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■春曙(8)

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「今日は『北陸霊界探訪』じゃなくて『北陸体育競争』だ」
と幸花が言ったのに明恵が
「もう少し面白いボケを」
と言ったので
「じゃあんたが考えなさい」
と言われ
「『北陸霊界探訪』ならぬ『北陸大会運動』」
と言ったが
「ゴロが悪い」
と言われていた。
 

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「ところで真珠(まこと)ちゃんもレギュラーになったんですか?という質問が視聴者から来ているのですが」
と幸花が言うと
 
「私はただのゲストでーす」
と本人は言っていた。
 
「ちなみに私の名前の読みは“まこと”です。“しんじゅ”ではありませんのでよろしく」
 
「『よろしく』って、まだ出るつもりですね?」
「なんか雑用係にされている気もしますけど」
 
「ところで、以前出演していた青山さんはオカマバーに務めているという噂も聞くのですが、という質問が来ているのですが」
と明恵が言うと
 
「念のため本人に電話してみた所、普通の会社に普通の男性社員として勤務しているそうです」
と幸花は答えたものの、その背景に女性用ビジネススーツ(スカートタイプ)を着たノーメイクの(でも充分女に見える)青山の写真が写ったので、視聴者は騒然とすることになる。
 
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「ついでに、タクシーただ乗り幽霊とか、浄土平のバイクツアーとかに出演した吉田さんはOLとして就職したという噂もあるのですが」
と真珠が言うと
 
「それもご本人に電話して確認した所、間違いなく男性社員として勤務しているということです」
と幸花が答えたものの、その背景に女子制服っぽい左前合わせの服(下半身は映っていない:実はトリミングした)を着て、他の同じ制服を着た女子社員と談笑する吉田の写真が写るので、これも視聴者は騒然となった。
 
(吉田が世梨奈に見せた写真を速攻でコピーされ、それが幸花に渡って番組でネタとして使われた。本人未承諾だったので、吉田は番組を見てむせ込んだ)
 

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「何か色々嘘を報道している気がするのですが」
と明恵。
「ただの冗談ですのでご安心を。そもそもこの番組は報道番組ではなくバラエティですので」
と幸花。
「バラエティだったんですか!?」
と真珠。
 
「そうだよ。だいたい幽霊とかオバケとか居るわけないし」
と幸花。
「そんなこと言ったら、この番組の根幹が崩れる気がするんですが」
と真珠。
「だからこれはバラエティだって」
と幸花は言っていた。
 

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なお、吉田が着ていたのがH銀行の女子制服というのは分かった視聴者も多く、背景に映ったのがどうもH銀行金沢支店っぽいということで、わざわざ見にいった視聴者も複数いたようだが、女装の吉田を目撃した人は皆無であった(実は放送時点では別の部署に異動していた)。
 
しかし青山については「スカート穿いて生命保険の外交してるの見た」とか「ヤクルトレディの服装してヤクルト配達してた」とか「フォーラスの婦人服店でフェミニンなワンピース着て販売員してた」などという噂が飛び交い続けていた。
 

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4月16日、政府は緊急事態宣言を全国に拡大した。特に最初に宣言された7都府県に感染者が急増中の北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県を加えた13都道府県が「特定警戒都道府県」とされた。指定された地域では、休校中の学校で設定されていた登校日を中止するなどの動きがあった。
 
各地の自治体から、自衛隊に災害出動の要請があり、PCR検査、輸送、陽性者の家族の支援などの業務にあたったが、河野太郎防衛大臣は「自衛隊から感染者を出すな」と厳命。そこで普通の医療スタッフが、マスク・手袋・ガウンなどの感染対策を取っているのに対して自衛隊員は全員防護服を着用して作業に当たった。
 
この結果、自衛隊からは一人も感染者が出ず、その報道を見た若葉や和実は、自分たちが導入した“プラスチックスタイル”のメイド服は、やはり正しかった、と自信を深めた。
 
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4月17日、津幡町の火牛アクアゾーンが竣工し、ムーラン建設からムーランリゾートに引き渡された。しかし若葉は、アクアゾーンの遊泳プールとスパ・仮眠室については、当面の休業を宣言し、火牛ホテルも、日本代表候補の人だけの利用に限定。3月から募集していた、〒〒スイミングクラブの会員のみについて、地下の25mプールの利用を予約制で受け付けることにした。
 
予約制にするのはむろん人の密度を下げるためである。基本的に一度に入れる人数を10人以内、つまり1レーン1名にすることにした(ここも50mプールと同様、レーン間がアクリル板で区切られていて、水も各々独立に循環している)。次の利用者との間は最低30分空けて、水の多くが入れ替わるのを待つ。
 
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実際には、他のプールの多くが閉鎖されている中、中学・高校の水泳部からの利用申し込みが多かった。
 
このプールは厚生労働省に審査してもらい、特別営業許可をもらって営業している。厚生労働省の係官は「ここまでしてるのか!」と、むしろ呆れていた。
 
入場者はサーモグラフィによる体温チェックの上、若葉が用意した日本未認可!のアメリカ製簡易検査キット(FDAは緊急承認している)により陰性であることを確認した上で場内に入れるようにした。この検査をするため、予約時間30分前の来館をお願いしている。なおスイミングクラブの会費は、4月・5月については無料とすることにし、既に払い込まれている分については、返金もしくは6月以降への先送りにすることにしたが、ほとんど全員が先送りを選択した。
 
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「なんか物凄い赤字じゃない?」
「うん。お金が減って助かる」
「は!?」
 

結果的にハイレベルの泳者の利用がほとんどになったので監視員は基準ギリギリしか置いていない。
 
世梨奈は水着を着てマスクをした姿で、ここで休憩を挟んで朝から夕方まで合計8時間、監視台に座ったが、うまい人が多いので、ほとんどすることがなく、音楽を聴いたり、ラジオを聴いたりしていた(テレビやスマホなど、視界を取られるものは禁止)。ここは小さな部屋のようになっているので、万一ウトウトしても転落の危険は無い−実は数回、椅子から床に転げ落ちた。また熱中症などにならないよう水分を取るよう言われたが、感染防止のため、密閉されていて、ストローで飲むタイプのボトルのみが許可された。ストローは必ず使い捨てて再利用しないように言われた。
 
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なお、指導者としては、元々予定していた、幸花・布恋・杏里・月見里公子の他、日本代表候補の南野里美も指導に立った。南野里美のレッスンは予約の競争率が凄かった。
 

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50mプールについては、これまで“プライベートプール”で泳いでいた日本代表候補の人たちに無償で利用してもらい、その間にプライベートプールはいったん閉鎖して、アクアゾーンに施したのと同様の感染対策工事をすることにした。
 
なお、地下プールの50mプールと25mプールの間は天井まである透明アクリル板で仕切られており、空気の交流はほとんど無い。ただし25mプールの利用者を含むスイミングクラブの会員は観客席から50mプールの選手たちの練習を見学することができる(マスク着用義務で最大50人)。観客席もプールとはアクリル板で区切られている。けっこう予約時間前に来てここから見学している人たちもいた。
 
「なんか変な女子選手がいる」
「あの選手は性転換したんだとか聞いたよ」
「ああ、それで身体付きが男っぽいのか。でもオリンピックに出られるの?」
「性転換したあと3年経てば出られるらしいけど、性転換したばかりだから、東京オリンピックはダメらしい。たぶんパリオリンピックまでには筋肉も落ちて女性的な身体付きになるのでは?」
 
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「ああ、男みたいな筋肉で、ちんちん無いから女ですと言われても困るよね」
 
「それを認めたら、どこか変な国が男子選手を直前にちょん切って女子選手として出場させてメダル総なめにするよね」
 

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こんなことを言われているのは、東京方面のプールが全閉鎖されているので、こちらに来ている筒石である!ジャネに「女子専用だから女子水着を着てね」と言われて、喜んで!?女子水着を着ている。お股はジャネ(実はマラ)自身の手でタックされてしまったが「去勢されちゃったみたいで凄く変な気分」と言っていた。
 
「女みたいに座っておしっこしないといけないし」
「おしっこする時に休めるからいいでしょ?」
 
(なお水泳選手は水の抵抗を減らすため、体毛は全て剃っている)
 
「女子水着の方がスピードが出る気がする。今のタイムは日本記録を越えてる」
「だから男子のワンピース型は禁止されたんだよ。いっそ、女子水着で大会に出られるようになりたい?」
 
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「それって性転換して女にならないといけないとか」
「私レスビアンでもいいよ。睾丸を取って女性ホルモン優位の状態を2年間維持したら、女子として大会に出られるよ」
 
「2年かかるなら東京オリンピックに間に合わないから、東京が終わってから考えてみる」
と筒石は言っていた。
 
(“マラ”が変なこと唆すなと抗議していたが、そもそも“ジャネ”は筒石とセックスする気は毛頭無い。ただレスビアン・セックス(但しインサート無し)くらいならしてもいい気はする:また人工授精でなら赤ちゃん産んでもいいよ、とマラには言っているが、それをやると処女懐胎することになり、産まれてくる赤ちゃんは"Mother Fucker"になる。マラは幽霊なので多分妊娠は困難・・・かも?『牡丹灯籠』を収録した短編集『伽婢子』には幽霊が子供を産む話もあるにはあるが)
 
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なお、〒〒スイミングクラブの指導員になっちゃった、南野里美であるが、実情を3月末になってから、青葉に打ち明けた。
 
「私、卒論は出さなかったんだよ」
「え〜?どうして?」
「だって、卒論書いているより、こんな環境のいい所でずっと泳いでいたいと思ってさ」
 
「だったら大学は?」
「留年!」
「きゃー」
「大学卒業よりオリンピック、と思ったけど延期で拍子抜け」
と彼女は言っていた。
 
「その間1年間練習しよう」
「そうしよう」
 
「あれ?でも留年したら、就職は?」
「キャンセル!」
 
と言って彼女は両手を大きく斜め上にあげた。
\(^−^)/のポーズである。
 
彼女は本来は今年4月からSTスイミングクラブを運営するNN社(学習塾なども運営している会社)の東京本社に入社する予定だった。
 
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「STスイミングクラブの先輩から叱られたけど、オリンピックでメダル取れたら1年後に募集枠外で入社できるという話をまとめてくれた。でもオリンピック延期で、その話も飛んじゃった!」
 
「ああ」
 
「だから若葉さんに雇ってもらって、ここで指導員しながら、練習続けることにした。結局、青葉ちゃんと同じ所属になっちゃったね」
 
「じゃ、同輩かつライバルとして頑張ろう」
「うん、お互い頑張ろう」
と言って、青葉は里美と力強い握手をした。
 
 
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