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■夏の日の想い出・龍たちの讃歌(12)
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目次 8
時間索引 #
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若葉の説明を聞いてから、この日は“藍小浜”に泊まることにする。ここも定員を半分に制限して運用しているらしい。食堂は閉鎖しており、食事は全て各部屋にデリバリーする。ただし人手を介すると、それが感染拡大の原因になりかねないので、自動配膳システムを使用している。
食事は各部屋入口の所に作られた配膳ボックスに届き、お知らせのアナウンス(自動音声)が流れるので、それで各々のお客さんに取り出してもらう方式である。5分経っても取り出してくれなかった部屋には、スタッフが行き、取り出しをお願いするが、不在だった場合は、スタッフが部屋の中のテーブルに運ぶ。
実際には9割以上が、5分以内に取り出してくれると言っていた。
食事の後は少し仮眠した後“指定された時刻”に、お風呂に行く。若葉はこの春に浴場棟をもう1個建ててしまった。それで結果的に面積を倍にして密度を半分にする作戦にしたのである。更に時間指定をすることで、集中を避けるようにした。時間指定は、子供やお年寄りのいる泊まり客は早い時間帯にして、若い人には遅い時間帯にしてもらうよう調整している。実際若い人は遅い方が助かるという声が多かったらしい。
私たちの指定時間帯は24:00-25:00になっていたので、24:20くらいに出かけた。
「このくらいの時間帯なら、前の時間帯の人はもうあがってしまっているよね」
「そうだろうね」
「入れ替わる時間帯はどうしても前の人と次の人が交錯するし」
「それはやむを得ないんじゃないの?」
などと言いながら配られている入浴券(ロッカーの鍵を兼ねる:腕につけられるようにベルト付き)のQRコードをかざして脱衣場に入る。
「やはり誰もいないね」
「この時間帯の人もほとんどは24:00になったらすぐ来てるだろうし」
などと言いながら服を脱いでロッカーに入れる。ロッカーも入浴券に指定された番号の所に入れる。
それで脱いだ服と、あがった後で着るつもりの替えの下着を入れ、スマホも入れ、蓋を閉じで入浴券をかざしてロックする。
すると、突然アームが降りてきて、そのロッカーが取り外される!
「え!?」
と思っていると、脱衣場内に置かれたベルトコンベヤ(何のためのものだろうと思っていた)に乗せられ、運ばれて行ってしまった。
「え〜〜!?私たちの服はどこ行っちゃったの?」
と政子が叫んだら、近くにいた仲居さんが寄ってきて説明した。
「お洋服は着衣場に運ばれましたから、入浴後はそちらに出て服を着て下さい」
「着衣場!?」
「はい。ここは脱衣場で浴室の向こう側に着衣場があります」
「へー!」
「人の流れが脱衣と着衣でぶつからないように分離したんですよ。コロナ対策の一環なんです」
「すごーい!私がこないだ言った通りだ」
と政子ははしゃいでいる。
先日郷愁村に行った時、政子は「なぜ脱衣場があって着衣場が無いのだろう」と言っていたのだが、若葉はそれを分離することで人の流れを整理することを思いついたのだろう。政子は思いつきだけで言っているが、若葉はそういう思いつきを具現化する力を持っている。
「脱衣場と着衣場の分離は、ここが最初で、先週、藍小浜の海岸店にも導入されました。この後、郷愁村のホテル昭和とかにも導入されるそうですよ」
と仲居さんは説明してくれた。
「若葉も色々考えてるね!」
と私は感心した。
「だったらそれが導入されてから、また郷愁村にも行ってみたいね」
と政子は言った。
政子はそこでやめておけば良かったのだが、また変な妄想をしたようである。
「ねね、男の娘を女湯に入れる場合さ」
「何それ?男の娘は女湯に入っちゃいけないよ」
と私は取り敢えず言っておく。
「女湯の脱衣場にちんちん切断機を置いておいて、服を脱いだ上でそこで、ちんちんを切断してもらうの」
「はあ!?」
「そしてそのちんちんは着衣場に運ばれて、お風呂からあがったら、それをくっつけてもらった上で服を着るというのはどう?」
「人間の身体はブラモじゃないし」
などと私は言ったが、話を聞いていた仲居さんは
「それ、くっつけずに放棄して帰っちゃう男の娘さんが多いかも」
などと言う。
「確かに!」
と政子は叫んで、このシステムの“重大な欠陥”(?)に気付いたようであった。
取り敢えず私たちは忘れ物がないか確認の上で浴室に移動する。浴室からこちらには(非常時以外は)出られないようになっているらしい。
それで洗い場で身体を洗った上で浴槽に入ると
「おはようございます」
という声がある。見るとマリナと葉月である!
「わあい、マリナちゃん、葉月(はづき)ちゃん。おはようございます」
と政子は嬉しそうに言った。
「おはようございます。こちらは仕事ですか?」
と私も彼女たちに声を掛ける。
「『ヒカルの碁』の撮影の途中なんですが、主題歌をアクアさんが歌うことになったので、そのPVを撮影するのに小浜に来たんですよ」
「小浜で撮るんだ!」
「ここのミューズタウンの19×19の通路が碁盤に見えるというので、それをドローンで上空から撮ったんですよ」
「なるほどー!」
ミューズタウンはミューズパークに隣接する1段高くなった土地で、元々はミューズパーク建設のための作業員を泊めた簡易住宅がずらっと並んでいた場所である。現在は作業員住宅は全て撤去されているが、パーク側との境界付近に、藍小浜・小浜ラボ・ヘリポート!などが並んでおり、奥側は公園になっている。
ここはほとんどが花壇になっているのだが、その花壇が約9m×9mの広さのユニットを18×18区画設定している。それで花壇を区切る道路が、19×19条設定されているのである。若葉もここを“碁盤公園”と呼んでいる。それでここを背景にPVを作ろうということになったのだろう。
「だったらアクアも来てるの?」
と政子は西湖に訊いたが、西湖は一瞬マリナと視線を交わしてから
「アクアさんは多忙なので来てないんですよ。私が代理で撮影して、あとでアクアさんの映像と差し替えます」
「葉月ちゃん可哀想。折角ここまで来たのに、映像に残らないなんて」
「いえ、私はそういうお仕事ですから。私はアクアさんの負荷を下げるために存在しています」
「そっかー。じゃ頑張ってね」
と政子は言った。
マリナと西湖が素早く視線を交わした意味にはどうも気付かなかったようである。
「でも葉月ちゃんもすっかり女らしくなったね」
「そんなに言われると恥ずかしいです」
「いつ性別は変更するの?もう変更終わったんだっけ?」
「変更しませんよー」
「だって女の子になったのに、戸籍が男の子だと困るでしょ?」
「大丈夫です。何とかします」
「でも高校卒業前には変更しないとまずいんじゃないの?名前も変えるんでしょう?」
「いえ、名前も性別も変更しません」
「なんで〜?せっかく女の子になったのに。そもそも女子高に入学するのに、入学前に性転換手術を受けたんだったよね?」
ああ、また別の説も流布してるみたいだなと西湖は思った。これはスピカさんあたりが震源の説かも、と思う。
「性別なんて結婚するまでに変更すればいいんじゃないの?もしかしたら葉月ちゃん、女の子と結婚するかも知れないし。その場合、葉月ちゃんが戸籍上男の子だったらそのまま婚姻届出せるじゃん」
と私は言った。
「あ、それは便利かもね」
と政子も言った。
私・マリ・マリナ・葉月(F)が“女湯”に入っている間に、実は“男湯”には、ケイナ・葉月M・アクアMが入って、男の会話?をしていた。実は3人とも普段男湯に入ろうとすると、しばしばつまみ出されそうになるのだが、この日は深夜でスタッフも偶然居なかった(女湯は安全のためスタッフが常駐しているが、男湯はわりと放置されがち)上に、QRコードで男湯が指定されていたのでスムーズに入ることができた。
でもケイナが
「俺たちだけならいいよな」
と言って3人とも偽胸を外さずに入っているので、万一他の男性が入ってきたらパニックになるだろう。更にアクアも葉月もタックを外していないので裸を見られると女の子にしか見えない。
ちなみに実はアクアFのほうは女湯に入っていたものの、ケイとマリが入ってくるのに気付いて先にあがってしまったのである。脱衣場と着衣場が分離されているおかげで、かち合わずに済んだ。
「しかしお前ら、なんでタックしたままなんだよ。外した方が楽だろう?」
「何となく」
「外すの大変だし」
「だいたい洗うのどうしてるのさ?」
「自動洗浄機があるので」
「タックの中に挿入するときれいに洗ってくれるんですよ」
「そんなものがあるのか」
「海外で販売されていたのを買ってきてもらったんですよ」
「へー。でもお前ら、チンコ何cmくらいあるの?
とケイナが訊く。
「僕のは大きくして14cmくらいかなあ」
とアクア。
「1月に測った時に6cmでした」
と葉月。
「それ小さい状態だよな?」
「あ、そうです」
「大きくしたら?」
「分かりません」
「お前ら、ちゃんとオナニーしてるか?」
などとケイナは男子として未熟っぽい2人に言っている。
「僕は週に1回くらいはしてますよ」
とアクアMは言うが
「僕もう5年くらいしてないかも」
と葉月が言っている。
「それはあかん。男は毎日オナニーしなきゃ」
「そんなものですか?」
「お前らそもそもよく週1回とか、全然しないとかで我慢できるな」
「葉月(ようげつ)ちゃんの睾丸は死んでるかも」
とアクアは心配そうに言う。
「それチラッと考えることはあるけど、僕、身体が男性化したらアクアさんのボディダブルとかできなくなるから、今のままでいいです」
などと葉月は言っている。
「まあ僕も葉月も、精子は冷凍保存しているから、万一睾丸が死んでいても、子供は作れるんですけどね」
とアクア。
「アクアは、抱いてくれって女の子が押し寄せてきたりしない?」
「『私をあげます。どこどこに来て下さい』というファンレターは日常茶飯事だけど、行きませんよ」
「ああ、それは純粋にアクアに自分の身体をプレゼントしたいという女の子も多いけど、ハニートラップも多いから気をつけた方がいい」
「コスモス社長にもそれ言われました。それでコスモス社長は僕に幼なじみの女の子を抱かせて性欲の解消させて、他の子にフラフラとしないようにしたいみたい」
「ああ、そんな子がいるんだ?」
「どうも事務所から唆されているみたいで、4月以降、5〜6回襲われているけど、何とか貞操を死守しています」
「そんな子が居るなら抱けばいいのに。つまり事務所公認なんだろ?」
「彼女とは28歳になった時にお互い独身だったら結婚を考えてもいいという約束はしています」
「まだ10年あるじゃん。そんなのその子が我慢できる訳無い。あまり思い詰めるとおかしくなってしまうぞ。一度抱いてやれば向こうも安心するよ。多分強引に襲ったりはしなくなるぞ」
「そうかなあ」
「たとえその子と結婚できなかったとしても、そういう女がいるだけで、お前の演技とか歌も進化すると思う。だいたい恋愛を経験してないのに恋の歌とか歌ったり、恋をする役を演じたりしても、表面的なものになるよ」
とケイナは言う。
「それは言われたことあるんですけどねー」
「ちゃんと毎日オナニーしてれば、その子を抱きたい気持ちになるかもな」
「毎日できるもんなんですか?週1回だって多すぎるかなと思ってたのに」
「いや、お前くらいの年齢の男子はみんな毎日2〜3回してる」
「そんなにして、ちんちん痛くなりません?」
「痛くなってもしちゃうのがお前たちの年齢だけどな」
「そんなものなのかなあ」
「葉月(ようげつ)は取り敢えず今夜は1度オナニーをしなさい」
「できるかなあ。あまり自信無い」
「最初は逝けなくても、毎日やっていれば少しずつ逝けるようになるよ」
「逝くってなんですか?」
「待て。お前、過去にはどういうオナニーしてたの?」
「えっと・・・お布団に寝て、胸とかに触って、乳首をいじりながらHなこと(*1)考えている内になんか気持ちよくなるから、そのまま眠ってました」
と葉月は言う。
「それはオナニーになってない気がする。チンコ触らないの?」
「おしっこする時は小学生の頃は触ってましたけど、今はいつもタックしてるから全然触りません」
ダメだこりゃ、とケイナは思った。
「ちなみにアクアはどういうふうにオナニーしてる?」
「僕ですか?ちんちんに触って動かしてると大きくなるんですよね」
「うんうん」
「それで大きい状態でHなこと(*2)考えてると気持ち良くなるから、たいていそのまま眠ってしまいます」
「出さないの〜〜?」
「出すって何をですか?」
ダメだこりゃ!
だいたいこいつら、どうやって冷凍精子作ったんだ!?
(*1)花嫁衣装を強引に着せられて結婚式を挙げ、初夜を迎えるシーンなどを想像している。
(*2)そのちんちんを切られて女の子に改造されるシーンなどを妄想している。
やがて3人はお風呂から上がって、着衣室に移動する。ケイナはちんちんをぶらぶらさせているが、アクアと葉月のお股には突起物が見られない。
「お前らもタック外せば、ちんこぶらぶらさせられるのに」
「実はその感覚がなんか変な気がしてタック外さないんです」
などとMは言っている。
「ちんこ、ぶらぶらさせるのはいいぞー」
「でも去年は一時期取っちゃってたんでしょ?」
「あの時期は寂しかったよ。ちんこ復活して凄く嬉しかった。前のより少し短いんだけど、あるのと無いのとでは大違いだよ」
「へー」
アクアはパジャマの上下、葉月は旅館の浴衣、ケイナは昼間のような普通のブラウスとスカートを着ている。
「よくスカートで男湯に来ますね」
とアクアがケイナに言う。
「男物の服を着ると違和感があってさぁ」
「ああ、もうずっと女装生活してますもんね」
「それに、スカートのいい所は“ポジション”を直す必要がないことで」
とケイナが言うと
「あ、それ分かります。ズボン穿いてると困ることあるんですよね」
とアクアは言ったが、葉月は
「ポジションって何ですか?」
と訊いた。
「お前、本当にちんこついてんの?」
「取った記憶はないから多分ついてると思います」
と西湖。
「アクアは付いてるよな?」
「一週間くらい見てないけど、まだついてると思うけどなあ」
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