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■春三(9)
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打合せが終わってから明恵は2階(*16)の自分の部屋に行った。青葉と真珠は青葉の部屋に行くが
「凄い!美しい!」
と真珠が声をあげる。
「うっそー。彪志がこんなに美しくなるとは」
と青葉は驚いている。
「お母さんが夕飯持って来てくれて、これ見られたけど、笑われるかと思ったら『美しい』と言われた」
「うん。美しい!」
「1回邦生さんにきれいにメイクしてもらった後で、教えてもらいながら自分でやってみた」
と彪志。
「自分でやったんだ!」
「邦生さん教え方うまいから、だいぶ覚えた。特にアイライナーとかは他人にされるのは怖い」
と彪志は言っている。
「うん。あれは自分でやらないと怖い」
「俺、マコに何度か眼球にアイライナー刺された」
「ごめんごめん、手元がくるうんだよ」
「てっきり変なものができてるだろうから笑ってやろうと思ってきたのに」
それで美しくメイクした彪志を愛で、記念写真なども撮った。
「じゃぼくたち上に行ってますから」
と行って邦生は真珠と一緒に2階の部屋(*16)に行った。
彪志はメイクを落として、青葉が面白そうに彪志のおっぱいを揉んだりしてその日は寝た。
(*16) 明恵や真珠が頻繁にこちらに泊まるので“千里が”播磨工務店を動かし、北側の第2リビングの上に2階を作った。ここは東側に高さ7mのピアノルームがあるので。ここに2階を作っても全然目立たない。また太陽光パネルの周囲には壁があるのでいるのでまぶしくはない(そうしないと近隣も迷惑)。つまり太陽光パネルからの形殺は防いでいる。
現在の部屋割り当て
201 真珠・邦生
202 (空き)
203 明恵
204 初海
2022年11月4日(金) 0:00.
松崎元紀が口述試験の過去問題集を読んでいたら、0時の時報ととも唐突に“魔女っ子千里ちゃん”が現れた。
「こんばんわ、元紀ちゃん。ぼくは男の娘の味方“魔女っ子千里ちゃん”だよ」
何度来ても毎回名乗るんだなと思う。
「今日の約束だったよね。これに署名して」
と言って渡されたのはこんな書類である。
性別訂正届
福岡家庭裁判所御中
令和4年11月4日
氏名 松崎元紀
生年月日 平成15年6月2日
住所 福岡県福岡市西区◇◇X丁目XX番XX号
本籍地 薩摩川内市**町**番地
戸籍筆頭者:松崎元紀
性別が誤っていたので正しい性別を届出ます。
訂正前性別:男
訂正後性別:女
申請者署名:
『今日の約束って何だ?』と思いながら取り敢えず署名捺印する。
「OKOK。じゃこれ裁判所に提出しておくね。1ヶ月後くらいには法的にも女性になれるよ。じゃねー」
と言って、魔女っ子千里ちゃんは姿を消した。
「ちょっと待って。それほんとに裁判所に提出するの〜?」
と元紀は焦った。
(きっと真和との勘違い。しかも真和に言ったのは「法的に女の子になりたくなったら呼んでね」ということだった。それが「法的に女の子になる」と話が変わっている)
ところでH南高校女子バスケットボール部のメンバーは10月5日に千里のアドバイスで全員オーダーメイドのスボーツブラを注文した。9月25日の練習試合までは全員普通のブラを使っていたのだが、この日既製品のスポーツブラも買って帰ったら、それだけで全員動きが見違えた。
オーダーしたスポーツブラは10月23日(日)に届いたのだが、これを着けるとまた各々の動きが物凄く良くなった。ただ一部から声が出た。
「これあまりにも軽快に身体が動くからこのブラ自体に慣れるまでは試合に使うのはかえって危険」
それでH南高校の女子バスケット部員たちは10月29-30日の試合ではこのオーダーメイドのスポーツブラを使用せず、通常のスポーツブラを使用した。
そして翌週。
2022年11月5日(土).
H南高校女子バスレット部はウィンターカップ富山県予選準決勝に臨む。
春貴は前日、3年生の愛佳と舞花を呼んで宣言した。
「晃ちゃんは少なくとも来年の3月までは練習試合の類い以外では使わない」
「どうしてですか」
と舞花が訊く。
「彼女の経歴が参照されて、今年の6月まで男子生徒として通学していたことが判明した場合、参加資格について議論される恐れがある。すると中央の委員会で審査されたり、向こうの指定した病院で徹底的な審査をされたりして本人にとってはとても辛いことになる可能性がある。彼女はそんな試練に耐えてまで性別を変更する意思は無い。学校でも本人の性別意識はまだ揺れている。だから今は無理するのはやめよう」
それは春貴自身が辛い思い、様々な屈辱に耐えながら乗り越えてきた道である。晃を見ていると、女の子になりたいどころか、男の子に戻りたいような雰囲気さえ見られる。彼女の気持ちが固まるまでは性別移行は待った方がよいと春貴は判断していた。
いったん女子として公式戦に出たら、もう社会的に男子に戻ることは許されなくなる。
「そうですね。彼女抜きでも私たち強いですよね」
と愛佳キャプテンが言う。
舞花はやや不満そうであるが、キャプテンの言葉に従った。
「うん。君たちは強い。頑張ろう」
「はい」
と2人とも言った。
あとで春貴自身で部員達全員の前で説明した、それでみんな納得してくれた(と思う)。日和がドキドキした顔をしていた。こちらは本当に女の子になりたい感じである。ただ女の子として扱われるのをまだ恥ずかしがっている。
それでこの準決勝・決勝では晃はウィンドブレーカーを着て春貴の隣に座り、スコアを付けながら実質アシスタントコーチの仕事をすることになった。ただ試合前の練習などには、主としてシュートの妨害役などととして参加する。
インターハイ予選でBEST4になった学校の“シード順”は、高岡C高校、富山B高校、H南高校、高岡S高校だった。この内、高岡C高校、富山B高校、H南高校、そして高岡S高校を準々決勝で破った富山S高校が今回はベスト4に進出している。
すると、シード順の1−4,2−3が今回の準決勝でぶつけられるので、準決勝の組合せは、高岡C高校−富山S高校、H南高校−富山B高校となった。
ということで相手の富山B高校は今年春の大会・夏の大会(インターハイ予選)の準優勝校である。過去に何度もインターハイ・ウィンターカップ・皇后杯に出たことがある、富山県の最強校のひとつ。春貴は春休みに自分にバスケットを指導してくれたアキさんがここの出身だったなと思い起こしていた。
あれ?ここ出身の人の飼いネコだっけ??
それで富山B高校との試合が始まるが接戦となった。
H南高校も春の時点からすると物凄く強くなった。しかし富山B高校は物凄く強いチームである。もし決勝戦に進出すれば高岡C高校と1点差を争うゲームをするだろうと思った。
こちらも夏以降だいぶ守備の練習をするようになったが、さすがに今のレベルの守備力では、富山B高校の進入はほとんど止められない。かなりフリーに近い状態で撃たれてしまう。そしてシュート精度もいい。
しかし晃が出ないというので河世がかなりリバウンドで頑張った。向こうの174cmのセンターさんと対等に渡り合い、シュートが入らなかったボールの半分はこちらが獲った。
一方でこちらは向こうの制限エリアにはとても入れない。向こうの守備はうまい。しかし中に入れなくてもこちらはミドルシュートでどんどん点を稼ぐ。美奈子も夏生もスリーが好調である。
それで両者の実力差は明らかなのに、得点自体ではけっこう競っていく。
ただ向こうはあまり交替要員を使わなかった。
このレベルでは交替要員を使うと、そこが穴になると判断したようである。スターターの4-8番以外では、9-11番のみを時折使い、12-18番は最後まで出てこなかった。
そしてどちらのチームもとてもファウルの少ない、クリーンなゲームだった。
おそらく事前の情報収集で、このチームはシュートの精度がいいので、無理に停めようとするとファウルがかさむということ、5ファウルで主力が退くと、ゲームバランスを崩すということを把握していたのだろう。
最後は取りつ取られつのシーソーゲームとなる。1点差・2点差の状態でリードする側が目まぐるしく入れ替わるが、最後はこちらが2点リードしている状態から相手シューターさんが美しいスリーを撃つ。
相手シューターさんがボールを持った瞬間。舞花が美奈子を見た。それで美奈子は理解して走って行く。
相手シューターのゴールが決まる。向こうの1点リードとなる。残りは5秒である。審判がボールを愛佳に渡す。愛佳がボールを受け取るとすぐに大きく振りかぶって遠くにいる美奈子に向かって投げる。
富山B高校は完全に油断していた。5秒しか残さなければもう攻撃は無理と思っていた。しかし愛佳のボールは大きな放物線を描いて飛んで行く。美奈子と相手ポイントガードさんとでボールを取り合う。2人の手がボールに触れた瞬間、時計が動き出す。
美奈子はそのボールをしっかり獲った。そして腰を落とし膝のバネを使ってゴール目がけてボールを撃った。
撃った瞬間、試合終了のブザーがなる。
みんなの視線がボールの行方を追う。
ボールはバックボードにも触れずにゴールネットを通過した。
審判さんがスリー成功のジェスチャーをする。
H南高校の得点が3つ増える。
H南高校は歓喜に沸いた。
整列する。
「67対65でH南高校の勝ち」
「ありがとうございました」
両者握手したりハグしたりして、健闘を称え合った。
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