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■春二(24)
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朱美の興奮が少し落ち着いたようなので、青葉が主導して後半、デビュー以来のグループの軌跡について語っていく。
「最初は数十人の小さなライブハウスからドーム公演までの軌跡というのは今考えてもよく辿り着けたなと思いますよ。初めて1000人規模の会場でライブした時も初めてテレビに出た時も、初めて3000人クラスの会場で歌った時も初めて1万人の会場でやった時も、夢のような気分でした」
「そのあたりがコロナ以降の世代の私たちには分からないんですよね。デビューしてすぐにコロナでリアルライブが禁止されて、私たちネットライブしかしてないから」
と朱美は言う。
「いやラピスラズリはネットライブで何十万人と動員しているから凄いと思う」
「それでもリアルのドームとかに立ったら、足がすくみそう。ライブであがることってないですか?」
「あがり対策はひたすらたくさん練習することしかないと思う」
とkomatsuは言う。
「ああ」
「自分はたくさん練習した。うまく演奏できないはずがない、という自信だけがあがりの気持ちに対抗できるんだよ」
「凄く含蓄のある言葉ですね」
「練習は嘘つかない、だね」
「それスポーツでも音楽でも同じですね」
「いちばん辛かったのはやはりkitagawaの脱退ですよ。自分の身体の一部をもぎ取られたような気持ちでしたね」
とkomatsuは語る。
「MCとかもほとんど彼がしてたからね。komatsuはトークが苦手だし」
とkatahiraは言う。
「代わりのメンバーを入れることを事務所からは勧められたんだけどね」
「5人で歌っていたのを4人で歌うためにはパート割りを全部組み直さないといけなないから」
「結局ぼくらは残りの4人でやっていく道を選んだ」
「まあパート割りの変更は大変だった」
「ライブで誰も歌わなくて『おい誰の番だ?』とか」
「混乱してるの何度か見ましたよ。あ、ここkitagawaさんのパートだって」
「うん。疲れてると頭が付いてかないんだよね」
「ライブで観客が歌ったことありましたね」
「ああ、あの時朱美ちゃん居たんだ?」
「5列目で参戦してました」
「おっすごい」
「今後やりたいことは?例えば建設会社作って青森と北海道の間に橋を架けるとか」
「ああ、ぜひやってみたい・・・って、俺たち工事には素人だし」
「青森と北海道の間に橋を架けてもしょっちゅう強風で通行止めになる気がする」
「でもコロナが終わってからになるけど、離島コンサートってやりたいね」
「ああ、それはいいことですね」
23日の午前中は東青山少女合唱団(EAGC)であった。人数が多いので彼女たちはGulfstream G450に載せて連れてきた。
「ビジネスジェットなんて初めて乗ったからVIPになった気分だった」
「ベビーベッドがあるからびっくりしたら、オーナーさんの赤ちゃん用だとか」
「まあ好きなように座席決められるのも自家用機の気楽さかもね」
「なるほどー」
「君たちも一機買う?」
「いくらするんですか〜?」
「はい、醍醐先生」
と朱美は千里に振る。
「最新型のG650なら定価9億円だけど、あれは2世代前のG450だからその中古を4億円で買ったんだよ」
「私たちは4万円でも躊躇するよね」
「でも飛行機が4万円で売ってあったら絶対買わない」
「それは言えてる!」
「だいたい年間の維持費が5000万円くらい掛かりますよね?」
「うん。そのくらい掛かる」
「きゃー。だったら宝くじに当たっても買えない」
「普通の人にはその維持費が払えないよね」
「維持費ってどんな費用が掛かるんですか」
「まず燃料費。それから駐機代、メンテ費用、そして大きいのはパイロット代。これが最低2人分掛かる」
「車と似てますね」
「そうそう、基本的には同じようなもんだよ。ガソリン代・駐車場代・点検費・ドライバー代」
「なるほどー」
「でもパイロットは安い給料では雇えないから」
「そうですよね!ライセンス取るのもお金掛かるもん」
「英語出来ないとだめですよね」
「管制官との通話は全部英語だからね」
「視力も無いといけないですよね」
「うん。両眼1.0以上無いといけない」
「そこで私だめだぁ!」
「だけど私“東青山”と聞いた時は、東京の青山連想した」
と朱美が言うと
「私たちもです!」
と東青山少女合唱団の全員が言う。
「絶対詐欺だよね〜」
「私、なんて都会的な名前と思ったのに」
「私も母に『おしゃれな名前ね』と言われた」
「実際は、三重県伊賀市の青山なんですよねー」
「それも東青山駅は伊賀市青山の領域からも外れていて、津市に飛び込んでるんですよ」
「どっちみち凄い山の中で」
「でもそこでデビューコンサートしたんでしょ?」
「しました!地元の人がたぶん村総出で来てくれました」
「そんな田舎でアイドルのライブなんてめったに無いよね」
「凄く盛り上がりましたよ」
「みんなファンになってくれました」
「ファンクラブの会員番号2桁を全て送呈しました」
「ぜひまた来てくれって町内会長さんに頼まれました」
「それ来年やる場合は警備が大変だよね」
「ええ。だから村民限定ライブにしないといけないなって言ってるんです」
彼女たちの歌は東雲はるこが伴奏したが、みんな歌はうまかった。きれいにハーモニーができていて、はるこが感心していた。
ちゃんと歌える子を集めて編成したようである。
2022年にデビューしたばかりで、最初の曲『春の恋のフーガ/花』はゴールドディスク。秋に出した2曲目『夏休みの浜辺/ Sweet Memories』は2022.10現在7万枚。この番組がお正月に流れるとこれも10万枚行く可能性があるだろう。今回のインタビューは、そのプッシュ狙いでもある。
23日午後からは、一転して少人数のハラマドラーをお迎えした。最近流行の作曲者(原木ミッド)+女性ボーカル(mado)という構成である。
「原木(はらき)さんとmadoさんで“ハラマドラー”なんですね」
「ですです。名前を何も思いつかなかったので安直に2人の名前をくっつけました」
「madoさんって苗字でしたね?」
「そうなんです。しばしば“まどか”さんですか?とか“まどほ”さんですか?とか訊かれるんですけど苗字なんですよ。“あいだのと”(間戸)って書くんですよね」
「すごく珍しい苗字ですよね」
「全国で50人くらいではと言われたことあります」
「ああ」
「ちなみに下の名前は」
「ネットにたくさん書かれてますけど“ふうか”なんですよ」
「なるほどー」
「あ、ふうかちゃんか」
と東雲はるこが気がついた。
「“はらふうか”にしちゃうと、『いないいないばあ』のふうかちゃん(原風佳:番組登場2003.4-2007.3)の名前みたいなんですよね。しかも私、あのふうかちゃんと同じ学年なんですよ」
「へー」
「年バラしていいの?」
「ネットにたくさん書かれてるし」
「ネットは情報過多ですよね。こないだ私が歌番組で登場時にこけたのも、あっという間に大量にSNSに写真付きで書かれました」
「全くくしゃみもできないね」
「年齢のサバ読みもできませんね。同級生にバラされちゃう」
「ああ、昔は女性タレントの年齢サバ読みは当たり前だったけどね」
「若く見えるのをいいことに10歳サバ読んでた女優さんも居ましたよ」
「ちなみに原木ミッドさんの下の名前は?」
「真ん中の“中”と書いて“あたる”と読むんですよ。だから中村中さんと同じ読み方ですね」
「なるほどー」
「ちなみに“原木中”というのを「はら・ぼくちゅう」と誤読されたこともあります」
「ああ」
「でも3字の名前は区切り間違いしやすいよね」
とmadoさんが言っている。
「笠智衆(りゅう・ちしゅう)さんとか区切りを間違えられやすい」
「いや、笠智衆さんは難易度高い」
「占星学者の流智明(ながれ・ともあき)さんとか」
「あれ絶対「りゅうち・めい」とか読んでる人いますね」
「ベリーズ工房の夏焼雅(なつやき・みやび)ちゃんとか夏・焼雅(なつ・やきまさ)と読まれると性別を誤解される」
「マラソン選手の真木和(まき・いずみ)さんんとかも危ない」
「そもそも“和”という漢字一文字の名前が読み方が様々あって男女ありますよね」
「なごみ・やまと・なぎ・あい・のどか・とも・・・」
「男子サッカーの橋本和(はしもと・わたる)さんとかもいますね」
「勝・海舟(かつかいしゅう)を“かつうみ・ふね”と読んじゃった学生がいたとか」
「いや知らないと読むよ」
「でも4文字名はもっと罠だよね。つい2文字・2文字に切りたくなる」
「この手のネタでいつも話題になるのが“浜木綿子”さんですね。知らない人は“はまき・わたこ”と読みがちだけど“はま・ゆうこ”さんですからね」
「平幹二郎(ひら・みきじろう)さんも危ない」
「時任三郎(ときとう・さぶろう)さんも危ない」
結局名前の論議で30分近く話していた(10分くらいに編集された)。
「楽曲の制作は原木さんがおひとりでなさるんですか?」
「いや。最初のモチーフはぼくが書きますけど、ぼくはキーボードプレイが下手なんで、だいたい妻に試し弾きしてもらってそれでまとめていくことが多いですね。最終的にはMIDIの打ち込みですけど。だから印税は妻と山分けです」
「ちょっと待ってください。テレビなんかに出て来た時、原木さん、キーボード弾いてるじゃないですか」
「あれは弾いてるんじゃなくてキーボードの前で踊ってるだけです。鍵盤も適当ですよ。ぼくのキーボードはスイッチ切ってありますから」
「え〜〜?そうだったんですか!?」
「ファンの間では有名だけど一般にはあまり知られてないかもね」
とmadoが笑っている。
「だからボーカルの吹き込みの現場では桜さんがいつも一緒ですね。彼女の演奏に合わせて歌うんです」
「ああ、奧さんが制作現場にはいつもいるんだ」
「まあ第3の女かな」
「そういう言い方では僕まで女みたいだ」
「女装してもいいですよ」
「浮気防止というわけではないですよね?」
「技術者さんとかもいるのに怪しいことはできないでしょ」
「万一変なことされたら即twitterに投稿しますから」
「ああそれは怖い」
「悪いことはできませんねー」
「そんなことはしないよぉ」
「それに元々桜さんは私の同級生で、バンド組んでたこともあるんですよ」
「ああ、そういう関係だったんだ」
「それで妻より彼女の方が歌が上手いから歌ってと頼んだんですよ」
「なるほどー」
10月25日(火).
彪志が朝起きた時、着けていたナプキンが真っ赤に染まり、かなり重くなっているのに気付く。
何これ〜!?
取り敢えず交換用ナプキンを持ちトイレに行って交換する。お股が血のようなもので汚れているので、トイレットペーパーで拭く。そのまま状況が把握出来ずに5分くらいぼーっとしていたかも知れない。
外を走り回る子供たちの足音や声で我に返る。(この家はトイレが5個あるのでせかされたりはしない)
彪志は再度あの付近を拭いてから、新しいナプキンを装着してトイレを出た。朝御飯を食べてから車を運転して会社に出る。その運転中に
生理だ!
と気がついた。
そうか生理が来たのか。
ということは、俺完全に女になってしまったのだろうか。
うーん。。。
青葉が知ったら何と言うか心配だけど、青葉は
「レスビアンでもいよ」
と言ってくれそうな気がする。そんなこと考えていたら生理が来てもそんなに大きな問題では無い気がして来た。
それで一日仕事したが、この日は2時間に1回くらいナプキンを交換した。男子トイレには汚物入れが無いので、1回の多目的トイレを使用した。また外出中はコンビニの共用トイレでナプキンを交換した。先日からナプキンを使っていて共用トイレのあるコンビニをだいぶ覚えたので、助かった。
そして「今日は体調が良くないので定時で帰ります」と言って19時頃には退出した(←全然定時ではない気がする)。
しかしこれ毎月やってる女子は偉いよと思う。結構きつい。でももしかして自分もこの後は毎月これしないといけないのかなあ。そのうち会社にもバレて
「生理があるって、君女だったのか!」
「女性だったのなら女性の服着てね」
とか言われたらどうしよう?俺スカートとか穿いて勤務しないと行けないのかなあ。恥ずかしー(←穿きたいということは?)
俺もう立って小便することはないんだろうなあ(←特に問題無いよね)
お化粧とかもしないといけないのだろうか?(←したいんでしょ?)
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