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■春産(7)

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それで青葉は橋本さんに連絡してみようと思ったのだが、金子先生との電話を切った後、奥村君から伝言が入っているのに気付く。
 
電話してみる。
 
「今思い出したんだけど、今朝、金沢市内で女性が死亡していて赤ちゃんが残されていたのを大学生数人が発見して病院に運んだというニュースが流れていたけどさ。あの時、インタビューに応じてたのが、顔は画面上隠してあったけど、なんか話し方が川上に似てる気がしてさ」
 
「うん。あれは私。でも大変だったよ。それで実は今、その女性の彼氏、そしておそらくその生還した赤ちゃんの父親になる人を探しているんだけどね」
 
「実はさ、僕の住んでいる伯母ちゃんちの近くのアパートで一週間くらい前に自殺騒ぎがあってさ」
 
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「え?」
 
「30歳くらいの男がガス自殺しようとしたんだけど、ガスの臭いがするのに気付いた隣の住人さんがガス会社に通報して、それでガス会社の人が緊急だからというので窓ガラスを破って進入して、結果的に救出したんだよ」
 
「それ凄く迷惑。ガスが上の階に漏れて、上の階の住人がガス中毒になる場合もあるし、万一引火して爆発したら、周囲がみんな巻き添えになる」
 
「僕もそれ思った。でも川上、よく下の階じゃなくて上の階に被害が及ぶって分かるね」
 
「都市ガスはメタンで分子量16だから空気より軽い。プロパンガスは分子量44だから空気より重い。空気の平均分子量は28.8。高校で習ったでしょ?」
 
「習うけど、みんな忘れているよ」
「かもねー」
 
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「でさ、その自殺しようとした住人は、ガス中毒で入院していたんだけど、昨日意識回復して『彼女が死んでしまったから自分も死のうとした』と言ったらしいんだよ」
 
「ちょっと待って」
 
「警察がその死んだ彼女ってどこにいるんだ?と訊こうとしているけど、まだ本人の意識がクリアじゃなくて、なかなか話が通じないみたいなんだよ」
 
「それどこの警察署?」
「僕の住んでいるのは森本でさ、だから金沢東警察署の管轄だよ」
 
管轄が違うのか〜!と青葉は思った。池川さんの事件は金沢西警察署の担当である。
 
「それたぶん関係していると思う。すぐこちらの事件の担当さんに連絡してみる」
と青葉は言ったのだが、奥村君はそれを停めた。
 
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「それって川上がこちらの事件に気付いた経緯を説明できないよ。だから僕が警察に連絡しよう。あの自殺未遂の人が言ってた《死んだ彼女》って、例のテレビで報道されている死後出産の女性のことではないですか?って」
 
「確かにこちらからの説明は難しいかもね。分かった。お願い」
「了解」
 
それで奥村君はすぐに東警察署に電話して、情報提供したようである。
 

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この事件は、K大病院に入院している男性・島下さんに警察が聴取した所、彼女の名前が池川魅好であることが確認され、ふたつの事件がつながった。彼が自殺未遂を起こしたのは11日で、彼は10日の夜8時頃、彼女のアパートに行ったら、彼女が死んでいたので、呆然としてそのまま自宅に帰り、それから自分も死んで彼女の後を追おうとしたらしい。
 
彼が9日夜から10日朝に掛けて泊まり込みで魅好さんとデートしていたことから、池川さんの死亡日が10日であることが確定した。
 
島下さんは、死亡した池川さんが、死後出産し、その子供が元気であることを聞かされると、物凄く驚き、だったら自分は早く身体を回復させて、その子のお世話をしてあげなければと言っているらしい。入院中も自分は死にたい、彼女と同じ所に行きたいとさんざん言っていたのが一転して、生きる希望ができたようであった。
 
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ともかくも赤ちゃんは引き取り手が見つかり、乳児院に入れられる事態は避けられることとなった。島下さんはその子に「マミ」と名付けたいと言ったので結局、島下さんのお父さんの手で出生届が出されることとなった。
 
この子の法的な処理は結構面倒である。
 
ふたりは法的に婚姻しておらず、池川魅好は両親(ふたりとも死亡済み)の戸籍に入ったままになっている。それがマミちゃんの出産で、魅好さん単独の戸籍がいったん作られた上で、マミはそこに入籍されることになる。しかし同時に魅好さんの死亡で、結局マミはその新しく作られた戸籍にひとりだけ取り残されることになる。
 
ここで島下さんはマミを認知した(島下さんの父親が代理で届けを出した:実は認知するのに母親の同意は不要である!)ので、島下さんとマミちゃんの間に法的な親子関係が生じる。その上で島下さんは、いったん戸籍を親の戸籍から分籍した上でマミちゃんの入籍届を出す。するとこれでやっと、島下さんの子供としてマミちゃんが入籍された戸籍が出来るのである。ただしこの入籍には裁判所の許可が必要である。そこまでの処理にはおそらく1〜2ヶ月掛かることが予測された。
 
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青葉は20日夜、単身でアクアを運転し、東海北陸道を南下した。東海環状道、伊勢湾岸道、東名阪/名阪/西名阪、京奈和道とひたすら走り続けて21日朝、高野山の★★院に到着する。
 
「凄い派手な車だな」
と瞬醒さんが言った。
 
「瞬醒さん、乗ってみます?」
「性転換したんですか?とか訊かれそうだからやめとく」
 
青葉はこの春以降、4回ここに来ているのだが、毎回レンタカーで来ていて、この車を乗り付けたのはこの日が初めてだったのである。
 
(無藤宅への攻撃魔法、SDカードの処分、スマホの処分、カーナビの処分)
 
「水見の術をしたいんです」
「そんなの、わざわざここまで来なくても自分ちで出来るでしょ?」
「修行不足なもので」
 
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青葉は池川さんをはねた車を見つけたいと考えていた。そこまでしないと、この事件は完全には解決しない。はねた車は自分が彼女に致命傷を与えたことに気付いていない可能性が高い。
 
そして実は今回わざと自分の車で来たのは、水見の術をするには意識朦朧の状態に自分を導く必要があるので、身体を疲れさせておいた方がいいからであった。
 

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★★院の奥にある瞬嶽師匠も使っていた水盤を使わせてもらう。
 
「それに水を張るのは10年ぶりだ」
「10年前はどなたが使われたんですか?」
「瞬角だよ」
「あぁ」
 
瞬醒さんがろうそくを用意してくれたので、それを今回の目的に合わせた配置に並べる。法衣に着換えてから、ろうそくに火を点ける。
 
水盤に水を入れる。
 
池川さんの持ち物として持って来た彼女の髪飾りをその前に置く。これは亡くなった彼女の髪に付いていたもので、つまり事故に遭った時にも身につけていたと思われるものである。橋本さんに頼んで借りてきたが、用事が済んだら島下さんに返却して良いと言われている。
 
特別な真言を唱える。
 
それと同時に自分の意識をハイパー状態にシフトする。
 
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「*・・・*・・・*・・・*」
 
青葉は数字を4つ言ったが、青葉自身はそれを記憶に留めることができない。代わりに瞬醒さんが記録してくれた。
 
青葉はそのまま自分を睡眠に導いた。
 

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目が覚めると、さきほどの部屋に寝ているが、毛布を掛けてもらっている。水盤とろうそくも片付けてある。
 
法衣を脱いで普段着に戻り、池川さんの髪飾りはバッグにしまう。瞬醒さんの部屋に行く。
 
「おはようございます。毛布、ありがとうございました」
 
「うん。おはよう。記録したよ」
と言って瞬醒さんがメモを見せてくれた。
 
「ありがとうございます」
と言って青葉は笑顔でそのメモを受け取った。
 
青葉は橋本部長刑事に連絡した。
 
「漠然としたもので申し訳無いのですが、****という数字が浮かんだんです。これだけでは対象が広すぎると思いますが」
 
「いや、そこから頑張って探してみるよ。車種とかは分からないよね?」
 
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「そうですね・・・」
と言った時、唐突にヴィジョンが浮かんだ。これは・・・・
 
「白い・・・・****」
と青葉は言った。
 
「済みません。こちらの精度は低いです」
と青葉はいそいで付け加えたが
 
「いや、だったらまずはその車種で調べてみる。それで見つからなければ車種を広げてみる」
と橋本さんは言った。
 

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県警では放送局に頼み、8月10日に現場付近で女性に接触した車を探しているという情報を流してもらっている。
 
この事件は、死亡した女性がその後、子供を出産したという特異な状況であったため、テレビ局はこの件にかなり興味を示しており、全国放送でも放送されている。接触した車を探しているという情報も県警は北陸3県で流してもらえたらと思ったようだが、全国で流れた。
 
車が人と接触して、ぶつかった人の方が「大丈夫、大丈夫」と言ってそのまま立ち去ってしまうというのは、わりとよくあることである。しかし事故に遭った直後は神経が興奮しているので、本人もダメージがよく分かっていないことも多い。あとで気分が悪くなって、病院に駆け込んで、受付で状況を話している内に突然倒れてそのまま死亡、などというケースも結構ある。
 
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だから接触事故が起きた場合は、本人が大丈夫と言っていても救急車を呼ぶのが正しい対応である。
 
また、後で本人が痛みを訴えて病院に行ったり、あるいは死亡してしまった場合に、ドライバーが警察にそのことを届けていなければ、法的には、ひき逃げ事件になってしまう。
 
それを避けるには、本人が「病院には行かなくていい」と言って立ち去ってしまった場合でも、ドライバーは警察に事故を届けておかなければならない。先に届けていれば、後で何かあった場合も、普通の人身事故として処理される。
 
今回の場合、既にひき逃げ事件になってしまっている訳だが、それでも警察の捜査で車両が特定されるのを待つのと、今からでも本人が名乗り出るのとでは、裁判での扱われ方は随分変わってくる。
 
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桃香は優子が出産したことを母から訊き、彼女に電話をした。
 
「出産、おめでとう」
「ありがとう。私も女だったんだなあ、とあらためて感じたよ」
「彼氏は来てくれた?」
「今こちらに向かっている最中らしい。出生届も自分が出してきたいからそれまで待っててくれなんて言ってる」
 
「結婚するの?」
 
「しないしない。それはお互いにそのつもり。私は男を愛せないし、あいつは女を愛せないから最初からその結論は動かない」
 
「複雑だなあ。子供の名前は決めたの?」
「“かなで”と言うんだけどね」
「どんな字?」
「演奏の奏に音(奏音)」
「読めん。その字なら頑張って読んでも『かなね』だ」
「そう簡単には読めない名前を付けたいのだ」
「本人が可哀相だぞ」
「その程度でめげるような子にはせん」
「まあ、私の子供ではないけど、彼氏が到着したら、再度話し合えよ」
「話はしてもいいが、そう簡単には譲らん」
 
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「しかし優子が母親かあ。私も母親になりたいなあ」
「誰か種を入手するあてあるの?」
「いや、種は確保しているんだよ。実は数日前に人工授精した」
「おぉ」
「でも実は父親の承認を取っていない」
「それ揉めるよ〜」
「うん。だから妊娠が確定するまでは何も言わない」
「まあいいけどね。私の種じゃないよね?」
「優子、精子あるんだっけ?」
「射精の経験は無いんだけどね」
「私もそれは経験無いなあ」
 

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「でもその子、戸籍上の扱いはどうなるわけ?」
と桃香は尋ねた。
 
たぶん優子が今回するのと同じことを、桃香は10ヶ月後にすることになる。
 
「事前に私、親の戸籍から分籍しておいたんだよ」
「ほほお」
「それで私が戸籍筆頭者の戸籍が作られているから、単純にそこに入籍されるだけ。これが、まだ分籍前だったとしても強制的に分籍されて私が筆頭の戸籍に入籍される。先に分籍しておけば作業が単純化される」
 
「そっかー。だったら私も分籍しておくかなあ」
「うん。いいんじゃない?」
 
優子も桃香も千里もずっと後まで気付かなかったのだが(知っていたのは朋子だけ)、実はこのような複雑なことが起きようとしていた。
 
波留=信=======優子
  ┃次=千里=桃香┃
  ┃ ┃  ┃  ┃
 幸祐 由美 早月 奏音
 
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___遺伝子父・母 |法的父・母
水鳥幸祐 信次 波留|信次 波留
川島由美 信次 桃香|信次 千里
高園早月 千里 桃香|信次 桃香
府中奏音 信次 優子|信次 優子
 
奏音(2016.8)、早月(2017.5)、由美(2019.1)、幸祐(2019.4)という4人の姉弟は全員違う戸籍に入っており、しかも誰1人として法的な父親である信次の戸籍には入らなかった。
 
信次は男性同性愛者で女性恐怖症であったにも関わらず、4人の子供の父親となった。但しこの4人の中で信次が生前にその顔を見ることができたのは奏音のみであり、生前に認知したのも奏音のみである(千里と信次の結婚式の時に桃香は早月を朱音に預けていたので、信次は早月を見ていない)。
 
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信次に子供(奏音)が既に居ることを千里が知らなかったのは、信次が千里との婚姻前に一度転籍していたことと、千里は夫の預金口座の取引履歴など見たりする性格ではないので、毎月10万円もの養育費が優子に送金されていたことに気付かなかったせいである。そもそも千里は莫大な財産を持っているので信次の収入自体に全く興味が無かった。そして千里に子供(京平と早月)がいることに信次が気付かなかったのは、千里の戸籍には一度もその名前が記載されていないからである。
 
要するにどちらも隠し子である!
 
千里は早月の遺伝子上の父、由美の法的な母であるが、京平と緩菜の実母でもある(遺伝子上の母かつ出産の母、そして生まれる前から本人と母になってあげる約束をしていた存在)。ただし、戸籍上に千里の子供として記載されたのは、養子にした由美と緩菜である。
 
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春産(7)

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