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■神様のお陰・神育て(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-08-17
 
命(めい)が星を産んだのは2013年1月16日である。
 
その日、命(めい)は帝王切開で子供を出産することになっていた。双方の母も村から出てきてくれて4人でいろいろおしゃべりしている内に看護師さんが来て「手術着に着替えましょうね」と言う。
 
布団の中で服を全部脱いで渡された薄い布製のブラジャーと産褥ショーツを穿きガウンのような感じの手術着を着る。
 
「導尿しますのでカテーテルを入れますね」と言うので
「お願いします」と言ってやってもらう。
 
命(めい)はチラっと母たちを見た。みんな自分の顔の方を向いて座ってる。ということは「これ」は見られなくて済むなと思った。
 
看護師は布団をめくり、産褥ショーツを少し下げてから、命(めい)の陰唇を開き、尿道口からカテーテルを挿入。その後またショーツを上げてくれた。
 
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やがて時間となる。命(めい)は手を振って手術室に運び込まれる。下半身麻酔を打たれ手術が始まる。医師は下腹部を切開した時、信じがたい物を見た。
 
「先生どうなさいました?」と冷静な命(めい)が声を掛ける。
「いや・・・その・・・」と医師は明らかに焦っている。
「子宮があるんでしょ? 私そんな気がしてました」
「直前のスキャンでは映ってなかった」
「だから普通の帝王切開と同じです。よろしくお願いします」
「わかった」
 
医師は子宮を切開する。そして少し上の方のお腹に手を置いてギュッと押さえる。すると、胞衣に包まれた胎児が飛び出してくる。医師は羊膜を切開しようとしたが、物凄く硬い。
 
命(めい)はお腹を切開されるあたりから目を瞑っていたが、赤ん坊が出たはずなのに、なかなか泣き声が聞こえないので少し不安になった。しかしやがて元気な鳴き声を耳にする。わあ。。。命(めい)は思わず涙が出た。
 
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「赤ちゃん、元気ですよ。全身麻酔に切り替えて後の処置をしますね」
「お願いします」
 

縫合が終了した命(めい)は眠ったまま病室に連れてこられ、看護師が産褥パッドをショーツの中にセットしてくれた。1時間ほどで意識を回復する。
 
「赤ちゃんは?」と命(めい)は目覚めて第一声で訊いた。
「保育器の中でよく眠ってるよ。男の子だよ」
「僕、お乳あげたい」
 
若い助産師さんが来て命(めい)の乳房をマッサージしてくれたが、1〜2ccくらいしかお乳は出ない。
「最初はこんなものかなあ」
などと言っていたら、
「あんた、マッサージが下手ね。ちょっと貸して」
という声。
 
見るといつのまにかまどかが来ている。
「あなたは?」
「あ、知り合いのお姉さんです」と命(めい)と理彩が同時に言った。
 
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「手本を見せるから、見てなさい」
と若い助産師さんに言うと、まどかは命(めい)の乳房を掌で包むようにしてマッサージをしていく。
「痛たたたた」と命(めい)が悲鳴をあげるが、まどかは構わずマッサージを続ける。しかし痛かったのは最初のちょっとだけで、その後は先ほど助産師さんにされたのより痛くない。むしろ気持ち良くなる感じだ。マッサージしながら、まどかは
 
「マッサージはね、乳腺体だけ刺激してもダメなのよ。乳腺がちゃんと働けるように周りを整えてあげるのが基本。出口と入口が特に重要だから、乳首付近と、ここの○○のツボへの刺激が鍵。お乳を生産する工場にちゃんと材料が流れ込むようにしてあげて、生産されたお乳がちゃんと出てくるようにしてあげないとね。それから○○線と・・・・」
と途中から専門用語を交えて説明し始める。命(めい)は話の内容がチンプンカンプンだったが、理彩と助産師さんは頷いている。
 
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マッサージを10分ほど続けてから
「これで出る筈だよ」
と言う。助産師さんが搾乳をすると、お乳が15ccほど出た。
 
「凄いですね!」と助産師さんがマジで感心している。
「医学用語にもツボのことにもお詳しいようですし、助産師をなさってるんですか?」
 
「ああ。資格は持ってないけど、東京で産婆の助手を結構やってたからね」
「わあ。でも今の揉み方、とっても勉強になりました。何か凄く理に適った刺激の仕方をしてるなと思いました」
「あんた、素直でいい子ね」
とまどかが褒める。まどかが人を褒めるのは珍しい。
 
「じゃ、これ赤ちゃんにあげてきますね」
「お願いします。あ、少し眠くなった。もう少し寝てます」と命(めい)。
「うん。おやすみ」
「私、付いてっていいですか?」と理彩。
「あ、私も行こう」と双方の母とまどか。
 
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「お母さんたちは、もしかして、まどかさんと初対面だったっけ?」
と理彩はNICUに向かって歩きながら言う。
「ええ」
「私と命(めい)が小さいころ、よく遊んでくれたんですよ」
「あらら」
「うちの村の出身なんだけど、ずっと東京で暮らしてたんだよね」と理彩。「えぇ。生まれてすぐ名古屋へ行って。その後東京が長かったですね」とまどか。
「なるほど」
 
「命(めい)が今日出産すると聞いて金沢から駆けつけてきたよ。あ、これお土産」
と言って、まどかは金沢銘菓「中田屋のきんつば」を理彩の母に渡す。
「ありがとうございます」
「あ、ここのきんつば、美味しいんですよね!」と命(めい)の母。
「命(めい)はまだ食べられないかな?この4人で食べちゃおうか」と理彩。「1個くらい取っておきなさいよ」と理彩の母。
 
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ということでその日は理彩や母たちがNICUに付いて行き授乳する所を見学した。初日はさすがに命(めい)はベッドから動けず、半分くらい寝ていて導尿したまま。産褥パッドも看護婦さんに交換してもらっていた。しかし翌日には何とか少し動けるようになって車椅子でNICUまで行けるようになり、トイレも部屋付属のトイレでできるようになって導尿も終了した。
 
命(めい)が初めてNICUで星と対面した時「星〜」と呼びかけると、笑顔を見せた。それで命(めい)は心がキュンとして、ああ、どんなことしてもこの子を守って行こうという気持ちになった。
 
「物凄く丈夫で元気な子ですね。今すぐ保育器から出してもいいんじゃないかって感じの元気さです。この体重で生まれたのに呼吸もしっかりしてるし、お乳も自分で飲みますしね」
とお医者さんは言っていた。5日目からは直接授乳もさせてもらえるようになった。
 
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6日目、命(めい)が星に授乳したあとNICUから病室に戻ろうとしていた時、ふと気配を感じて立ち止まった。角の向こうで若い看護師さんが小さな声で噂話をしている。
 
「ねえ、この病院で男の人が出産したって噂聞いた?」
「うん。聞いた。でも、それらしき人いないよね?」
「私も何人かに聞いてみたけど、そんな人いそうも無いんだよね」
「いれば、そもそも出産の時見ちゃうし、帝王切開だとしても産褥パッドの交換とか、導尿カテーテルとかで、いやでも気付く筈だよね」
「やっぱりガセネタじゃないの?」
「いくら生殖医学の進んだ時代でも、男の人が出産できる訳ないよね?」
「ほんとほんと」
 
命(めい)は微笑んで、ふつうの顔で角を曲がり病室に向かった。
 
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それは星を出産する前夜のこと。まどかが命(めい)の夢の中に現れた。夢の中に出てくると、絶対に他の人の目には触れない。
 
「今の身体のまま帝王切開してもさ、赤ちゃん取り出すの無理なんだよ。お腹開けてもそこに赤ちゃんはいない。自然分娩ならちゃんと出てくるんだけどね」
とまどか。
「いない赤ちゃんがどうしてエコーでは見えるの?僕、胎動も感じるし」
 
「それはその子の存在が強烈すぎるからだよ。裏の身体にいるのに、表の身体にまでその虚像が出て来てる。ホルモンもこちらに漏れ出してきて、命(めい)の乳房を大きくして、男性機能を停止させた」
「じゃ、どうすればいいの?」
 
「裏側にある子宮と卵巣を表に引き出してくる。それから、出産後の悪露を排出する必要があるから、男性器は一時的に撤去する」
「つまり完全な女の身体になるのね?」
「まさか、理彩もこんな時期にあんたとセックスしようとはしないよね?」
「うん」
 
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「じゃ、しばらく男性器無くてもいいよね?」
「僕は無くても全然構わないけど、どのくらい取り外しておくの?」
「悪露が無くなるまでだよ。たぶん2〜3ヶ月」
「うん。そのくらいは理彩がもし見ようとしても適当に誤魔化すよ」
「じゃ、とりあえず男性器を外すね」
「うん」
と返事をした瞬間、お股の感触が変わる。
 
「子宮と卵巣は、手術の直前に戻すから。でないと検査とかされた時に写真に写ると面倒だから」
「その辺は任せるよ」
「何か食べたいものとか無い?」
「そうだなあ。。。。きんつば系のお菓子」
「OK。適当なの買ってきてあげる。じゃ、明日は頑張ってね」
「ありがとう、よろしく」
 

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初日は1〜2時間おきに搾乳して哺乳としていたが、少しずつ間隔が空いていき、それに伴い星が1度に飲む量も増えていった。
 
「でも、こんなにお乳が出るのは良いことです。特に未熟児の場合、お母さんのお乳から、未熟児に必要な栄養の入ったお乳が出るようになってるんですよね。ミルク混ぜずにお乳だけで完全にまかなえているのは本当に理想的です」
と3日目に巡回してきた年配の助産師さんが言っていた。
 
悪露は最初は物凄い量出てきて、命(めい)自身「きゃー、こんなに出て大丈夫?」
と思うほどだったが、少しずつ少なくなっていき、ふつうの生理の時くらいの量になっていく。しかし・・・と命(めい)は思う。男性器が付いたままの状態では、これを出す道がホントに無かったじゃん、と。120年前に神の子を産んだ男性はどうしてたんだろう?と疑問を感じた。
 
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この時期、命(めい)は病院のスタッフに対しては「女性の妊婦」として埋没し、また、理彩や母たちには「男性器が消滅している」ことを隠しながら、綱渡り的な日々を送っていた。それは、妊婦は女性であるはずというスタッフが持っている一般的な常識、守秘義務に従い命(めい)が男性であることを他言しない担当医や婦長、そして命(めい)がこれまで度々巧みに男性器を隠している所を見てきている理彩たちの「付いてないように見えても実は付いているはず」という思い込みを、うまく利用させてもらっていたのである。更には様々な偶然と幸運も重なっていた。
 
命(めい)の導尿などは、婦長が自分でやるつもりでいたが、直前に急患の対応で手を取られ、新人の看護師に「何を見ても驚かないように。そして他言しないように」と言ってやらせた。しかしその看護師が命(めい)のショーツを下げても、普通の女性の陰部なので、何を驚かないようにと言われたんだろう?と疑問に思いながらも、ふつうに処置したのであった。婦長は、命(めい)が男性であることを知る人間ができるだけ少なくなるようにと考え、それ以降の産褥パッドの交換や、カテーテルを外す作業なども、その看護師にさせたが、結局婦長は、命(めい)が女性の陰部になっている状態を1度も見ることが無かったし、若い看護師の方は、命(めい)が男性であるとは夢にも思わなかった。
 
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理彩は毎日病室でたくさん命(めい)や母たちとおしゃべりしていたが、命(めい)とHなことをしようとは、さすがにしなかった。
 

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7日目にはどこかで噂を聞きつけて、春代と香川君がやってきた。ふたりは理彩が出産したものと思い込んでいたので、命(めい)がベッドに寝ていて、助産師さんが命(めい)から搾乳するのを見て驚愕する。
 
「いや、俺は前から斎藤って、実は本物の女なのでは?って思ってた」と香川君。「そもそも、命(めい)って月経があるという疑惑が昔からあった」と春代。
 
そんなことを言いながらも、ふたりはまだ結婚式・披露宴してないのなら、高校の同窓生に呼びかけて友人間でお祝いをしてあげるよと言った。
 
そして命(めい)は1月末で退院する。
 
「赤ちゃんもとっても丈夫だし、あなたも凄く回復が速いですね」
と医師は感心するように言っていた。
 
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「呼吸が安定していて酸素吸入とかの必要も無かったし、排便も3日目からできたし、お乳もよく飲むし、物凄く生命力の強い子ですよ」
などとも言っていた。さすが神様だね!と命(めい)は思った。
 
命(めい)が退院しても星は2月いっぱいまで入院を続けた。この時期、理彩は期末試験期間中でもあったし、命(めい)は毎日病院に通っては、星に直接授乳し、また自宅でピジョンの搾乳機を使って搾乳した母乳を持参して助産師さんに渡して哺乳をお願いしていた。病院では助産師さんが、自宅では毎日のように来てくれるまどかがマッサージをしてくれたので、お乳は本当によく出た。
 
必要な量を超える母乳が出るので、余った分は冷凍保存した。理彩が飲みたいというので少し飲ませたが「まずーい」と叫んでいた。
 
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「でもこれが赤ちゃんには美味しいし、赤ちゃんに必要な栄養が入ってるからね」
「自分では飲んでみた?」
「うん。時々飲んでるよ。コーヒーにもフレッシュ代わりに入れてみた」
「美味しい?」
「まずいね」
「やはりそうか」
 
「でも変な物食べると味が変わるから、食事には気をつけてるよ。お刺身とか納豆とか避けてるし。御飯は毎食2杯は食べるようにしてるし」
「ここしばらく薄味なのもそれか?」
「そうそう。味が足りなかったら、適当に醤油とか掛けて食べてね〜」
 
「水分もよく取ってる感じが」
「うん。水やお茶で毎日2Lは飲んでと言われてるから」
「大変そうだ」
「理彩も自分で産んだら頑張らなきゃだよ」
「うーん。次も命(めい)が妊娠しない?」
「えー!?」
 
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