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■夏の日の想い出・龍たちの讃歌(9)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-09-25
その夜、唐突に龍虎Fはベッドの上で
「セックスしたい!」
と叫んだ。
「何を唐突に」
と隣で眠りかけていた聖子Fが言う。
「ねえ、セックスしたくない?」
「私と!?」
「女の子同士というのも一度体験してみたいけど、やはり基本は男の子とだよ」
「好きな男の子いるの?」
「いたら抱いてもらいに行きたいけど、あいにく居ないし、Mとでいいや」
「龍ちゃん処女じゃないの?もっと処女大事にしなくていい?」
「処女だけど、Mがもらってくれるのなら進呈する」
「自分同士でセックスして万一妊娠したら?」
「他人の種で妊娠するよりいいと思うなあ。それに避妊具つけてればまず大丈夫だよ」
「かもね」
「聖子ちゃんもセックスしたくない?」
「興味はあるけど」
「ねね、一緒に夜這い掛けようよ」
「え〜〜!?」
それで龍虎Fが聖子Fに避難具を渡した。
「使い方分かる?」
「うん。学校の講習で練習した」
「ちんちんに付けたの?」
「あいにく女子校だから、ちんちん持ってる子無かったし、トイレットペーパーの芯にかぶせた」
「なるほどー。じゃそれをしっかり装着してから入れるということで」
「うん」
「表裏間違えないようにね」
「了解」
「よし行こう」
聖子も今夜処女を捨てる覚悟ができたようだ。
龍虎Fと聖子Fは一緒に自分たちの部屋を出ると、こっそりMの部屋に侵入した。ベッドでは龍虎Mと西湖Mが10cmくらいの間隔を空けて眠っている。
「どっちがどっちにする?」
と龍虎Fが訊く。
「やはり各々自分のペアとで」
と聖子F。
「じゃ、それで」
ということで2人は眠っているMたちに襲いかかったのである。
「わっ何!?」
とどちらも状況が把握できない。
「F!?何するの?」
「気持ちいいことしてあげるから」
「馬鹿やめろ」
双方とも数秒間の格闘!?があったものの、龍虎Mが龍虎Fを振り払い、聖子Fに服を脱がされそうになっている西湖Mの手を引いて、部屋から逃げ出す。そしてFの部屋に飛び込むと、内側から鍵を掛けてしまった。
「開けてよぉ」
「お前らちょっと頭冷やせ」
「セックスしようよ。きっと気持ちいいよ」
「許す。お前ら女同士でやってくれ」
「そちらも男の子同士でする?」
「その趣味は無い!」
しかし龍虎Mが絶対に鍵を開けなかったので、仕方なく龍虎Fと聖子Fはこの夜はMの部屋のベッドで寝たのであった。
そして翌日からMは自分の部屋に鍵を掛けて寝るようになった!
青葉が石川県の〒〒テレビのアナウンサーとして作曲家にインタビューする番組『作曲家アルバム』は、3月までに7月上旬放送分までの収録が終わっていたのだが、その続きを6月に収録することになり、6月に自分の車を運転して東京に出て来た。今回は3人の作曲家にインタビューする。これで8月放送分までのストックができる。取材した作曲家は下記の3人である。
海野博晃(ナラシノ・エキスプレス・サービス)
後藤正俊(タブラ・ラーサ)
田中晶星
“本当に活動している”作曲家の中では最年長クラスの3人である。この年代ではもうひとり山上御倉さんもいるが、作曲量はこの3人より少ないので、次回に回させてもらうことにした。
例によってラピスラズリの2人を連れて行き、各先生の書いた曲(事前取材で指定された曲)を2人に歌わせてからインタビューをする。今回は青葉とあまり接点の無い作曲家だったこともあり、私も同行した。
しかし今回の3人は各々個性豊か?で、機転の利く町田朱美にも、なかなか大変だったようである。
海野博晃さんは全くデタラメな人である。訪問すると、裸!で出て来たので、私が「先生、何か服を着てきてください!」というと「仕方ないなあ」と言って、着てきた服は、バーゲンの残りものか?という感じのワンピース!である。私は頭を掻いて廊下に出ると奥の方に向かい「橋本さーん」と奥さんを呼んだ。
「すみません。海野先生にテレビに映してもいい程度のお洋服を着せていただけないでしょうか?」
「ごめんねー。ケイちゃん」
と言って、奥さんの橋本一子さん(元歌手)は、出てくると、いきなり、サイドボードに飾ってあったアカデミー賞のトロフィー!で海野さんを殴った!
「いてぇ、何すんだよ!?」
「あんた、女子中学生の前でこんな格好してたら、逮捕されるからね」
と言って、強引に奥へ引っ張っていく!
さすがの町田朱美が呆気にとられていた。
10分後、不満そうな顔で、一応背広スーツを着た海野さんが奥さんと一緒に出てくる。
「この人、見てないと何するか分からないから付いてますね。カメラさん、後で私の映像は編集で消して下さい」
「いえ、橋本さんも有名人ですし、そのまま放送させてもらえませんか?」
「まあいいけどね」
「でもさっきワンピース着ておられましたが、女装趣味とかあるわけではないんですよね?」
と朱美が訊く。
「あ、俺女装好きー」
と海野さん。
「海野先生は20年前から性転換したいとおっしゃってますね」
と私は言う。
「そうそう。結婚した時から『俺その内性転換して女になるから』と言ってたから、じゃ子供作ったら性転換してもいいよと言ってたんですけど、子供4人できても、一向に手術受ける気配は無いね」
と奥さんが言っている。
「だって、チンコ切ったらすっきりしそうじゃん。君もチンコ切ろうよ」
と朱美に言うが
「すみません。元々付いてないので切りようがありません」
と朱美は答える。朱美もようやく調子が出て来たようだ。
ともかくもどこまでジョークでどこからマジなのか分からない状況で取材は進んだが、海野さんも、ラピスラズリの2人の歌唱には満足していたようである。
「君たちはきっとローズ+リリーを越える。頑張りなさい」
と言うと
「はい、ケイ先生たちを越えられるよう頑張ります」
と朱美が言うので、私も笑顔で頷いた。
どうかした子なら、本人(私)を前にしてこんなこと言われたら、反応に窮するところだが、朱美はやはり巧い言い方ができる、と私は感心した。
初日の海野さんが無茶苦茶だったのに対して、後藤さんはマジな人である。堅物すぎると言う人もある。私はラピスラズリの2人には制服っぽいセーラー服を着せて連れていった。私も青葉もきちんとしたスカートスーツを着る。私がエルメス、青葉がポール・スチュアートである。
後藤さんもベルヴェストのスーツを着ておられる。最初にラピスラズリの歌唱をお聞かせしたが、なんと後藤さんは2人の歌い方に注文をつける!それで20分ほどの“ご指導”で、結果的に後藤さんが「まあこのくらい歌えればいいかな」というレベルまで到達した。後藤さんは特に東雲はるこに「歌詞の意味を考え、その背景を想像しながら歌いなさい。君はそれができる人だ」と言い、はるこも頷いていた。
堅苦しい雰囲気で始まったが、青葉がそつなく予め整理していたメモをもとにインタビューしていくので、青葉の質問と後藤さんの答えがマジに進行して、滞りなく取材は進む。しかし本当にフォーマルなインタビューになった。
終わってから朱美が「疲れたぁ」と言っていたが、私も青葉も同じくドッと疲れた。
海野さんと後藤さんが両極端だったのに対して、田中晶星さんは、わりと普通の人である。田中さんはワークシャツにウールのズボンだったし、こちらもラピスラズリにはお揃いのワンピースを着せ、私と青葉もカジュアルなスカートスーツでお伺いしていた。
朱美もはるこもリラックスして会話に参加することができて、普段発言の少ない、はるこがこの日は積極的に質問したり、色々反応したりして、純粋に楽しいインタビューになった。
青葉も「今日がいちばん楽だった」と言っていたが、私も同感だった。
福岡県筑豊地方、直方(のおがた)市と田川市の間に、福智町という町がある。国道が1本も走っていないという小さな町だが、第三セクター平成筑豊鉄道の伊田線・糸田線が通っており、庶民の足となっている。伊田線と糸田線の分岐点は金田駅で、この金田駅のそばを通る県道22号線を少し行き、町道に入って少し行った所に唐突に立派な構えのお屋敷があった。
ここは戦前までは宮田伯爵のお館だった所である。伯爵家は戦後は炭鉱を経営して、県会議員まで務めていたものの、石炭産業が斜陽化すると経営していた炭鉱は破綻、伯爵家も破産する。この邸も手放して、一時は町が運営して、資料館になっていた。しかし、ほとんど来客が無く、経営が成りたたなくなって閉館していた。
その後、20年以上放置されていたのだが、2020年6月上旬、唐突に周囲に工事用フェンスが建てられ、何か工事が始まった。地元の人たちは、こんな所にマンションとかもないだろうし、誰かが買い取って古い家は崩して新たに別荘でも建てるのかと思っていたが、下旬、どうも工事は終わったようで、何も音がしなくなった。
しかし工事用フェンスはそのままなので、もしかして資金不足などで工事が中断したのだろうか?と訝っていた。
その日、写真家の室田英之(48)は、作曲家の醍醐春海および、彼女の助手3人(撮影助手として醍醐さんが用意した)とともに醍醐春海の自家用機らしい Gulfstream G450 に乗って、早朝、羽田空港から北九州空港に飛んでいた。
醍醐春海が持ちかけてきた「秘密を守る条件でギャラ2億円」という話に飛びついたのである。18歳の女性タレントのヌード写真と水着写真を撮るが、水着写真だけを発表し、ヌード写真は封印して写真家の手元からも消去するし、そのことについては誰にも話さない、という条件に同意し、契約書も交わした。醍醐春海からは前金で2億円振り込まれ、彼は通帳を見て「すげー」と思った(ネットでも見たがわざわざ記帳に行った)。
室田はAV女優・アダルトモデルのヌードグラビアで名を揚げた写真家である。それで男性には名前を知られていたが、女性にはほとんど知られていなかった。またギャラが安いので、名前は売れたものの、お金は全然貯まっていない!
10年ほどに渡り雑誌のグラビアを撮り続け、500人以上の女性のヌードをファインダーに納めてきたが、その1人1人の身体をそのまま絵に描けるほどしっかり記憶に留めている。名前は忘れても身体のラインはしっかり覚えている。
2013年に初めてヌードではない着衣の26歳・女性歌手の写真集に起用され、一躍、女性にも!名前が知られることになる。
彼女は朝、撮影場所に来て、写真家が室田と知ると
「私、ヌード撮るの嫌!」
と泣き出してしまったが、事務所の社長が
「違うよ。着衣だよ」
と言い、室田も
「僕だって着衣の女性も撮りますよ」
と言って(本当はこれが初めて)、それでやっとおそるおそる撮影に応じた。
「裸になったら実は男だってバレちゃう」
などとジョーク(と信じたい)を言ったりして撮影されていた。
彼女は、歌はうまいけど・・・などと言われていたが、写真集が出ると、「この子、こんなに可愛かったのか」と言われ、ファンが急増することになる。写真集は5万部も売れている。
2014年3月、デビュー直前のリダンダンシー・リダンジョッシーのボーカルで、半陰陽で戸籍を女性に訂正したばかりという話だった鹿島信子をグアムで撮影した。その写真集『Lucifer Girl』が、53万部も売れる大ヒットで、撮影料は本来100万円だったのを「あれでは申し訳無い」と言われて追加で3000万円ももらってしまった。税金を収入の半額も払うなどということを初めて体験したものの、税金を払った残額を頭金にして長期ローンで中古マンションを購入。借家暮らしから脱出したし、結婚までした(相手は若い頃撮った元AV女優の塾講師!で9歳年下の33歳。翌年には男の子も生まれる)。
それを機会にふつうのアイドルや女性ミュージシャン・女優などの(着衣や水着の)写真集の仕事が持ち込まれるようになり、現在では毎年7-8冊の写真集に関わっている。雑誌の取材を受けたり、テレビ番組にゲスト出演することもあり、どうも“文化人枠”に入れられているっぽい。
しかし鹿島信子の『Lucifer Girl』ほどのヒットはない。やはりあれは何といっても被写体の魅力が凄かったと彼は思う。半陰陽でしかあり得ない性別未分化な骨格が本当に悪魔的な魅力を持っていた。彼女の写真集を2年後にも撮ったが、その時は随分女らしい骨格に進化していた。それでも10万部売るヒットとなり撮影料も4000万円もらっている(住宅ローンの残額を一括返済した)。
鹿島信子の写真集を撮った2度以外のふだんの年収は、だいたい1000万円を前後している状態だったので、今回のギャラには仰天し即答で承諾した(税金分を除いて投信とか国債にして、子供たちの育英資金と老後資金にするつもり)。
しかしヌード写真も撮るがそれはraw dataを含む画像データを渡すだけで、当面公開しないし、写真家の手元からも消して欲しいというのは、かなりの大物の写真とみた。
それで18歳というのを考えとみると(ヌードを撮る以上高校生ではないだろうから)、各々の誕生日は不確かだが、松梨詩恩、星原琥珀、雪丘八島(三つ葉)、米本愛心(ColdFly20)、宮村尚子(ファレノプシス)、山倉鞠枝(キャッツファイブ)、などといった面々が思い浮かぶ。しかしギャラを2億も払うとなると、雪丘八島か宮村尚子かも知れないと想像した。他のメンツなら、いくら秘密保持条件付きとはいえ、ギャラが1桁か2桁下のような気がする。もっとも雪丘や宮村にしても少し額が大きすぎる気はした。普通に価格交渉すれば秘密保持条件付きでも、雪丘で5000万円、宮村で2000万円くらいのような気がする。
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