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■春産(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-05-02
 
8月29日(月)。
 
その日朝、優子が産んだ赤ちゃん・奏音の体重は2606gであった。“2500g以上”という基準をクリアしたので、退院の許可が出る。この日も千葉から信次が(またもや女装で)出てきてくれたが、彼は今日は車できていて、彼のムラーノにセットしたベビーシートに奏音を乗せて退院した。
 
ムラーノは信次が運転席、優子の母が助手席、運転席後ろにベビーシート、助手席後ろに優子という配置である。なおこのベビーシートは信次が千葉のカー用品店で買ってきたタカタ製のもの(シートベルト固定式)で、2年半後には信次と千里の間の娘である由美が使うことになる。由美は奏音の妹である。
 
信次は昨夜21時頃千葉を出て途中休憩しながら走って来て、朝、優子の実家に到着した。既に優子の父は出勤した後である。念のため1時間ほど優子の部屋で仮眠させてもらってから、3人で一緒に病院に出かけ、退院の許可を取った。
 
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鈴子の所にも顔を出す。
 
「わあ、そちらは今日退院か。私は今日はまだ退院許可出なかった。明日になりそう」
と鈴子は言っていた。
 
鈴子は優子が女装の信次を紹介すると
「美人さんじゃん。優子が惚れた訳が分かったよ」
などと言っていた。
 
「お股にちょっと余分なものが付いてる女の子だけどね」
「ああ、最近はそういう女の子も多いから問題無いと思うよ」
 
鈴子と優子は結局1時間ほどおしゃべりしていて、その間に信次に買物を頼んだ。女装してきているのをいいことに、ナプキンとかまで頼んでいる。信次は女装外出というものは実は高校時代から時々やっていたものの、さすがにナプキンを買うのは(公式見解としては)初めてで、メモを見ながら買ったものの、かなりドキドキした。
 
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信次が戻って来たところで優子は退院する。
 
優子の希望で赤ちゃんを籐製のバスケットに入れる。鈴子のお母さんが優子と奏音だけの写真、お母さんを入れた写真、信次を入れた写真、2人とも入れた写真を撮ってくれた。
 
それで駐車場まで行き、ムラーノのベビーシートに載せ替えて実家まで移動した。実家では優子の部屋に敷いたベビー布団に寝せる。
 
「信次、何時頃までに帰らないといけないんだっけ?」
「今日1日有休もらって出てきたんだよ。明日は出勤しないといけないから、一息付いたら帰ろうかな。でもベビー用品とかで必要なものがあったら、先に買物してくるよ」
 
「東京まで5時間くらい?」
「500kmくらいだから7時間、途中の休憩入れて9時間かな。だから午後3時に出て、夜中0時くらいに着く感じ」
「それだとETCの深夜料金に掛からなくてもったいないよ」
「いや、ちゃんと時間調整して0時過ぎに降りるよ」
 
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深夜料金は0-4時の間に高速の走行時間帯が掛かった場合に料金が3割引になる。小杉−大宮間では11900円が8800円にと、3000円も安くなる。
 
「でもそもそも500kmなら4時間くらいで行かない?」
「お前、どういう計算してんだよ?」
と信次は呆れているようだ。
 

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「信次さん、もしよかったら、うちのお父さんが帰ってきてから、一緒に退院お祝いしてから、お帰りになりません?」
と優子の母が言った。
 
「そうですね。朝はすれ違いになってしまったから、そうしようかな」
と信次は答える。
 
本当は女装姿でお父さんに会いたくなかったから出勤した後くらいの時間に到着するように時間調整したのである。しかしお母さんから言われたら、やはり会っていかないといけないかと考えた。
 
それで結局お父さんが帰ってくるのを待ち、夜10時頃家を出ることにする。明日の朝はそのまま会社に出る。一応念のため背広上下と男物の靴は車に積んできていた。
 
「じゃ、買物メモ書くね」
と言って優子は大量の買物メモを書いた。
 
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「このヱビスビールって、お父さんに?」
「私が飲んじゃダメ?」
「お前、授乳している間はアルコール禁止」
と信次。
「だめかなあ」
と言って優子は母を見るが
「おっぱいあげている期間中にお酒飲むなんてあり得ない」
とお母さんも言っていた。
 

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2016年8月30日。
 
青葉たちK大水泳部の一行はインカレ(日本学生選手権)に出場するため、北陸新幹線と高速バスに別れて東京に出た。大半は高速バス(北鉄バス)を利用した。
 
8/29 22:50金沢駅東口→8/30 7:00八王子駅
 
実際には途中で高速道路の速度規制が掛かったため八王子駅に到着したのは8:10くらいになった。
 
一方、足の不自由なジャネは高速バスでの移動は辛いだろうということで新幹線にした。これに4年の寛子と1年の青葉が付き添った。それでこの3人だけ別行動になった。
 
8/30 6:00金沢→8:32東京
 
実際には悪天候のため、東京到着は8:40を過ぎていた。そこから中央線特快に乗って八王子に着いたのは10時前になった。
 
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インカレは9月1-4日に東京辰巳の国際水泳場で行われるが、宿は八王子に取っている。また八王子市内のプールを練習用に借りている。その予約時間が10時からだったので、どっちみちジャネたちが到着してから練習は始まった。
 

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さて高速バスや新幹線が遅れたのは悪天候のせいである。
 
富山県は28-29日は晴れていたのだが、29日夜から天気が崩れた。東京は29日から雨が降り出し、30日のお昼くらいまで雨が続いた。これは台風10号の影響である。
 
この台風は物凄い迷走台風であった。
 
8月16日、北太平洋のウェーク島付近で熱帯低気圧として発生した後、北西に進行して日本列島に近づいた。ウェーク島というのは、南鳥島とハワイの中間くらいにある環礁で、戦時中に日本が占領していた時期は大鳥島と呼ばれた。太平洋航路を飛ぶ飛行機の重要な中継地点であり、この島にいる人間の大半がその航空関係のスタッフと米軍関係者である。
 
台風の多くは東経125-150度のフィリピン・インドネシア付近で発生するのでこの台風は発生した場所からして異例だった(ウェーク島は166.5度)。日本に接近してきてから、八丈島付近で突然進行方向を西に変え、列島にそって西進、四国沖で21日に台風になった。この台風と同じ頃に出来ていた台風11号は前日の20日に熱帯低気圧から台風になっているので、実は台風番号と台風になったタイミングが逆転している。
 
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その後この台風はUターンして東に進行し始めたかと思うと突然南下を始めて大東島付近まで行くが、ここでまたUターンして普通の台風の進路のように北東に向かって進み始め、この29-30日頃、関東方面に近づいてきたのである。
 
物凄い長寿台風でもある。
 

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外は天気が悪いものの、青葉たちは屋内プールを借りているので全く問題無く練習をすることができた。この日は午前10-12時と、午後16-18時の時間帯を借りていたので、午前中の練習をしてからお昼を食べ、3時間ほどの自由時間を経て(数人単位でファミレスやカフェをはしごしていた。ドンキを見に行った子もいた)また練習したのち、八王子市内の旅館に入って休んだ。
 
今回の遠征に参加したのはこういうメンツである。
 
男子 筒石(4) 猿田(4) 諸田(3) 中原(1)
女子 ジャネ(4) 圭織(4) 寛子(4) 香奈恵(3) 杏梨(1) 青葉(1)
 
これに顧問の角光先生、マネージャーとして1年生の蒼生恵が付いてきている。(最初3年の奈々に打診したらライブに行きたいと断られ、2年の布恋に打診したらバイトが忙しいと断られて蒼生恵になった)
 
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旅館の部屋割りは男子4人と角光先生が1部屋、女子は4年の3人で1部屋、1−3年の4人(蒼生恵を含む)で1部屋である。
 
旅館にはインカレに参加するグループであることを言っており、宿泊期間中は蛋白質たっぷりの夕食を出してもらうことになっている。料金もそれを想定した料金で契約している。
 
この日は豚しゃぶが出てきて、みんなたくさん食べるので旅館側もどんどん追加してくれた。
 

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「でも青葉はだいぶ食事をしっかり取るようになったね」
などと杏梨が言う。
「この1年ちょっとの間に体重が6キロ増えた」
「それでもまだまだ細いもんなあ」
「1年前に私、先輩から体重10kg増やせと言われたんだよ」
「うん。あと5-6kgは増やしていいと思う。そしたら来年のインカレでは金メダルが狙えるよ」
 
青葉は昨年春の時点で48kgだった体重を54kgまで増やしているが、菊枝からは最低でも58kgくらい、千里からは60kgくらい(但し筋肉優先)にした方がいいと言われている。高校の水泳部部長だった魚君からも、もっと脂肪を付けて最低でも54kgにしないと水の中で体温が維持できないと言われていた。
 
青葉は今54kgにはなったものの実際には筋肉の方が多いので現在の脂肪の量では実は体温維持ができない。
 
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大船渡湾の横断などやっていた時期は、わざと体内の脂肪がたくさん燃焼するような泳ぎ方をすることで体温を維持していたのだが、それは結果的に先日宮中さんからも指摘された「腕力頼り」の泳ぎ方になってしまっている。体温の維持は身体の脂肪に任せてもっと効率の良い泳ぎ方をすれば確かにスピードが上がるはずという計算は成り立つ。
 
「えーっと、私このインカレで水泳部は辞めさせてもらいたいんですけどー」
「それは許さん」
と杏梨。
 
「えーん・・・・」
「うちは部長か副部長くらいまでは務めないと勝手には辞められないのだよ」
と圭織が言っている。
 
青葉は圭織に退部届を出しているのに、その圭織が握り潰しているのである。
 
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「まあ4年生の私たちこそマジでこのインカレで引退するけど、預かっている青葉の退部届は香奈恵にそのまま引き継ぐから」
と圭織。
「退部届が提出済みである以上、重ねての退部届けは受け付けられないからね」
と香奈恵も言っている。
 
「辞めさせてもらえないなんて、なんか恐い部って感じだ」
と蒼生恵が言っている。
 

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「あ、台風は岩手県に上陸したんだ」
と食事が終わった後、旅館のロビーにあるテレビを見ていて寛子が言う。
 
「岩手県ですか?」
「青葉ちゃん、岩手県の生まれだったよね?」
「いえ。生まれたのは埼玉県の大宮なんですけど、岩手県の大船渡で育ったんですよ」
 
「あ、その大船渡に上陸したって」
「うっそー!?」
 
それでスマホでもニュース検索してみると、大船渡は市内全域に避難勧告が出たという情報が入っている。岩手県では行方不明者が出ているという情報もあったので詳細な情報を調べていたら、県北の、宮古市の北にある岩泉町で老人ホームが濁流の直撃を受け、行方不明者が出ている模様という情報で、この件は今の時点ではそれ以上の詳細は分からないようだ。
 
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大船渡に居る親友の早紀に電話してみたが、早紀にも椿妃にも柚女にも歌里にも、電話はつながらない。あるいは基地局か大きな線がいかれたのかもと青葉は考えた。取り敢えず今は無事を祈るしか無い。
 

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8月30日(火)高岡。
 
この日の昼、鈴子が金曜日に生まれた娘・弓絵と一緒に退院した。出生届は土曜日に夫の手で届けられており、出産育児一時金も今朝振り込まれていて、母がお金を下ろしてきてくれたので、それで病院の支払いも済ませることが出来た。
 
昨日優子が退院した時は晴れていたのに、今日はあいにく雨である。荷物を母に持ってもらい、鈴子はクーハンに入れた弓絵だけを抱えて病院の玄関からタクシーのドアまで少し雨に濡れながらの退院になった。
 
自宅に戻ったのが、14時頃であるが、やはり足りないものが色々あることに気付く。それで母が買物に行ってくれた。
 
鈴子は弓絵にお乳を飲ませてからベビーベッドに寝せていたのだが、30分もした時、泣き出した。おっぱいをあげようとしたのだが、どうもおっぱいではないようである。
 
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「うーん。あっそうか。おむつかな?」
と言っておむつを交換することにする。
 
実はおむつの交換は初めてである。病院では全部看護婦さんがしてくれていた。
 
吸水性の高い紙おむつなので何も難しいことはない。今付けているのを取り外して新しいのを取り付けてあげるだけである。一応やり方は事前のお母さん教室で習っている。
 
「じゃ、ゆみえちゃん、おむつ替えようね〜」
と言って鈴子は弓絵のつけているおむつを取り外した。そして新しいのを付けようと思って・・・・
 
固まってしまった。
 

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