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■春産(4)

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「お疲れ〜! 頑張ったね」
と圭織が寄ってきてまだ水中にいる青葉と笑顔で握手した。
 
「これ4位ですか?」
「ううん。同着3位だよ。2つ並べては表示できないから、向こうが便宜上、上に表示されただけ」
 
「ってことは、メダルは?」
「もらえる」
「やった!!」
 
それで次の種目、男子の800mリレーが行われている間に、女子400mの表彰がおこなわれ、青葉たち4人は銅メダルを掛けてもらった。賞状はジャネさんが代表してもらった。
 
「ジャネさん、パラリンピックに向けて景気づけになりましたね」
「その前にインカレで金メダル取るよ。私、性転換して男子の方に出てもメダル取っちゃる、という気分だよ」
 
とジャネは力強い表情で言っていた。
 
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彼女は今回、個人で出た400mで銀メダル、そしてリレーで銅メダルでメダル2個獲得である。この人、もう少し早く意識を回復していたら、オリンピック本戦にも手が届いていたかもと青葉は思った。
 

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帰りの電車に時間的余裕があまり無いので、閉会式が終わったらすぐに阪急/地下鉄と乗り継いで京都駅に行き、サンダーバードに飛び乗る。駅構内で食料やジュースを調達して、車内で乾杯した。女子メンバーと顧問の先生はサイダーやコーラであるが、筒石さんと諸田さんはビールを飲んでいる。
 
「いや、普段は金麦とかクリアアサヒとかだけど、こういう時はビール行かなきゃ」
などと筒石さんは言っている。
 
「何か違うんだっけ?」
とアルコールに詳しくない香奈恵さんが訊く。
 
「今飲んでいる一番搾りはビール、金麦とかクリアアサヒは第四のビール」
と筒石さんは説明するが、香奈恵さんは
 
「第四?」
と言って、よく分からないふう。
 
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「要するにビールに似た味のアルコール飲料だよ」
と圭織さんが補足したが
 
「いや。ビールとは全然味が違う」
と筒石さん。
「まあ、単に泡の立つアルコール飲料というだけのことだな」
と諸田さん。
 
「へー」
 
「金麦は金麦で充分美味しいんだけどね」
「一番搾りとかのビールと比べたら、比較にならない」
「でも安いんですね?」
「そうそう。ビールの半分くらいの値段で買える」
「なるほどー」
 

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結構飲んだり食べたりしていて、もうすぐ福井という頃になった時、唐突に筒石さんが言った。
 
「そういえば、俺昨晩は不在だったけど、彼女は大丈夫だったかなあ」
 
「筒石さん、恋人ができたんですか?」
「あ、いや、ここの所、毎晩俺んちに来る女が居てさ」
 
青葉たちは顔を見合わせる。
 
「筒石さんのアパートでデートしてるんですか?」
「いや、そういうんじゃないよ。夜になると俺んちに来て、飲み物をくれというから、スポーツドリンクを水で溶いたのをあげていたんだよ。ペットボトルの空きに入れて渡していた」
 
「何ですか?それ」
 
「女は最初は代わりに俺に十円玉をくれた」
「十円!?」
 
それはいくらなんでも時代錯誤な代金である。
 
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「それが何日か続いたんだけど、一昨日の晩は、なんでも金が無くなったと言ってた。でも、いいよいいよと言って、いつも通りのレシピでスポーツドリンク作って渡してあげた。それで俺、昨晩は居なかったから、どうしたんだろう?と思ってさ」
 
などと筒石さんは言っている。
 
青葉は背中がぞくぞくとするのを感じた。青葉は杏梨、圭織、ジャネと顔を見合わせた。4人とも多分同じものを想像した。
 
「ちょっと今晩、筒石さんのアパートに行っていいですか?」
「ああ、いいけど。俺んちで打ち上げする?」
「いえ、打ち上げは明日あらためてどこかで。でもその女性が気になるので」
と青葉は言う。
 
「私、付いてようか? 若い女の子を1人で筒石君ちに夜中にはやれない」
と圭織さん。
「その手の話なら、むしろ私に任せて。私、その手のものの専門家だから」
とジャネさんが言った。
 
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専門家ね〜。“幽霊の専門家”というより“幽霊本人”のような気がするが。
 
「圭織先輩はおうちに帰った方がいいですよ。遅くなったら家族が心配すると思うもん。私も付いて行きますよ」
と杏梨が言った。杏梨は金沢市内にアパートを借りて独り暮らしである。
 
それで結局、青葉、ジャネ、杏梨の3人で金沢に着いたら筒石さんの家に行ってみることにした。圭織も何かあったら急行するからと言ってくれた。
 

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サンダーバードが金沢に着いたのは21:22である。時計台駐車場に駐めていた青葉のアクアに乗って、筒石さんのアパートに移動した。アパートに着く少し前、コンビニの所にさしかかった時、ジャネさんが
 
「あ、私をそこで降ろして。おやつ買ってから行くから」
と言う。
 
「幡山先輩、俺のアパート分かります?」
「うん。分かる分かる」
 
それでジャネはそこで降りた。筒石さんも彼女が「水渓マソ」として、彼と一時的に付き合い、筒石さんのアパートでセックスまでしていたなどとは思いもよらないだろう。
 
それで残りの3人で筒石のアパートの所まで行く。アパートの近くの路上に駐める。この付近は夜間は駐車監視員は巡回してこないのは、4月に筒石さんをずっと《笹竹》に尾行させていた時に確認済みである。念のためその《笹竹》を車の中に残しておいた。
 
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階段を登ってすぐの所にある201号室の鍵を筒石さんが開け、みんなで中に入る。杏梨が顔をしかめる。
 
「これ、ひっどーい」
 
4月に“マソ”が筒石さんと付き合っていた時は、彼女がきれいにここを掃除していたのだが、あれから3ヶ月半経つと、もう《元の木阿弥》である。
 
「あ、ゴミとかは見ないようにして」
「運動会しているゴキブリは?」
「気にしない、気にしない」
 
「杏梨帰る?」
と青葉が訊くが
「ううん。居る」
と彼女は答える。
 

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それで青葉が台所のシンクにうずたかく積み上げられている食器を最低限洗ってお茶くらいは飲めるようにする。やかんは沸騰させたのをいったん捨ててから、再度水を入れて湧かした。そんなことをしている内にマソさん、もとい、ジャネさんが、エコバック2つに入れた食料・飲料を買ったのを持ってアパートにやってきた。
 
「コンちゃん、これひどーい。少し自分でも掃除しなよ」
とジャネさんは言ったが、筒石さんは
 
「え?幡山先輩、なんで俺の愛称を知っているんですか?」
などと言っている。
 
「ジャネさん、それいくらしました?私が半分出しますよ」
「そうだね。青葉ちゃんお金持ちっぽいから半分こしようか」
と言ってレシートを見せてくれたので、青葉は彼女に千円札を2枚渡した。
 
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ジャネさんが買ってきた《ごきぶりホイホイ》を5個、部屋のあちこちに仕掛けた上で、おやつを食べながらあまり騒がないようにして待つ。青葉と杏梨は紅茶を飲んでいるが、筒石さんとジャネさんはジャネさんがコンビニで買ってきたブロイベルグの缶ビールを飲んでいる。
 
「うちの姉がブロイベルグ好きだと言ってました。ちゃんと正しい製法で作られているのに安くて素敵だって」
と青葉が言う。
 
ジャネがピクッとした。
 
「ねえ、青葉ちゃん、あの人何者?」
とジャネが訊く。
 
「へ?」
 
「あの人、物凄く恐い。全てを見透かされている気がした。たぶんあの人を怒らせたら、私たぶん一瞬にして消滅させられる」
 
「うちの姉はそんなことしませんよ」
「でも必要な時は、躊躇せずに相手を倒すでしょ?」
 
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そういえばそういう話を千里としたなと青葉は思った。
 

アパートに着いてから2時間ほど経ち、0時の時報を聞いた時、筒石が
 
「はい」
と返事するのを杏梨は聞いた。
 
「ん?」
と思う。筒石さん何に返事したのだろう?と思ったのだが、青葉とジャネさんが緊張した顔をしているのを見て、杏梨は何も尋ねなかった。
 
筒石が立ち上がる。そしてドアを開けて誰かと話している感じなのだが、杏梨には筒石の声だけが聞こえる。ドアの外側にも誰も居ないように見える。まるで筒石が独り芝居でもしているかのようだ。
 
やがて筒石は台所で粉のスポーツドリンクを水で溶かし始めた。そしてさっき青葉が台所を片付けて洗って水切り籠に入れていたペットボトルにそれを詰める。そして誰かに渡しているようである。
 
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すっくと青葉とジャネが立ち上がった。ふたりは、ほとんど気配を感じさせない歩き方で、玄関の所に行くと、筒石が閉めようとした戸をそっと手を当てて停めると、靴も履かずに外に出た。
 
杏梨もそっと歩いてそちらに行く。
 
青葉とジャネはアパートの玄関前の通路をじっと見ている。杏梨もそっとそちらを見た。
 
「204号室に入ったね」
とジャネ。
「うん。あそこに何かありますね」
と青葉。
 
「筒石さん、ここの管理人さんは?」
「え?ここは不動産会社が管理しているけど」
「そこの非常呼び出し先を教えてください」
「えっと・・・どこだろ?」
 

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結局青葉がスマホで検索して緊急連絡先を調べて電話した。
 
「人の命に関わるんです。部屋を開けて欲しいのですが」
「あなたは?」
「同じ階の201号室の住人の友人です。204号室から弱々しい赤ちゃんの声が聞こえるんです」
「分かりました!警備員を向かわせます」
 
それで20分ほどで警備会社の人が来た。そして青葉たち4人が立ち会う中、警備員さんが204号室の戸を開ける。
 
「うっ・・・・」
と杏梨が声をあげた。
 
強烈な腐敗臭がするのである。
 
夏だしなあと青葉は思った。
 
警備員さんもこの臭いに顔がこわばった。
 
「女性は見ない方がいいです」
と言うので、警備員さんと筒石さんの2人だけで中に入った。
 
「赤ちゃんが生きてる!」
という声がある。
 
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「119番します」
と警備員さんが言っているが
 
「待ってください。私の車で運んだ方が早いです」
と青葉は中に向かって言った。
 
「あ、いや。自分の車で運びましょう」
と警備員さんが答えた。警備員さんも動転していたのだろう。
 
警備員さんが産まれてそう日数の経てない赤ん坊をタオルで抱いて出てきた。へその緒は付いたままである。けっこうな臭いがする。血のようなものも付いている。たぶん出産の血と、便とで汚れていたのを軽く拭いてからタオルに包んだのだろう。筒石さんもかなり緊張した顔をしている。
 
 
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