広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・龍たちの讃歌(3)

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それであの曲を8年ぶりに吹き込むことにしたのである。
 
ただここでひとつ問題があった。それは、ローズクォーツは★★レコードからCDを出しているので、★★レコードは、ローズクォーツとの契約上、同社に所属する他のアーティストには、3年間は同じ曲を歌わせることができない。
 
(実際せっかく高評価を得られているのに私たちが競作を出したら、○○プロの浦中副社長は面白くないだろう)
 
私たちが他のレコード会社から出すのであれば、★★レコードとしては契約違反にならないが、困ったことにローズ+リリーは、★★レコードとの契約で他のレコード会社から勝手にCDを出すことは許されない。
 
つまりローズクォーツとローズ+リリーが同じレコード会社に所属しているため、競作作品をリリースすることができないのである。(他のレコード会社の歌手なら著作権使用料さえ払えば“アレンジを変更しない条件で”誰でもリリースできる)
 
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そこで私は苦肉の策として、この歌をローズ+リリーの海外版CDを出しているFMI から出すことを考えたのである。FMIから海外で発売する限りは、★★レコードとの契約には反しない。無論FMIで発売された音源でも日本国内でiTunes, Amazon などを使えば普通にダウンロード・CDで買うことができる。
 
ただ、微妙な問題が絡むので私は★★レコードの町添社長と直談判した。
 
町添さんは最初難色を示したものの、結局2つの条件付きで“口頭で”認めてくれた。
 
・全く違ったアレンジにすること。
 
・最低6曲以上入りのミニアルバムで出すこと。
 
確かにシングルよりはアルバムの方が許容されやすいのである。
 
そこで私は『Loong Hymns』というミニアルバムの企画をFMIのアレクサンダー部長に提示し、この企画の背景となった事情も直接アメリカの本社にいる部長と電話会談で説明し、了承を得た。
 
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ここで"Dragon"ではなく"Loong"という言葉を使ったのは“龍”が西洋のドラゴンとは全く異なる存在であることを示すためである。
 
それで私たちはこのミニアルバムをこの夏くらいにアメリカのFMIから発売することを決めたのであった。
 

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私は千里3に電話した。この手の話は、策士の千里2より、わりとシンプル思考の千里3のほうが協力してくれそうな気がしたからである。
 
「ああ、あのCD私も聴いた。あれ丸山アイが監修したのね」
 
「うん。私もそう聞いた。あの曲のサウンドディレクターとしてクレジットされている oku というのがアイちゃんのペンネームのひとつらしい」
 
「桜の空で“桜空”なんだよ」
 
「へー!じゃ“おく”ではなく“おうくう”なのね」
「うん。日本語のローマ字は長音記号が曖昧になる」
 
「それでさ、あれを出されて黙ってはいられないから、あれに負けないものを作ろうと思う。協力してくれない?」
 
「でも同じレコード会社からは競作は出せないのでは?」
「FMIからアメリカで発売するんだよ」
「アメリカ?龍なんて理解してもらえるかなぁ。中国にしたら?」
「米中同時発売でもいい」
 
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「じゃちよっと打ち合わせしよう。今夜とか会わない?」
「いいけど。何時頃にしようか?」
「夜の12時。マリちゃんは妊娠中だからケイだけにしようかな」
「うん。それでいい」
「じゃどこかに出て来ない?」
「いいよ」
「だったらマリちゃんの実家前で」
「いいけど」
「そうだ。スカートじゃなくてズボン穿いてきてね」
「いいけど」
 
それで私はその日、妃美貴に留守番(マリの監視役)をお願いして、政子の“アクアのアクア”に乗り、夜中の12時に政子の実家まで行ったのである。
 

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隣の敷地に建てられているガレージに“アクアのアクア”を駐めて、バッグだけ持って実家前まで行くと、千里が後藤節子さんと一緒に来ている。
 
「後藤さんもご一緒でしたか。おはようございます」
「おはようございます」
 
「冬は秘密を守れるよね」
「うん」
「じゃ、せいちゃんよろしく」
と千里が言うと、突然私は上空に舞い上がっていた。
 
「え?え?」
「私にしっかり捉まっていて」
「うん」
 
よく見ると、私は何か大きなものにまたがっていて、千里の身体に手を回しているのである。まるでバイクにタンデムで乗るかのように。
 
そして私がまたがっているものをよく見ると、どうも龍のようなのである!青い龍だ。
 

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「後藤さんは?」
と私が聞くと青い龍が返事した。
 
「私ですけど」
 
「え〜〜!?後藤さんって龍なんですか?」
「青龍ね」
と千里が言う。
 
「わっ」
「東の守護神・青龍だよ」
「わぁ」
 
私は千里に捕まったままそっと下方に目をやると、青龍はどうも横浜付近を通過し、三浦半島を横切って洋上に出たようだ、更に南下していく。
 
「今夜中には戻れるから心配しないで」
「うん」
 
「青龍と一緒に飛ぶ感覚をしっかり記憶してね」
「うん!」
 
そうか。千里は龍と触れ合う体験を実際にさせてくれるつもりで私を夜中に呼び出したのかと納得した。
 

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「ついでにあけぼのテレビの件で少し話そう」
などと千里が言うので、私は千里、青龍と3人で結構ビジネス的な会話をした。
 
青龍は1時間ほど南方に飛行し、やがてひとつの島に降りる。五島さんは人間の姿に戻っている。
 
「ここは青ヶ島かな」
「さすがちゃんと地図が頭に入っているね」
「いや、さっき上空を通過したのが八丈島っぽい気がしたから」
「さすがさすが。ここでバトンタッチ」
 
若い女性が近づいてくる。
 
「あれ?南野鈴子さん?」
「はい。ご無沙汰しておりました」
 
彼女は、千里1が信次さん死亡のショックからようやく回復して正気を取り戻した後、千里1のリハビリに協力していた人で、プロ並みのバスケット能力の持ち主である。
 
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「あなたもまさか龍なんですか?」
「Я чайка(私はかもめ).Нет(じゃなくて).Я маленькая птичка」
 
(маленькаяマレンカヤは小さい。птичкаプティーシュカはптицаプティツァ“鳥”の指小語で“小鳥ちゃん”という感じ。ちなみに「私はかもめ」は女性初の宇宙飛行士テレシコワのセリフ)
 
「小鳥さん?」
と私が訊くと
「まあ、迦楼羅(かるら)よりは小さいかもね」
と千里は笑って言った。
 
迦楼羅は羽根を広げると336万里あるという。1里を100mとしても34万kmで地球より大きい。
 

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次の瞬間、私はまた上空に舞い上がっていた。
 
さっき同様千里の身体に捉まっていたが、今度は赤い大きな鳥に乗っていた。
 
「もしかして鳳凰?」
「鳳凰の一族ですけど、朱雀(すざく)です」
と鳥本人が言った!
 
「南の守護神、朱雀ね」
と千里。
 
「あまり羽ばたかないんですね」
と私は彼女の上に乗ったまま言った。
 
「私たちは最初に飛び立つ時とかは羽ばたきますけど、ある程度の高さまで行くと、あとは鷹などと同じ、帆翔(はんしょう )ですね」
 
「なるほどー」
 
つまり空中を行く帆船のようなものなのだろう。
 
「今夜はうまい具合に東風が吹いています。これに乗って西行します」
「はい、お願いします」
 
(風の向きは吹いてくる方角を言うので東風とは東から西へ吹く風)
 
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それで彼女はずっと洋上を風に乗って滑空していく。
 
「この飛行感覚をよくおぼえておいてね」
と千里が言う。
 
「うん。ありがとう」
 
彼女がバスケットをすることから、私たちはこの飛行中はかなりバスケの話題を話した。
 

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彼女はずっと海の上を飛んでいたのだが、やがて陸地が見えてくる。
 
「あれは紀伊半島かな」
「そうそう。あまり人目の無い所に降りるから」
 
それで紀伊半島の串本より手前の方の町の灯りから離れた浜に着陸した。もう南野さんは人間の姿に戻っている。
 
そこに別の女性が歩み寄ってくる。
 
「おはようございます。白鳥清羅さんでしたっけ?」
「おはようございます。よく覚えてますね。1度会っただけなのに」
 
彼女とは妊娠で入院中の和実の病室で会ったことがあった。
 
「あなたはもしかして・・・白虎?」
「ケイさん、勘が良すぎです」
 

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そして次の瞬間、私はまた千里に捉まっていて、走る虎!の上に居た。白い毛並みが美しい。
 
「道路を走るんだ!」
「あいにく私は飛べないので」
と虎さんは言っている。
 
「西の守護神、白虎だね」
と千里が言う。
 
「でも車にぶつかったりしません?」
「大丈夫でしょ」
 
「でも凄く速い!」
「今時速150kmくらいで走ってますけど、オービスのある所では速度落としますから」
「大変ですね!」
 
と言ってから私は考えた。
 
「虎って、速度制限の対象になるんだっけ?」
 
すると千里が言った。
「牛や馬は軽車両の一種とみなされる」
「へー!」
「だから多分虎も軽車両」
「なるほどー」
 
「人間は軽車両ではないから、人間が一般道を時速100kmで走っても違反にはならない」
 
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「そんな速度で走れたらオリンピックで優勝するよ!」
 

彼女は熊野大泊ICまで来ると高速道路(熊野尾鷲道路:無料)に乗り、尾鷲北ICからは紀勢自動車道に乗り、大紀本線料金所ではETCレーンを通った!
 
「ETCが使えるんだ!」
「普通乗用車の料金を払っている」
「あれ?でもさっき虎は軽車両と言わなかった?」
「軽車両の料金は無いし。尻尾まで測ると軽自動車のサイズ超えてるから普通自動車料金だと思うんだよね」
 
「そもそも通れるんだっけ?」
「アメリカだと馬でハイウェイ走ってる人いるけどなぁ」
「日本は?」
「さあ」
 
アメリカでも虎でハイウェイ走る人はいないと思うぞ!?
 
しかしその後、彼女は伊勢自動車道、新名神、名神、北陸道と走る。道中はアクアのことでおしゃべりしていた。白鳥さんもアクアのファンらしい。
 
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「アクアは男の子と女の子の双子でしたと発表しちゃいけませんかね」
などと彼女は言っている。
 
「ずっと2人のままとは思えないし」
「じゃ女の子アクアが残ったらそのまま、男の子アクアが残ったら性転換手術受けさせて、アクアは女の子になりましたという記者会見を」
 
「Mちゃんは別に女の子にはなりたくないので」
「眠っている間に手術しちゃったら諦めますよ」
 
ここにも危ない人が居た!
 

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やがて鯖江ICで降りた。料金は4560円と表示された。
 
ICから少し行った所で停止するので、私は千里と一緒に彼女から降りる。彼女はすぐ人間体に戻る。
 
「あ、高速料金払うよ」
と私は千里に言った。
 
「じゃそれだけもらっておこうかな。彼女たちの報酬はサービスで」
と千里は言ったが
 
「いや、みなさんの報酬も含めて50万とかでは?」
「さすがにもらいすぎ。1人1万で5万でいい」
「じゃ10万と高速料金5000円で」
「じゃそれで」
 
それで私は千里に10万5千円を払った。千里はその場で白鳥さんに2万円渡していた。
 

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若い男性が近づいてくる。
 
「おはようございます。黒亀武志さんでした?」
「よく覚えてますね。おはようございます」
 
「あなたは玄武さん?」
「それもよく分かっている」
「北の守護神、玄武だね」
「へー。四神の中でも玄武さんだけは男の子なのか」
 
などという会話を交わした直後、私は上空に舞い上がっていた。また千里に捉まる形になっているが、大きな丸いものの上に居る。よく観察してそれが大きな亀の甲羅であることに気付く。
 
「ガメラみたいに回転はしないんですね」
「回転したら目が回ります」
と亀さん本人が言っている。
 
「ちなみにひっくり返ったら起きられます?」
「あれは気合いで反転します」
「へー!」
 
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「一度ひっくり返してみたら、身体を揺すってその振動で起き上がったよ」
などと千里が言っている。
「なるほどー」
「あれ、さすがに楽しくないから、あまり実験しないように」
と本人は言っている。
 
それで私は「その起き上がる所を見たい」と言いそうになっていたのを止めた。亀さんは亀さんなりに大変なようだ。
 
「人間なら、ちんちんで逆立ちしている気分らしい」
と千里。
「その状態がよく分からないんですけど」
と私。
 
「逆立ちできるほど、ちんちんが長いのかも」
「それは驚異的だ」
 
「でもちんちんが無いと起き上がりにくいみたい。女の子の玄武は、ひっくり返されると自分で起き上がりきれない子もいる」
と亀さんは言っている。
 
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「それ、ちんちんより筋力の問題では?」
「まあその可能性はあるかもね」
 
亀さんはジョークが好きなようで、私は彼と千里と3人で、半ば漫才のような会話を楽しんだ。
 

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夏の日の想い出・龍たちの讃歌(3)

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