇(622生)で当時54-57歳である。当時の55歳といえば今なら70歳近い感じに老けている。いくら帝であっても、かぐや姫が相手にする訳が無い。
かぐや姫が交際を考えたかもしれない、このくらいの時代の男性天皇として考えられるのは文武天皇(683-707, 在位697-707) と聖武天皇(701-756, 在位724-749)である(当時はとても女帝が多い時代)。
文武天皇の場合、わずか25歳で亡くなっており病弱であったと考えられるので竹取物語に出てくる帝の姿に似合わない。となると、3人の貴公子の年代とは大きくずれるが、聖武天皇がこの物語の帝のモデルかもしれない。そこから、天皇がかぐや姫に求婚したのを聖武天皇が即位(724)した24歳の時として、その時かぐや姫が21歳だったとすると(*19)、かぐや姫は704年生で727年に月からの使者が来たと考えられる。
この時代の都は藤原京(694-710)・平安京(710-794) である。
かぐや姫の年代は、だいたい白鳳時代(645-710)から奈良時代(710-794) に想定する研究者が多い。但し壬申の乱(672)よりは後と考えられる。
“かぐや姫”という名前については、垂仁天皇の妻のひとりである“迦具夜比売”がその元ネタではないかという意見が多い。系図をあげる。
スペースの都合で“稲日”と略した人は正しくは播磨稲日大郎姫という人で、吉備津彦(桃太郎のモデル)の姪にあたる。つまりヤマトタケルは、桃太郎の姪の息子である!
崇神天皇というのは日本書紀に「初めて国を治めた天皇」と記されており、この人から大和朝廷は始まると考えられる。開化天皇は、その父である。その息子で崇神天皇と兄弟になるのが日子坐(ひこいます)で、この人が“日本を作った”大将軍と思われる。
『銀の海金の大地』では日子坐は輿に乗った貴人として描かれているが、むしろ武装した、たくましい武人だったのではなかろうか。
開化天皇と“竹野姫”の子に彦湯産隅という人が居て、その子供に大筒木垂根王・讃岐垂根王という兄弟がいた。迦具夜比売は大筒木垂根王の娘で“狭穂彦の乱”のあとで、垂仁天皇(360頃)の妻のひとりとなり、男の子を産んでいる。
ここで“竹野”とか“筒木”とか“讃岐”とか、とっても“あやしい”名前が出てくる。筒木というのは竹の別名。今回竹取翁の名前として“さぬきのみやつこ”を採用したのは実はここに讃岐垂根王という人が絡んでいたからである。
しかし後に迦具夜比売は“帰された”という伝承もあり、これは若くして亡くなったことを意味するかもしれない。それが“月に帰った”ということになったのかもしれない。
垂仁天皇の最初の皇后は狭穂姫(さほひめ)という人だが、この人の同母兄である狭穂彦が謀反を起こして倒される。この時狭穂姫も兄に殉じたが、自分の後継の皇后として姪にあたる日葉酢媛(ひばすひめ)を推薦すると遺言した。それで日葉酢媛が後継の皇后となり景行天皇や倭姫(伊勢の神宮の創始者)などを産んだ。
ところが、この時、狭穂姫が推薦したのが迦具夜比売で、迦具夜比売は丹波道主(たんばのみちのぬし:狭穂姫の異母兄弟)の娘である、という説が存在する。
あらためて系図を見てみると、彦湯産隅(ひこゆむすみ)と日子坐(ひこいます)、大筒木垂根王と山代之大筒木真若王というのが名前が似ている。
もしそうなら、迦具夜比売というのは実は日葉酢(ひばす)媛の別名であったという可能性もある。四道将軍の1人で時の執政者であったと考えられる道主(みちのぬし)の娘であれば“光輝く姫”と形容されてもおかしくない。またそういうことになれば“竹取翁”というのは、道主その人であったかも。
なお竹取物語の作者が借りたのはあくまで“かぐや姫”という名前だけで、この物語は垂仁天皇の時代の物語ではないと思われる。
(*19) このドラマではかぐや姫の年代を下記のように想定している。年齢は数え年である。
1歳 誕生
15歳 成人式
16歳 五人の貴公子の求婚(-20歳)
21歳 帝との手紙のやりとり(-24歳)
24歳 月からの使者
翁は月の使者に「私は姫を二十余年育ててきました」と言っているから、使者が来たのを24歳の時(誕生から23年)と考える。姫は帝と3年間文のやりとりしたというので、帝との交際は21-24歳と考える。すると5人の貴公子の求婚はそれとの間に1年ほど置いたとして16-20歳と考える。すると成人式の後1年くらいで求婚者が5人に絞られたとすると、成人式はかぐや姫が15歳の時という計算になる。
当時の女性はだいたい12-16歳くらいで成人式をしていた。13歳で成人式というのも充分考えられるのだが、14歳(今で言えば中学1年生)の娘が5人の貴公子に過酷な課題を与えたというのは考えにくい。最低でも16歳(今の中学3年生)と考えたい。
場面が変わる。
6歳くらいの振分け髪の女の子(白雪大和)(*20) がお花がたくさん咲いているのを眺めていたら何かの気配を感じてそちらを見ます。何か動物がいます(CG)。犬?かと思ったら、どうも犬ではないようです。まさかオオカミ!?
少女は気合を入れてオオカミを睨みます。するとオオカミも飛びかかっては来ません。しかし「グルルルル」と、うなり声をあげています。
睨み合いが続きました。少しずつお互いの位置を変えていきます。しかしやがてオオカミはこちらに向かってきます。
やられる!
と思った時、石か何か飛んできてオオカミの頭に命中しました。オオカミはそれでひるみます。更に、こちらへ髪を美豆良に結った少年(岩旗雪華)が走ってくるのを見ると、分が悪いと思ったか逃げて行きました。
少女はホッとしましたが、それで気が緩み、ふらついた拍子に倒れそうになります。そして足を踏み外して崖から落ちそうになりました(*21)。オオカミと睨み合っている内に、いつのまにか崖の傍まで来ていたのです。
「危ない!」
と言って、少年が飛び付くようにして少女の手を掴みました。
でも少年も身体が横になってしまいます。とても少年の力では少女を引き上げきれません。それどころか、少女の手を握る手もどのくらい持つか分かりません。
「助けろ!」
という別の少年(白雪さくら)の声があります。
大人の男性(川井唯)が駆け寄り、少女のもう片方の手を握ると、ぐいっと引っ張って引き上げてくれました。
「ありがとうございます」
と少女が大きな息をつきながらお礼を言いました。
少年の傍にはもうひとり男性(中川友見)が付いています。
少年はあらためて、助けた少女を見ます。
「美しい娘だ。お互いもう少しおとなであったら、すぐにも求婚したい所だ」
そんなことを言われて、少女は顔を赤らめました。
最初に少女の手を掴んで落ちるのを防いだ少年(岩旗雪華)も少女を見詰めていました。
その時気付いて、両親(藤原中臣・入江光江)が駆け寄ってきます。そして助けてくれた一行に、地面に手を付いて
「ありがとうございます」
とお礼を言いました。
最終的に助けてくれたおとなの男性が
「いや無事で良かった」
と言います。
「本当にありがとうございます。よろしかったらお名前を」
男性が少年(白雪ひかり)を見ますが少年は首を振ります。男性は言いました。
「名乗るほどの者ではない。以後気をつけるように」
「はい、気をつけます。せめてものお礼をしたいので、ちょっと待ってください」
と言って翁は走って行きます。そしてすぐ戻って来て笛(龍笛)と扇子を男性に渡しました。
「私どものところで作っている製品でございます。もしよろしかったら、お納めください」
少年がその龍笛を吹きます(*22)と、とても良い音色がしました。
「これは良い笛だ。もらっておこう」
と少年は言いました。少年は扇子のほうは、お伴の少年に渡しました、
そして一同は立ち去りました。
(*20) この場面の出演者
少女:白雪大和(小1)♂
少年:白雪さくら(小5)♀
お供の少年:岩旗雪華(小5)♀
お供の男性:川井唯(26)♀
もう1人のお供:中川友見(22)♀
美事に全員リアル性別と逆の性別の役を演じている。これは別に川崎ゆりこの差し金とかではなく、その年齢に見合っていて演技力のある子(人)を使ったら、こうなってしまったもので、偶然の産物である。
(*21) この場面は高さ1.5mほどの段差の所で撮影している。白雪大和が転落してその手を岩旗雪華が掴むシーンは、白雪大和が台の上に立って手を伸ばすポーズをしているところに、岩旗雪華が飛び付いて手を掴む、という形で撮影した。
柔道四段の川井唯(エレメントガードのドラマー)は、マジで約20kgの白雪大和を片手で引き上げた。
なお、中川友見も柔道三段で、川井唯とはとても仲が良い。
(*22) 白雪さくらは本当に龍笛を吹いている。元々ファイフや篠笛は吹けたので、千里が指導して1週間特訓し、龍笛が吹けるようになった。このドラマで使用した龍笛は、千里4が所有する、梁瀬龍五の名作龍笛No.210“赫夜(かぐや)”である。かぐや姫の物語なので特別に貸与した。