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■夏の日の想い出・龍たちの讃歌(4)
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玄武さんは鯖江から白山・飛騨山脈・赤石山脈、更に富士山上空を越えた。少し明るくなってきた中での富士山越えは物凄く美しかった。
明け方、熱海近くの海岸に着陸する。玄武さんはもう人間体に戻っている。
山村マネジャーが近づいてくる!しかも今日は珍しく男装である。
「おはようございます。もしかして山村さんも?」
「彼は黄龍、別名勾陳だね、中央の守護神」
「わぁ」
次の瞬間には上空にいる。
が・・・高い!?
「ここ物凄い上空みたい」
「成層圏だから、空気薄いと思う。呼吸に気をつけて」
「どう気をつければいいの!?」
と私が言う間もなく、黄龍は飛び始める。
「どこ行くんですか?」
「80秒間世界一周かな」
「それ速すぎる」
「じゃ80分間世界一周で」
「そのくらいなら」
しかしそれって人工衛星並みの速度では!?と思ったら千里が言った。
「つまり手抜き速度ね」
「そう言うなよ」
「ほとんど重力だけで飛行できる。人工衛星の軌道速度はケプラーの第3法則に支配される。軌道半径の二乗が公転周期の3乗に比例する。静止衛星の高度36000kmなら24時間掛かるけど、国際宇宙ステーションの高さ400kmなら1時間半で回れる。ここは高度20kmくらいだから、それより少し速い85分程度」
と千里は言った。
さすが数字に強い千里3だ!
「へー!400kmと20kmってあまり差が無いんだ?」
と私は言う。
「地球半径で6400kmあるから」
「あ、そうか!軌道半径の大半は地球自体の大きさか」
「そうそう。6400km+400kmも、6400km+20kmも大差無い」
「そういう考え方って、大事だけど見落としがち」
「まあ、成層圏飛行できるのは、こうちゃんだけだね」
「ところで呼吸は大丈夫なんだっけ」
「まあ窒息死したらそれも運命ということで」
「え〜〜!?」
しかし私は窒息せずに地球一周を終えることができた。実際には2時間掛かっていたので、恐らく呼吸しやすいように手加減して飛んでくれたのだろう。
朝8時頃、恵比寿のマンション前に辿り着き、私は千里たちによくよく御礼を言って別れた。
私は疲れたのでそのままベッドに潜り込んで寝ていたのだが、政子に起こされる。
「ね、ね、出かけようと思ったらアクアちゃんがいないの。冬、どこに置いた?」
「しまった!マーサの実家の所だ」
「だったら冬、取ってきてよ」
「きついから玄子さんに頼む」
と言って私は玄子マネージャーに電話を掛けた。
「玄子さんが取りに行ったら、今度は玄子さんの車がおきざりになるのでは?」
「こういう時、玄子さんは大学生の弟さんを乗せて取りに行くんだよ。それで弟さんが玄子さんの車を運転してここまで来る。それでアクアのアクアを渡して一緒に自分の車で帰宅する」
「あ、パズルみたい」
と言ってから政子は再度私に訊いた。
「冬はどうやって車無しでうちに帰ってきたの」
「人工衛星に乗せられた」
「それ、冬ならいつものことだね」
そういう訳で、新しいミニアルパムのラインナップはこのようになったのである。
タイトル『龍たちの讃歌』
『青龍−瑞々しい大河』
『朱雀−熱き飛翔』
『白虎−千里を駈ける歌』
『玄武−泉を守る娘』
『黄龍−80分間世界一周』
『ウォータードラゴン - a capella -』
『青龍』は4年前にE村で書いた『水中散歩』をベースにしている。歌詞は私自身が書き下ろした。メインメロディーはあの曲だが、今回は青龍さんに乗っての飛行体験を元に瑞々しい中で青龍が空中を走って行くような躍動感のあるサビを加えた。
Aメロの“座する龍”とサビの“飛翔する青龍”とが対照的である。アレンジもあの体験をもとにかなりの工夫を施している。私の組んだCubase上で、私のレベルで納得の行くレベルまでまとめてから近藤さんたちに聴かせたら
「俺たちが伴奏する必要ない」
と言われてしまったが
「そこを何とか」
と頼み、一週間掛けて練り上げてくれたが、そこに私がまた色々注文を出し、本当に“静”と“動”の対照的な曲に仕上がった。
『玄武』は杉田純子ちゃんが歌った『泉を守る娘』をほぼ流用することにした、ただしこれも今回の玄武さんに乗っての飛行体験を元に、全く違う曲に聞こえるくらい、臨場感のあるアレンジを加えている。また2サビとして上空から見た日の出前の富士山の美しさを歌い込んでいる。
なお、私は元の杉田純子バージョンに沿ったアレンジ(但し私の好みの範囲で少し変更している)で、アルバム制作中であった、白鳥リズムにも歌ってもらい彼女のアルバムに入れてもらうことにした。これは『みんなの歌』版の音源化を待ち望んでいた人たちへのアンサーである。
§§ミュージックの歌手の所属はTKRなので、★★レコード所属のローズ+リリーと競作になっても全く問題無い!(そもそも同時発売の場合は同じレコード会社であっても許容する特約を結ぶことが可能−それでも歌詞を変更したりアレンジを大きく変えたりするのが一般的)
『朱雀』は実は4年前にマリがE村で書いた『風の中の少女』の詩に私が新たに曲を付けたものである。これも朱雀さんに乗っての飛行体験を元にしたアレンジをしている。
「今回のケイは要求水準が高い」
と近藤さんたちは言いながらも頑張って伴奏を作ってくれた。今回、彼らは1曲ごとに1週間以上掛かっている。
『白虎』と『黄龍』は今回の新作である。順序としては『白虎』を書いた後で『黄龍』を書いている。
『白虎』は高速道路を疾走していく白虎の臨場感を現した曲、そして『黄龍』は成層圏を飛行していくスペーシャスな感覚を表現している。どちらも歌詞は私自身が書いている。これはあの体験をした人にしか歌詞は書けないと思ったのと、現在マリは妊娠中で発想がやや“特殊”になっているのもある。
私は以前KARIONに『80分間都区一周』という曲を書き2015年2月のアルバム『四・十二・二十四』に収録している。今回は似たタイトルではあるが、全く違った曲である。またあの曲の影響が紛れ込まないように、私はかなり気をつけて書いた。
ところで今回伴奏作りに参加してくれたのはこういう面々である。
スターキッズ&フレンズ
AGt.近藤嶺児 B.鷹野繁樹 Vib.月丘晃靖 Dr.酒向芳知 Sax.宝珠七星
Tb.宮本越雄 Tp.香月康宏
私のお友達!
Pf.近藤詩津紅 Fl.田中世梨奈 Cla.上野美津穂 Vn.大崎志乃舞 龍笛.醍醐春海
ちゃんとMax12になっている。
基本的にはアコスティックな音を中心に構成している。使用した電気楽器は鷹野さんが弾くベースのみである。
醍醐春海こと千里はたぶん2番である。
「この曲、まるで実際に青龍、朱雀、白虎、玄武、黄龍に乗ったことがあるみたいな曲だ」
と感心していた。もっとも3番だったとしても、私を乗せてくれたことを本人が忘れている可能性はある!千里は元々そういう人である。
田中さんと上野さんは青葉の親友で高岡在住なのだが、今回の制作に参加するために、出て来てくれるということだったので、ホンダジェットでお迎えに行ってもらったが、
「この飛行機可愛い!」
とはしゃいでいた。
彼女たちは3月で大学を卒業したので、3月の震災イベント(無観客演奏)が最後の参加になるかとも思っていたのだが、田中さんは就職予定だった会社が4月1日に行ってみたら倒産していたらしく、結局現在は津幡のアクアゾーンの監視員をしているらしい。それで時間を取ることができた。
上野さんも4月に金沢市内の企業に就職したものの、病気になって退職したらしい。それで現在は無職なので参加できた。
「ご病気はもういいんですか?」
「青葉が治してくれました」
「さすが青葉!」
田中さんと上野さんは、音源制作中、§§ミュージックの女子寮空き部屋に泊まってもらった(女性なので泊まれる)が、
「ラピスラズリのサインもらっちゃった!」
などと言って喜んでいた。本当は寮内はサイン禁止なんだけど、まあ大目に見ることにした。
また今回のPVは一部演奏映像を入れた他は大部分をアニメーションで構成することにしたが、その制作は先日、アクアのミニアルバムで、お留守番の歌のアニメを制作してくれた会社に依頼した。ただし、青龍・朱雀・白虎・玄武・黄龍のヴィジュアルに関しては、私自身がデザイン画を描き、各々の動きなどについても細かい注文を付けて作り上げている。
それを見た千里が
「まるで本物を知っているかのようだ」
と感心していた。
実際このミニアルバムは、このPVの迫力もひじょうに評価されることになったのである。
私とマリの歌唱収録は、最初に『青龍』の伴奏が出来たあとから始めたのだが、今回私はマリの歌い方にかなりの注文をつけた。あまりに注文を付けるのでマリが文句を言ったが、焼き肉とかしゃぶしゃぶとかステーキとかで手打ちしてもらった。ただ妊娠中なので、あまりたくさん食べることは医者から止められており「もっと食べたーい。でもお医者さんに叱られる」と、マリなりの葛藤があったようである。
基本的に各々の曲で、日本語歌詞→英語歌詞→中国語(北京語)歌詞の順に吹き込んだが、英語・中国語の歌唱についても私は注文を続け、各々かなりハイレベルの歌唱に仕上がった。
なお、日本語版と英語版はアメリカ・カナダ・イギリス・ベルギーで、中国語版は中国と台湾で同時発売になる。TSUTAYA以外の日本の普通のCDショップでは発売しないが、Amazonなどでは普通に買える。実はTKRサウンズの店頭・通販でも(輸入盤として)買える。ダウンロード版はAmazon, iTunes などで買える。
(FMIは日本国内でも売れることを見込んで日本の工場でもCDを生産するので、実際にAmazonやTKRサウンズで販売される分は国内で生産されたものになり、関税なども掛からない)
むろん★★レコードは宣伝しないが、あけぼのテレビではプロモーションするし、ローズ+リリーのホームページやファンクラブ会報でも告知するしファンクラブの会員には特典(生写真とポスター・壁紙・スクリーンセイバーなど)付きの予約販売もする。なお国内のレコード会社が発売する作品ではないので、ランキングの集計対象外である!
アルバムの中で最後に制作したのが『ウォータードラゴン』である。
「アカペラで歌うんだ!」
と千里が驚いていた。
私は言った。
「山岸凉子さんの『アラベスク』にこんな場面がある。この『アラベスク』というのは、作品のタイトルであると同時に、作中で演じられる新作バレエのタイトルでもあるんだけど、その公演に主役のユーリが遅刻してしまい、代わりにライバルのエーディクが踊ることになる。彼は『ユーリの代役はしない。踊れというのなら僕のアラベスクを踊る』と言って劇場支配人に了承される。そして独自の解釈で本来の『アラベスク』とは全く違う斬新な踊りを踊って観客から絶賛される。そして翌日は本来のユーリが踊らなければならない。そのユーリが言ったことば」
『水色や肉桂色のあとに赤や黒を見せるなら効果もある。だがもうさんぜんたる黄金色が出てしまった。このあと、なに色を見せても観客の目にはなにもうつりはしない』
この時点でユーリは自分の敗北を認めている。でもそのユーリは翌日の踊りで男性踊り手の見せ場である跳躍を全く使わずに踊るということをしてみせる。それを見て衝撃を受けたエーディクの敗北の弁」
『黄金色にまさる色はない。となると残された道はただひとつ。色をまったくとり去ること。色のない色。さしずめ白光色かね』
こういう踊り方は、かつてニジンスキーが『牧神の午後』でやってみせたことがあるらしい。バレエの本質で踊ったんだと作者は語る」
「それで伴奏を取っ払うわけか」
「歌の本質で歌う。そのアカペラで龍っぽくなるように、私とマリの歌唱を指導してくれない?」
「私、厳しいよ」
と千里は言ったが
「それでも頼む」
と言った。
そして千里の指導は本当に厳しかった!彼女は声の出し方のひとつひとつから指導していった。実際に歌ってみせて「こんな感じでもっと上手く」などと言っていたが、彼女の歌自体が物凄く上手い。
マリがあまりの厳しい指導に泣き出したのを
「終わったらシャトーブリアンのステーキ」
などと言ってなだめて、歌わせた。
それで歌唱だけで3日がかりの収録になったが、完成した音源を聴くとマリは
「私、なんか凄く上手い気がする」
などとご機嫌な様子で言っていた。
でもシャトーブリアンのステーキで6万円飛んだ!
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