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■春二(18)
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真理奈(広瀬みづほ)は学校が15時に終わったがその後、あけぼのテレビ五反野サテライトで仕事をして、21時に上がった。そして21時半頃女子寮に帰宅する。
「お帰り。お疲れさーん」
と弥日古と母が声を掛ける。
「ただいまあ、疲れたぁ!」
と言って横になる。無防備に横になっている妹の胸の盛り上がりを弥日古はまぶしく感じた。
真理奈は弥日古が契約したということ、3月からは東京に出て来てここに同居するという話に
「結局私とやー姉ちゃんとの同居に戻るのね」
と嬉しそうに言っていた。
「女の子のことたくさん教えてあげるね」
「お手柔らかに」
「あっそうだ」
と言って真理奈はブレザーを脱ぎ、ブラウスを脱ぎ、ブラジャーも外す。
真理奈が上半身裸になってしまったので、弥日古は慌てて後ろを向く。
「別に恥ずかしがらなくていいのに。姉妹なんだから」
「いやちょっと」
「マリ、それ跡が付いてるじゃん」
と母が言う。
「なんかブラジャーが小さくなって。お母ちゃん、これサイズいくらかなあ」
と真理奈が言うので母がメジャーで測ってみる。
「アンダーが76cm トップが91cm これはC75で行けると思う」
「やはりCかぁ!」
それで真理奈はフロントに電話する。海浜ひるがお(海浜ひまわりの従妹)が出る。
「すみません、何か私の胸が急成長したみたいでブラが入らなくなったんで、追って自分で買いますけど明日用にブラ1枚もらません?」
「うん。いいよ。サイズは?」
「C75です」
「それブラウスは大丈夫?」
「あ、ブラウスも1枚ください」
「じゃ持ってくね」
それで電話を切るが母が驚いていた。
「下着とかもらえるんだ?」
「そそ。忙しくて洗濯できずに不足してしまう人とかもいるし、下着の類い、靴下やストッキングももらえる」
「それ逆に洗濯してないブラウスとか着てたらテレビ局なんかで顰蹙だよね」
と弥日古が言う。
「うん。だからこういう制度になってる」
「ああ」
「元々はアクアがデビューした途端に無茶苦茶忙しくなってマジで洗濯する時間が無いから、寮母的な役割をしていた、当時の紅川社長の奥さんがアクアの下着をたくさん買ってあげたらしい。それからこの制度は始まったんだよ」
「ああ、それが女子にも拡大されたんだ」
「アクアは女子の下着しか着けないと思うけど」
「・・・やはりアクアちゃんって女の子なんだっけ?」
「アクアが男の子だなんて思ってる人はいないよ」
「確かに」
と弥日古も言った。
「だいたい女子寮に住んでたし、ちんちんが無いのはたくさんの寮生に目撃されてるし」
「うーん・・・」
と母は悩んでいた。
やがて海浜ひるがおが夕食と、ブラジャー・ブラウスを持って来てくれたので受け取った。
「ありがとうございます」
「あ、のぞみゃんも信濃町ガールズに入るんだって?」
「はい。未熟者ですが、よろしくお願いします」
「いや、デビューなんて遙か彼方の雲の上だけど、信濃町ガールズに入るのもチョモランマの上という感じだからね。私なんか『君には絶対無理』と言われた」
「そんなもんですかねー。私はガールズの姉妹だからって簡単に勧誘されたけど」
「でもアバサちゃんは不合格だったよ。姉妹であっても実力はちゃんと見てるよ」
「アバサちゃんは自分でも『私歌下手だし』と言ってました」
「それに信濃町ガールズの姉妹を勧誘するのはこの12月までで終了するみたいね」
「あ?そうなんですか」
「昇格試験ルートに統一する。ビデオガール・コンテストも不要ではという意見も根強い。実際コンテストの最終予選進出者はほとんどが地方ガールズ」
「ああ」
「ただ川泉パフェちゃんが地方ガールズを経ずにコンテストで優勝したからね。議論はあったみたいだけど。あの子は青森の凄い田舎の出身だったからね。物理的に昨年までの体制では地方ガールズのレッスンにとても参加できなかった」
「ですよね。うぢでもレッスンの度に鳥栖(*49) まで行くの大変だった」
「でも今後はネットレッスンを拡充することでカバーできるのではという意見もある」
「そのあたりはコロナが時代を変えてしまった面もありますね」
(*49) §§ミュージック音楽教室の九州支部は鳥栖(とす)市にある。ここは鳥栖JCTもあり九州全体から集まりやすいことから選定された。鳥栖は交通的な位置づけが、ちょうど関東の高崎、関西の米原などに近い。
以前も書いたが戦後アメリカ軍が進駐してきた時、九州では最初に鳥栖に拠点を置いた。ここが交通の要所であると判断したためと言われる。
「そうだ。亜蘭さん」
と真理奈は訊いた。
(秋本亜蘭は海浜ひるがおの本名。海浜ひまわり(八重夏津美)とはお母さん同士が姉妹)
「ひまわりちゃんの弟さんが“女装して大阪支店長さんの所にお嫁に行った”という件の真相はどうなんですか?“弟”というのは男らしい妹だとか、弟さんはMTFだとか、支店長さんは女性だとか、色々な噂があって。情報通のスピカちゃんも真相不明と言ってますけど。もしよかったらこっそり教えてください。誰にも言いませんから(←みんなに言いふらすという意味)」
「ああ。夏津美ちゃんの弟の秋人君でしょ。今は秋代ちゃんだけど」
「やはり性転換したんですか!」
「本人は『お嫁さんに行ってって無茶な。ぼく男の子なのに』とか最初は言ってたんだけどね。でも本人はいつも女の子に間違われるような可愛い子だったんだよ。20歳すぎても声変わりもしてなかったし、ひげも生えてなかったし。成人式では欺して振袖着せちゃったし。だから何とか説得してウェディングドレス着せてお嫁さんにした」(*50)
「うーん」
「小さい頃からスカートがよく似合うから穿かせられてたし。下着は女の子下着を物心付く頃から渡してたからそれ着けてたし。本人もショーツ穿くのが普通になってたし」
それって強制女子化教育では?
「そういう可愛い子は女の子下着でいい気がする」
と真理奈は言ってる。
「でしょ?お嫁さんになるのに男名前では恥ずかしいというから裁判所に申請して名前は女の子らしい“秋代”に変更したけどね」
「ああ」
「支店長さんと仲良くやってるみたいだからいいんじゃない?」
「まあ仲良くしてるのならいいか」
「今年赤ちゃんも生まれしたし」
「なんで赤ちゃんができるんですか!?」
「結婚したら赤ちゃんできるんだよ。コウノトリが運んで来るんだよ」
「え〜〜〜!?」
「のぞみちゃんも、きっといいお嫁さんになって可愛いいベイビーを産めるよ」
「ほ、ぼくが赤ちゃん産むの!?」
「ああ、やー姉ちゃんは赤ちゃん産めると思う」
(*50) 米本愛心によると、ひまわりの弟さんというのは凄い“美少女”で歌も姉よりずっとうまく、紅川さんが
「ぜひ海浜ひまわりの妹の“海浜すずらん”とかでデビューしない?」
と勧誘したものの、男の子と聞いて仰天したらしい。
本人は「ぼく女の子になりたくはないですー」と可愛く!言っていたが、それでも女の子にしか見えなかったという。普通にスカート穿いてたし。彼女(でいいと思う)がどうしてもデビューを拒んだのがアクアの強力な売り出しに繋がった。また秋人ちゃんの勧誘で年齢的ギャップも感じたので、アクアのプロデュースは少しでも年の近いコスモスに任せた。
秋代の結婚について花ちゃんは口が堅いが、花咲ロンドによると(*51)、ひまわりが卵子を提供して夫の坂口さんの精子と受精させ、代理母さんに産んでもらったのではないかということだった。つまり、ひまわりは結婚してくれず、弟?は優しすぎて後継ぎとしては不適格(あの子に経営は無理とひまわりも言う)なので、社内の人望が高い坂口さんに無理をお願いしてこういう変則的なことをしたらしい。
坂口さんは秋代をとても愛してくれているという。
「普通の女の子と何も変わらないし」
と言っていたという。
関係者は明言しないが、やはり「女の子になりたいわけではない」と言っているのを何とか口説き落として性転換手術を受けさせたとか??
「手術とか嫌だよぉ、ぼく女の子になりたくないよぉ」
「あんたは女の子になったほうがいいんだよ。きっと可愛いお嫁さんになれるよ」
「お嫁さんとかなりたくないよぉ」
「先方は女の子であれば元男の子でもかまわないと言ってるから」
「そんなあ」
「手術はすぐ終わるから」
「私たちの可愛い娘になってね」
「先生お願いします」
「うん。君、可愛い女の子にしてあげるからね」
「やめてー」
麻酔を打たれて意識を失う。
「連れていけ」
(以上ロンドの妄想でした!)
(*51) 以上は花咲ロンドの見解だが、月嶋優羽の見解はまた少し?違う。支店長さんは、社長から親族の娘との縁談をたくさん紹介され、困っていたので、実は自分はゲイなので女性を愛せないのだと告白した。
「なんだ。それならうちの息子と結婚してよ」
と言って秋人君と結婚してもらった。
秋人は女の子になりたいと思っていたが、(体力が無いこともあり)性転換手術を受ける踏ん切りが付かず、取り敢えず名前だけ秋代に変えていた。それで父から男性と結婚してと言われ、まあいいかなと思って結婚したら、自分がまだ男の身体なのに、たくさん愛してくれるから、凄く仲良くやっている。
秋人は身体はいじってないものの外見は女にしか見えない。身長も150cm程度で女性としても背の低いほうである。ウェディングドレスも普通に着こなした。声変わりもしてないし、ひげも生えないので、普通に支店長夫人をしている。
やがて赤ちゃんも生まれたので(←この部分が優羽説のよく分からない所)、赤ちゃんのママをしている内に、別に性転換しなくてもいいかなという気持ちになってきている。むろん彼は女物しか着ないし、温泉では普通に女湯に入る。夫からもたくさん愛してもらっているので、実用上、性転換手術を受ける必要性を感じていない。
このように様々な説があるので、情報通の姫路スピカも「分からん」と言うのである。
さて、真理奈はその日お風呂に入って、自分の足をよくよく観察してみたが、やはり傷跡は無い。(ちんちんも無い)
なんで消えたんだろう。
でもこれ夢かも知れない、と思ってあまり期待しないようにしてその日は寝た。
翌朝起きてからトイレのなかで再確認する。やはり傷跡は無い。
真理奈はズボンを穿かずにそのまま(ショーツだけで)トイレから出る。母が
「寒くない?」
と言う。
「何か足に傷が無い気がするんだけど、私夢でも見てるのかなあ」
「え?」
母は真理奈の足を確認する。念のため反対側の足も見る。
「傷が無くなってる」
弥日古も起きてきて妹の足をチェックする。
「これ傷跡無くなってるよ」
「やはり?」
母が泣き出す。そして真理奈の足を抱きしめる。
「良かった。良かった。あの日なんで私、あんたを迎えに行かなかったんだろうってずっと後悔してた。ほんとに良かった」
事故以来、母はずっと自分を責めていたのだろう。
母はずっと娘の足を抱きしめたまま泣いていて、真理奈ももらい泣きしていたが弥日古は自分までもらい泣きしながらも言った。
「ズボン穿かないと寒いよ」
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