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■春産(16)

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「おお。そちらも妊娠したか」
と電話の向こうの優子は楽しそうに言った。
 
「そろそろ父親に打ち明けなければならぬ」
と桃香は言っている。
 
「中絶しろと言われたらどうする?」
「さすがにそれは言われないと思う」
「信頼しているんだ」
「怒るのは確実」
「まあ、頑張ってカムアウトするんだな」
「元男の娘だから、自分が男性機能を使ったこと自体をかなり後悔している雰囲気もあったし」
 
「そうだ。男の娘といえばさ」
と言って、優子は鈴子の件を話した。
 
「それは仰天したろうなあ」
「ちんちんって生えてくるもんだっけ?とか言ってるからさ。それは赤ちゃん取り違えて、別の子を連れて来た可能性あるからすぐ病院に連絡しろと言って。それで連絡させたら、病院では他のお母さんから、男の子のはずだったのに、おちんちんが無くなっている!と連絡があったばかりということで」
 
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「それはショックだったろうな」
「赤ちゃんが性転換して女の子になっちゃったよぉ、と言って奥さんが放心状態になっていたのを、赤ちゃんの顔を見に来たお姉さんが発見して。それでそちらもこれは取り違えが起きたのではと病院に連絡したらしい」
 
「じゃ、その子と鈴子の子が取り違えられていた訳?」
 
「それがどうもそうではないみたいで。確かにその2人はほぼ同時に生まれたらしい。でもこの病院では、赤ちゃんの取り違えが起きないように生まれてすぐ足の裏にマジックで名前を書くようにしているんだよね。それを双方確認してもらったら、鈴子の所は消えかかってはいたけど、ちゃんと《光島》という名前が書いてあったと。向こうもちゃんと自分たちの苗字・青木というのが書いてあったらしい。それで双方とりあえず病院に来てくださいというので、行ってみた」
 
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「それで精密検査?」
 
「そうそう。まず血液型をチェックした。鈴子の所は夫婦ともAB型で弓絵ちゃんと思っていた男の子の血液型はA型、青木さんところは夫婦ともO型で真純君と思っていた女の子の血液型もO型」
 
「その組合せなら取り違えはあり得ないね」
 
「それで念のためということで、当日生まれた5人の両親と赤ちゃんとに来てもらって全員のDNA鑑定をすることになった」
 
「その結果は?」
 
「真純君と思っていた女の子の所は、実は名付けで両親と双方の祖父母とで揉めて、やっと真純と名前が決まって出生届を出しに行こうとしていた所で性別が違うことが発覚したらしい。ゆっくりやっていると出生届の期限の14日が迫ってくるし、そもそもまた親戚間で揉めかねないと言ってるらしい。鈴子はこの子が本当に自分の産んだ子なのか半信半疑になって、お世話する自信が無いと言ったので、取り敢えず病院が預かっている。そんな状況なので、超特急で検査してもらっているらしい。結果が出るのは明日」
 
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「取り違えが発生していなかったら、性別の勘違い?」
「それしか考えられないよね」
「都合良く2組で逆に勘違いした?」
「出産に立ち会った医師たちもその時は3時間の間に5人の赤ちゃんが生まれてパニックだったので、この性別で間違い無いかと言われると自信が無いというんだよね。あるいはどこかで書類が入れ替わってしまったのか」
 
「じゃ、どうなったか結果だけ教えて」
「OKOK」
 

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9月2日(金)。
 
インカレは競技初日を迎える。この日、K大学チームが参加するのは
女子400m自由形、男子400m自由形、女子200m背泳、男子200m背泳、女子100m平泳、男子100m平泳ぎの6種目、および男女の400mリレーである。
 
インカレの日程は毎日午前中からお昼くらいに掛けて予選が行われ、夕方から決勝が行われることになっており、その間数時間の休憩時間がある。
 
この日の予選では、まず女子400m自由形にジャネと杏梨が出て、ジャネは3位、杏梨は16位で各々A決勝・B決勝に進出した。
 
なお今大会ではジャネが出場する全ての種目で、蒼生恵が介添え役として付き添い、義足を預かったり、競技後には足の先を拭いて導電性の保護シートをつけてから義足を填める手伝いをすることが特例として認められている。ジャネが普通に歩いてプールのそばまで来て、スタート台に乗った後、足先を外して蒼生恵に預けると、観客からどよめきや、一部悲鳴まであがっていた。(義足ということを知らないとちょっとしたホラーである)
 
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男子400m自由形は筒石と猿田が出て筒石のみ決勝進出した。女子100m平泳ぎには香奈恵が出てB決勝に進出。男子100m平泳ぎには1年生の中原が出てB決勝に進出した。男子200m背泳は諸田が出て予選落ちであった。
 
女子200m背泳に参加した寛子は16位でギリギリB決勝に進むことができた。予選の途中経過を見ていて「18位かなぁ」と言っていたのだが、失格者が2人出て、16位に繰り上がったようである。
 
今大会ではまだバックストロークレッジに慣れてない選手も多く、スタートが違反になった(多くがタッチ板に指が触れていなかった)選手、違反にはならなかったものの、気にしすぎてスタートが遅れた選手もあったようである。
 
「昨日たくさん練習していてよかったね〜」
「うん。あれ慣れるまでは大変。慣れたらスタートが楽になるとは思うけど」
 
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また折り返しの時の泳法違反を取られた選手も随分出たようであった。どうも今大会の折返観察員は厳しめのようである。
 
予選の最後は400mリレーであった。
 
先に女子の予選(5組)が行われ、圭織/香奈恵/青葉/ジャネというメンバーで泳いで7位に入り、決勝に進出した。その後、男子の予選(5組)が行われたがこちらは予選落ちした。
 

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休憩時間中はほんとに全員休んだ。午後のB決勝・A決勝に出る人は、休憩時間中のプールで練習する権利があるのだが、今更練習するより身体を休めた方がいいと筒石さんが言い、圭織さんも賛成して休むことにした。会場を出て少し離れた所にある吉野家に入り、たくさん牛丼を食べた後(筒石は4杯食べた)、会場に戻ってサブプールの指定された場所に行き休んだ。100m平泳ぎと400mリレーを30分間隔で泳がなければならない香奈恵は横になって寝ていた。
 
16:00から競技が再開される。
 
女子400m自由形では杏梨が12位になったが、ジャネは優勝して金メダルを獲得した。片足の先が無いスイマーが金メダルを取ったというので会場が多いに沸き、表彰式後のインタビューでもかなり長時間取材されていた。写真もたくさん撮られていた。
 
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男子400m自由形で、筒石さんは5位でメダルを逃した。繰り上がりで女子200m背泳に出た寛子はB決勝の2位で、つまり10位になった。女子100m平泳ぎに出た香奈恵は14位、男子100m平泳ぎに出た中原は11位であった。
 
そして18:47。今日最後の種目400mリレーの決勝が始まる。競技は
 
女子B決勝→女子A決勝→男子B決勝→男子A決勝
 
の順である。青葉たちは予定時刻通り18:54に名前を呼ばれてプールの端に並んだ。普通は4人なのだが、ジャネの介添えで蒼生恵も水着ではなくユニフォーム姿で並んでいる。ジャネは最終泳者なので、蒼生恵の出番も最後の引き継ぎの時である。
 
レースは第1泳者の圭織が張り切って飛ばして3位で戻って来て、香奈恵もかなり頑張って5位までしか順位を落とさず、その後青葉がかなりフォームを意識してスピード優先で泳いで3位まで順位を上げ、ジャネがその順位をキープしてゴールした。2位の選手をかなり追い上げたのだが0.2秒及ばなかった。距離で言うと35cmくらいである。
 
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そういう訳でこの種目、青葉たちは銅メダルを取った。
 
「ちょっと惜しかったね」
 
「ごめーん。私があと少し頑張っていれば」
と香奈恵。
 
「いや、それはみんなお互い様」
「勝負は時の運」
 
そんなことを言っていた時、蒼生恵が何か考えているようにしていたので、青葉は何だろう?と思った。
 

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9月2日の午後。明日からの全日本クラブバスケットボール選抜大会に出場するため、東京40minutesのメンバー、江戸娘のメンバー、千葉ローキューツのメンバーが新幹線(と奥羽本線)で秋田県横手市に移動した。3チーム共同で練習用に予約しておいた体育館で2時間ほど練習した。
 
千里はこの大会とは直接関係ないのだが、40 minutesのオーナーとして取り敢えずこの日は同行した。合同練習でもみんなに声を掛け、何人かと1on1などもした。この日千里はチーム名の入ってないバスケットウェアを着ていた。
 

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桃香はこの日会社をサボって、長野市で人工授精をした水浦産婦人科と提携している都内の大間産婦人科にやってきた。早期妊娠判定薬の結果も見せた上で検査・診断を受ける。採尿して、体重と血圧も測られた。
 
「確かに妊娠しているようですね。内診していいですか」
「はい。お願いします。経膣プローブ(超音波撮影用の器具)も入れられます?」
「今それを入れていいですか?と訊こうとしたところです」
「それもお願いします。よかったらその動画をこれに」
と言って桃香はUSBメモリを渡そうとするが
 
「済みません。コンピュータウィルス感染防止のため当院ではUSBメモリやSDカード・メモリースティック等へのコピーはお断りしているんですよ。必要であれば200円でCDに焼いてお渡ししますが」
「分かりました。それでお願いします」
 
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それで内診台に乗って診察を受ける。
 
「ちゃんと子宮内に着床してますよ」
と言って、動画もモニターで見せてくれる。
 
「おお、これが赤ちゃんかぁ」
「まだ大豆程度の大きさですね。これから十月十日のお付き合いになりますから、大事にしてやってね」
 

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内診が終わった後、また椅子に座って先生とお話しする。
 
「人工授精したのが8月17日で前回の生理が8月4日ですか」
と医師は桃香の書いた問診票を見ながら言う。
「はい。ですから、出産予定日は5月11日になりますよね?」
と桃香。
医師はパソコンにデータを打ち込んでから答えた。
「はい。5月11日ですね」
 
「ついでに戌の日は、11月24日、12月6日、12月18日で」
「よくおわかりで。今つわりはありますか?」
「まだそんな感じのは無いです」
「4〜5週目から始まる人が多いのでそのつもりでいてください。遅い人は6〜7週目からという人もありますが」
 
「分かりました。区役所に母子手帳もらいにいけばいいですかね?」
「それは心拍が確認されてからにしましょうか。今の段階ではまだそれが確認できないので。来週くらいには多分確認できますよ」
「そうですね。焦ることもないかな」
 
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「出産はどこでなさいます?」
「実家に帰って出産すると楽ではあるのですが、そのまま向こうに留め置かれて東京に戻ってこれなくなりそうだから、こちらで産みます」
「未婚なんですね。この精子を提供なさった男性との結婚の予定は?」
と医師は問診票を見ながら訊く。
 
「いや、結婚できないんですよ。その子は性転換して今は女性になっているので」
「ああ、なるほどですね」
と医師が平然と言ったので、桃香はこの先生好きかもと思った。
 
「でも人工授精に同意してくれたということは、その人との関係は良好なんですね」
「はい。事実上レスビアンの夫婦として一緒に暮らしているので」
「だったら出産の時は、彼女がサポートしてくれますか?」
「と思います」
「でしたら、次回はその彼女と一緒に来院してもらえます?」
 
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この言葉に桃香は焦る。やっべー。でもどっちみち言わねばならないことだ。
 
「あ、そうですね。そうします。えっと、ここは土日はお休みでしたっけ?」
「土曜日の午前中なら診察やってますよ」
「じゃ彼女のスケジュールを確認してから、予約入れますね」
「はい。じゃお待ちしてますね」
 

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真琴はここ数日、妙に吐き気がするので、風邪でも引いたかと思った。色々とスケジュールも立て込んでいるし、こじらせてはまずいと考え、この日は制作会議を休ませてもらおうと考え、サブリーダーのハナに電話する。
 
「ごめーん。体調良くないから、今日休んで病院に行って来たいのよ。それで申し訳無いけど、レコード会社との今日の打合せ、代わってくれない?」
 
「そういや、こないだから調子悪いみたいだったね。飲み過ぎ?」
「今年に入ってからはまだお酒飲んでないよ」
「禁酒してんだっけ?」
「別にそういう意識もないんだけど、結果的にはそんな感じになってるかも」
「じゃこちらは適当にやっておくよ。でもマコは忙しすぎるからたまには少し休んだ方がいいかもね」
「ごめんねー」
 
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それで真琴は朝から病院にやってきた。医師の診断を受けたのだが、医師が首をひねっている。
 
「あなた、ちょっと尿検査をしたいので、トイレでおしっこ取ってきてもらえますか?」
「はい」
 
それで看護婦さんからコップを受け取ると、トイレ(真琴は基本的に女子トイレに入ることが多い)でおしっこを取り、受付に出した。
 
10分ほどしてから名前を呼ばれて再度診察室に入る。
 
そして医師は言った。
 
「あなた妊娠してますね」
「え〜〜〜〜!?」
 
「これはつわりですよ。妊娠には気付いておられませんでした?」
「ええ。まさか私が妊娠なんて・・・」
「前回の生理はいつありましたか?」
「生理ですか・・・・。私、これまで生理なんて来たことないんですけど」
「は!?」
「だって私、男だし」
「ちょっと。あんた冗談はやめてよ」
と医師は怒ったように言った。
 
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