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■春三(3)
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「なんか色々考える前の要素がまだ足りない気がするなあ」
と青葉は言った。
青葉は初海が局内で迷った時のことをもう一度詳しく話して欲しいと言い、ずっとその話を聞いていた。
また明恵たちは先に取材に応じてくれた人に当日の状況を迷う少し前から詳細に教えて欲しい、関係無いと思うことでも教えて欲しい。人に知られてはならない話は番組でも流さないし、編集部の金沢ドイル・コイル・セイル・パール・メール・ウール以外には口外しないからと呼びかけ、各々から結構詳細な報告をもらった。番組では、お礼にQUOカードを贈っておいた。
さて、彪志の方であるが、10月25日に初めての生理が来て、27日朝くらいまでは結構な量の経血が出ていたが、その後だいぶ収まってきた。最初はずっと生理用ショーツを穿いていたのだが、この生理用ショーツは蒸れる!と言う問題に直面する。
悩んだあげく、彼は27日からは普通のショーツを穿くことにした。その上にトランクスを穿いておく。やはり3日目くらいからは普通のショーツでもけっこう行ける感じだった。そして5日目の29日からはナプキンではなくパンティライナーを使ってみることにした。これはナプキンより薄くて蒸れにくい感じだった。
「女性って大変なんだなあ」
とつくづく思った。
しかし自分もこれから閉経する50歳頃までこういうのとずっと付き合わないといけないのだろうかとも思うが、先のことはゆっくり考えることにした。
なお洗濯であるが、生理用ショーツは血の付いた部分をトイレットペーパーで拭き、更に水で洗ってから洗濯物に出した。(血はお湯で洗ったら固まって取れにくくなることくらいは薬関係の仕事をしていれば分かる)なお千里さんから「サニタリーショーツはネットに入れて」といってネットも渡されたので2度目からはネットに入れて洗濯籠に入れた。
普通のショーツは単純に水洗いしてから洗濯物に入れた。しかし6日目くらいからは特に自分で洗わなくてもそのまま洗濯籠に入れられるようになった。
生理が一段落した10月31日(月)、彪志が1件個人病院に納品に行って帰社したらいきなり
「月子ちゃん、PCR検査お願いします」
と恵花ちゃんから言われて、鼻の粘膜を採られる。
「大丈夫です。陰性でした」
「何かあったの?」
と訊く間も、難しそうな顔をした課長が彪志を呼んだ。
「鈴江君、ほんとうに申し訳無いのだけど」
「えっと何でしょうか?」
「金曜日から休んでた宮沢君が今日病院に行ってみたらコロナ陽性だったらしいんだよ」
「ありゃあ」
「君は熱とか出てない?」
「はい、特に。今朝の体温は5度9分でした」
「一応課内の全員にPCR検査も受けてもらったのだけど、全員陰性だった」
「彼は金曜から休んでるから木曜の時点で感染していたとしても、彼から感染した場合、もう症状が出ているハズですね」
「うん。そうだと思う。ところで宮沢君は明日11月1日から3日まで研修に参加する予定だったんだよ」
まさか。
「悪いけど、鈴江君、代わりに出てくれない?」
「えっと私は11月3日の祝日に出勤して代わりに4日を休ませて頂いて4-6日に妻の所に行ってくるつもりだったのですが」
「うん。だから3日に研修が終わったらそのまま奧さんの実家に行っていい」
「えーっと研修の場所は?」
「長野県の鹿教湯温泉(かけゆ・おんせん)」
「温泉地ですか!」
「でも富山に行く中間地点だろ?」
「確かにそうですが、それ相部屋ですか?」
今自分は男性と相部屋出来ないぞと思う。といって女性とも相部屋出来ないけど(そんなことしたら青葉に殺されそう)。
「コロナの折なので全員個室だから」
「それならいいです」
「ここ2年ほど温泉はコロナで青息吐息らしいんだよ。だから凄く安く提供してくれたらしい」
「なるほどですね」
個室なら何とかなりそう、と(この時は)思った。
それで彪志は急遽明日から長野に出張することになったのである。車で移動するので彪志は16時に退勤させてもらう、
そして自宅に帰る途中、車のガソリンは満タンにした。ついでにドラッグストアに寄り、非常食におやつなどを買う。またドライブ中の眠気覚ましにコーヒーの6缶セットとクールミントガムを買った。他に念のためナプキンも1パック買っておいた。こないだから何度も買っていたのでもうナプキンを買うのは平気である。
帰宅し、千里さんに「明日から出張でそのあと直接伏木に行く」と言うと、お土産に「東京ばな奈」を渡してくれた。
こういう予定調和的な千里さんの行動はいつものことなので驚かない。ただしこういう時千里さんはなぜ自分がお土産のお菓子を買ったか分かってない。
服の着替えは,向こうで洗濯できるから・・・と思ったが、女物の下着を青葉の家では洗濯できない!ということに気付き、結局10日分くらいの着替えを持つ。車に置いておけばいいだろう。
それで早めに寝て午前3時に起きる。車で移動する間は普段着でいいだろうと思い、スーツ(むろん男性用)とワイシャツはバッグに入れ、Tシャツにジーンズのパンツ(実はレディス)、その上にトレーナーを着た。胸が目立つ気もするが研修ではスーツを着るし、まあいいだろうと思う。
出掛けようとしていたら、千里さんが出て来て
「おにぎり作っておいたよ」
と言って渡してくれた。
「ありがとうございます。深夜なのに」
「作曲してたからね」
「大変ですね!」
「夜中のほうが集中できるしね。あ、これもあげる」
と言って紙を渡される。
「高岡近辺の駐車場のあるコインランドリーの地図」
「ありがとうございます!助かるかも」
「でも運転中は人に見られるわけでもないし女の子の服着ればいいのに」
「変なこと唆さないでください」
「彪志君の女装はきっと青葉は面白がる」
「ほんとに面白がりそうで怖いです」
「これプレゼントね」
と言って何かバッグ渡された。
「あとでよく見るといいよ」
「あ、はい」
それで彪志は車に乗り、行き先をカーナビにセットして出発した。
浦和所沢バイパスを走って関越に乗る。藤岡JCTで上信越道に分岐し、甘楽PAで休憩する。トイレに行く。チラッと女子トイレを見てから「やっぱ、女子トイレには入れないよなあ」と思って、男子トイレに入ろうとする。ところが中から出て来た20歳くらいの男性が
「ちょっとおばちゃん、男子トイレ使うのやめてくんない」
と言う。
「済みません!」
といって彪志は反射的に女子トイレに入ってしまった。
初めて見る女子トイレは何か異様な空間だった。1個だけ小さな小便器がある(*4). しかしそれ以外は個室だけが並んでる。彪志は一瞬異世界に迷い込んだ気がした。(異性界かもね)
中で手を洗っている若い女性がいた。一瞬彪志を見たものの、何も言わない。うっそー!?俺が女子トイレに入っても何も言われないの!?
(*4) 同伴男児用の小便器。
個室が空いているので、彪志はそのまま個室の中に入った。便座をアルコールで拭いてから座る。いつもの場所からおしっこする。少したくさん出た気がした。基本疲れてるのかなと思う。PAで一時間くらい仮眠してから出ようかなと思う。途中休めるよう早めに家を出て来ている。
自販機で暖かい紅茶を買って車に戻る。仮眠するのに後部座席に乗って、のんびりと紅茶を飲んでいる内にふと思う。
「あ、そういえば千里さんから渡されたの何だろう」
それでバッグを開けてみた。
「うっ」
中に入っていたのは、女性用のビジネススーツ(スカートタイプ)、ブラウス3枚、女性的なライトピンクのフリース、また普段着用っぽいスカート3枚、それにメイクセット?
「うーん・・・・」
ちょっと悩んだが“不純な動機”もあり
「夜中だし誰にも見られないし着てみようかな」
と思った。
それで少しドキドキしながら、服を全部脱ぎ、身体をボディシートで拭いてから新しいショーツとブラジャーを着け、キャミソール、ブラウス、それに女性用ビジネススーツの上着とスカート、と着る、ちょっとこの格好を姿見で映してみたい気分になる。それでトイレに行くが少し悩んでから、女子トイレに入っちゃった♪
入ってすぐにギョッとする。
女の人がこちらを見ている!変に思われたかな?
と思ったがよく見たらそれは鏡に映った自分の姿だった。
俺、女にしか見えない・・・・
と彪志は少しショックを受けていた。
しばらく見とれていたが、その内表の戸が開くので、ビクッとする。こんな所で立ち止まってたら変に思われるかもと思い、彪志は個室に入った。けっこうまたおしっこが出たので疲れが溜まってるのかもと思った。
手を洗って車に戻る。そしてそのまま車内に常備している毛布と布団をかぶり、女の子の密かな楽しみをすると深い眠りに落ちて行った。
メールの着信音で目が覚めた。スマホを見る。
8時!?
嘘。やばい!遅刻する!!
どうも疲れが溜まってたので熟睡してしまったようである。
(気持ちいいことしたからでは?)
ここから鹿教湯温泉まで空(す)いている時なら,1時間半で行くが、この時間は朝のラッシュにかかる可能性がある。それで6時には出るつもりだったのに!
トイレ(一瞬迷ったが女子トイレ)に行って来てから運転席に就き、車を発進させる。結構通行量が増えているので流れに任せて走って行く。しかし・・・
スカート穿いて運転してると、スカートの上に物を置けるのが便利!ズボンだと股の間に落ちちゃうもんね。それで彪志は千里さんからもらったおにぎりを朝御飯代わりに食べていたが、運転に集中したいときは、おにぎりを一時的にスカートの上に置いていた。
スカート便利だなと思う(←もう戻れない所に来てる気が)。
東部湯の丸のICで降りて、一般道を走っていく(r81, R152, r174, R254など)。そして会場の旅館前に到着したのはもう9:55だった。
旅館の前面が駐車場になっているようなのでそこに駐める。カバンを持って掛け出して行く。
「すみません。幹部候補生向け研修会の受付まだいいいですか」
「はい。10時から10時半まで受付だったのですが」
「ああ、10時からでしたか!」
てっきり10時までと思ってた!
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