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■春産(23)

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「そういう訳で、本来のコースである病院に来年2月末まで入院させるという選択はあり得ないので、川上さんたちのサポートで、妊娠維持が可能なら、それをお願いしたいです。費用はいくら掛かっても構いません」
と野坂社長は言う。
 
「最初にお断りしておかなければならないのは、さっきも申しましたように、私たちのサポートは法的には祈祷と同じです。何らの科学的根拠もありませんし、私たちは成宮さんの妊娠維持を保証することはできません」
と千里は言った。
 
「それは構いません」
と野坂社長は言い、真琴と三影も頷いている。
 
「そして私たちがサポートしていても、様々な突発的できごとのために流産してしまう可能性はあると思います。ですから、出産に辿り着く可能性は50:50(フィフティ・フィフティ)だと思いますが、それでもやりますか?」
と青葉。
 
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「僕、病院の先生からは可能性は1%、病院での完全管理下でも3割と言われた。5割の可能性があるならお願いしたい」
と真琴。
 
青葉は「不確か」という意味で「50:50」という言葉を使ったのだが、余計に期待させてしまったようなので、どうしようかと思った。しかし千里の顔を見ると頷いているので、このままでいいかと考え直した。
 
「それで実際問題として、どの程度、こいつ活動できます?」
と三影が訊く。
 
「ライブやテレビ出演での演奏などは絶対にやめてほしいですが、スタジオ制作なら、規則的な生活リズムと定期的な食事を守り、睡眠時間も毎日8時間取り、スタジオでも2時間に1度くらいは休憩して徹夜などはしないという条件で行けると思います」
と青葉は言った。
 
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「それなら何とかなるかな」
と社長と三影はお互いの顔を見ながら言った。
 
「あと、スタジオでの制作中、タバコは他のメンバーの方も我慢して欲しいのですが」
「タバコ吸うのは俺と漢太カ(キャロル)だけだけど、俺は我慢する。漢太カにも言いくるめて、スタジオ内では我慢させる」
「もちろん本人は、酒タバコはNGで」
「それは当然だな」
 
「ここだけの話にしますが、“草”とか“お薬”とか使いませんよね?」
「使わない、使わない。まだ人間やめたくないから手を出さない」
「だったら行けると思います」
 
「そしたらRainbow Flute Bandsのライブは来年の5月か6月くらいまでお休みで、その間、アルバムの制作をやろうか。逆にこれまでライブが多すぎてじっくりアルバム制作ができなかった面もあるし」
と三影は言う。
 
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「うん。それもいいかも知れないね」
と社長も言った。
 
5人はこの日話し合った内容を覚え書きとしてまとめ、コピーを2部作り、全員署名して青葉と野坂社長が1部ずつ持つことにした。
 

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この会談を受けて、青葉と千里は真琴と一緒に朝倉医師の許を訪れ、日々のメディカルチェックの方法について打ち合わせした。その結果、真琴は毎朝の尿を採取して大間産婦人科に持ち込むこと、安定期に入る11月上旬までは毎週1回、その後も2週間に1度診察を受けることを決めた。この病院が選ばれたのは院長が朝倉医師の後輩であるのと、真琴の現住所に近いからである。制作が立て込んで都心に寝泊まりする時は、尿は事務所のスタッフが運んでくれることで、野坂社長の了承を得た。
 
そこまで話がまとまった所で朝倉医師は病院を出て真琴と一緒に、あきる野市役所に向かった。もう夕方の受付時間ぎりぎりになったが、母子手帳の交付を申請する。しかし真琴が住民票で男性として登録されているので、窓口の人は何の冗談ですか?と言った。
 
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しかし朝倉医師が自分の身分証明書を提示した上で、真琴の性別について説明し、戸籍上は男性ではあるものの、元々卵巣と子宮を持っていたこと、そして間違い無く妊娠していること、出産までの間に家庭裁判所の審判を経て戸籍を女性に修正予定であることを話すと、最初課長さん、その内、部長さん、最後は助役さんまで出てきて、2時間近い話し合いの末、母子手帳を無事発行してもらうことができた。
 
「大変だったね〜」
「先生に来て頂いて助かりました。あれ、僕ひとりではとても説得しきれませんでしたよ」
と真琴は疲れたように言った。
 

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朝倉医師と真琴はそのまま大間産婦人科に向かう。もう病院は閉まっているのだが、ここに青葉と千里、野坂社長と三影、それに松井医師も集まり、大間院長も一緒に、再度この後の方針について確認した。
 
「その以前、川上さんがコントロールして出産に至った子というのはお元気ですか?」
「元気いっぱいに育ってますね」
と青葉。
 
「あの時は、本人のホルモン状態だけじゃなくて、風邪引いたりしないようにとかもかなり気を遣ったね」
と千里が言う。
 
「うん。ただあの人は元々身体が弱くてあまり外出とかしなかったから、それで風邪の感染を防げた面もあった」
と青葉。
 
「確かに不安定な妊娠をしていると風邪でも致命傷になりかねませんよね」
「そうなんです。これはガラス細工を10ヶ月間ずっと自分の手で持って立ち尽くすような作業なんです」
 
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「ああ、なんとなくイメージがつかめた」
 
「風邪が流行する季節は、人混みなどに絶対出ないようにしてください。またメンバーの方も、風邪気味とかの時は絶対にスタジオに出てこないようにして感染防止に気を配って下さい」
 
「けっこうそのあたりも大変そうだね」
「そういう要素を含めて、成功する確率は半々ということなので」
「それに成宮君のムラ気の分を入れると1%まで低下する、というのが朝倉先生の見立てなんですね?」
と社長。
「それがいちばん危ない気もする」
と三影は言っている。
 
社長は考えて言った。
 
「都心のスタジオで制作するとどうしても人混みにさらされてしまう。郊外のスタジオを使おうか」
「それがいいかもですね。郊外にも結構良い技術者のいるスタジオはありますよ」
 
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「じゃ、そういうことで2月か3月くらいまで、しっかり頑張ろう」
と朝倉医師は言った。
 
「はい」
と真琴も神妙に答える。
 
「後は誰に認知してもらうかだな」
と真琴は最後に言った。
 
「その3人には今どういう話してるの?」
と三影が訊く。
「正直に8月の上旬のセックスで妊娠したこと。その時期に3人とセックスしていて、その3人の中の誰かが父親だと思うということは話した。3人とも今は驚いているみたいで、反応はこれから」
と真琴。
 
「本当は誰が父親か分かっているんじゃないの?」
と千里は言った。
 
「そのあたりは色々戦略が」
と真琴。
「その父親が確定してから、記者会見する?」
と社長。
「そちらは時間が掛かるかも知れないから、今週末くらいに記者会見はやっちゃいましょう」
と真琴。
「分かった。それで手配する」
と社長は言った。
 
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フェイの件で打合せがかなり遅くなってしまったため(フェイの体調を考えて打合せは22時で打ち切られた)、青葉はこの日高岡に戻るのは諦め、千里と一緒に経堂に移動し(立川から南武線で移動したので意外に早く着いた)、閉店直前の小田急OXで食材を買ってから帰った。
 
桃香は台所のテーブルの所で眠っていたようだが、千里が鍵を開けたので起きたようである。
 
「ただいまあ」
「あれ?青葉も一緒?]
「私が受けた仕事と、青葉が受けた仕事が、途中で合同になってしまって」
「へ?」
「取り敢えず疲れた。一応食材は買ってきたけど桃香何か買った?」
「あ、えっと、ニルギリの紅茶とケーキを4個」
「4個って誰か来てるんだっけ?」
「いや2個ずつ食べようかと」
「だったら1個ずつ食べて、残りの1個は3分割すればいいね」
 
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それで桃香が「千里が最初の1個選んで」などというので、イチゴケーキを取り、青葉がモンブランっぽいのを取り、桃香がオレンジムースっぽいものを取って、抹茶ムースをペティナイフで3分割した。紅茶は千里がお湯を沸かしてティーポットで入れ、ロイヤルコペンハーゲンのティーカップ(5個セットで買ったが1個割って4個残っている)を3個出して注ぐ。桃香は砂糖と牛乳を入れたが、青葉と千里は何も入れずにそのまま頂く。
 
「これ凄くいい茶葉だ」
と千里が言った。
 
「そのあたりはさっぱり分からないけど美味しい」
と青葉。
 
「なんか美味しいなというのは分かる」
と桃香。
 
「ニルギリは元々ミルクティーにするのにいい紅茶なんだよ。だから桃香の飲み方が正解」
「おぉ、そうだったか」
 
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「ただ、これかなりいいお茶みたいと思ったから、そのまま味わってみた」
と千里は言っている。
 
「ちー姉、確かニルギリの産地のタミル・ナードゥ州は行ったことあったよね?」
 
「うん。昔バスケットの大会で行った。ただ私が行ったのはチェンナイと言ってニルギリの産地・西ガーツ山脈からは数百キロ離れているんだよ。でもいい所だった。タミル人って日本人とわりと近いんだよね」
 
「へー!」
「タミル語は日本語や朝鮮語と同系統」
「おぉ!」
「なんか風土も日本人には馴染みやすい所だったよ。主食はお米だし、あそこのお米はジャポニカ種に似て粒が短いし」
「一度行ってみたい気もするね」
と青葉は言っている。
「英語がわりと通じるみたいだから、あまり不安は無いと思うよ」
「ほほお」
 
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「それで話って何?」
と千里は桃香に訊いた。
 
「あ、えっと・・・」
と言って桃香はチラリと青葉を見る。
 
「ああ、少し席を外しておこうか? ファミマにでも行ってくるよ」
と言って、青葉は席を立ち、出かけて行った。
 
「で何?」
と千里が言うと、桃香はいきなり土下座する。
 
「何よ?何よ?」
と千里は戸惑っている。
 
「実は、赤ちゃん作ったんだ」
と桃香が言うので、千里は
 
「桃香、やはり誰か妊娠させたの?」
と訊く。
 
「あ、えっと・・・誰かというより私が妊娠した」
と桃香は床にそのまま女の子座りして言う。
 
「へー! 別に私に謝る必要なんて無いのに。私たちはお互い恋愛自由というのは最初から言っているし。だから私は桃香の恋路は邪魔してないし、桃香も私の恋愛は邪魔しないし」
 
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「いや、それはそうなんだけど・・・」
「でも桃香が妊娠するようなことするって珍しいね。相手は誰?私が知ってる人?」
「そうだな。結構知ってる人かな」
「相手とは結婚するの?」
「いや、それが結婚できない人で」
「不倫?」
「いや実は・・・・相手は女の子なんで」
「なぜ女の子との間で子供ができる?」
 
「千里、私が女の子を妊娠させても不思議じゃないのに、女の子との間で私が妊娠するのは不思議なのか?」
「桃香は精子ありそうだもん。桃香ってきっとどこかで誰か孕ませてる」
 
「いや、その私の相手の子は昔は男の子だったので、その時に冷凍保存していた精子で妊娠したんだよ」
と桃香は言った。
 
千里は腕を組んで顔をしかめた。
 
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「ねぇ、その精子って、まさか」
「済まん。千里の冷凍精子を無断で使った」
 
「ひっどーい!それ使うなら、事前に言ってよ」
と千里はマジで怒っている。
 
「いや、事前に言うと、千里は嫌だと言うと思ったんで」
「うん。嫌だ。私、父親にはなりたくない」
「認知はしなくていいから」
「認知・・・私、できるんだっけ?」
「うん。実はそのあたりはよく分からん」
 
「男の子が妊娠したり、女の子が妊娠させたりという状況は、法律は想定してないだろうからなあ」
「それで・・・産んでもいい?」
と桃香は恐る恐る訊いた。
 
千里は頬杖して考えた。
 
「まあ出来ちゃったものは仕方ないけど」
「済まん。それで、申し訳無いけど、今週末くらいに一緒に産婦人科まで来て欲しいんだけど」
「なんで?」
「いや、その精子提供者と一緒に暮らしていると言ったら、お産の時にサポートしてくれますか?と訊かれたんで、サポートしてくれると思うと言うと、じゃ今度一緒に来院してくださいと」
 
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「ねぇ、それ人工授精だよね?」
「うん」
「人工授精の時、精子提供者の同意書とか要らないんだっけ?」
「ごめん。偽造した」
「ひっどーい!」
 
「申し訳無い」
とまた桃香は土下座している。
 
「土下座はいいよ。赤ちゃんに悪いよ」
と千里は言った。
 
「そ、そうだな」
と言って桃香は起き直る。今度はお姉さん座りする。
 
千里は手帳を見た。
「私はこの後、4月前半くらいまで、基本的に週末は全部塞がっているんだよ。だから、行くとしたら月曜から木曜の間。但し今度の12日はダメ」
「じゃ・・・13日の火曜日とかいい?」
「14日の方が助かる」
「じゃ14日水曜日で」
「分かった。予定を入れておく」
 
それで千里は手帳に記入していた。桃香は今度はどういう理由で休みを取ろうかと悩んでいた。
 
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フェイ(真琴)は9月10日に妊娠したことと、Rainbow Flute Bandsのライブ活動を1年程度休むことを記者会見して発表したが、父親については非公開ということにした。
 
実際には、真琴のボーイフレンド(ガールフレンド?)の中で洋介ことハイライト・セブンスターズのヒロシが認知したいと言ったので、フェイはそれを受け入れることにした。
 
彼は実は8月4日に真琴とセックスしており、本当はこの子供の父親ではない。しかし洋介はたとえそうだとしても自分が法的な父親になりたいと言った。丸山アイ(早紀)も認知したいし、むしろ真琴と結婚したいと言ったのだが、早紀は睾丸がないので、後で揉めるしということで、遠慮してもらった。結婚したいという気持ちについては、ありがたくそのことばは受け止めるけど自分は誰とも結婚するつもりはないのでと言って、柔らかく断った。
 
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洋介も早紀も真琴に指輪をあげたいと言った。最終的に真琴は双方の了承を得た上でどちらの指輪ももらうことにした。
 

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本当の父親である雅希も話を訊くと認知していいと言った。
 
「でも雅希は戸籍はどっちなの?マジな話」
「どうしてそうなっちゃったかについては説明すると物凄く大変なんだけど、本当に私は戸籍上女なんだよ」
と雅希は言う。
 
「だったら、認知できないよ」
「性別変更すれば認知できると思う。そのための診断書は取れると思う」
 
「だって、女の戸籍で、女として生きて来たんでしょ?他の子が認知してくれると言っているから、雅希はいいよ。それに雅希が男だったなんていったら僕の妊娠以上の大騒動になる」
 
彼女はしばらく考えていたが言った。
 
「分かった。じゃ認知は他の子に任せるけど、養育費は出す。それと違約金払わないいけないでしょ?それも私が出すよ」
 
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「じゃ違約金1割だけお願いしようかな。残りは僕が自分で払う」
と真琴は言った。
 
彼女の収入ではさすがに1億円は厳しいはずだ。
 
「じゃ残りはツケということにして」
 

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春産(23)

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