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■春三(6)
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それで彪志は思い至った。
「もしかしてここ男女1日交替?」
「うん。エレベータの中にも掲示が出てたじゃん」
「気付かなかったぁ!!」
しかしそれで結果的に彪志はその夜は由梨さんと一緒に女湯に入ることになってしまった。彪志はできるだけ彼女の身体を直視しないようにしていたが
「温泉に慣れてないのね」
と彼女は笑っていた。
でも俺、初めて青葉以外の女性のヌードを見ちゃったよぉと思う。でもこれ入浴のためにお風呂に入っただけだから浮気にならないよね?と自分に言い訳する(言わなきゃ分からないって)。
なお孔雀の湯は檜(ひのき)の浴槽で、お湯の噴出口は木彫りの孔雀が使用されていた。また白虎の湯は全体的にも白〜黄色基調だったが、こちらはピンク基調であった。洗い桶や椅子も、向こうは白、こちらはピンクだった、シャワーヘッドもその色で統一されていた。
3日目(11/3)の講習は、午前中2枠の講義があった。フェイク動画などの現状とそれに対抗するための手段についての解説、また現在または将来的に考えられる法的規制などについても解説があった。
お昼を食べた後解散する、
駐車場で車に乗ろうとしたら、由梨さんと遭遇する。なんと隣に駐まっていたエクストレイルが彼女の車だった。
「かっこいい車だね」
「女の子を乗せるとわりと喜ぶよ」
もしかしてこの人ビアン?でも話している内容もわりと男っぽかったし。ビアンでもそう驚かないかも。この子にはきっと普通の女性でも惹かれる。
「鈴江さんとは名刺交換してもいい気がする」
と言って彼女は自分の名刺をくれた。
《***システム株式会社・システム部・第3システム課主任/システム監査技術者・NTT.com Master ADVANCE(*7)/由梨浩美》
成り行き上、彪志も“鈴江月子”の名刺
を渡す。
あはは、俺、女名義の名刺を渡しちゃったよ。
(*7) ".com Master"(ドットコムマスター)はNTTが実施しているネットワーク技術者の認定試験。以前は★・★★・★★★の3レベルだったが現在はBASIC, ADVAMCE の2レベルに整理されている、かなり高度のネットワーク知識を持っていることを表す。
“システム監査技術者”は情報技術者試験の最高峰で、最低でも7-8年程度のシステム設計の経験が無いとまず取れない。(一応受験資格に制限は無い)
「なるほどー。お薬扱ってるからお化粧禁止なのね」
「そちらはソフト関係ですか。お化粧なんてしてられませんよね」
「でも鈴江さん、あまり女装で出歩くのに慣れてないみたい」
ギクッ。もしかして俺が男だってバレてたの?
「でも手術は完了してたみたいね。タイかどこかで受けたの?」
「えっと・・・国内かな」
「私は仕事辞めたら手術受けようと思ってるんだけどなかなか辞めさせてくれないのよ。今回も幹部研修に行かされたし、1月からは係長してもらうからと言われてるし」
もしかして由梨さんって男の娘さん!?
で、でも裸を見ちゃったけど、女の子にしか見えなかったぞ?おっぱいも大きかったし。
「女装勤務したらクビにされないかと思ったけど、君の女装は女にしか見えないからそのままでいいと言われて、女名前の名刺まで作ってもらったし」
あはは。俺も女名前の名刺作ってもらった。
「鈴江さん、たぶん会社では男装でしょ?」
「うん。実は」
「勇気持って女装で出て行きなよ。色々話を聞いてたら、鈴江さんの会社なら容認される気がしたよ。かなり開放的な雰囲気だもん」
「そうかもね」
「万一首になっても、鈴江さんなら普通に女性として再就職できる気がするなあ。戸籍も女性に直しちゃいなよ。親かなんかに反対されてるの?」
「え、えーっと」
「じゃまたどこかで」
「うんまた」
それで彼女はエクストレイルで走り去った。
彪志は首を振って自分の車に乗る。千里さんに教えてもらったコインランドリーをカーナビにセットして出発した。
来た道を戻る。見かけたスーパーで食料品を買い込んだ。むろん研修に出たスカートスーツのままである。更に見かけたコンビニで夕食用のお弁当を買う。東部湯の丸ICから上信越道に乗った。このルート、特に妙高高原付近は夜間濃霧が出るので、明るい内に上越ジャンクションまで行かなきゃと思う。更埴(こうしょく)JCTを過ぎて、松代PAで小休憩する。
なんか女装で3日間過ごしたので男装に抵抗があり女装のままである。でもここでトイレ(もちろん女子トイレ)に行った後、スカートは普段着のスカートに穿き換え、上もブラウス(毎日替えてた)と上衣を脱ぎ、Tシャツとトレーナーに替えた。
仮眠すると夜中まで寝そうな気がしたので、30分くらいの休憩で出発する。上信越道終点の上越JCTで富山方面に行く。そして難所の親不知(おやしらず)付近を通過し、越中境(えっちゅう・さかい)PAで休憩。ここでトイレに行ってからお弁当を食べる。今17時くらいである。食べてる最中に唐突に思い至った。
とうとう女性のヌードを見てしまったと思ってたけど、由梨さんって男の娘だから女性にカウントしなくてもいいよね?だったら俺まだ他の女性のヌードは見てないことになる。良かったぁ!
でも彼女、ヌードも女にしか見えなかったのにどうやって誤魔化してたんだろう?などと考えていたら“したい”気分になったので、車がロックされていることを確認の上、スカートのまま、毛布と布団をかぶって“密かな楽しみ”をする。
何だか俺これがヤミツキになってしまってる気がする。男のよりずっと気持ちいい。もう男に戻りたくない気分になりそう(←そろそろ覚悟を決めて子供を産む気になろうか)。
逝った後、深い眠りに落ちて行く。
目が覚めたら夜中の1時少し前である。トイレに行って来てから出発する。40分ほど走り、呉羽PAで再度トイレに行ってから小杉ICを降りた。そして・・・・
カーナビの目的地、千里さんに教えてもらったコインランドリーに行ってみたのだが。
閉まってる!
そうだよね。夜中だもん。
これが午前2時頃だった。
彪志は、仕方無いので洗濯物は浦和に帰ってから洗うことにし、高岡ICそばの道の駅に移動しようと思い、カーナビをセットした。カーナビには所要時間10分と表示されている。
それでコインランドリーを出る。まだスカートのままだが、道の駅で着替えればいいと思った。道の駅から青葉の家までは30分くらいで行く。
それで運転していたのだが・・・・・
なかなか着かない。
おかしいなと思い、車を脇に寄せて確認する。
目的地まで12分!?
遠ざかってるじゃん。なぜ!?
彪志はほんとうはいけないのだが、カーナビの所要時刻を時々チラ見しながら走ってみた。目的地まで10分、8分、6分、と近づいて行く。突然表示が15分になる。なんで〜!?
彪志は車を脇に停めて考えた。
「カーナビに頼らずに自分の目で見ながら行こう」
と思う。
それで何とか頑張って国道8号線に出る。この道を東行すれば道の駅への侵入路があるはず。
もう少し、あと少し、と思っていたら、あれ?ここは道の駅より先だ、と思う。
ショッピングモールを利用してUターンする。反対側からは接近しにくいがこの付近は何度も通っているのでだいたい知り尽くしている。
あと少し行くと入れるところがあるはず。あと少し・・・
と思っていたら、いつの間にか通り過ぎている。
うっそー!?
彪志は8号線を5往復したが、どうしても道の駅の近くに寄れなかった。
疲れ果てて、ちょっと考え直そうと思って脇に寄せて車を停める。それでしばらくボーっとしていたらそばにパトカーが停まる。国道8号線は駐停車禁止である。キャー、切符切られると思った。警官が運転席と助手席のそばに1人ずつ就く。運転席側の警官がノックする。
彪志が窓を開ける。
「免許証見せて」
「はい」
と言ってバッグの中から取りだして見せる。警官は免許証を確認してから言った。
「この道は駐停車禁止ですよ」
ああ、切符切られるかなと思いながらも答える。
「すみません。道に迷ってしまって」
「どこ行きたいの?」
「万葉の里の道の駅なんですが、どうしても辿り着けなくてもう4時間くらいこの付近を彷徨ってて」
「4時間も!」
とさすがに警官は驚いたようである。
「それで疲れてちょっと作戦を考え直そうと思って、つい脇に停めてしまいました。ごめんなさい」
助手席側に居た警官が言う。
「あそこは他所の地区から来たドライバーには少し分かりにくいよね」
「確かに進入の仕方が難しいことは難しい」
「数日前にも夜中に辿り着けずに困ってた新潟ナンバーの女性がいたね」
「あなたも大宮から来たらここ分かりにくいかもね」
「じゃ先導してあげるから、付いてくるといいよ」
「ありがとうございます!」
それで警官は免許証を返してくれた。
あれ〜?切符は?あとでまた提示するのかな。
それでパトカーは彪志の車を先導してくれた。するとちゃんと道の駅の中に入ることが出来たのである!
やった!助かった!
でも切符切られちゃう・・・・と思ったら、パトカーはこちらに手を振ってそのまま道の駅から出て行っちゃった。
えっと切符は・・・・
勘弁してもらったみたい!
やはり大宮ナンバーで“よそ者”と思われたし、女性ドライバーだから勘弁してくれたのかも、などと彪志は思った。
しかし取り敢えず・・・・
トイレに行きたい!
ということで道の駅のトイレに飛び込んだ。
呉羽PAを出てから4時間ほど。
辛かったよぉ。
おしっこは大量に出た。少し漏れていたようだが、パンティライナーのお陰で下着は濡らさずに済んでいた。パンティライナーは交換しておいた。
車に戻ると、彪志は疲れているので
「少し寝よう」
と思い、後部座席に行って仮眠した。着替えなきゃ、荷物の整理しなきゃ、青葉にメールしなきゃと思ったが、とにかくクタクタだった。
目が覚めてからスマホを見ると(昼の)12時である!
連絡もせずにと青葉怒ってるだろうなと思うが、先にトイレ(むろん女子トイレ)に行ってくる。
それから青葉に電話した。
「ごめんねー。途中で道に迷っちゃって」
もちろん青葉との会話は男声を使用する。
「ああ、道に迷ったんだ?いや仕事の予定が伸びてるのかもと思ってこちらからの連絡は控えていた」
「あと1時間くらいでそちらに行けると思う」
「了解」
それで彪志は荷物の整理をする。
浦和にそのまま持ち帰りたいもの(基本的に女物)、青葉の家で洗ってもらうもの(多くが“未使用の”男物下着やワイシャツ)、青葉の家での着替え(男物)、研修の資料、お土産、ゴミ!余った食料。
そこまでの整理で20分くらい掛かった。
今着ている服を全部脱ぐ(車は窓を全部目隠ししている)。
身体をボディシートて拭く。
服を着るが少し悩んだ末にショーツは穿いて(新しいパンティライナーを付ける)、その上にトランクスを穿いた。ブラジャーも着けないとバストが痛いのでちゃんと着ける。ブラ隠しにグレイの厚手シャツを着る。その上に少し大きめのトレーナーを着る、少し胸があるように見えてもブラで下着女装しているせいだろうと青葉は思ってくれるだろう。下はレディスだけどブルージーンズを穿いた。スカートじゃないのが寂しい気がしたが仕方無い。青葉のお母さんの前にスカートで出るわけには行かない(と思った)。
最後に着替えた服を浦和に持っていく荷物に入れた。
念のためもう一度トイレに行く。
今度は男装してるから男子トイレにと思い、男子トイレに入ったら中に居た50歳くらいのおじさんが
「あんた、女が男便所に入るのはやめなさい」
と注意する。
「すみません。間違いました」
と言って彪志は慌てて男子トイレを出る。
俺、男装してても女に見えるの〜?(←ブラジャー着けてレディスパンツ穿いててどこが男装してると?)
それで恐る恐る女子トイレに入る。
列が出来ているのでそこに並ぶ。並んでいる人たちはこちらを一瞬見たが別に何も言わない。え〜?やはり俺女に見えるのかなあ。
それで列がはけて個室が空いたところで中に入って、ふつうにおしっこをした。
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