広告:にょたいかっ。 2 (MFコミックス)
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■春産(2)

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「あ、水飴で思い出した!ちょっと寄り道しない?」
と世梨奈が言い出し、青葉たちは車を置いたまま、金石海岸から少し歩いた所にある1軒のお寺にやってきた。
 
「なんか人が多い!」
「ちょうど今、ここで幽霊の絵を公開しているんだよ」
「幽霊?」
「円山応挙が書いたという幽霊の絵」
「円山応挙?」
「それは見たい」
 
それで青葉たちは出来ている人の列に並んでお寺の中に入り、公開されている幽霊の掛け軸の前で手を合わせてきた。
 

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昔、このお寺の近くに飴屋さんがあった。ある晩、もう店を閉めたのにトントンと戸を叩く音がある。主人が出ていくと白い服を着た女がいて
 
「夜分たいへん申し訳無いのですが、飴を少々売って頂けないでしょうか?」
と言って一文銭を出す。
 
「いいですよ」
と言って主人は一文分の飴を売ってあげた。
 
それから女の訪問は毎晩続き6日に及んだ。主人は毎晩その女に飴を売ってあげていたのだが、7日目、女は言った。
 
「お金が無くなってしまいましたが、少しでもいいので飴を恵んでもらえないでしょうか?」
 
「うん、いいけど」
と言って主人はいつも通りの飴を分けてあげたものの、不審に思い、女が帰るのを密かに付けて行った。すると、女はこの寺の墓地の中に入り、ある墓の前ですっと消えた。
 
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主人は腰を抜かしたものの、ここに何かあると直感。お寺の人に言ったところお寺の人も何かを感じて、その墓を掘り返してみた。
 
すると、そこには一週間前に亡くなった女のそばに、産まれてまだ数日の赤ん坊がいて飴を舐めていた。
 
おそらく死んだ後でこの子を出産したものの、自分は死んでいてお乳が出ないので、三途の川の渡し賃に一緒に葬った六文銭を使って飴を買いに来て、それを赤ん坊に舐めさせていたのだろうと人は言った。
 
この生還した赤ん坊は後にこの寺の7代目の住職となり道玄と名乗った。その道玄が亡き母を偲び、たまたま旅の途中で金沢に立ち寄った画家の円山応挙に母の姿を描いてもらったものが、この掛け軸である。
 
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「幽霊の絵といっても、あまり恐くなかったね〜」
「むしろきれいだった」
「やはり依頼主のお母さんの絵だもん。きれいに描いてあげたんだと思うよ」
「あの絵、八方睨みの技法が使われていたね」
「うん。どの方角から見てもこちらを見ているように見える」
「円山応挙か誰かは知らないけど、かなり技術の高い絵師が描いたものだよ」
 
と3人は駐車場に戻りながら言った。
 
「でもその当時の飴って、やはり水飴だよね〜」
と世梨奈。
 
「うん。飴は昔は液体で売られていた。固形になったのは後の時代で、円山応挙の時代なら、液体の“水飴”(みずあめ)と固体の“固飴”(かたあめ)が併売されていたと思う。でも赤ちゃんに舐めさせたのは水飴だろうね」
と青葉は言う。
 
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「昔は水飴って、おやつというより、調味料という扱いだったみたいね」
と世梨奈。
 
「そうそう。甘みを付加する調味料」
 
「それが麦芽糖でできてるの?」
と美由紀が訊く。
 
「うん。水飴は初期の頃は、発芽玄米から作っていた。ところが発芽玄米ってあまり糖化酵素を含んでいないんだよ。だからその頃の水飴は量産できないから、かなり高価なものだったみたい。その内、大麦の発芽したものがたくさん糖化酵素を含んでいることが分かって、発芽した大麦、いわゆるモルトを加えるようになった。これで量産できるようになって安価になり、庶民でも食べられるようになったんだよ。それがたぶん室町時代の後期頃だと思う」
と青葉は解説する。
 
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「モルトってビールに入ってるやつ?」
 
「そうそう。まずはモルト(発芽大麦)に含まれる糖化酵素によって、大麦の澱粉質が麦芽糖、更にはブドウ糖にまで分解される。このブドウ糖を酵母が食べてアルコールと二酸化炭素を排出する。それでビールができる。だから、本来ビールってのはモルトと水だけで出来るものなんだよ。これに香り付けと保存料を兼ねてホップを加えるところまではビールの製法として認められる。コーンスターチとか他の香料を加えるのは邪道」
 
と青葉は解説するが、実はこれは彪志からの受け売りである。
 
「ほほお」
「ビール飲みたくなった。あとでビアガーデンとか行かない?」
「未成年飲酒はよくない」
「硬いこと言わない」
 
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リオデジャネイロ五輪に参加しているバスケット女子日本代表は8月6日から13日まで予選リーグをおこない3勝2敗となった。
 
予選リーグの最後の試合はブラジル時間で8月13日17:45-19:35、日本時間で14日の朝5:45-7:35に行われた。
 
この結果、日本が入っているグループAでは、オーストラリアが5戦全勝で1位通過、フランス・トルコ・日本が3勝2敗で2〜4位通過で、いづれも決勝トーナメントに進出したのだが、ここで問題になったのが順位であった。
 
フランスは344得点343失点で得失点差1、トルコは 324得点325失点で得失点差−1に対して日本は386得点378失点で得失点差8なので、この数字を見るとまるで日本が2位になりそうである。
 
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ところが現在バスケットの国際ルールではこういう場合「勝点が同じになった当該チームの対戦成績のみで勝点を見、それが同点なら得失点差を見る」という難しいルールになっている(以前は得失点率だったが2014年の改訂で得失点差になった)。
 
すると、下記の試合結果から
FRA 55-39 TUR FRA 71-79 JPN
TUR 39-55 FRA TUR 76-62 JPN
JPN 79-71 FRA JPN 62-76 TUR
 
___ For Agn +/-
FRA 126 118 +8
TUR 115 117 -2
JPN 141 147 -6
 
となって、日本は4位通過になってしまった。するとグループBの1位であるアメリカと準々決勝を戦わなければならなくなってしまったのである。
 
「なんか厳しいことになっちゃったね」
と青葉は国際電話で千里と話していった。
 
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「なんであの点数で4位になるのか、説明してもらったけど私には分からなかった。なんか凄く不愉快」
と千里は言っていた。
 
「私も点数をExcelに入れて、あれこれいじってみて、かなり考えてやっと分かった」
と青葉。
 
「でもまあ頑張るしかないよ。少々のことではアメリカ代表と本気の戦いなんてできないから、もう勝敗考えずに思いっきり闘ってくる」
と千里。
 
「うん。無心で頑張れば、ひょっとしたら勝てる可能性もあるよね」
と青葉。
 
「そうそう。でも結局トルコに取りこぼしてしまったのが全てなんだろなあ」
と千里は本当に悔しそうだった。
 

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15日の午後3時頃、桃香は高岡に帰省してきた。
 
「千里が南米に行く直前に旅行代理店に頼んでチケットを取ってくれていたんだよ。おかげで座って帰ってくることができた」
と桃香は言っている。
 
まあちー姉は自分でネットを操作して予約したりすることはできないだろうなと青葉は思った。ちー姉が操作したら、行き先が高岡じゃなくて、高山とか高浜とかになっていたりしかねない!
 
千里は朝の弱い桃香に配慮して11:24東京発の《はくたか》を取っていたので、桃香の帰りはこの時刻になったようである。
 
それでその時刻から、朋子のヴィッツに、桃香と青葉が乗り、途中朋子の母の敬子の所にも寄って一緒にお墓参りに行った。
 
「仕事は忙しい?」
と朋子が訊く。
「暇で困っている」
「あらあら。でもお給料は良いんでしょ?」
「うん。まあ、女の給料としては割といい方のようだ」
「だったら頑張らなきゃ」
「頑張らせてくれたらいいんだけどねぇ。もういっそ性転換したいよ」
と言う桃香の表情に、青葉は《破綻》が近いなというのを感じた。
 
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お盆明けすぐに、京都で“全国公”こと全国国公立大学選手権水泳競技大会が行われた。
 
17日、青葉は朝4時前に家を出てアクアを運転し金沢駅まで行くと、時計台駐車場に車を駐め、朝5時に金沢駅で遠征メンバーと落ち合った。なお、桃香はこの日東京に戻るということだったが、こんな朝早い時刻に桃香が起きられるわけがないので、先に出た。桃香は結局お昼前に帰ったらしい。
 
さてこの朝金沢駅に集まった遠征メンバーは、女子ではリレーメンバーの圭織・香奈恵・ジャネおよび補欠兼マネージャーの杏梨。男子では筒石さんと諸田さんの2人である。
 
5:35発のサンダーバード2号に乗り、7:51に京都駅に到着する。地下鉄と阪急を乗り継いで20分ほどで西京極駅に到着。会場の京都アクアリーナは駅から徒歩5分である。開会式は8:50から行われた。なお、顧問の角光先生は代表者会議のため前日に京都入りしている。
 
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開会式の後、最初に女子400mメドレーリレーの予選があった。背泳=圭織/平泳ぎ=香奈恵/バタフライ=青葉/自由形=ジャネと泳いで予選を通過した。男子のメドレーリレーの予選を経て、すぐに女子400m個人メドレーの予選があって圭織が参加したものの、残念ながら予選落ちした。
 
「あまり休む暇無かったですもんね〜」
「うん。ちょっと辛かった。少し寝てるからよろしく〜」
 
お昼過ぎに男子200m背泳ぎの予選があり、諸田さんが参加したが予選落ちであった。
 

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その日のお昼御飯の時間、青葉は千里に電話を掛けた。
 
「ちー姉、お疲れ様」
「悔しい!でも快感だった!」
 
と千里は電話口で言った。
 
アメリカとの準々決勝は16日の18:45-20:20、日本時刻でこの日の6:45-8:20に行われ、日本は110-64の大差で敗退。今大会はBEST8に終わった。
 
「この点差聞いただけで、アメリカは本気だったんだなと思ったよ」
と青葉は言う。
 
「うん。本気だった。実力差のある相手なら適当にお茶を濁して準決勝以降に戦力を温存したと思う。でも、そんなことしたら食われると思って全力で叩き潰しに来たんだと思う。私もあっちゃんもレオも完敗だった。出直しだよ」
 
「日本は最後ゾーンディフェンスまで使ったみたいね」
 
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「うん。でもほとんど無意味だった。強引にゾーンを破られた。でもおかげで私たちはアメリカのしっぽを望遠鏡のスコープの中にやっと捉えた感じだよ。4年後に向けて再出発。私ももっともっと鍛えるよ」
 
と千里は言った。
 
青葉はその日の夜になってネットで試合の様子の録画を見た。試合が終わった時、ほとんどの選手が泣いていた中、千里、花園亜津子、佐藤玲央美の3人だけが泣かずに厳しい顔でコートを見つめているのを見て、青葉は明日は自分も頑張らねばと思った。
 

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