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■春三(4)

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「少し早いですがいいですよ。所属とお名前を」
「えっと、D製薬東京本店の宮沢が出る予定だったのですが、急病のため代理で来ました鈴江と申します」
「はい、名刺とかございますか?」
「ええっと」
と言ってカバンの中を探すと名刺ケースが手に触れる。それで「あれ〜名刺ケースとかあったっけ?」と思いながらも中から1枚取り出して渡した。
 
「はい、確認しました。このお名刺こちらに留めておいていいですか」
「あ、どうぞどうぞ」
と言ってから名刺に書かれている名前を見てギョッとした。
 
《D製薬株式会社東京本店QAP本部配薬課主任/鈴江月子》
 
と書かれてる。うっそー!?俺女名前の名刺出しちゃった?と思った次の瞬間
 
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自分がそもそも女物のスーツを着たままであることを思い出した。
 
うっそー!?女装で研修会に出たりしたら俺叱られる。クビにされるかも、などと血の気が引いた。
 
しかし受付の女性はその場で小型端末で「鈴江月子」という名前をプリントすると、それで名札を作ってくれた。それを首に掛ける。
 
「それでは1階の“鳳凰の間”にお越し下さい。また宿泊は607号室になります」
と普通に言って、資料の入った手提げ袋と部屋のカードキーを渡してくれた。
 
「ありがとうございます」
 

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取り敢えず鳳凰の間に行くが、場所を確認した上で講習会の前にトイレに行っておきたいと思った。朝起きてすぐに甘楽PAで行ったっきりである。
 
それでトイレに行くが男女に分かれている。少し悩んだが、女名前で登録しちゃったし、今女の格好してるしと思い、女子トイレに入った。中は個室が3つ並んでいる。小便器は無い。まあ女子トイレってこんなものだろうと思い、手前の個室に入った。手を洗ってから会場に戻る。彪志が女子トイレに居る間は誰も入って来なかった。
 
資料を読みながら待っている内に講習会は始まった。
 
講習はまず午前中に2時間、富士通の技術者さんから、人工知能の現状について概説があった。
 
お昼は食堂で食べたが、椅子が間引きされていて、ひとつのテーブルに本来は6人から8人くらい座れそうなのを3人にしてあった。彪志が先に端のテーブルで食べていると
 
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「ここいいですか」
と言って別の女性2人連れが来る。
「どうぞどうぞ」
というと、同じテーブルに座って食べ始める。
 
「とぢらから来られました?」
と訊かれるので
「東京です」
と答える。
 
2人は名古屋と福島ということだった。
 

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「この手の研修会って男性が多いから少し緊張しますね」
と青木という名札を付けた女性。
 
「ああ、そもそも女性を幹部にするつもりのない会社とかありますよね」
と由梨という名札の女性。
 
「ほんと頭の古い男たちが多いから」
と彪志も言う(女声を使用する)。
 
「女たちも自分たちが責任者とかになろうという人が居なかったりするしね」
「そうそう。どちらかというと頑張ろうとする女の敵は保守的な女」
「言えてる言えてる」
 
「なんか古い体制が残ってる会社多いよね」
「うちはお茶とかは各自勝手に飲めということになってますけど未だに女性社員にお茶汲みさせる会社もあるみたいですね」
と彪志。
 
「昭和の遺物ですね」
 
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「でも参加した女性の中でお化粧してないのこの3人だけだったから割と仲間かなと思った」
と由梨さん。
 
あ、お化粧とか何か考えてない、と彪志は思う。荷物の中にメイクセット有ったけど・・・使い方が分からない!
 
「うちの部門は扱ってる商品の関係もあってお化粧禁止なんですよ」
と彪志は言う。薬品を扱う関係で特に香料がタブーなのである。
 
「なるほどー」
「食品関係とか薬品関係でそういう会社あるね」
 
「うちは禁止ではないけど割とハードな仕事だからお化粧してる子は居ない」
と青木さん。
 
「そういう会社増えるといいね」
 

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しかし彪志は彼女たちと話していて、自分はもしかして先進的な女性とばかり接触しているのかもしれないという気がしてきた。D製薬自体が女性の比率の多い会社でしかも幹部の3割が女性である。取締役も12人の内3人が女性。特に彪志のいるQAP本部は男女ともに大卒以上のスタッフがほとんど。課内では男女ともに博士号・修士号持ちも多い。女性たちも積極的に色々な資格を取っているし様々な研修に派遣されている。2人の係長の内1人が女性で薬学博士である。4人の主任の内1人が女性(彪志が女になれば2人になるね)。「お嫁さんになるまで仕事しようかな」みたいな人は1人も居ない。課内に既婚女性が5人居る。
 
彪志は大学も理学部だったので、いわゆる“男勝り”の女性が多かった。しかしどうも世間はそんなでもないようである。
 
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午後からはAIの使われている現場について、講習会が2つあった。夕食もまた青木さん、由梨さんと一緒になり、今度はもっぱら芸能ネタで盛り上がった。男の子アイドルの話も随分出たが、彪志は会社で女性の同僚とよく話しているので結構な知識があり普通に彼女たちの会話に付いて行けた。
 
アクアちゃんはいつ「ごめんなさい。私は女の子です」とカムアウトするかというのも話題になっていた。
 
「いやカムアウトの必要は無いと思う。だって橋本環奈が『私実は女性なんです』とか言う訳がない」
と彪志が言うと
「なるほどー」
と青木さん・由梨さんは感心していた。
 
「でも少年探偵団は今期で卒業するという噂があるね」
「さすがに“少年”の役は厳しいかもね」
「それって年齢的な問題と、性別的な意味合いがあるよね」
「言えてる言えてる」
 
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「過去にドラマで小林少年演じた人って何歳くらいでやってるんだろう」
「それこないだアクアちゃん自身がラジオ番組で言ってたけど川崎麻世が14歳(1977年)、名前出てこないけどキャロライン洋子のお兄さんが演じた時が15歳(1975)だって」
「やはり本当に“少年”の年でやってるんだね」
 
「でも3年前に映画で出演した高杉真宙君は当時23歳」
「ああ、少し老けてると思った」
「でも大和田獏は27歳で小林少年を演じてる(1977『吸血鬼』)」
「27歳は無理がある〜」
 
「でも小林少年って凄い演技力必要だから、できる人は限られてる」
「しかも女装が似合う子でないといけない」
「小林少年が女装しないと物語の価値が無いよね」
「そうそう。あのシリーズは小林少年が女装することに価値がある」
 
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そうなのか?
 
「アクアちゃんはだいたい幼く見えるからまだ21歳でも行けるんだけど、そろそろ誰か後任に若い人をと言ってるらしいよ」
「なるほどねー」
 
「でもアクアちゃんが出ないと視聴率稼げないから、何か別の役やってくれという話もあるらしい」
「何の役をするんだろう」
「花崎マユミとか?」
「それは可能性あるね」
「文代さんだったりして」
「ありそう!」
「だいたい明智探偵と小林少年の関係は怪しいと古くから言われていた」
「少年助手を卒業して奧さんに昇格するのね」
 

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結構おしゃべりしてから部屋に引き上げる。
 
エレベータで3人とも6階まで昇った。
「あれ?みんな6階?」
「6階はレディスフロアだからね」
「どうも女性は全員6階になってるみたい」
 
ひぇー、俺レディスフロアとかに泊まっていいの?
 
エレベータを降りた所には小さな受付があり、仲居さんが
「いらっしゃいませ」
と笑顔で言って全員にドリンクとお菓子の入った小さな籠をくれた。
 
ここに受付があるのは、男性客が間違ってもこのフロアに来ないように見ているのだろう。彪志たちは籠を受け取って各々の部屋に入った。
 
部屋は6畳ほどの広さである。本来2人部屋ではないかと思ったがそれをコロナが落ち着くまではシングルユースしてるのだろう。
 
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しかしなんかたくさんおしゃべりして喉が渇いたのでもらったドリンクを開けて一気に飲む。薬草茶っぽいなと思った。ラベルを見ると“美容茶”と書いてある。(←飲む前に見よう)。“女性ホルモンの分泌を促し美容に効く薬草を配合しております”などと書かれている。
 
えーっと、女性ホルモンだって。
 
でも今更!
 

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ビジネススーツの上衣とスカートを脱ぎ、自宅から持って来たスウェットの上下に着替えた。パソコンを出して、簡単に今日の講義の概要をまとめる。旅館のLANを利用してネットにつなぎ、会社に報告を送っておいた。パソコンのUSBにスマホの充電ケーブルを繋ぐ。
 
それでお風呂に入ろうと思う。
 
「あれ?お風呂はどこだ?」
 
部屋の中のドアを全部開けてみるが、トイレはあるもののお風呂が無い。
 
部屋の中には大きな鏡の付いた洗面台があり、基礎化粧品セット(メイク落とし・洗顔料・化粧水・乳液・美容液・パック)にブラシが置かれている。また、それと別にボディソープ・シャンプー・コンディショナーのセットも置かれている。
 
『シャンプー・コンディショナーが足りない方はフロントにお申し付けください』
などと書かれている。
 
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もしかして・・・・ここはお風呂は大浴場に行く方式?
\(^−^)/
 

個室と聞いて油断していた。旅館だと、トイレは付いててもお風呂は個室には無い部屋が普通である。部屋の中の掲示を確認する。大浴場は25時まで使用できますと書いてあった。
 
ガーン・・・・
 
大浴場・・・・
 
俺今男湯には入れないよね?
 
だったらもしかして俺女湯に入らないといけない?
 
しかし入っていいのか!?
 
腕を組んで悩む。
 
が眠くなってきたので、彪志は取り敢えず寝ることにして、お布団の中に潜り込んだ。
 

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目が覚めたのは夜中のようであった。
 
スマホで時刻を確認すると0:20である。
 
彪志は突然思いついた。
 
今からお風呂に行こう。こんな遅い時間なら人もいないからきっと誰にも見られず(誰も見ずに←こちらが重要)に入れる。
 
それで部屋に備え付けのタオルとバスタオル、それにシャンプーセットを持って大浴場に行ったのである。地下に降りて暖簾の前で悩む。
 
実は左側には“孔雀の湯”とあり右側には“白虎の湯”とあるのである。
 
どっちに入ればいいんだよー!?
 
悩んでいたら通り掛かりの仲居さんが声を掛けてきた。
 
「お客様、白虎の湯へどうぞ」
「あ、はい。ありがとう」
 

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それで彪志は言われた“白虎の湯”に入る。こちらは男湯?女湯?と思ったら30歳くらいの女性が居た。女湯か!
 
俺やはり女湯に入らないといけないのかなあ。でもよこしまな気持ちで女湯に入るんじゃなくて単に入浴のためだからいいよね?(←これ物凄く重要)
 
しかし孔雀と白虎では分からんぞと思う。
 
女性は服を着ているところのようである。彪志は軽く会釈してから、彼女が見えない位置のロッカーを選ぶ。服を脱ぎ中に入った。浴室には誰も居なかったのでホッとする。
 
中は割と新しいシャワーが完備されている。椅子もけっこう新しいものに最近交換された感じである。それで身体にお湯を掛け、髪を洗い、コンディショナーを掛けて顔・“豊かなバスト”を洗い、脇と腕を洗い手にボディソープを付けて“あそこ”を優しく洗う。足を洗ってコンディショナーを洗い流す。身体全体にシャワーを掛ける。
 
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そして浴室に入ってゆっくりと湯に浸かった。浴槽は大理石っぽい白い石のようなものでできている。人工大理石か何かかなと思った。白いから白虎の湯なのかも。お湯の噴出口は虎の頭の形である。その虎の口からお湯は出てくる。
 
彪志はお湯に浸かりながらぼーっとしていた。
 
しかし性別が変わってから約1ヶ月なんとかなってきたなあという気がした。性別なんてあまり大したものではないのかもという気にもなってくる。自分が女になったと知られても青葉はせいぜい笑う程度で少なくとも怒ったりはしない気がする。面白がられてセックスでは女役やらされて・・・・妊娠したらどうしよう?
 
やはり俺が2人目の子供は産むんだろうか?
 
(↑精子は?)
 
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ゆっくり入っていたら、仲居さんが入ってきて
「そろそろ入口を閉めますが、もう少し入っておられます?」
と言うので
「あがります、あがります」
と言って浴槽からあがり、浴室も出て、服を着た。もう大浴場の入口の灯りも落とされていた。でも彪志はロビーの自販機でお茶を買って部屋に戻り、ぐっすりと眠った。
 
 
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