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■春曙(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-09-04
 
季里子が唐突に沈黙したので、舐めてあげていた桃香は
「どうしたの?」
と尋ねた。
 
「いや、私って男の人と1度も経験しないまま二児の母になっちゃったんだなと思って」
と季里子は言う。
 
「何を今更。でも結婚していた人とは一度もしなかったの?」
 
と桃香は尋ねながら、彼の名前何といったっけ?と思い出そうとしたものの、思い出しきれなかった。女装姿が可愛かったなあ、などと思いながら、あれ?自分はどこでその人の女装姿を見たのだろうと考えるが思い出せない。
 
「してない。セックスしないし、裸もお互い見せないという契約だったから。人工授精用の精液を提供してもらっただけ」
「不思議な結婚生活だ」
「法的に入籍しておかないと人工授精してもらえなかったから」
「それ要求しない病院もあるのに」
 
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「桃香はよくそういう病院見つけたね。でも桃香、その人とはセックスして受精したんじゃなかったんだっけ?」
「セックスして子供ができたのは、長崎の子なんだよ」
「あ、そうか。早月ちゃんは人工授精なんだよね」
 
「そうそう。だから私は男とは2人セックスしてるけど、どちらともセックスでは子供を作っていない」
 
「それ本当に男なんだっけ?」
「一応男だったと思うけど。ひとりは女装趣味だったし、ひとりはMTFだったけど」
 
「そのMTFというのが、千里さんだよね」
「そうそう。早月の父親」
「千里さんとセックスしたのは大学生時代?」
「うん。精液の採取をしてもらったのも大学生時代」
「千里さんっていつ性転換したの?」
「たぶん高校生時代」
「だったら大学生時代にセックス出来たわけがないし、精液を採取できた訳がない」
 
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「実はそこは謎なんだよ」
 

「もう一人の男性というのは?」
「あいつは女装していても、性格的に完全に男だった。それで私は醒めてしまったのだが」
「その人とは、桃香が女役したんだよね?」
「お互いに**ルドーつけて、じゃんけんで勝った方が男役、というゲームをよくしていた。ジャンケンは私が8割くらい勝ってたけど、何度か私が負けて、ちんちん切り落とされちゃったから仕方なく女役をした。女役は楽しくない」
 
「待って。彼も**ルドー付けてたの?」
「そうだけど」
「だったら彼はおちんちん無かったの?」
「あるけど小さいと言ってた。だから**ルドーでセックスできるようにしたんだよ。ちんちんを中に入れられるタイプあるだろ?ちんちんがプラグ代わり(*3)」
 
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「それ、本当にちんちんあったの。実物見たことある?」
「いや、小さくて恥ずかしいから見られたくないと言うから、無理に見たことはない」
 
「それ本当は既にちんちん取っちゃってて、**ルドーで誤魔化していたということは?」
 
「そんなこと言われると自信が無くなる。でも彼はその後、天然女性と結婚して子供も2人産んだぞ」
 
「ふーん。その彼が産んだんだ?」
「あ、違う。相手の女性が産んだ」
「それも怪しかったりして。実はその彼が産んだのかもよ」
「むむむ」
 
「つまり、桃香も実は男性との経験が無いんだな」
 
「そう言われると自信が無くなってきた」
 
千里としたのも、ほとんどが自分が男役だったしなあ、と桃香は当時のことを思い出していた。
 
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(*3) **ルドーをハーネスに取り付ける方式は2種類ある。ひとつはリング式といい、ハーネスに穴が空いている(♀型)ので、土台または吸盤のついた**ルドーをそこに通して固定するもの。もうひとつがプラグ式といって、ハーネスにプラグという突起が出ている(♂型)ので、そのプラグに取り付けるものである。男性が**ルドーを使う場合、ハーネス無しで中空になっている**ルドーを自身の棒状器官にかぶせる方法がある。要するに自身の器官がプラグ代わりになるのでハーネス無しで**ルドーを使用できる。これは、EDの男性に結構な愛用者がいるらしい。
 
実際には桃香の元彼・研二は自分の男性器をタックして女性股間偽装した上で、女性用の接着型ハーネスを付けて桃香とセックスしていたのだが(実際には、その偽茎を根元から切り落とされて、女役をさせられていた)、男性器に無知な桃香は気づかなかった。そもそも中に男性器が入っている偽茎を切り落としたら男性器も無事では済まないはずだが、桃香は“なーんにも考えていない”。
 
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青葉の当面の勤務体制はこのようになることになった。
 
朝6時出社/午前中のニュースを読む/昼12時退勤。
 
水連側から、来年の東京五輪まで、できるだけ負荷が掛からないようにして欲しいという要望があったので、レギュラー番組は持たせないことになった。時間が取れる時に『作曲家アルバム』の撮影をおこなうが、『作曲家アルバム』は7月上旬放送分まで撮り貯めがされているので、コロナの折、5月いっぱいまでは撮影を休むことを決めた。
 
それで青葉はだいたいお昼を食べた後、20時くらいまで津幡のプールで練習して、21時には自宅に帰り、ぐっすり寝て翌日朝5時に自宅を出て〒〒テレビに出社するという生活を送ることになった。自宅→金沢→津幡→自宅の移動は自分の車(March NISMO S)を使用する。実は“赤いアクア”は明日香が東京に持って行ったままになっている。彼女がどうもずっと使っているようなので、まあいいかと思っている。
 
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明日香は金沢支店配属の予定だったのが、社長に気に入られてしまい、本社勤務になって社長の運転手をしているらしく、夜間の運転練習にアクアを使用しているようだ。東京の道路はかなり練習しておかないと、なかなか恐い。金沢などとはまるで“レベル”が違う。曲がり損ねると20-30km迂回するはめになる。一方通行が物凄く多いし車線変更が大変である。更に路駐が行く手を阻む。明日香は千里姉から“練習問題”を与えられて、毎晩指定された地図に沿って運転しているらしいが毎晩1回は失敗すると言っていた。しかし前の晩に練習した所を翌日社長の車できれいに通過して「よく今の所間違わなかったね」と社長秘書さんから褒められたこともあったらしい。翌日使う所を練習問題として出すというのは、さすが千里姉である。
 
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青葉は土日は休みなので、1日中津幡で泳いでいる。なお、霊的な相談はできるだけ断るようにする。関わってしまうと、霊は平日も土日も関係無いので、テレビ局の仕事に影響が出かねないからである。
 
『北陸霊界探訪』の6月放送分は幸花たちで何とかしてくれるということだったが、9月放送分については、6月くらいに打ち合わせをしようと神谷内さんは言っていた。
 

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津幡のプライベートプール(4.17-5.01日はアクアゾーン地下の50mプールで代替)であるが、3月末の段階でここで泳いでいたのは、青葉、ジャネ、南野里美、竹下リルの4人だったのだが、緊急事態宣言で全国的にプールが閉鎖されてしまったので、練習場所を求めて、仙台の金堂多江が4月4日(土)やってきた。東京の永井さんも来たいと言っていたが、会社の許可が下りなかったようである。会社としては社員がよそのスイミングクラブで泳ぐことに難色を示したし、移動中の感染リスクも心配だったようである。金堂さんの場合は学校が休校になっているし、向こうのスイミングクラブでは“生徒”なので、他の所で泳ぐのも全然問題無い。
 
金堂さんは取り敢えず学校が再開されるまで津幡に滞在するという話だった。水連から「移動するなら公共交通機関は使わないで」と言われたので、彼女はお父さんの運転する車(トヨタ・ライズ)で仙台から津幡までやってきた。今回のコロナは肺機能に後遺症が残る場合があるが、それは水泳選手にとって致命的になりかねないので、水連も有望選手の感染対策にはかなり神経質になっている。
 
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金曜日の夜に出発して土曜日の夕方到着しているが、親不知(おやしらず)付近の海岸の景色が素晴らしかったと言っていた。磐越道も本当は素晴らしいのだが、通過したのが夜間なので磐梯山などの風景は見ていない。
 

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「ここ食事はどうするの?」
とお父さんが尋ねたが、案内役を買って出た竹下リルが
「頼めば部屋の前まで置き配方式でデリバーしてくれますし、ホテルのラウンジで食べてもいいんですよ」
 
と言って、宿泊する火牛ホテルの部屋から、広いラウンジに案内する。この火牛ホテルはアクアゾーンの2階に作られているので、幅が120mもある。その前面部分をラウンジにしているので、このラウンジは120m×10m という大きな道路のような空間になっている。
 
そしてこのラウンジに多数のテーブルが入口側の壁沿いに並べられているが、各々のテーブルの間隔は2m以上空けられており、透明ビニールシートで周囲を囲まれている。
 
「感染対策しっかりしてるね」
とお父さんは言いながら、娘と一緒にひとつのテーブルに座る。リルが各テーブルに付属したウォーターサーバー(実はただの水道?)から水を、置かれているコップに汲んで配った。
 
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「ありがとう。水はセルフサービスか」
「コップは使用されているいないに関わらず1時間単位で回収して洗浄しているそうです」
「結構徹底しているね」
 
「各テーブルの下に空気の吸い込み口があるから、呼吸で吐いた息の多くが排気口に吸い込まれて2階と1階の間に設けられた緩衝ゾーンから空気清浄施設に送られ、ウィルスを通さないフィルターで処理された後、屋外に排出される仕組みになっているそうです」
 
「なんか凄いね」
「感染対策だけで億の予算を注ぎ込んでいるみたいですよ」
「よくやるなあ」
とお父さんはかなり安心した感じである。
 
「体育館の地下にスポーツジムができる予定だったんですが、そこがコロナの影響で開業のメドが立たないというので、結局入店キャンセルしたんですよ」
 
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「ああ、スポーツジムは厳しい」
 
「それでその空いた部分に空気清浄施設を作り込んだみたいですね」
「ああ。結構なスペースを食うよね、そういう施設は」
 

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「注文はベルか何か鳴らすのかな?」
「テーブルに組み込まれているタブレットで注文するんですよ、そこのボタンを押して下さい。カバーが開きますから」
 
「なるほどー。これって、お寿司屋さんにあるのと同じだ」
「そうです、そうです。あのシステムを取り入れてるんですよ」
 
それで多江は、ハンバーグとチキンのダブル定食、お父さんは桜鱒御膳、リルは唐揚げ定食を頼んだ。それでしばらく話している内にお父さんが
 
「しかしこんな広い所に配膳するほうも大変だろうね」
と言っていたのだが、プォーという音と共に“新幹線”に乗って料理が運ばれてきた!
 
テーブルは壁際に並んでいるのだが、その壁の所に料理のトレイが乗る幅の通路が設けられており、“新幹線”がそのトレイを牽引してくるのである。
 
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「これもお寿司屋さんのと同じシステムだ!」
「でないとここ広すぎますからね。人が配膳するのは大変ですよ」
「確かに確かに」
「感染防止にもなりますし」
「それもあるよね!」
 
「ちなみにコップの交換とか、料理の皿を下げたりする作業をする人は、電気自動車に乗ってラウンジ内を回るんですよ」
「歩いて回るのは大変そうだもんねー」
 
その“回収係”さんが回ってくる所に遭遇したが、お父さんはその“装備”にびっくりしていた。
 
「なんかSFの世界だ」
「プラスチック・スタイルらしいです」
「へー」
「実は防護服ではないかという説もあります」
「確かに!」
 

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金堂さんのお父さんは津幡で娘の部屋に1泊してからライズを運転して仙台に戻っていった。
 
金堂さんに続いて、東京に住んでいる筒石も練習場所を求めてジャネ(マラ)の運転する車(Volvo XC90 T8)に乗って津幡に移動してきた。
 
それで津幡の火牛ホテルの住人は、南野、リル、多江、ジャネ、筒石&マラ、の5組となった(ジャネの部屋とマラの部屋は別!)。青葉は自宅からの通いである。リルも自宅から通えるが
 
「ここは御飯が遠慮無く食べられるし、部屋を片付けろと叱られもしない」
などと言って泊まり込んでいる。
 
(ここでの食事代は若葉からの無償提供:リルや多江のお母さんはきっと御飯を炊きすぎて「あっ」とか思っている)
 
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