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■春曙(17)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-09-11
 
その日、西湖の用賀のアパートに母が来訪していた。
 
「劇団は公演できなくて大変でしょう?」
「そうなのよね。公演どころか練習もできないんだよ。一応次は『間違い続き』をする予定で、配役も決めて台本も書いていたんだけど、各自台本を読んでてと言ってあるだけでさ」
「資金繰りは大丈夫?」
「元々劇団は、公演と公演の間の準備期間には、公演しないから、3〜4ヶ月公演できなくても平気」
「あ、そうか」
「まああまり長く続いたらやばいけどね」
「お父ちゃんに言っててよ。もしどうしても資金繰りが厳しい時は、私が出資か何かするからって」
 
「大丈夫とは思うけど、万が一の時は頼むかも」
「うん」
 

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「それでさ、本題だけど、とうとう来年で卒業だからさ、卒業する前に女の子らしい名前に改名しようよ」
 
「いや、しなくていい」
 
「だって女の子で“西湖”の字は変じゃない。学校で使っている“聖子”に変えようよ」
 
「だから変えないって」
 
母からはこれまでも何度か改名しようというのを言われているのだが、いつも西湖は必要無いと言っている。しかしこの日の母はかなり頑張った。
 
「ほら。改名のための申請書も書いたんだよ。これ提出すればまず改名認められるからさ、ここに名前書いてハンコ押してよ」
 
と言って書類を示す。
 
「だから必要無いって」
と西湖はあくまで拒否した。
 
西湖(M)としては、名前まで女の子に変えてしまったら、もう男の子には戻れなくなるという気持ちがある。もっとも、母が来ているので押し入れの中!に隠れている西湖F(聖子)の方は
 
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「ボクは改名賛成」
などと脳内通信で言ってきていた。
 

3時間ほども粘ってから母は帰っていったが、参ったなと西湖は思った。母は
 
「一緒に性別も変更する?」
などと言って、性別変更の申請書まで置いていったが、こちらは医師の診断書が必要だということだった。
 
西湖は母が置いていった書類を眺めている。
 
「ボクが性別の診断受けてこようか?」
などと押し入れから出て来た西湖Fが言う。
 
「その場合は完全な女だと診断されるだろうから、この書類ではないと思う。性別の取り扱い変更ではなくて、性別訂正の申請書を書かないといけない」
 
「その申請書の用紙もらってこようか?」
「僕は性別も名前も変えたくない」
 
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「でもボクたち、ひとりに戻った時にどちらが残るかって、分からないね」
「なんか毎回違うもんね」
 
1月に2人に分裂した後、数回1人に戻ったことがあるものの、その時、Mが残った時もあればFが残った時もあったのである。
 
「いっそ戸籍がふたつあればいいのにね」
「そういう訳にもいかないもんなあ」
 

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「ボクたちが1人に戻った時さ」
と龍虎Fは《こうちゃんさん》に尋ねた。
 
「もしMが残った場合はM用の戸籍・パスポートを使って、ボクが残った場合はF用の戸籍・パスポートを使えばいいんだよね」
 
「まあ当然そうなるな。元々3人がひとつずつ使えるように用意したものだし」
 
「ここだけの話さ、多分自分が消えるんだろうと思ってたけど、ひょっとしたらボクの方が残るかも知れない気もしてきた」
 
「まあその時は、私は実は女の子でした。ごめんなさい、と記者会見すればいい」
と《こうちゃんさん》。
 
「それ誰も驚かない気がしない?」
「みんな『そんなこと、とっくに知ってた』と言うだろうな」
「だよねー」
 

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3月末にスタートした、あけぼのテレビは、有料番組と無料番組で構成されている。但し有料番組も最初の5分間だけは無料で視聴できる。その後はスクランブルされる。このスクランブルされている間、その番組を購入していない人で、定額会員(月1000円)でもない人の端末では、環境ビデオのような風景画像が流されるのと同時に、ピアノ、ギター、ヴァイオリン、あるいはエレクトーンによるノンボーカルの音楽演奏が流れるようになっていた。
 
なお、風景画像は、撮影担当のサンシャイン映像制作の社員が2人組で全国の高速道路を走り回り、ずっと車窓から撮影しているものがメインである。場所によっては車を駐めて、夕日などをずっと映したり、遊歩道などを歩きながら撮影したケースもある。
 
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演奏をしているのは、概ね信濃町ガールズの子たちで、深夜時間帯には本人が演奏している映像とともに、同じ音源が再生されていた。また、この音源・映像はわりと使い回しされて、たいてい1週間も経てば同じものが流れるようになっていた。番組表でも、この時間帯は誰の演奏というのが公表されているので、わりとこの音楽や映像にも人気が出た、中には有料会員なのに、無料会員向けの映像も見るために別のパソコンで無料番組を受信して録画しておくような人たちも出ていた。(有料番組は原則録画不可だが、無料番組はVideoProcなどで録画できる)
 

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仕事をしている層から、タイムシフト放送をして欲しいという声が結構あり、あけぼのテレビでは§§ミュージックの子たちに限定して試験的にこれをおこなっていたのだが、6月から一般の人でも、一週間以内のタイムシフト受信を許可することにした(但し混雑時間帯の18-22時を除く)。番組によっては一週間ではなく、1ヶ月間、あるいは1年以内まで視聴できるものも設定する。
 
これを見るには“プレミアム会員”になる必要がある。プレミアム会員は、一般は3000円、学生は2000円という値段設定としたが、10万人も希望者が出て、コスモスたちはびっくりした。
 

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4月下旬、§§ミュージックは今年のロックギャル・コンテストを中止すると発表した。どうしても狭い会場で密集が発生するからである。換気の良い会場はなかなか得られないし、そもそも歌唱行為自体に問題が起きやすい。
 
代わりにビデオ審査による“2020ビデオガール・コンテスト”を開催すると発表した。これはビデオデータ(mp4, flvなど一般的な形式ならOK)を送ってもらい、それを審査して候補者を絞り、50-100人程度でリモート審査をして、最終的に10人くらいを東京まで送迎してリアル審査するというものである。公共交通機関を使わなくても東京に来られるように何か適当な手段を用意するとした。
 

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コスモスは、3月以来、江藤さんのプライベートジェットをかなり利用させてもらっていたのだが、利用率が高まり、江藤さんのご厚意に甘えてばかりはいられないとして、1機、§§ミュージックあるいはあけぼのテレビの名義でジェット機を購入することを考えて、ケイに相談した。
 
「飛行機って買うとしたらどのくらいの納期で買えるもの?」
「まあ普通は数ヶ月かかる。だいたい1年は見ておいた方がいいと思う」
「そんなに掛かるのか!」
「B787みたいな大型機なら数年かかる」
「さすがに787は必要無い」
「小型機を運用している会社からさ、1機、パイロットごとレンタルする手がある」
「その手があったか!」
 
それで調べていたところ、関東に本拠地を持つ小型機航空会社で、ホンダジェット(乗員乗客合計7名。新機価格5.6億円)を長期間レンタルしてもいいという会社があることが分かり、江藤さんと若葉にも一緒に行ってもらって条件面も含めて交渉。1年間2億円(燃料費・運用費別)でレンタルできることになった。延長については年末くらいまでに話し合う。
 
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条件は
 
・その機体は§§ミュージック用だけに使用し、他用途には使わないこと。
・使用する前に徹底的な機内消毒を行う。
・操縦するパイロットは、非常時を除いて最大3人までにして欲しいこと。
 
といったものである。これで“2020ビデオガールコンテスト”の最終選進出者を公共交通機関を使わずに運べるメドがついた。
 
もっとも実際にこれを最も使うのは、アクア、姫路スピカ、白鳥リズム、ラピスラズリ、ローザ+リリン、といった付近になるのである。
 
「ところでホンダジェットかガルフG650の新規購入の話も進めておく?」
と若葉はコスモスに尋ねた。
 
「若葉ちゃんの伯母さんの会社がルート持ってるよね。お願い」
「ホンダ?ガルフ?」
「ホンダで」
「了解。予約入れておく」
 
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新規購入ができた場合は、この航空会社・N航空にメンテをお願いしたいというのも取り敢えず口頭で申し入れ、内諾を得た。
 
「アクアをこれに乗せてプーケットまで連れて行ってそのまま手術室へ」
「本人が了解すれば」
 

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2020年4月27日(月・友引・なる)、クレール若林店に隣接して建設されていた“若林店2号館”が竣工し、播磨工務店・青組(青葉通り店を建てたチーム)からムーランに引き渡された。ここの土地は千里(フェニックス・リゾート)の所有で、その土地にムーランがこれを建てて、クレールに月20万円で貸すのである。
 
本当は前日に完成していたのだが、その後一晩で2号館の上に盛り土をして、若林植物公園の地面を作り上げた。そのため、建設中は地上にあったのが、一晩で公園地下の施設となった。
 
正確には最初に公園の該当部分をいったん深さ4mほど掘り下げている。そこに高さ6mの建物を建てたので、建築中、建物は地上から2mほど出ていた。完成してから土をかぶせて、公園の地面の高さである周辺道路面から2.7mにしている。つまり建物の屋根から地面までは0.7mほどしかないので、この部分には樹木は植えられない。花だけを植える予定である。
 
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ここへのアクセスはクレール本館から、エレベータ2機とエスカレータ4機であるが、災害などの時のために、スロープでアクセスすることもできる。車椅子にも配慮した傾斜1/12のスロープ(水平距離48m)で降りていくことができる。この傾斜なら、電動ではない、手回し方式の車椅子でも自力で登ることができる。むろん誰か親切な人が押してくれたら、もっと楽に登ることもできるはずである。
 
実際に運用してみると、このスロープ利用派がわりと多く、半分くらいの人がスロープで上下していた。これはボニアート・アサドにしても信濃町ガールズにしても、若い客が多いこともあるのだろう。
 
このスロープの壁には、事務所の許可を得てζζプロや§§ミュージックの多数の歌手の写真を展示しており、これが毎月少しずつ変わるので、それを見るためにこちらを使う人もあったようである。
 
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展示が終わった写真やポスターは販売するが希望者が多いので、たいてい抽選となった。その売上は事務所に帰属するが、クレールは手数料として3割もらえることになっている。
 
なおエレベータは本来定員20名だが8名で運用する。エレベータが地上と2号館を往復する時間を1分と見た時、2機で16人/分の運送能力になる。エレベータは障碍者やお年寄り・妊婦など優先でお願いしますと掲示している。
 
エスカレータは1段おきに乗るように「乗車禁止」のステップをペイントしている。基本的に歩行禁止である。エスカレータ(1人乗り)は1機につき本来75人/分の搬送能力があるが、1段おきに使うので4機で150人/分である。
 
なおこのエスカレーターは、開演前には下向き、開演後は上向きで運用する。(開演前に昇りたい人・開演後に下りたい人はエレベータかスロープで)むろんセンサーで人が来た時だけ動く方式である。
 
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150人/分ということは、800人の搬送は5分半ほどでできるが、非常時には一時的に全ステップに乗るのを許可するので3分ほどで全員を脱出させられるはずである。スロープから脱出する人たちもあるだろうから、もっと早く全員脱出できる可能性もある。
 
むろんエスカレータ・エレベータおよび照明は災害などでの停電時には自家発電に即切り替わる。
 

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この“2号館”の天井は約5.5mである。音響上は本当は最低でも7mとりたかったが、公園の地下に設置し、地上にある若林店本館から楽にアクセスできるということを考えて5.5mに抑えた。
 
トイレや通路などを除いた客室部分は40m×40mの四角形なので、空気の量は8800m3であり、建築基準に従えば、最低 30m3/人時 で換気しなければならないので、800人入った場合、22分ほどで空気が全部入れ替わる必要があるが、実際には15分ほどでこの空気が全部入れ替わるように設計している。
 
部屋の上方に空気吹出口があり、床近くの強制排気口と、床板に空けた自然排気孔から排出されるので、空気は上から下へ流れている。結果的に人が居る層(床から2mほど)だけを考えると6分程度で空気は完全に入れ替わることになる。
 
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排出された空気は付属の浄化施設で一度ガスバーナーの1000度以上の高温に曝されているパイプの中を通った上で、水中にパイプを通して冷却し、最終的には念のため目の細かいULPAフィルターを通してから外に排出される。これは火牛体育館の地下に作った浄化施設と同じ仕様である。
 

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この“2号館”には様々な感染予防対策をしている。
 
・座席間隔を大きく開けてソーシャル・ディスタンスを保つ。
・テーブルの向こう側に飛沫防止の透明アクリル板を取り付け。
・約15分(人が居る所だけなら6分)で空気が完全に入れ替わる換気システム。
 
・ステージと客席の間に巨大なエアーカーテンを設置し、ステージと客席は各々独立した換気体系になる。
 
・トイレ個室のドア・ふた・洗浄は自動。どこにも触らずに利用できる。便座は除菌ジェルで各自に拭いてもらう。
・男子小便器は元々飛沫の発生しにくい最新便器に飛沫防止ドーム設置。
・トイレ内に強い吸気口があるので、トイレ中の空気は外に出て行かない。
 
・感染予防と視界遮断回避のため公演中は人手による配膳をしない。公演中の追加オーダーは自動配膳システム(お寿司屋さんの新幹線と同じシステム)で行う。そのため各テーブルに注文用タブレットを設置している(自分のスマホからも注文できる)。
 
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・本館や青葉店も同じだが、トレイ・皿・コップ・ストローは全て紙製、スプーン・フォークもバイオマス・プラスチックで使い捨て。コップは蓋(紙製!)付き、トレイは折りたためる!仕様で、食べかけで中断する場合は折りたたむとほこり・ウィルスの付着を予防できる。
 

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ここは3000人程度入るホール規模のサイズだが、定員800人のレストラン仕様である。あくまで飲食店であり、ステージでの演奏は単なるサービスという建前である。むろん飲食店なので、注文をせずにここに座ることは許されない。最低1ドリンクのオーダーが必要であるが、ミュージック・フィーは取らない。
 
実際はカフェラテとオムレツまたはサンドイッチのオーダーをする人が多かった。
 
この“2号館”は基本的には毎月1回のボニアート・アサドの“里帰りライブ”と、月2回の信濃町ガールズの定演のみで使用される予定だったが、それ以外に月に1度TKRのわりと集客力のあるセミプロアーティスト(銀クラス)の演奏も行われるようになった(むろんライブ自体は無料。ギャラも無し!)ので毎週1回土曜日にここが使われることになった。
 
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なおステージは端に置く方法と中央に置く方法が設定できるが、ボニアート・アサドも信濃町ガールズも、お客さんとの距離が小さくなるように中央ステージを選択したので、基本的に当面は中央ステージ固定とした。
 
実は円形の部屋にする案もあったが、円形の部屋は音響が悪い(楕円よりはマシだが)ので没とした。
 

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春曙(17)

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