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■春産(6)

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青葉は何とかして、亡くなった池川さんの彼氏を見つけてあげたいと考えた。それで色々考えた末、金沢市内の「飴買い幽霊」の伝説の残っている5つの寺を回ってみることにした。
 

 
地図に5つの寺をプロットしてみると、瑞泉寺(白菊町)、西方寺(寺町五丁目)、立像寺(寺町四丁目)の3つはすぐ近くであることが分かる。先日行った道入寺(金石西三丁目)は海岸近く、もうひとつの光覚寺(山の上町)は旧国道8号線(現在は国道359号)城北大通り沿いにある。
 
近くにある3つは瑞泉寺から西方寺へが600m, 西方寺から立像寺までが500mほどである。この3つのお寺がある地域は、寺町寺院群と呼ばれている。
 
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加賀前田家では、前田利家公自身もさんざん手を焼いた仏教勢力を管理するため近辺のお寺を金沢城下周辺の3つの地域に集め、まとめて管理した。それがこの寺町寺院群、それから金沢市東部の卯辰山寺院群、そして金沢市南東部の小立野寺院群である。光覚寺は卯辰山寺院群である。
 
青葉はこの日、アクアに最近購入したルノーの軽量折畳み自転車Ultra Light 7(7.5kg 14inch)を積んで行った。金沢市中心部の駐車場に車を駐め、自転車を降ろして、まずは寺町まで走る。
 
最初にいちばん北側の瑞泉寺に行った。ここは真宗大谷派のお寺で、寛永年間(1624-44)に創建されている。ここの伝説は調べてみたもののよく分からなかった。
 
続いて西方寺に行く。
 
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実は金沢市内に西方寺というのは3つある。この寺町寺院群の西方寺、卯辰山寺院群の西方寺(森山1丁目)、そして小立野寺院群の西方寺(扇町)である。扇町と森山のは真宗大谷派であるが、寺町の西方寺は天台真盛宗のお寺である。西方寺という名前自体は、わりとありがちな名前なので、多分偶然の一致だろうと青葉は考えた。
 
寺町の西方寺は、元々は福井県越前市にあったのを天正12年(1584)にそこの住職を金沢に招聘したため結果的に金沢城付近に移転。その後更に元和2年(1616年)にこの地に移転した。
 
ここには「飴買い地蔵」の伝説が残る。
 
妊娠中の女性が亡くなり葬られたのだが、墓の中で子供が産まれてしまった。それに気付いたこのお寺のお地蔵さんが飴を買いに行って、その子供に与えていたというのである。それがやがて、このお地蔵さんは子供を助けてくれるという話から、更にこのお地蔵さんの顔を削って!子供に飲ませると、子供の病気が治るなどという噂までたち、随分削られてしまった。まるでアンパンマンである。お陰でこのお地蔵さんは現在、目も鼻も耳も無く、のっぺらぼうになってしまっている。
 
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青葉はこのお地蔵さんにもお参りしてきた。
 

更に2分ほど走って立像寺(りゅうぞうじ)まで行った。ここは日蓮宗のお寺である。元々は富山にあったお寺で、天正11年(1583年)に現在の片町付近に移転。更に元和2年(1615年)に現在地に移転したらしい。ここは金沢市最古のお寺とも言われている。
 
ここの伝説もよくは分からなかった。
 
立像寺から光覚寺(こうがくじ)までは4km弱である。青葉は自転車で走っていくが、町の中心部を突っ切るため信号が多く、けっこう時間が掛かった。30分ほど掛けて到達する。
 
ここは浄土宗西山禅林寺派のお寺である。現在は卯辰山寺院群にあるのだが、最初は金沢城の北側・大手門付近の塩屋町と言われた場所にあり、その後、現在地に移転したらしい。塩屋町というと、実は例の俵屋さんのある小橋の近くなのだが、塩屋町にあったのは江戸時代初期で、俵屋の創業は江戸時代末期なので、さすがに両者に直接関わりがあったとは思えない。なお現在の光覚寺は俵屋から1kmほどの距離になる。
 
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ただ、5つの寺の中で、この寺が俵屋にいちばん近いのは確かである。
 

青葉は俵屋にも行ってみることにした。国道を渡り、狭い道を下っていく。ここがずっと下り坂になっており、どうもこの坂が「あめや坂」のようである。右手に小学校を見る。夏休み中だが、野球部の子たちが練習しているのを見た。多分この小学校付近から光覚寺の所までが、あめや坂だったのだろう。現在は途中が国道で切断されてしまっている。
 
子供たちの練習を見ていて、そういえば、こないだまで高校野球もやっていたよな、というのも連想した(実はまだ開催中だが野球に興味のない青葉は既に終了していると思い込んでいる!)。今年の富山県代表は富山第一で富山商に勝って甲子園進出。1回戦は勝ったものの2回戦で広島新庄に敗れた。また、石川県代表は松井秀喜の母校・星陵高校で、能登の航空石川を破って甲子園に進出したが1回戦で市立和歌山に敗れてしまった。石川県大会の決勝を戦った航空石川(別名二高)も7年前に石川県代表になっている強豪高である。そういえば航空石川は女子バスケも強かったな、というのまで青葉は考えていた。
 
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唐突に青葉は星稜高校に行った、中学の同級生・奥村君に連絡を取ってみたくなった。電話してみると、向こうはびっくりしていた。何と言っても電話したのは3年半ぶりである。
 
「今、どこにいるんだっけ?」
「僕、K大に入ったんだよ」
「え〜〜!?じゃ私と同じ大学か。どこの学科?」
「川上もK大なの?僕は計算科学コースなんだけど」
「数物科学類?」
「うん。将来的にはSEになりたいなと思って。川上はどこ?」
「私は法学類」
 
「弁護士になるの?」
「ううん。公共政策コースで、マスコミ、実際にはテレビ局のアナウンサーか記者を狙っている」
「川上は美人だから、裏方の記者ってのはありえない。記者採用だとしてもたぶん頻繁にレポーターとして画面に映されるよ」
「実はその線も狙っている。アナウンサーってあまりにも狭き門だから」
 
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「なるほどー。そうだ、川上、ちゃんと女子大生になれた?」
「うん。私は学籍簿上女子になっているよ」
「戸籍上の性別は変更したんだっけ?」
「それは来年の5月までできないんだよ」
「大変だなあ」
 
ここで青葉は悪戯心が起きた。
 
数物科学類なら、杏梨と同じ学類じゃん。
 
「奥村君、今、何かクラブ入ってる?」
「何も。僕、学費稼ぎで毎週3日居酒屋さんのバイトしてるから、とてもクラブ活動までできないよ」
 
青葉はさっきから奥村君と話していて微妙に感じていた違和感にやっと思い至った。彼は中学時代は自分のことを「俺」と言っていた。しかし今彼は「僕」と言っている。3年の間に何か心境の変化でもあったのだろうか。それとも普段は「俺」と言っているものの、しばらく会っていなかった自分と話しているので少し遠慮して「僕」になっているのだろうか。ただ青葉は彼の口調自体が凄く柔らかなのも感じていた。
 
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「奥村君って、中学の時、水泳部だったよね?」
「あ、うん。でも高校3年間は全然やってないし。高校時代はひたすら受験勉強してた」
「たいへんだったね〜」
 
などと言いながら、杏梨に奥村君を勧誘させちゃおう、と青葉は考えていた。
 

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「でもどうしたの?急に」
「いや。今ちょっと調べ物をしていて、小学校のそばを通ったら、小学生が野球の練習しててさ。それでそういえば今年の甲子園代表は星稜高校だったなと思って、それで奥村君のことを連想して、何となく電話してみたくなった」
 
「寄付のお願いと、甲子園に行っての応援する人の募集もあった」
「ああ」
「まあお世話になったしと思って、でも金無いから5000円だけ寄付した。甲子園まではとても行けないから応援はパス」
「いや5000円でも充分ありがたいと思うよ。5000円を1000人が寄付すれば500万だもん」
「うん。実は僕んとこに電話掛けてきた人もそんなこと言ってた」
「なるほどー」
 

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奥村君との電話を切った後、そういえば、うちの高校は今年どうなってたっけ?と唐突に考えた。それで水泳部顧問の金子先生に電話してみる。
 
「今インターハイで広島に来ているんだよ。今日から4日間なんだけどね」
と金子先生。
「きゃー!すみません。確か寄付のお願いの葉書が来ていた気がしたのに、まだ全然寄付してなかった」
と青葉はマジで謝りながら言う。
 
「えーっと、今からでも寄付してくれるなら歓迎」
「だったら取り敢えず10万くらい振り込みましょうか?」
「そんなに大丈夫!?」
「私、昨年は凄い額の税金取られたんです。今年もかなり払わないといけないから。学校に寄付すれば、税金安くなるもん」
 
「ああ。でもそんなに寄付してくれるなら、今からでもどこかのプールを練習用に借りようかな」
「借りて下さい。かかった費用、全部私が出します。直接先生の口座に振り込んでもいいですよ」
「よし。すぐ借りられるプールがないか調べてみる」
と金子先生は言っていた。
 
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青葉は自転車で俵屋さんまで行き、そこで「じろあめ」を買い求めた。それをリュックに入れて、車を駐めた駐車場まで更に自転車で戻る。自転車を車の荷室に入れていた時、金子先生から電話があった。
 
「隣の廿日市市のプールに2時間枠が幾つか空いていた。1枠2万円するんだけど」
 
「だったら、その貸し切り料金と部員さんの往復運賃で4日分20万くらい振り込みますよ。先生の口座番号教えてください」
「分かった。じゃ後日そのあたりのお金の流れはきちんと整理することにして」
 
ということで先生が教えてくれた口座に、青葉は電話を切るとすぐにスマホを操作して念のため30万円振り込んだ。それであらためて先生に電話して予備も含めて30万円振り込んだことを告げた。
 
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「余った分はその後の水泳部の強化費用に使ってください」
「分かった。活用させてもらうよ。領収書は学校に戻ってから校長と話して発行するから」
「分かりました」
 
「でもこれ凄く助かるよ」
「いや、昨年は私、インターハイ行ってても現地であまり練習できなかったし」
「それもごめん!」
 

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「だけど、どうして突然思い出したの?」
 
「いや、話せば長くなるので、先生、プールを先に予約してください」
と青葉は言った。
 
「分かった」
 
それでいったん電話を切った。
 
青葉は帰ろうかとも思ったのだが、運転中に電話が掛かってくると対応できないので、そのまま運転席で待っていた。先生からの電話は15分後に掛かってきた。枠を4日間で6枠押さえたと言っていた。
 
それで青葉は、まずは10日ほど前に起きた(と思われる)交通事故の結果、車に接触した女性が死亡したが、その女性が死後出産して赤ちゃんを産んでいたのを青葉を含む、大学の水泳部のメンバーが発見したのだと「前提状況」を説明した。
 
それで死亡した女性に身寄りが全く無いので、ともかくも彼女と付き合っていた男性=たぶん赤ちゃんの父親を探していること。それでヒントを求めて市内を自転車で移動していた時、たまたま小学生が野球の練習をしているのを見て、それで甲子園を連想し、そこからインターハイのことを思い出して、そういえばそろそろインターハイではなかったかと思って連絡したのだと言った。
 
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「なんか複雑な状況で思い出してくれたんだね」
「すみませーん!」
「いやでもこちらは助かった。しかしそちらも大変だったんだね」
「うまく見つかればいいんですが」
 
「しかしそれってさ、彼氏の方もその時、一緒にはねられたってことはないのかね?」
「あっ・・・」
 
「そちらもどこかで死んでいたりして」
「ちょっと待って下さい」
 
青葉はスマホをいったん助手席に置くと、バッグから愛用のタロットを取り出し1枚引いた。
 
剣の4!?
 
入院中だ!!!
 
「今タロットカードを引いたら、入院中というカードが出ました」
「なるほどねぇ。だったら病院を探してみた方がいいかもね」
 
「ちょっと警察の人に言ってみます」
「うんうん」
 
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