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■神様のお陰・神育て(20)

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2014年7月1日。
 
理彩は冷凍保存していた命(めい)の精液を使って人工授精を行った。
 
6月18日に生理が来たので、次の排卵は7月2日くらいと考えられたので1日に精液を入れておけば妊娠する可能性が高い。その日に受精すれば3月25日が予定日になるので、今年の後期の授業が全て終わったところで出産できるのである。排卵誘発剤などは使わずに自然の排卵周期を使うことで、理彩と命(めい)、そして主治医は合意していた。
 
念のため超音波診断と血液検査で排卵が間近に迫っていることを確認した上で精液の投入を行った。
 
どうせ半年休学するつもりなので、もし受精できなかったら、次の生理周期を使えばいいと思っていたのだが、妊娠は一発で成功した。
 
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「へへへ。これで私も妊婦になっちゃった」
「理彩。妊娠しているから、浮気しても更に妊娠することは無いとか、そんなことは考えないように」
「なんで私の考えてたこと分かるのよ!」
 

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理彩は自分が色々ホルモンの量などを検査されたので「命(めい)もメディカルチェックしてあげる」と言い、命(めい)の血液を採取して大学に持ち込み、検査機器に掛けてみた。
 
「プロラクチンが80ng。低くなってきてるね。お乳の出が以前ほどじゃ無いでしょ?」
「うん。星も御飯の方がメインで、おっぱいはデザートとか、少し甘えたい時とかになってる感じだからね」
「エストロゲン(卵胞ホルモン)180pg、プロゲステロン(黄体ホルモン)10ng。何だかふつうの女性の正常値だあ」
「うんうん」
「テストステロン(男性ホルモン)は0.2ng。女性の正常値。男性の基準値の10分の1」
「あはは。一応あるんだ!」
 
「しかしさあ、プロラクチンは脳下垂体から、テストステロンは睾丸から出てるんだと思うけど、エストロゲンとプロゲステロンはいったいどこから出てるんだろう?命(めい)、卵巣は無いよね?」
「多分」
「妊娠中は胎盤から出てたと思うけど。もう胎盤無いしね」
「だから120年前に理さんを産んだ男性はお乳が出なかったんだよ、きっと」
「ああ、やはり命(めい)の身体は何か変だ」
 
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「だって僕、女の子だもん」
理彩は命(めい)のお腹をノックする。
「もしもし。卵巣さん、いらっしゃいますか?いたら返事して」
「卵巣はしゃべらないと思うけど」
「解剖してみたいな」
と理彩は熱い目で命(めい)のお腹を見つめた。
 

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7月4日金曜日。
 
星が気になっているものがあるので村に連れて行ってというので、車で村に戻った。命(めい)たちは星の言う通りに神社に行く。そして宮司さんに
 
「星がどうにも気になるものがあるので、禁足地に入れて下さいと言っているのです」
と言った。
 
「星君が言うのなら、問題無いでしょう。でも潔斎して下さい」
というので、宮司さんと命(めい)が水垢離し、それから特殊なお祓いをして、宮司さん、命(めい)、星の3人で禁足地に足を踏み入れた。理彩は人工授精をしたばかりなので社務所でお留守番である。
 
星の指示に従い、祈年祭の踊りを踊る場所から少し奥にある池の所まで行く。命(めい)もここを見るのは初めてだ。以前理彩から聞いたように、池の向こうに3つの滝があり、その上には3つの泉がある。
 
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「これがこの神社の御神体ですね?」
「そうです。私もここまで来たのは10年ぶりです」
と宮司さんが言う。
 
しかし星はそこの更に奥まで行ってくれるように言う。
 
「星君からテレパシーか何かで指示されてるのですか?」と宮司さん。
「ええ。そんなものです」
「こんな所、入ったことありませんよ」と宮司さんも緊張気味に言う。
 
「潔斎をしてない者がここに来れば、来ただけで死ぬと星が言ってます」
「ああ」
 
かなり奥まで入った時、宮司さんも命(めい)もピタリと足が止まった。
 
「何です?これは」と宮司さん。
命(めい)はこの宮司さんはそんなに霊感が強くないよな、娘の梅花さんの方がむしろ強い霊感を持っているよなと思っていたのだが、その宮司さんでもこの邪気は感じ取れるようだ。
「まがまがしいですね」
と命(めい)も緊張気味に言う。
 
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「どうもここは呪いなどに使われた場所のようです」
「わあ・・・・」
「星がここを浄化すると言っています」
「えぇ!? こんな凄いものをですか!」
 
「辛島さん、霊鎧をまとって下さい」
「分かりました!」
命(めい)も自ら霊鎧をまとう。そして更に命(めい)・宮司・星を囲むバリアができたのを感じた。
 
突然その禍禍しい気を放っている一帯に青い炎が立つ。それは激しくその部分を燃やすが、完全に燃焼しているようで煙も出ない。炎のみである。20〜30分炎は燃えていたが、その内その部分に今度は激しい雷雨が起きる。水しぶきがこちらまで飛んでくるが、バリアに阻まれて、命(めい)たちには水はかからない。
 
そして、最後に激しい竜巻が起きた。こちらにも結構風が吹き付ける。命(めい)も宮司も、ただ呆然とその様子を見ていた。
 
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やがて竜巻が収まる。命(めい)は霊鎧を解除した。
 
「きれいになりましたね」と命(めい)が言う。
宮司さんも我に返ったようにしてその付近を見つめ
「さきほどの禍禍しい気が無くなってしまいました」
と言って驚いている。
 
星がニコニコしている。
 
「火・水・風で浄化して地に返すのだそうです」
「四元素ですか・・・・」
 
「終わったようですし、帰りましょう」と命(めい)。
「ええ。ここに長居は無用ですね」と宮司。
 
3人が帰っていくのを眺めて、まどかが「ちぇっ。私の密かな楽しみが」と面白く無さそうな顔をして呟いた。そしてしばらくその「呪いの地」の跡地を眺めていたが、やがてまどかは笑顔で言う。
 
「でも星は凄いパワーだ。将来が楽しみだ」
 
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この星による「呪いの地」浄化の後、3つの泉の水の湧出量が増え、神社の参道の所の清流も、それまで溝みたいにちょろちょろ流れていたのが小川のような水量になった。そしてその水の味が今までよりぐっと美味しくなった。
 
神社では翌日と翌々日が「水祭り」であったが、祭りにふさわしい「水の復活」
であった。
 

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「わあ、そんな凄い所、見たかったなあ」
と命(めい)の実家に戻ってから理彩が言った。
「4月の水害の時も命(めい)だけが見たし」
 
「まあ、その内理彩が見ることもあるよ」
 
その「一仕事」した星は、さきほどおっぱいをたくさん飲んで寝た所である。
 
「でもここしばらくで一番驚いたのは、まどかさんが西川君のお母さんだったってことだなあ」
 
「この村の神様は120歳になった時に、村の娘と神婚するから、男性としての生殖能力はその時以外封印されているけど、女性としての生殖能力はいつでも使えるんだって。まどかさん、村の男をけっこうつまみ食いしてるようなこと言ってたけど、西川君のお父さんとは、純愛に近いものだって言ってたね」
 
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ゴールデンウィークに西川君とまどかが吹田の家で偶然遭遇した後、西川君は帰りの新幹線を21時の最終便に変更して、しばし自分の母である、まどかと話をした。命(めい)は夕飯を用意して、5人で一緒に食べる。ロデムにもカリカリをあげる(常備している)。星は少し食べると眠ってしまったのでベビーベッドに寝せてくる。
 
まどかは自分が環貴(西川君の名前)やその父・春貴と一緒に暮らせないのは自分が人間ではないからだと素直に言った。環貴も「ひょっとしたらと思ったことはある」と言った。
 
「小さい頃、お母ちゃんがスッと現れたり、スッと消えたりするのを見たことがあるような気もしてたんだよね〜」
と環貴は言った。
 
「高3の時に、俺がひとり暮らししてた時に御飯とか作りに来てくれてた時も、お母ちゃんに言いそびれたことがあったと思って、玄関開けても近くに影が見当たらなかったことがあるんだよね。お母ちゃんが出て行ってから5秒もしない内にドアを開けたのに」
 
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まどかはE村の新しい家の住所と携帯の番号・アドレスを書いて環貴に渡した。
 
「斎藤たちのご近所じゃん、これ!」
「私はあの村の守り神だからね、そこに住むのがいちばん都合がいいんだよ」
「俺、休みの度に奈良に来ようかな」
「おいで。RX-7で奈良市でも亀山でも大阪でも迎えに行ってあげるから」
「RX-7!?」
 
「まどかさん、FD乗りだからね」
「すげー!俺、母ちゃん見直した!」
「ただスピード狂みたいだから、出し過ぎないように注意してあげて」
「ははは」
 

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まどかはヴィッツを借りて環貴を新大阪駅まで送って行った。それから戻ってきて、命(めい)たちとお茶を飲みながら話した。
 
「本来、神婚という形で村の神様は継承されていくのだけど、事故もあり得るでしょ? 私も生まれてから40年もこの神社に入ることができなかった。神婚でできた神の子が胎児の内に流産してしまうことだってあり得るし、何かの事故で120歳になる前に消滅してしまう場合もある。その手の事故のために通常の継承ができなくなった時に、神の遺伝子を持つ人がいると助かる」
 
「じゃ、神様はみんな女性としても子供を作るんですか?」
「鶴さんって長老の神様がいるんだけどね。その人の話では、過去に女性として子供を産んだこの村の神様は私も入れて4人しかいないらしい。そして、人間経由という変則的な継承をしたことが一度だけあったらしい」
「本家の断絶の場合に備えて分家を作っておくようなものですね」
 
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「まあね。辛島家が宮司をしているのは、あの家系に神様の遺伝子が隠れているからだよ。神様の力は無くても、あの家系の人は霊感が強いでしょ」
「ああ」
「理彩の母ちゃんの家系にも、命(めい)の母ちゃんの家系にも神様の遺伝子は隠れてるよ」
「えー!?」
「理彩の母ちゃんと命(めい)の母ちゃんは6代前の所が姉妹で、その姉妹のお母さんが、当時の神様が女性体で産んだ子供なのさ」
「僕と理彩が親戚だったなんて今初めて知った」
 
「星が強いパワーを持っているのは、命(めい)と理彩が元々『神様の遺伝子』
を持っていたからというのもあるよ、多分」
「あれ?命(めい)は分かるけど、私も関係するの?」と理彩。
 
「あ、言ってなかった。ごめん。星を作った卵子って、元々理彩の卵子だったものに僕の遺伝子が混じって出来てたんだって。理さんが言ってたよ」
「どうやったら、そんな不思議な卵子ができて、それが命(めい)の体内にあったの?」
「そうなっちゃったのは奇跡だって、理さんも言ってた」
 
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「じゃ、星って遺伝子的にも私の子供だったんだ!」と理彩。
「そうだよ。理彩は星のこと自分の子供と思って育ててくれているから、敢えてその事は言わなくてもいいかなと思ってた」
「いや、そういうことは言ってくれ。そうかぁ。星は私の子供でもあったのか」
理彩は何だか嬉しそうな顔をしていた。
 
「もっとも理彩由来の卵子が僕の体内で休眠できていたのは、僕の体質が女性的だからだろうね」
「そうだね。命(めい)は女の子だもん」
 
「だけど西川君も『神の子』なんだね」
「うん。でもふつうの人間だよ。基本的に神様の遺伝子は封印されていて発現しないから」
「でも西川君、運動神経がいいよね。そのあたりはパワーが少し漏れてるのかもね」
 
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「環貴にも神様の力は無いけど、環貴の子供や孫が祈年祭で踊った娘とその年の5月にお互い初めてのセックスをすると、神様が産まれるよ。ただし、東脇殿が空いてなかったら、この村の神様にはならず、那智に行って、那智の指令で、どこかの神様に納まることになるだろうけどね」
 
「そんなことが起きる可能性あるんですか?」
「どうだろうね。そんな先のことは私にも分からないよ」
 
「でも結局、まどかさんが、西川君のお父さんと一緒に暮らさないのは年齢の見た目の問題ですか?」
「そう。環貴が40歳か50歳になっても私の外見は今のままだからね。家族は問題なくても周囲が奇異に思う」
「自分が産んだ子にずっと会えなくて寂しくなかった?」
 
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「その気持ちはあんたたちがいちばん分かるだろ?」
とまどかは珍しく辛そうな表情をして言った。
 
理彩はそのまどかの表情の中に、我が子への愛があるのを感じ取った。
 
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