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■春産(3)

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ところでこの日、青葉たちは京都市内の安ホテルに一緒に泊まったのだが、女子メンバーの中で3年生の香奈恵は親戚の家に泊めてもらうと言っていた。
 
「親戚の家だと安く済んでいい」
という声もあがるが
 
「その代わりお土産も必要だし、結構気を遣うし」
などと彼女は言っている。
 
「お土産何持って来たの?」
「これ。金沢の伝統的なお菓子のひとつ。ここの伯母ちゃんがこれ好きなのよ」
と言って見せるのは、俵屋の《じろあめ》である。
 
「それ、子育て幽霊の飴だよね?」
と圭織が言う。
 
青葉はびっくりした。つい先日、美由紀たちとその話をしたばかりである。
 
「金沢の光覚寺というお寺の近くに飴屋さんがあって、そこは『あめや坂』と呼ばれていたんだって。そこに夜な夜な飴を買いに来る女の人がいたんで、店主が不審に思って後を付けてみると、そこのお寺の墓地で姿が消えたらしい。それでお寺の人に言って最近亡くなった女性の墓を掘り返してみたら、死んだ女の人のそばに飴を舐めている生きた赤子がいたという。そこの飴屋さんが、小橋の俵屋さんの暖簾分けのお店だったらしいよ」
 
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と圭織は説明した。
 
青葉は「あれ?お寺の名前が違う」と思ったのだが、香奈恵が言う。
 
「そうそう。金沢では有名な伝説だよね。でもこの飴買い幽霊の舞台になったお寺って、実は金沢市内に5つある」
 
「5つもあるんですか?」
 
「うん。それぞれに伝わる話も微妙に違うみたい。そもそも俵屋さんの話はまた違っていて、お乳が出ずに産まれた赤子を餓死させてしまって悲しみに沈んでいた母親を見て、お乳代わりに与えられるようなものが作れないかといって、初代は水飴を考案したんだというんだよね。その話と元々あった飴買い幽霊の話がどこかで混線して、飴買い幽霊の飴は俵屋の飴って話になっちゃったのかもね」
 
などとも圭織は言っている。
 
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「そうなんだよね。そもそも俵屋の創業は天保元年で、飴買い幽霊の話はもっと古い話だと思う」
と香奈恵も言っている。
 
天保元年というと1830年だが、円山応挙は1733-1795年の人である。つまり道入寺の話で絵を描いたのが本当に円山応挙であれば、それは俵屋の創業より前の話ということになる。
 
「だけど実際問題として、赤ちゃんに水飴をあげてもいいんですかね?」
と杏梨が疑問を呈する。
 
「昔はお乳が出なかったら、米のとぎ汁を飲ませろなんて話もあったけど、米のとぎ汁よりは水飴のほうがずっとマシ」
と青葉は言う。
 
「米のとぎ汁ってつまり澱粉だけど、赤ちゃんの胃腸はまだ澱粉を充分に分解する力が無い。でも水飴は発芽大麦に含まれる酵素の力で、澱粉質が麦芽糖や更にブドウ糖にまで分解されているんだよ。ブドウ糖はそのまま吸収できるし麦芽糖程度なら、何とか赤ちゃんの腸でも分解できる」
と青葉は説明する。
 
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「なるほどー。だったら、水飴ってマジで赤ちゃんの生命をつなぐことのできる食品なんだ!」
 
「まあ現代では粉ミルクがあるから、それを使う方がいいけどね。昔でも、もらい乳ができるなら、その方が良かったと思う」
と青葉。
 
「確かに」
 
「いや、粉ミルクが発明されるまでは、お乳の出ない女性がどうやってその赤ちゃんを生きながらえさせるかというのは、極めて深刻な問題だったと思うよ」
と圭織は言った。
 

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さて17日、桃香は結局お昼近くまで寝てからタクシーで新高岡駅に行き、新幹線に乗車した。母はもちろん会社に行っているし、青葉は水泳の大会に出るのに京都に行くということで、早朝に家を出たらしい(熟睡していたので分からない)。
 
そして東京行き新幹線に乗ったものの、長野でいったん途中下車して、市内の産婦人科に行った。
 
実は桃香は千里にも(同意してくれなさそうなので)言っていなかったが、今年人工授精をして子供を作りたいと思っていたのである。ここの産婦人科には、大学生時代に千里を連れて行き、精子を採取して冷凍保存してもらっていた。
 
ただ、正直、その後、千里の“実態”が分かってくるにつれ、本当にあの時採取したのは千里の精子なのかということに、桃香はかなり疑問を感じ始めていた。千里があの当時、男性器を持っていたとは信じがたいのである。
 
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そう考えるようになった根拠は2つある。
 
ひとつは最近千里が高校時代から「女子バスケットボール選手」だったことを知ったことである。確認してみた所、元男子だった選手が女子選手として認められるには、
 
(1)第2次性徴が発現する前に去勢し、女性ホルモンの投与を受けていたか
(2)去勢して2年以上にわたって女性ホルモンの投与を受けているか
 
というのが必要で、むろん性転換手術も終わっていることというのが条件のようである。千里は高校1年の秋までは男子選手だったが、その後の新人戦からは女子選手として出場したと言っていた。それは2006年のおそらく12月頃であろう。ということは、千里は中学2年生だった2004年の10月か11月頃に去勢して、恐らく高校1年だった2006年の夏休みに性転換手術を受けたのではないかと想像した。
 
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実際、2012年7月に桃香自身が付き添って千里がタイに渡り性転換手術を受けた時にもらった病院の書類が2006年7月の日付になっていた。また、あの時、お土産屋さんで青葉へのお土産にブルークォーツとレッドスピネルのイヤリングを買ったレシートまで2006年7月の日付になっていた。つまり、あのタイ旅行は、なぜか分からないが、6年の時間を越えて過去のタイに行ったのではないかという気がするのである。
 
桃香は合理主義者だが、科学的な推測と矛盾する話があったら、それをそのまま受け入れるだけの柔軟性も持っている。実はあのタイ旅行中、千里が妙に若返ったような気がしていたのだが、それが実は高校生時代の千里だったと考えると結構納得がいく。
 
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そして、もうひとつ、千里が出会った頃から女の身体だったのではと疑う根拠は当時の千里とのセックスの感覚である。
 
桃香と千里は成人式の翌日、1度だけ千里のおちんちんを桃香が受け入れる形でのセックスをしたものの、当時千里のおちんちんがあまりにも柔らかすぎて入れるのに物凄く苦労した。最後は強引に指で押し込んだが多分先っぽが少し入った程度であった。
 
その後ふたりは(桃香的見解で)同棲するようになったのだが、それで千里にセックスしようと言っても、千里がしないというので、結局桃香が千里に入れる形でセックスするようになった(実はほとんどレイプに近かった)。その時の感覚が、後でよくよく考えてみると、普通の女の子に入れるのと同じ感覚だったのである。
 
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桃香は女の子とセックスする時、ふつうはヴァギナに入れる。しかし相手がバイだったりして、将来男性との結婚を考えるようになった場合に備えて女の子とのセックスでは処女を傷つけたくないと考えているような場合は、後ろに入れる場合もある。当時桃香は千里にはヴァギナが無いから当然後ろに入れていたつもりだった。
 
しかし後ろに入れるには相手に膝を曲げさせたりして、身体を結構曲げさせる必要がある。また後ろはヴァギナほどの湿潤性が無いので、ゆっくりと入れてあげないと相手は痛がる。ところが桃香は千里とふつうに正常位で結合していたし、かなりスムーズに入っていた。ということは、やはり当時桃香は千里の“ヴァギナ”に入れていたのではという気がしてきた。だとすると、当時既に千里にはヴァギナがあったということになる
 
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それでやはり千里は自分と出会った時、既に女の身体になっていて、おちんちんは精巧なフェイクを装着(おそらく身体に直接接着)していたのではと考えるようになったのである。
 
千里は当時「タック」している状態を何度か自分に見せてくれたが、あれも多分フェイクのおちんちんを装着した上で、それを更にタックするという面倒なことをして見せて、自分におちんちんが無いように見えても、本当はあると思い込ませていたのだろう。恐らく普段はフェイクのおちんちんも付けていない、素の女性器だけの状態で自分と愛し合っていたのではと桃香は想像している。
 

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ところがその点について千里に訊いてみたところ、千里は「当時のおちんちんが本物かどうかはさておいて、方法は説明困難だけど、あそこの病院で冷凍保存されているのは間違い無く私の精子」と桃香に明言したので、だったら使わせてもらおうと考えた。
 
ひょっとしたら千里は中学時代に去勢手術を受ける前に実は精液を冷凍していて、それをあの病院に持ち込んだのでは?というのも可能性のひとつとして桃香は考えている。
 
病院には1ヶ月ほど前に連絡して用意してもらっている。桃香自身の生理周期から、この時期に排卵することが予測されたので、この日の人工授精ということになった。
 

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「ああ。間違い無く今日明日にも排卵しますね」
と診察してくれた医師は言った。
 
「排卵する少し前に精液を入れないといけないですよね?」
「そうです。精子は子宮や卵管の中で数日生きていますので、そこに卵子が到着すると受精します。排卵してしまった後で精子を入れても間に合わない場合があります」
 
それで桃香はその場で自分が書いた同意書と、千里の名前で予め書かれた同意書(実は桃香が千里の筆跡を真似て書いた偽造)を提出して、子宮内に解凍した精液を投入してもらった。
 
そのまま5分ほど休んでからもういいですよとは言われたものの、すぐ動いたら入れた精液が漏れそうで不安だったので少し休みたいと言うと、回復室に案内され、そこで30分ほど休ませてもらった。
 
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妊娠が成功したかどうかは、東京都内の提携している病院で確認してもらえることになった。
 
この日、桃香は結局長野市内の漫画喫茶!に入り、そこで東京行き最終の少し前の時間まで横になったまま休んでから、新幹線に乗った(桃香はケチなのでこういう時にホテルを取って休んだりはしない)。
 
駅近くの神社でおみくじを引いたら「お産:吉。安し」と書かれていたので、うまく行ったかな?と思いながら新幹線の座席で寝ていった。
 

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京都アクアリーナ。
 
18日。大会2日目、また最初に女子400mメドレーリレー決勝が行われたが、青葉たちは5位の成績であった。
 
「メダルに届かなかったね」
「まあ賞状はもらえるからいいか」
 
少しおいて女子400m自由形の予選がある。ジャネさんと青葉が参加し、青葉は予選落ちしたものの、ジャネさんは予選トップの成績で通過した。
 
「なんかジャネさん、足の先が無いのは、もうハンディじゃなくなっている感じだね」
と青葉は杏梨と言い合っていた。
 
続いて行われた男子400m自由形の予選では筒石さんが予選3位の成績で決勝に進出した。
 
お昼すぎに、女子400mリレー予選が行われる。これに圭織/香奈恵/ジャネ/青葉というメンツで出て、無事予選を通過する。少し置いて15時すぎに女子400m自由形決勝と、男子400m自由形の決勝が続けてあり、ジャネさんは2位、筒石さんは3位に入って銀メダルと銅メダルを獲得した。
 
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「やりましたね!」
とみんな祝福するものの本人たちは2人とも
 
「優勝を狙っていたんだけどなあ」
と言って悔しそうであった。
 

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最後から2番目、16時40分頃に女子400mリレーの決勝が行われた。この後は男子の800mリレーが行われて大会は閉じられる。この種目はクライマックスである。
 
圭織が飛び込んで力強く泳ぐ。圭織はこの時無茶苦茶気合いが入っていた。しかし他のコースを泳いでいる選手たちも全国から集まってきた精鋭揃いである。結局圭織は4位で戻って来た。香奈恵がその後を泳ぐ。香奈恵は元々50mの選手なので100mはあまり得意ではない。しかしこの日はとにかく途中でバテてもいいから、全力で泳ごうと思っていたと言う。一時的に3位に浮上し、更に2位の選手にまで迫るものの、やはり復路でペースが落ちていく。最終的に6位まで順位を落とす。
 
義足を圭織に預けたジャネが飛び込んで前の泳者を追い上げていく。往路で1人抜き、復路で1人抜いて4位に浮上する。そしてタッチ間際に3位の泳者をわずかに抜いた気がした。
 
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青葉が飛び込む。全力で泳ぐ。昨夜千里と電話で話し、そのあと試合のビデオを見て感じたことが頭の中にリプレイされる。大量にリードされていても、千里も花園さんも佐藤さんも、諦めずにどんどんスリーを撃っていた。たまらず向こうの選手が停めに来てチャージングしても、それでも放り込んでバスケットカウント・ワンスローで一気に4点取ったりするので、向こうは対策に苦慮していた。だからこそ向こうは最後まで手を緩めず、全力で闘ったのだろう。今自分は全国大会の決勝戦で泳いでいる。ここで全力出さなかったら絶対後で悔やむ。ここでほんの少しの水の掻き方、ほんのわずかのキックの加減が、勝負を左右する。青葉はこれはまさに自分との戦いだと思った。
 
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ゴールにタッチする。
 
顔を上げて電光掲示板を見る。
 
3:59:06 という数字が表示されているのだが・・・・隣のコースで泳いだチームにも同じ数字が出ている。一応向こうの方が上位に表示されている。青葉たちのチームの名前は4番目に表示されている。
 
これは・・・同じタイムだけど4位!??
 

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