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■春産(17)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-05-03
 
9月2日19時。
 
高岡市内の病院に5組の家族が集まった。
 
全員8月26日の午後に産まれた赤ちゃんとその家族である。まず院長から不手際に関するお詫びがあり、次いでDNA鑑定の結果を報告する。鑑定の結果は全員、間違い無く各々の親の子供であることが確認されたということだった。つまり、真純君ということになっている女の子も間違いなく青木夫妻の子供だし、弓絵ちゃんということになっている男の子も間違い無く光島夫妻の子供であることが確認された。
 
この段階で何の問題も無かった3家族は退席する。3家族は交通費の実費の他、迷惑料として病院から一律5万円が支払われ、それを受け取って帰宅した。
 
そして残るは青木家・光島家である。
 
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鈴子は自分がいったん連れて帰っていた子が間違い無く自分たちの子供であることが確認されたことで、助産婦さんが抱いていた子を、自分が抱きたいと申し出、再度引き渡された。
 
「ゆみちゃん、疑ったりしてごめんね、ごめんね」
と言って涙を流して頬ずりしていた。
 

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「ということは、結局性別を間違って報告したということですか?」
と青木夫が言う。
 
「そういうことになります。大変申し訳ありません」
と言って院長、そして関わった2人の産科医が頭を下げた。
 
「産まれてすぐに性別と出産時刻、体重をメモしています。普通そこにお名前も書くのですが、出産が立て込んでいたことから、その名前を記入漏れし、メモをナース室に持ち込んだ看護婦が誤って逆に記載してしまったものと思われます。従って、性別だけでなく、出産時刻と体重も入れ替わっておりました。青木さんの赤ちゃんが16:01 男の子 3225g、光島さんの赤ちゃんが16:03 女の子 3189g と記録されていたのですが、それが逆でした。その後の2人の体重の経過記録を確認しても、青木さんの赤ちゃんが本当は3189g 光島さんの赤ちゃんが本当は3225gであったことは間違いありません」
 
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と院長は説明する。
 
「しかし産まれた時刻も2分差、体重も36g差であれば、確かに間違いに気付きにくいかも知れないですね」
と鈴子の夫が言った。
 
この日の話し合いでは、鈴子の夫がひじょうに温和な性格(鈴子に言わせると、『女性的で素敵』)であったことから、どうかしたら喧嘩腰になってしまい大揉めしかねない所が、とても穏やかな話し合いに終始した。
 
「結局は、各々正しい性別で再度名前を付け直すしかないですね」
と青木夫も言っている。
 
光島家の方が穏やかな姿勢なので、青木家の方も結果的に穏やかに対応する感じになった。
 
「でも母子手帳に男の子って書いちゃったよ」
と青木妻は言う。
 
「母子手帳って再発行してもらえませんでしたっけ? これ男と書いたのを女に修正したら、まるで性転換しちゃったみたいですよ。母子手帳なんて18歳になるまで取っておかないといけないのに」
と青木夫。
 
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「事情を話せば再発行はできるはずです。妊娠中の経過などの記載事項は当院で責任持って正確に書き写します」
と院長。
 
「じゃうちはそれでいいことにしようよ。まだ出生届出す前だったから実害は無いし」
「男の子だってよろこんでた、おじいちゃんたちはがっかりするかも知れないけどね」
 
と青木夫妻は言っている。
 
「うちは女の子ということで出生届出しちゃったんですが、どうすればいいんですか?」
と鈴子の夫が尋ねる。
 
「法務局に確認しました。半陰陽とかではなく、お産が立て込んでいた状況で単純ミスで性別を誤って出生証明書に記載してしまったということであれば、病院側で診断書と陳述書を書いて出してもらえば、職権で性別と名前は修正可能ということです」
と院長は言った。
 
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「それ修正の跡が残らないんですか?戸籍上最初は長女と記載されていたのが長男に訂正されたという記録が」
と鈴子の夫は訊く。
 
「訂正が終わった所で戸籍の再製を要求してください。それで再製された戸籍には性別修正の跡は残りません」
 
「その再製前の戸籍を閲覧されたら?」
「再製前の戸籍は、裁判の証拠として必要な場合などを除いて、何人(なにびと)も閲覧したり複製することはできません」
 
「だったら安心ですね」
と鈴子の夫。
 
「性転換したかのような記載が残ったりしないのだったら、私もそれでいい」
と鈴子も言った。
 
そこでそういう対応を取ることにし、鈴子たちも母子手帳を再発行して記載内容は病院側で完全に書き写してもらうことにした。
 
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この2組に関しては出産の時の費用の支払いを無用とすることにして支払ったお金は即座に返金した上で、全てが落ち着いた所で病院側が迷惑料を払うことになった。その額についてはまた後日交渉ということになった。
 

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「ふーん。まああまり大騒動にならなくて済んでよかったじゃん」
と鈴子から直接電話で聞いた桃香は言った。
 
「いや、充分大騒動だった」
 
鈴子は顛末をまず優子に電話して報告したのだが、この件、桃香にも話してもいい?と優子が言ったら自分が直接話したいと言って向こうから電話して来たのである。鈴子としてもたぶん何人かに話したかったのだろう。
 
鈴子にしても(実はビアンよりのバイで)女の友人が少ないので、こんな話をできる相手は少ない。結局鈴子は、優子・桃香・季里子・織絵(XANFUSの音羽)・鏡子(浜名麻梨奈)の5人にこの日電話した。織絵と鏡子は高校時代のバンド仲間である。3人は当時Sea-Queenというバンドをやっていたが、桃香が鈴子と織絵に二股したせいで壊れてしまったのである。このバンドは結果的に見ると、XANFUSの源流のひとつということになる。
 
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しかし鈴子は話している内に自分の中でも勝手にストーリーが作られていって、最後に浜名麻梨奈に話した内容は、最初に優子に話した内容よりかなり膨らんでしまった感もあった。
 
「だけど性別と名前を変更するのに家庭裁判所に通ってとかになっていたら、もうそれだけで嫌になっちゃってたよ」
と桃香。
 
「ああ。それは大変そう。でも私本当は女の子のほうが良かったんだけどなあ。可愛い服着せられるし」
と鈴子。
 
「別に男の子に可愛い服着せてもいいと思うが」
と桃香。
 
「あ、それもいいかもね。スカートの似合う男の子とかもいいよね」
などと鈴子は言っている。
 
男の娘育成計画??
 
「まあ将来まで責任持つなら、それもいいと思うぞ」
「うふふ。可愛い服買ってきて着せちゃおう」
「優子なら、ちんちんをハサミで切り落としている所だな」
「あの子なら、やりかねないよね〜?」
 
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「それで戸籍の性別と名前の変更は終わったの?」
「終わった。事前に照会していたこともあったと思うけど、院長と一緒に行って、再度状況を説明した上で、病院側の陳述書と正しい出生証明書を提出したら、即変更してもらった。今、その後、戸籍の再製を頼んでいる所。これは数日かかるらしい」
 
「新しい名前はどうしたの?」
「もう“ゆみちゃん”で慣れちゃったからさ。今更全く違う名前にするのも違和感あるからって最初《ゆみや:弓也》という名前を考えたんだけどね」
「うん」
「それだと手描きで横書きしたとき弛む(ゆるむ)という字に見えるから、やはり《ゆみお》にしようということになって」
「字は?」
「弓男・弓雄・弓夫と3種類考えてみたのよ。すると弓男は画数10画で凶。弓夫は光島弓夫の外格が10画になって凶。で、弓雄だと実は弓絵と同じ画数なんだよ」
「ほほお。じゃそれにしたの?」
 
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「同じ画数ならいいね、と言っていたら、うちの旦那が反対して」
「ほぉ」
「同じ画数なら同じ運命になる。光島弓絵という名前で人生のスタートから大誤解されたんだから、その画数はむしろ避けようよということで、結局、弓生という漢字にした。総格24吉、天格16吉、地格8吉、人格13吉、外格11吉。五格が全部吉。光島弓絵は実は地格が15中吉だったんだよね」
 
光島弓絵 総31◎円満順風 天16◎仁心覆幸 地15○恭謙昇運 人13◎和合繁栄 外18○難関突破
光島弓生 総24◎才知豊栄 天16◎仁心覆幸 地8◎質実剛健 人13◎和合繁栄 外11◎成長大樹
 
「なるほどー。でもさ」
「うん?」
「弓生で“ゆみお”と読む名前は、女の子でもあるから性別間違えられるかもよ」
と桃香は指摘する。
 
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「別にいいんじゃない?」
と鈴子は言う。
 
「いいのか?」
「本人が女の子になりたいと思った時に名前を変えなくても済むし」
 
「あのさあ、鈴子、マジで男の娘育成計画してない?」
 
「そんなことないと思うよぉ」
 

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9月3日(土)東京辰巳。
 
インカレの2日目は、朝一番に男女の200m自由形予選が行われ、杏梨がB決勝、筒石が決勝に進出した。11時過ぎには女子800m自由形の予選が行われ、ジャネ、圭織、青葉の3人が参加して、ジャネと青葉は決勝に進出したが、圭織は予選落ちした。そしてこの日の予選の最後は男女400mメドレーリレーである。女子は3位で決勝に進出したが、男子は16位でB決勝となった。男子は昨日の400mフリーリレーでは予選落ちだったので「やったぁ」と騒いでいた。
 
休憩時間にはまた牛丼を食べに行ったが、昨日吉野家にしたので今日はすき屋にした。たくさん食べて戻って来て休憩するが、今日はジャネが青葉と杏梨を誘ってプールに出て疲れない程度に軽く練習した。圭織は「私は寝てる」と言って本当に寝ていたようだ。
 
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17:00から競技は再開される。女子200mB決勝に出た杏梨は14位であった。男子200m決勝に出た筒石は6位でメダルに届かなかった。そして18:46。女子の400mメドレーリレーの決勝が行われる。
 
今日の泳者は昨日の香奈恵の代わりに杏梨が入り、背泳:圭織、平泳ぎ:杏梨、バタフライ:青葉、自由形:ジャネとなっている。
 
背泳からスタートするが、また例によってバックストロークレッジを使用するが、みんな予選でも使用しているので、大きな問題は無いであろう。
 
圭織はコンピュータ上の計算で、圭織が背泳を泳ぐのがチームとして最速ということになっているので背泳に配置されているものの、本当は背泳はあまり得意ではない。それで5位で戻って来て杏梨に引き継いだ。杏梨も平泳ぎは決して得意という訳ではないものの頑張る。この付近は必ずしも得意でない泳法で泳いでいるものの、結果的にこの組合せが総合タイムが最速になる組合せなので仕方ない。杏梨は順位を落とさずそのまま5位で戻って来た。
 
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青葉がバタフライで引き継ぐ。青葉は元々古式泳法の泳者なので実は西洋泳法は全部得意では無い!自由形も抜き手で泳ぎたいくらいだが、抜き手よりクロールの方が速いからクロールで泳いでいるだけである。そして青葉の泳ぎ方はどれもきちんとしたフォームになっていなくて、不効率な所を筋力ともうひとつ実は「水の気の流れを感じ取りそれに逆らわないようにする」ことでカバーしている。しかし筋力でカバーするのは、バタフライのような動きの大きな泳法では結果的にうまく行ってスピードが乗るようである。
 
そういう訳で青葉は無心に泳いでいたのであまり意識は無かったものの、3位と僅差の4位で戻って来た。
 
ジャネが蒼生恵に義足を預けてスタート台に立ち、青葉のタッチから少し遅れる感じで飛び込む。実はこうしないと、青葉がタッチ板へのタッチが下手糞なのでふつうの選手との引き継ぎの感覚で飛び込んでしまうと、引き継ぎ違反になってしまうのである。この一瞬の間を開けたことで、3位の泳者と距離が開いてしまったものの、ジャネは物凄いパワーで前の泳者を追いかけ、プールの中央付近に達する頃に追い抜いてしまう。更に2位で泳ぐ泳者を追いかける。1位の選手はぶっち切りで先行しており、ジャネとしてはこの2位の選手に追いつき追い抜くのが目標だ。
 
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3位の選手を抜いた時点では5mくらいの差があった。それが折り返し点では3mくらいまで縮み、戻ってくる途中、残り25m付近で1m差くらいまで迫る。しかし向こうも何か感じてスピードを上げラストスパートに入ったようである。
 
ジャネが必死に追う中、2位の選手も必死で逃げる。そしてゴールには両者、ほとんど同時に着いたように見えた。
 
時計を見る。
 
0.01秒差で向こうが速かった。
 
1位** 4:00.50 2位** 4:02.53 3位K 4:02.54
 
と表示されている。そういう訳でメドレーリレーはK大女子チームは3位。昨日と同じ銅メダルということになった。
 
・・・と思ったのだが、
 

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春産(17)

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