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■春三(12)
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「九転十起の像?」
解説の文書を読むと、横浜の海浜地帯の開発をし、京浜工業地帯の父、またセメント王とも呼ばれた浅野総一郎という人の像らしい。横浜・川崎・東京などにも像が立っているのだが、出身地のこの氷見市藪田の地にも2008年に銅像を建てたということらしい(*25).
若い頃にたいへん苦労したが知人から「七転び八起きで足りなかったら九転十起(*24) しろ」と言われて頑張り、ついに成功したのだという。
(*24) 浅野総一郎 (1848-1930) と同時代の人でもう1人、九転十起を座右の銘にしていた人がいた。やはり事業家として成功した広岡浅子 (1849-1919) である。ふたりは生年が近いし、同じ“浅”という字を名前の一部に持つが両者に特に接点は無さそうである。広岡浅子はNHKの連続テレビ小説『あさが来た』(2015)でも取り上げられた。
(*25) ここの浅野総一郎の像は、川崎市の東亜建設工業のコンクリー製の像から型取りをして作ったブロンズ像で、制作を担当したのは高岡市の竹中銅器である。元々高岡の銅器は地場産業になっている。
この像のコピーが2009年氷見漁港にも設置されたが、そちらの像は2012年に群馬県渋川市に寄贈され、2023年現在、浅野財閥が建築した佐久発電所近くのふれあい公園に氷見市を向いて立っている。
浅野総一郎の像はこの他に、横浜市の浅野中学校高等学校、東京都江東区のアサノコンクリート深川工場、富山県砺波市の小牧ダム近くの庄川水記念公園などにも立っている。
せっかく寄ったので、記念写真も撮る。
月子が
「ぜひ自分が撮影したい」
と言って、青葉(金沢ドイル)・千里(金沢コイル)・明恵(金沢セイル)・真珠(金沢パール)が銅像の下に並んでいるところを月子がルミックスで撮影した。
でも真珠がテレビカメラで撮影した分にはちゃんと月子ちゃんが写っているから意味なーい!
青葉は説明文をなにげなく見ていて
「え?ここ藪田って言うの?」
と訊いた。真珠が答える。
「ここ確か昔は藪田村でした。氷見市に併合されたんですよ」(*26)
「なるほどー」
と青葉は頷くように言った。
(*26) 藪田村は1954年に氷見市に併合された。この銅像が立っている場所は、かつての藪田小学校の跡地で、同小学校は近隣の阿尾小学校と1996年に合併され、海峰(かいほう)小学校となった。
ここで運転手は明恵から真珠に交替し、国道160号で七尾市まで行く。ここでまた明恵に交替して能越道に乗り、別所岳SAでまたトイレ休憩する。今回は月子は素直に最初から女子トイレに入った。真珠が運転して能越道を走り、能登空港IC(実質JCT) から珠洲道路に移る。そして駒渡パーキングで最後の休憩をした。もちろん全員女子トイレに入る。
そして14時半頃、目的地の旧人形美術館跡に辿り着いた。
現地には薫館長と遙佳・歩夢の姉妹も来ている。両者挨拶する。
「きれいに整備されましたねー」
「崖崩れ危険地帯であることには変わらないので大雨が降ったら立入禁止になります」
「でないと危ないですよね!」
「でもここまで来る道も綺麗になってたからびっくりした」
「美術館の移転先の案内図まで建てて頂いて」
「この案内板が無かったら、とうとう美術館は潰れたか。儲かってなかったみたいだもんねー、とか噂されている」
と遙佳が言っている。
ともかくも、こちらの4人、向こうの3人で記念写真を撮った(撮影は月子ちゃん)。なお月子については、青葉のケアをしてくれている人と説明したので、きっと看護師さんか何かと思われた雰囲気だった。女でないとは誰も思わなかったようである。
だいたい月子が女声を使っていたので青葉は「なるほどねー」と思った。
結局その日はレストラン・フレグランスでお食事を頂いてからS市内のホテルに宿泊した。日帰りするのは、青葉本人はいいとしても、青葉の胎内の赤ちゃんが辛いだろうとというので一泊することにした。
月子はもちろん青葉と同室(ツイン:宿泊名簿にも鈴江青葉・鈴江月子と書いたので姉妹と思われたかも)だが、今日こそ“肉体の秘密”を unveil されるのではと不安だった。しかし青葉は部屋に入って部屋付きのお風呂に入ると
「ごめーん。少し疲れたみたい。セックスしなければ私の身体自由にしていいからね」
と言って眠ってしまった。
やはり疲れたんだろうな。体重も赤ちゃんの分重くなってるし、と思い、青葉の唇にキスしてから自分も眠った。
夜中にふと目が覚める。スマホのバイブが鳴っているのに気がつく。
見ると千里さんからのメールである。
「青葉は起こさないようにして、青葉の持ってるトートに入っている巻物をこちらの部屋に持って来て。私の部屋は514」
とある。
青葉のトートを探ると確かに何か巻物のようなものが入っている。
それを持って514号室に行く。ここは青葉と月子が515, 明恵と真珠が516である。
「これですか」
「そうそう。青葉も修行が足りないよね。これが読めないなんて」
と言って千里は、月子には白紙に見える巻物を見ながら?、別の和紙に筆で書写始めた。
書写は凄く丁寧に1時間ほど掛けて半紙2枚に恐らく1000字程度の文章を書いた。月子は椅子に座ってスマホを見ていた。千里さんが書写を終えたようなので声を掛ける。
「草書ですか」
「そうしょー(そうそう)」
「えっと」
「この程度は青葉も読めるでしょ」
「やはりある程度の霊感があるとその元の巻物の文字が見えるんですか」
「この巻物はモニターみたいなものだね」
「ああ」
「その向こうにあるデータベースを読む。修行を積んでないとそのデータベースにつながらない」
「やはり大変な修行なんですか」
「まあ普通の人には耐えられない。私もこの修行のせいで死んだからね」
「え〜〜!?」
「持ち帰ってテーブルの上に置いてて」
「はい!」
「それと“封印の実行は11月8日”と伝えておいて」
「11月8日火曜日ですね」
「月子ちゃん、プレゼントあげるからショーツ脱いでスカートめくって下半身が露出するようにしてそこに寝て」
「え〜〜〜!?」
「変なことはしないから。ちなみに君が性転換手術を受けちゃったのは知ってる。君が性転換しても青葉は平気だよ。でも月子ちゃんは、まだそのこと青葉に知られたくないでしょ?」
「あ、はい」
「君が女の子になりたがってたなんて驚いたけど、取り敢えずバレないように協力してあげるよ」
「分かりました」
いつ頃ばれたのかなあと思いながら月子はベッドに横になると、パンティを脱ぎ、覚悟を決めてスカートをめくった。
(“この”千里には一目で彼が女体なのが分かった。分からない青葉は勘が悪すぎ(妊娠のせいかも)。でも千里1も2Aも“まだ”分かっていない)
「擬装用のちんちんつけてあげるね」
と千里さんは言うと、月子の股間に何かを取り付けていた。途中で腰を浮かせてと言われ、千里さんはそこにベルトか何かを通したようである。
「OK。見てごらん」
それで月子が上半身を起こしてみると、股間にペニスができている。でも触ってみても「物を触っている」感じである。自分の身体のような感触が無い。しかし凄いリアルで本物みたいに見える。
「まあ見た目は誤魔化せる。そしてこの疑似ペニスにはAIが搭載されてるんだよ。だからこのペニスは性刺激に対して自分がどう反応するべきかを知ってる。往復運動させることで勝手に勃起する。興奮が絶頂に達すると疑似精液を射精する、ただしこれ装着してる側はあまり快感が無いから。演技してね」
(実際にはFTMさん向け*ィルドーと同様に付け根側の突起がクリトリスを刺激するので結構な快感がある。特にこの疑似ペニスの場合、往復運動がクランクによりクリトリスへの回転運動に変換される)
「分かりました!」
と答えながら月子は研修で「AI配偶者」というのを習ったことを思い出す。
「あと緊急に勃起させたい時は睾丸を強く握れば勃起するから」
「へー」
(この機能を持つ*ィルドーは存在する.パートナーが握りしめてあげたりする)
「でもこれ高かったのでは?」
「ある会社の試作品。モニター募集中。女性とのセックスも可能なはずだけど、今青葉とはセックスできないだろうから、オナニーとかしたらレポートを書いてもらえばいい。レポートの送り先はここ。何か適当な捨てアドレス作ってそこから送ればいいよ」
「はい」
「これは薄い人工皮膚のベルトで身体に固定しているから、よくよく観察しない限りバレない」
「凄いですね」
「これ尿道とはつないでないから、おしっこは個室でしてね」
「はい」
(本当はそれもつなげられるが、月子の“女子化教育”のためにわざとそこはつないでない)
「まあ常時装着してると邪魔だろうし、青葉と会う時だけ着けてればいいよ」
「あ、そうですね」
それで月子は青葉の部屋に帰って寝た。これが多分午前3時半頃である。
青葉は朝4時半頃目が覚めた。隣のベッドで彪志が寝ている。青葉はこの2日間で芽生えていた微かな疑惑:彪志まさかほんとにちんちん取っちゃってないよね?というのを確かめたくなった。それで彪志の毛布の中に手を入れ、スカートの中、そしてショーツの中に手を入れてみた、
ペニスがあったのでホッとする。
まあ取っちゃっても私は別にいいけとね。その場合、もう男女型のセックスとかフェラとかしてあげられないけど。
青葉はつい「サービス」してあげたくなった。やわらかいペニスを揉んだり振ったりして刺激している内に大きくなってくる。そこから往復運動に変えるとペニスは更に大きく堅くなってくる。
そして・・・生殺し状態で放置!して自分のベッドに戻ると二度寝した。-
(11/6)朝7時半頃起きてから、青葉は月子から巻き物の解読をしてもらったことを聞いた。
「わあやってくれたんだ?」
と言って巻物と千里の字で半紙に書かれた祝詞を抱きしめる。
「それで封印の実行は11月8日火曜日と言ってた」
「分かった」
8時頃、千里が朝食のお弁当を各部屋に配った。
「ちー姉、巻物ありがとう」
と言ったが、千里は
「巻物って何?」
などと言っている。
あぁ、やはり夢遊状態で行動してるから、記憶が無いんだなと青葉は思った、
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春三(12)