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■春曙(4)
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4月から就職することになっていた会社が行ってみたら倒産していた、芳野早百合はとりあえずその日、自宅でぐっすり寝た後、翌日ハローワークに行ってみた。
「ああ、コロナ関連の倒産は今少しずつ起きてきているみたいなんですよ」
とハローワークの職員さんは言っていた。
「英語はできます?」
「STEPの準一級取りました」
「かなりできますね。それ以外の外国語は?」
「一応大学では第2外国語でフランス語を勉強しました。それ以外に中国語はわりとできます。韓国語は読み書きするのと、自分でしゃべるのはいいんですが、聞き取りは少し苦手です」
「それだけできたら心強いですよ。ExcelとかWordは?」
「MOS 2016を取りました」
「運転免許は?」
「中型免許を持っています」
「簿記は?」
「日商の二級を持ってます」
「だったら、勤め口はいくらでもありそう」
と言われたものの、実際の求人票を検索しても、なかなか良さそうなものがない。そもそもこの季節は求人が少ない。更にコロナで採用を手控える所が増えているようだ。
「東京勤務とかは?」
「仕事がなければ行ってもいいですけど、できたら福岡市近郊で」
「プログラムは組めます?」
「組めますけど、時間の制約が厳しすぎるのが」
「確かにあの業界は残業が酷いですからね」
「しかもサービス残業でしょ?」
「それが問題なんですけどねー」
結局、北部九州全般で営業している貸し切りバス会社の福岡支店が募集していた事務職に応募した。面接に行くと、こんな時期に求職していた理由を訊かれるが、4月から就職する予定だった会社が倒産したということを言うと
「それは大変でしたね」
と同情された。
それで採用になり、早百合はバスの予約・配車の作業をする部門に投入された。早百合が英語の他に中国語(北京語)もできることから、外国からの観光客への対応にも期待されたようだった。またExcelに詳しい社員が3月で辞めたとかで、早百合は前任者が大量にExcelで組んでいたフォームなどのメンテも頼まれた。早百合はマクロなどを見ていて、これって“プロ”の造りだと感心した。とても筋の良い組み方がされていた。素人が組んだマクロはしばしば解読不能である。
事務所にはコロナ対策で次亜塩素酸水のミスト発生装置が置かれていたし、窓は常時開放されていた。
なお、この会社は事務所が祇園駅の近くなので、買った定期(筑前前原−博多)がそのまま使えて、ラッキー☆と思った。
また早百合が中型免許を持っていることから何かの時のために「大型二種」を取ってくれないかと言われ、これは主として勤務時間外に、プロの運転手さんに習って練習した。
「あんた筋がいい」
と褒められる。
「ずっとファミレスのバイトしてて、お客さんの車の駐車・出庫をしていたからかも」
「だったら、色んな車を体験してるね」
「ええ。おかげで。4tトラックまでは運転してます」
「ああ。大型に慣れていると思った」
(実はうっかり?お酒を飲んでしまったお客さんのトラックを営業所まで運転していったことが数回!ある。どう考えてもサービスの範囲を超えていたが、飲酒運転を見逃す訳にもいかなかった。実際見逃した場合はお店が責任を問われる場合もある。帰りは、酔ってない!ドライバーが荷物運搬のついでにファミレスまで乗せてくれた)
それで1ヶ月ほどの練習を経て、連休明けに試験場に行き、一発試験を受けて合格。大型二種の免許を手にした(2016年3月に普通免許を取り3年以上経過しているので、大型二種の受験資格ができていた)。実際、早百合は5月下旬、福岡市内の女子高の遠足に投入された。女子高なので、女性の運転手さんが歓迎されたのである。しかもコロナの影響で1台の乗車人数を15人に制限していたため、台数が必要だった。
「やはり女になれて良かったなあ。女性だから頼むと言われるのって凄く快感!」
と早百合は思った。
2020年3月25日(水).
この日某自動車メーカーから“アクアのアクア”が発売され。ローザ+リリンのマリナは発売されたばかりの新車を受けとった。
「すっごく可愛い」
とマリナは嬉しそうな顔で、納車してくれた車屋さんに言ったのだが、ケイナは
「これに乗るの〜?」
と嫌そうな顔をした。確かに男の人には可愛すぎるかもね!
「大丈夫だよ。私かデンデンが運転するし」
「デンデンが運転してたら、盗んだ車ではないかと思われたりして」
「ああ、それはありそう」
実際にデンデンは車の回送中に警官に捕まり!マリナが身元引き受けに行くハメになった!それでケンネルの提案で、デンデンには運転手の制服?っぽいものを着せることになったが、この顛末も『夜はネルネル』で放送された!
警察に捕まるシーンやマリナが引き取りに行くシーンは再現ドラマだが、警官役は元プロレスラーのタイガー沢村がゲスト出演しており、捕まったデンデンは縞模様の古典的な囚人服を着せられ、マリナは豪華なドレスとゴージャスな指輪を付けて貴婦人風の装いで引き取りに行くという演出になっていた。
しかしどうも最近この番組はデンデンを“いじる”番組になりつつあるなと、マリナは思った。デンデン自体は全然面白くないのだが、デンデンが天然でやらかしてしまう失敗が笑いを呼ぶのである。ひょっとしたら、それがデンデンの才能(?)なのかも?
ところで“アクアのアクア”であるが、90台限定の特別限定車が制作された。
“スピカのアクア” 30台
“花ちゃんのアクア” 30台
“白鳥(しらとり)のアクア” 30台
である。アクアのアクアは彼(彼女?)のイメージカラーである水色(アクアブルー)でアクアのロゴマーク(波模様)に、招き猫アクア、などが入っているが、各々の特別限定車はこのようになっている。
スピカのアクア
車体はブルー(スピカブルー)、スピカのロゴマーク(☆型)、パンダ・スピカ
花ちゃんのアクア
車体はライトオレンジ、花ちゃんのロゴマーク(ハイビスカス)、ルンバに乗る花ちゃん
白鳥(しらとり)のアクア
車体は白(スノーホワイト)、リズムのロゴマーク(列車のヘッドマーク風)、 白鳥(はくちょう)リズム
それ以外の各種スペックは“アクアのアクア”と同じで、ベンチシートやエアロパーツなどもそのままである。
“30台限定”というのは実は一般発売の台数で、各々の1号車(010201, 010301, 010501)は、スピカ・花ちゃん・リズム自身に引き渡された(事務所から各々へのプレゼント:経理的には報酬の一部)。但し、まだ運転免許を持っていない白鳥リズム(4月から高校生)は、実際に運転できるのは18歳になって免許を取った後(正確には高校卒業後)になり、今後3年間はマネージャーの本田覚か村上麗子が運転することになる。
この各30台の販売に関しては、メーカーで購入希望者を募集して抽選で決定したが、希望者の数があまりにも物凄かったので最終的に各98台に増やすことになった。(本人がもらったものまで含めて99台)
さて、コロナウィルスの影響で、安倍首相の要請により、3月から全国の学校が休校になったのだが、放送業界にも影響が出て、2月下旬から、番組の生収録を控える動きが出始めた。
最初に一般の観客を入れていた番組を無観客に変更する動きが出て、やがて収録を中止して、撮影体制を見直す所なども出始めた。放送は過去の番組の再放送が多く行われた。
コスモスは紅川相談役に沖縄から来てもらった。そしてT医科大学の下田准教授、ケイ会長、特別アドバイザーの山吹若葉・村山千里・丸山アイも入って緊急の対策会議をおこなった。
その上で、コスモス・紅川・下田先生の3人で各放送局で、§§ミュージックのタレントが出演している番組のプロデューサーにコロナ対策に関しての会談を申し込んだのである。
コスモスがここで実質引退している紅川さんを担ぎ出したのは、やはりその威光にすがりたいからである。紅川に義理のあるプロデューサーもわりといる。それに引退した身ということにはなっていても、名目的には∞∞プロの副社長という肩書きは強烈である。
コスモスたちの話し合いの内容は、各番組の感染対策や今後の制作方針を詳しく聞くのと、それでは足りないと思われる点について改善を申し入れることであった。その場合の、対策費用に関して一部負担してもよいとコスモスたちは申し入れた。
実際に話し合ってみると、各番組とも手探りの所が多く、やはり対策が少し不足している所が多かったが、コスモスたちからの要請を受けて改善を約束してくれた所が多く、対策費用の負担や必要な設備等(ビニールシート等)の提供を受け入れてくれた所もあった(実際対策はしたくても予算が取れない、と悲痛な表情のプロデューサーもいた)。
アクアがレギュラーになっている番組はみんな要望を聞いてくれた(アクアに辞められると困る)。費用負担については、§§ミュージックが番組のスポンサーに名を連ねる形で行うことにした。
しかしどうしてもこちらの要請内容を受け入れてくれないプロデューサーもあり、コスモスたちはやむを得ないので、その番組からはタレントを引き上げさせてもらうと伝え、向こうもやむを得ないですねと言った(事実上の交渉決裂)。
そういう訳で、§§ミュージックのタレントたちは3月に入るあたりから、収録の一時休止と、交渉決裂との影響で仕事がだいたい半分くらいになった。学校を卒業して、このあと、どれだけ忙しくなるのだろうと思っていたアクアでさえ、仕事が激減して急に暇になり、拍子抜けしたのである。
コスモスはこういう制作体制はおそらく5月くらいまで続くと予想し、その間にアクアのアルバムを制作することにした。他に、ひろか、ありさ、スピカもアルバムを作ることにした。(一度に全員はできないので、このメンツの制作が一段落したら、リズム、花ちゃん、ロンド、ネオンの制作に移る予定)
それと同時に、仕事の減ったタレントたちの仕事を作るのと、顔を売る目的で、丸山アイの提案でネット放送局を立ち上げようということになった。
充分なコロナ対策を実施した状態の制作現場から、歌番組やバラエティなどを制作して放送しようというものである。放送時間は、若い人たちの生活時間帯に合わせるのと、所属タレントに中高生が多いこともあり、夕方17時から深夜2時まで9時間の放送ということにした。但し22時以降は再放送や既存のビデオ作品を流すことをメインに考える。土日祝日は朝8時から16時まで8時間の特別放送枠も設定する(16-17時は放送休止)。
この放送制作のために、コスモスとケイは、運営会社《§§メディアサービス》を設立。ネットのバックボーンを持つトリプルスター(TKRの親会社のひとつ)、映像制作会社の大和映像にも資本参加してもらった(他にムーラン・亀山社中・フェニックストライン・サマーガールズ出版も資本参加している)。資本金は“取り敢えず”10億円である。(初期の設備投資で3億円飛んだ)
実は大和映像も、コロナ影響下での撮影・制作の方法について手探りだったので、潤沢な予算が使えるこのプロジェクトに乗ったのである。ここで色々と実験的なことをして、それを在来局の制作にも活かそうという魂胆があった。この点で、コスモスたちと、大和映像・大曽根さんたちの利害が一致したのである。
放送局の名前は“あけぼのテレビ”と決めた。コロナで暗い時代だけに、新しい夜明けを目指そうという趣旨であった。
社長には多数のコネを持ち、また実際にたくさん活動できる人物として、春風アルトさんを担ぎ出した。アルトさんも美音良ちゃんがそろそろ1歳になり、少しは子供の手が離れてきた所だった(実際にはアルトさんが1日中飛び回り出張も多いので、子供の世話は上島さんがずっとしていて“主夫”化することになる)。
副社長がコスモス、専務が大和映像の坂口さん(大曽根部長の腹心)、常務がトリプルスターの松浦さんである。ケイ・千里・若葉・丸山アイも取締役に名前を連ねている。また社外取締役として、大手住宅メーカーの取締役でもある宮崎和斗さん、元サッカー選手の大川隆史さん、にお願いした。
この資本構成・取締役メンツには、放送業界の人もレコード会社も入れていない。そういうしがらみの無い形で構成することで、かえって各放送局やレコード会社と付き合いやすくなるだろうという紅川さんの提案でこういう形になった。紅川さんは相談役の肩書きを引き受けてもらった(名前だけであり無給)。
基本的には大和映像およびサンシャイン映像制作(*2)のスタッフで撮影を行い、トリプルスターの回線で配信することにした。番組は有料番組と無料番組があり、1ヶ月1000円の会費を払っていれば、有料番組(1枠100-300円)も見放題とすることにした。また有料番組も冒頭5分間だけは無料で視聴できる。実はこれが結果的に売上を大きく伸ばす力となった。
(*2)サマーガールズ出版・§§ミュージックの各々の映像制作部門を合併させる形で、2020年1月に発足した。所属タレントのPV制作が主な仕事。3月上旬の震災復興イベントのネット中継では、★★チャンネルのスタッフと共同で撮影・ネット放送をおこなった。これが良いウォーミングアップになった。
若い視聴者が多いことが予想されたので、支払いは、クレカ(VISAデビットやauウォレット・JCBプレモなどを含む)以外に、携帯払い、ビットキャッシュ、PayPayネット決済などもできるようにした。このあたりは若葉がとりまとめてくれた。実際、ビットキャッシュ払いが物凄く多く、中高生の加入者が多いことを想像させた。
番組の制作は大田区のサテライトオフィスで行うことにして、そのための改造を3000万円掛けて3月中におこなった。撮影・放送用の機器が、おりからのリモート勤務の広がりで不足したので、一時的に足立区の研修所の機材を運び込んで使用したりもした。
3月中旬にこのことを告知した所、アクア人気を背景にいきなり加入希望者が100万人も来て、さすがのコスモスも度肝を抜かれた。実をいうと、5万人から10万人程度だろうと予想していたのである。急遽サーバー増強とネット技術者確保のために奔走することになる(回線はトリプルスターが枠を確保してくれたので、安定放送できる見込みとなる)。
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