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■夏の日の想い出・龍たちの讃歌(20)
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写真集の巻末7ページについては意見が割れた。
この写真集は先頭の10ページに、青い振袖を着たアクアの写真が出ている。この振袖写真自体、凄く可愛いと高評価であった。
その後、80ページにわたって、水着のアクアが続く。だいたい8割がワンピース型の水着やラッシュガードをつけている。残り2割がビキニの水着である。このビキニの写真では、アクアのお腹に大きな傷があるのが映っているが、この傷を気にするファンはいない。
ちなみに80ページの写真に映っている水着の種類はしっかり数えた人によるとラッシュガードも含めて34種類らしい。
この80ページにわたる34種類の女の子水着写真を見る限り、この子が女の子ではないとは誰にも信じられない。
しかしその女の子水着写真の連続の後に唐突に3ページに渡って男子水着を着たアクアが映っている。これは胸を曝しており、バストが全く無いのが見える。この男子水着写真にもお腹の手術跡はちゃんと映っている。
わざわざコピーして重ねてみた人もあったようだが、傷跡の形は完全に一致する。ついでにボディラインもパソコン上で遠近法的に伸縮させて重ねてみると完全に一致する。それなのに、男子水着写真に写っているアクアにはバストが無い。男のように平らな胸である。ただ乳首は普通の男の子に比べるとやや大きい。
この3ページの先頭には「でもボク男の子だよ〜ん」という文字が躍っている。実は写真集の帯にも、「撮影地:福岡県旧金田(かなだ)町」という注記と並んで「アクアは男の子アイドルです。女の子ではありません」という注記まで書かれている。これは多分、商品の不当表示に問われるのを避けるために付けたものと思われる。どちらも充分目立つ大きな字で書かれている。もっとも
「男の子だなんて誰が信じるか!」
と多くの人に言われたのだが。
その3ページの後には、撮影した室田さんとアクアの対談が3ページあり、撮影時の想い出を語っている。その中では、わずか1日でこの撮影をこなしたので、現場でどんどん水着を着替えたこと、室田さんは着替えの最中は後ろを向いていたことなどが記されている。
「いづれ君のヌード写真も撮りたいんだけど」
という室田さんに対して
「じゃ、お嫁さんに行く前に」
とアクアは答えており、
「やはり嫁に行くつもりなんだ!」
と言われた。
そして最後の1ページに "Making of Female Aqua" という写真図解が掲載されていた(「撮影:川崎ゆりこ」と書かれている)。最初のコマでは、ビキニ水着のパンティ部分だけつけて、上半身裸で平らな胸を曝したアクアが映っている。ゆりこの字で「材料1:男の子」と書かれている。
次のコマには“おっぱいパーツ”と接着剤が映っている。ゆりこの字で「材料2:おっぱい」と書かれている。
そしてそれを片方だけ胸に接着した様子、もう片方も接着した様子の写真があるが、これは胸の部分だけ映っていて、アクアの顔は映っていない。更にそこにビキニのブラ部分をつけた写真もあるが、これにもアクアの顔は映っていない。
そして最後はビキニの上下をつけたアクアの写真があり、この写真では胸は膨らんでいるように見える。そして“女の子アクアのできあがり♪”という、ゆりこの字が躍る。
最後に「男の子+おっぱい=女の子」などとも書かれている。
(「いや、おっぱいだけではないだろ?もっと重要なパーツがあるだろ?」というツッコミ多数)
このメイキング写真については、実際にブレストフォームを愛用している男の娘さんたちから
「確かにブレストフォームを使えば偽装できると思う。接着剤で貼り付けると結構な耐久性があるんだよ」
「これ凄く精巧。たぶんオーダーメイドのブレストフォームだと思う。肌の色と正確に同じにしてあるもん」
といった意見が出ていた。
だいたいアクアがドラマなどの撮影で女の子役をする時はブレストフォームを使用していることは以前にも明らかにしていた。
しかし、それはただの建前では?という意見も強い。
本編のビキニ写真をパソコンに取り込みPhotoshopで超拡大してみて
「ブレストフォームなら存在するはずの、肌との境目が見つからない」
という分析結果を報告していた人もあった。
つまり本当にバストがある人のビキニ写真としか考えられないのである。
それでやはりアクアは実際におっぱいがあり、胸が平らな写真は加工したものではという意見が多数であった。
そもそももっと大事なのは、アクアが女の子水着をつけている多くの写真について、男の子であるなら、付いているはずのものの痕跡も見当たらないという意見が多い。股間のラインが女の子の股間としか思えないのである。
水着の下にはアンダーショーツを着けているようではあったが、1枚だけ微かに縦の割れ目と思わしき線が薄く映っているものがあることを指摘した人があった。多くの人がその指摘された写真の股間部分を自分のパソコンで拡大してみて、やはりこれは**筋だと思うと判断した。
そもそも最後のページのメイキング画像でも、下は普通のビキニのパンティで、男性器が存在するような気配は無い。
だからどっちみちアクアには男性器は存在しないし、たぶん女性器が存在すると多くの人が考えた。そして女性器が存在するなら、おっぱいもあると考えた方が自然だと多くの人は言ったのである。
ただ、これにまた異論があり、アクアが胸を曝している4枚の写真(男子水着写真3枚とメイキングの所のビキニのパンティだけをつけた写真)について、パソコンにスキャナで取り込んで超拡大して加工の跡を探した人が複数あったのだが、誰も加工の跡を見つけることができなかったのである。
Photoshopなどのソフトで加工した場合、どうしてもその修正の跡が残る。上手い人が加工すれば物凄く自然になるけど、それでもその手の加工に慣れた人が見ればだいたい分かる。これにはそういう点がない。
つまりこの写真は加工されていない写真としか思えないというのである。
実際、室田さんも「俺は写真では嘘をつかない」と発言していた。
それで、やはりメイキングにあるように、これは胸の平らな子(多分男の子)のリアル写真と考えられるという意見が出る。
そこで唐突に浮上してきた第3の意見があった。
「ひょっとしてアクアって実は男と女の双子なのでは?」
という説である。
「それなら傷跡が同じであることが説明できない」
「片方は偽装かも知れない。傷のある方の写真を撮って、それを元に精巧に作った“付け傷”を貼り付けたのかも」
「しかしいくら双子でもボディラインが完全に一致するだろうか。特に男女であればホルモンの関係で絶対に同じボディラインにはならない」
ということで、双子説は、あまり支持を得られなかったのである。
「まあアクアの性別については現在のところ3つの説がある」
とその日、うちに来ていた光帆は言った。
「3つ?」
「1つの説はアクアは元々女の子だったけど、男の子のふりをしていた」
「ふむふむ」
「1つの説はアクアは男の子だったけど、性転換手術をして女の子になった」
「あの子、とてもそんな手術受ける時間は無かったはずだけど」
「それがこの説の重大な欠陥なんだよね」
と光帆は言ってから
「最後の説は実は半陰陽で、デビューの頃は男の子っぽかったけど、本来は女の子だったので卵巣の活動が活発化するにつれてどんどん女らしくなってきて、ついに性器を是正する手術を受けて完全な女の子になった」
「アクアは男の子だという説は?」
「それは全くあり得ない」
「男女双子説は?」
「却下。そもそも2人いるなら、高額納税者番付に名前が2人分出てくるはず」
「それは鋭いけど、最近報道されているものはマスコミの推定値にすぎないから」
「税務署が発表した数値じゃないの?」
「その制度は廃止された。強盗推奨してるみたいなものだし」
「まあいいや」
光帆はいくつかの写真を並べた。
「これはハワイで撮ったファースト写真集の水着写真、これはプーケットで撮った2冊目の写真集の写真、これはタヒチで撮った3冊目の写真集の写真、4冊目のロマンティック街道のは水着写真が無いけど、これが今回のカナダで撮った水着写真」
「で?」
「明らかに女子として成熟してきてるんだよ。1枚目のは小学生並みに性別未分化。でもプーケットでは少し女らしさが出て来ていて、タヒチではもう初潮が来るくらいの年齢の女の子の身体、そして今回のは女子中学生くらいの女体になっている。つまり、ここ数年で女性ホルモンの働きで急速に女らしさが増してきている。これを説明するには、半陰陽説がいちばん自然なんだよね。性転換説だと、身体がもう少し男っぽくてもいい。この子の身体には男性ホルモンは全く作用していない。でも、元々女の子であったのなら、成長が遅すぎる。半陰陽説は、そのあたりをいちばんうまく説明する」
「ほほお」
ところが、極めて少ない“アクア男の子説”の人たちを勇気づけるものが公開されたのである。これはアクア女の子説があまりに強くなったことに危機感を抱いた、アクア・プロジェクトの事実上のリーダーである和泉が仕掛けたものである。
この夏に放送回数4回という短編ドラマ『サーファーたちの夏』が放送された。主演は最近話題の大学生男子バンド・スリルボカンの4人で、ヒロインとして松梨詩恩が出演しており、その松梨詩恩のビキニ姿が可愛いというので若い男子たちが熱心に見た。そのドラマの第4回(最終回)にアクアがゲスト出演したのである。
彼は松梨詩恩の“弟”で、九州の方に住んでいたが姉を訪ねて湘南に来たという設定だった。そしてそのアクアもサーフィンが好きということで、水着を着てサーフボードに乗るシーンがある。
これは一般の人たちもいる中で撮影されており、ここでアクアが撮影クルーや他の出演者、そして偶然その場にいた一般の人たちに水着姿を曝している。
“妹”ではなく“弟”という設定なので男子水着を着ている。当然胸を曝しているが、胸は男の子のように平らである。ただ、写真集でも指摘されていたが
「君、ちょっと乳首が大きいね」
と主役の男の子に言われ
「ボク、少し女性ホルモンが強いみたい」
「ああ、確かに体型だけ見たら女の子っぽい。最初ナツミの妹かと思った」
などという会話を交わす。
しかし大事なことは!アクアに胸が無かった!!ことである。
この撮影は見ていた一般の人がわりといて
「アクアちゃんってやはり男の子だったのか、とびっくりしたよ」
という投稿が複数あった。
更に元々高校でアクアの同級生でもあった松梨詩恩はこんなことをテレビのバラエティ番組で発言した。
「今回の撮影ではアクアの胸を見てるけど男の子みたいな胸だったよ。あの子の乳首が大きいのは、彼の中学の時の同級生によると、それこそ病気治療で一時期女性ホルモンを使っていたかららしい。中学生の頃は一時的に少し胸が膨らんでたらしいけど、少なくとも高校の頃はもう平らになってたね。それと、ナイショの話だけど、高校でどさくさまぎれにアクアちゃんのお股触ってみたことあるけど、ちゃんとちんちんあったよ」
この大胆発言には松梨詩恩のファンからも悲鳴があがった。
(テレビで堂々と発言して「ナイショの話」も無い、というツッコミ多数)
しかしドラマでサーフィンをするシーンに加えて松梨詩恩の発言もあり、確率は低いけど、アクアはひょっとしたら男の子なのかもという人が少しだけ増えたのであった。
それに今回は高校の同級生であった松梨詩恩が共演しているので、顔がよく似た身代わりの男の子を使って誤魔化す、といったことも不可能である。
それで“アクア実は男の子説”も少し増えたものの、写真集の売り上げには全く影響が無い。『アクア:カナダの休日』はどんどん売れ続けたし、8月下旬になると、福岡県旧金田町の宮田伯爵旧邸を聖地巡礼する人たちも出始めた。邸内は写真撮影も自由なので、写真集のアクアと同じ場所で同じポーズで記念写真を撮ってネット投稿する人たちも多かった。
この写真集の売上は年末までにプーケットで撮った写真集『Double Green Sea』(2017)の部数を越える120万部に到達した。室田作品としても『Lucifer Girl』(2015)の53万部を越える最大のヒット作となった。それで室田さんに水着写真を撮ってほしいというアイドルや女性ミュージシャン・女優などからの引き合いが増えたのであった。
コスモス社長は
「取り敢えずアクアの写真集は女の子写真だけでいいことが分かった」
などと言っていた。アクアMが不満そうな顔をしている。
「あ、そうそう、アクアの去勢手術、日程は決めずに予約だけしておいたから、都合のいい日を病院に連絡して受けてきてね。誰にも見られないように病院の営業時間外に手術してもらえるらしいから」
と言ってコスモスは病院の封筒を渡す。
「それ断固拒否します」
とアクアMは言った。
「親権者の長野支香さんにも田代の御両親にも承諾してもらったんだけど」
「ボクが承諾しません」
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