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■神様のお陰・神育て(6)

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20年近く時を戻して1995年春。
 
命(めい)と理彩がまだ1歳半頃。村の神社の神職、辛島利雄は朝のお勤めをしていた時、唐突に西脇殿の気配が消えたのを感じた。え!? 何が起きた?
 
筮竹を持って来て占いをしてみる。筮竹は最初に1本、次に1本、3回目にも1本手に残った。乾為天(けんいてん)初爻(しょこう)。本来はそう悪い卦ではない。しかし利雄は「1」という数が強調されたことが気になった。
 
神様が一人になってしまった!!
 
利雄は長く東脇殿が「空っぽ」であることに気付いていた。本来ここの神社の神様は三柱の神で、正殿・東脇殿・西脇殿に、一柱ずつ神様がいるというのが辛島家代々の口伝である。しかし利雄が16歳の時から、東脇殿には神様がいなかった。
 
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心当たりはあった。彼が15歳の時(1953年)、村の若い女の子・東川多気子が父親の知れない子供を産んだ。当時彼女は10人ものボーイフレンドがいて、かなり乱れた男性関係を持っていたが、そのボーイフレンド全員が「自分の子供じゃない」と言った。
 
多気子の家はひじょうに貧乏で、多気子の父は既に亡く、母もここ数年病に伏せっていた。実際問題として、多気子本人も薄給で、ボーイフレンドたちから少しずつもらっているお小遣いが実質家計を支えていた。その多気子も出産の数ヶ月前から仕事ができない状況になっていた。
 
認知は求めないから、この子たちをしばらくの間少しだけ支援して欲しい、と産後でさすがに動けない多気子に代わって病を押して訴えて回る多気子の母親に10人のボーイフレンドの大半が冷たい態度を取った。あろうことか、その中のひとりで村の有力者の息子だった男は、子供が生まれて3ヶ月ほどたったある日、赤ん坊を多気子ごと密かに殺そうとした。「父親じゃない」と否定はしていたものの、内心かなり「ひょっとしたら」と思っていたのであろう。
 
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それを救ったのが利雄であった。彼は祖母の辛島美智と曾祖母の奥田阿夜から「母子が危ないのでかくまって」と言われ、多気子とその赤ん坊を手引きして神社の倉庫に隠したが、そこに父の琴雄が「東川さん(多気子の母)が亡くなった」
という報せを持って来た。父は「ずっと病気だったからなあ」などと言ったが、利雄はあの男に殺されたんだと直感した。
 
美智と阿夜に相談する。
 
「いつまでもはかくまえない。見つかると命が危険。どこかに逃がそう」
ということで話がまとまる。
 
美智が当時のお金で数十万円の資金を用立てて、多気子に渡し、今後も定期的にお金を送るからと言って、ちょうど宇治山田市(現・伊勢市)に帰る知人の車に密かに同乗させて村から出した。利雄は
「でも定期的に送金までするって、なぜあの母子をそこまで気に掛けるんですか?」
と祖母たちに訊いた。すると阿夜が
 
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「あの産まれた子供は神様なのよ。いづれこの神社の御祭神になる」
と言った。
 
その時は利雄はその意味が分からなかった。しかしその頃から、利雄は神社の神殿の前に座った時、東脇殿に気配が感じられないのに気付いた。
 

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それからずっと、神殿には正殿と西脇殿にしか気配が無かった。その西脇殿の気配が消えてしまった。利雄は「神様にも寿命があるんだよ」という話を幼い頃、阿夜から聞いていたので、西脇殿の神様の寿命が尽きて消滅したのだということに思い至った。
 
しかしそうなると正殿の神様だけが頼りだが・・・・・
 
本来三柱の神で村を守っていたのである。その一柱がずっと欠けたままであった。更にもう一柱欠けてしまった。そうなると、正殿の神様に本来の3倍の負荷が掛かるのではないか? そうなった場合、正殿の神様の消耗が激しくなり、下手すると正殿の神様まで消えてしまう事態も。
 
それだけは絶対に避けなければならない。
 
利雄は再度今出した易卦を見てみた。「乾為天の初爻」。これは地下に潜っていて、まだ姿を現していない龍を表す卦でもある。まだ姿を現していない神様がいる。その神様を呼べばいいのではないか?
 
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その時、利雄は自分が16歳の時に助けた東川母子のことを思い出す。あの時の赤ちゃんが本来東脇殿に入るべき神様なのではないかというのはずっと思っていた。あの神様をここに勧請できないだろうか? 多分村人に冷たくされて村を去ることになってしまったので、ここに来てくれてないのではないか?と利雄は思っていた。
 
しかし今あの時の赤ちゃんはどこにいるのだろう。
 
美智の遺言に従い、利雄はずっと多気子の口座に毎月神社の通常収入の一定割合の送金をしていた。そのお金が受け取られていて活用されていることは占いによって確信していた。つまり多気子もその子供も元気なのだろう。しかし多気子たちがどこにいるのかは分からない。
 
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その時、利雄は昔阿夜から、阿夜の夫(美智の父)命理が当時村の神社に大きな危機があり村がたいへんなことになっていた時、ある禁法で村の守護神を呼び戻して村を救ったことがあると語っていたことを思い出した。
 
それは術者が自分の性器と寿命20年分を犠牲に捧げて行う秘法ということだった。利雄は今57歳である。20年の寿命を捧げたら、捧げた瞬間自分は死ぬかも知れないと思った。しかし逆にそういう自分だからこそできることではないかという気もした。
 
利雄は命理の実家である奥田家を訪問し、神社に関わる資料が残っているかも知れないので蔵を探させて欲しいと言い快諾される。半月ほど掛けた捜索で、利雄はついに命理が書いたメモを発見する。そこには性器と寿命の捧げ方と唱えるべき呪文が記されていた。
 
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それとなく妻と息子に後事を託す。
 
深夜、神殿を汚さないようにビニールシートを敷き、裸で座る。清めた短刀を自分の性器に当てる。毛は剃ってある。直前に村を流れる川で潔斎してきた。呪文を唱える。この呪文を唱えただけで自分の寿命は20年縮んだはずである。そして更に決意をすると、短刀で自分の性器を一気に切り落とした。激痛の中、利雄は二礼二拍手一礼する。この呪法をしている限り、性器を切り落とした傷で死ぬことはないという話だ。しかし痛い。気を失いそうだが、気合いで意識をしっかり持ち、召喚の呪文を唱える。
 
すると、ふっと丸い輪の模様の小紋を着た女性が目の前に姿を現した。
 
「完全に切り落とすのは、三柱の神を全員召喚する時だよ。ひとりなら切り落とさなくても使えなくするだけでいい」
と彼女は言い、利雄が切り落とした男性器を手に持ち、元あった場所に押しつける。性器は元の通りくっついてしまった。
 
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そのあたりに流れていた血がいつの間にか消えている。
 
「性器は戻した。でも男性能力はもらったよ。もうそのおちんちん立たないから」
「それは構いません」
「あと、あんたの寿命は20年も残ってなかったんだけど、サービスで来年の新嘗祭まで延長したから。あと1年半くらい生きられるよ」
「ありがとうございます。あなたは東川多気子さんのお嬢さん?」
 
利雄は実は多気子が産んだ子供の性別を知らなかったのだが、ここに現れたのが女性であるからには、きっと女の子だったのだろうと思った。
 
「うん。まどか(円)と言うの。利雄ちゃん、よろしく」
と笑顔で言うと、まどかは東脇殿にすっと入って行った。
 

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まどかは神殿の東脇殿に「常駐」してくれている訳ではないようであったが、微かな気配は常にあり、しばしば人間の姿でやってきては、村の様子を見ているようであったし、利雄が東脇殿に向かって「まどかさん」と呼ぶと、たいてい出てきて色々相談に乗ってくれた。
 
「おちんちんはまあいいとして寿命まで捧げてくれたから少しはサービスしないとね」などと、まどかは言っていた。
 
「斎藤さんちの息子さんが病弱で。もうすぐ2歳なのですが、生まれてこの方、毎月のように熱を出して病院に通っていて、お医者さんも原因がよく分からないようなのですよ」
 
「ふーん」
と言ってまどかは何かを見ているようだった。
 
「ああ。この子は根本的な生命力が弱すぎる。身体全体が衰弱してて何でもない雑菌やウィルスで熱を出す。多分1〜2年の内に死んじゃうよ。どうしようもないね」
基本的にまどかはドライである。
 
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「そこを何とか助けてあげられませんかね?」
「そうだなあ。利雄ちゃん、易を立ててみてよ」
「はい」
 
利雄が筮竹で易卦を立てると雷沢帰妹(らいたく・きまい)である。
「ふーん。妹に返す。女の子にしちゃったらいいね」
「と言いますと?」
「取り敢えず小学校に上がるまで、女の子の服を着せて育てたら?」
 
「ああ。病弱な子は異性の服を着せて育てるといいというのは昔から言いますね」
 
利雄は納得して、斎藤家を訪問し、命(めい)に小学校に上がるまで女の子の服を着せて育てるという案を提示した。
 

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それから半月ほどたった日、まどかがまた利雄の相談に乗ってあげて、東京に帰ろうと社務所兼辛島家の自宅を出たところ、神社の境内のブランコのところで女の子がふたり遊んでいた。が、よく見るとひとりは女の子の服を着た男の子である。
 
ああ、これこないだ私が「女の子の服を着せて育てるといい」と言った男の子か。と、まどかは思い至る。つい興味を持ち
 
「君たち、何して遊んでるの?」と声を掛けた。
 
「地面にお絵かきしてるの」
と命(めい)が答える。おっ。男の子にしては可愛いではないか。それに魂が物凄く純粋! まどかは一目で命(めい)のことが気に入った。しかし何てまあ弱々しい生命の火なんだろう。これでは明日死んでもおかしくない。まどかは命(めい)の手を握ると、そこから生命エネルギーを少し注入してやった。これでしばらくは大丈夫のはず。
 
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「おばちゃん誰?」と理彩。
カチンと来る。
「私はね、まどか『お姉ちゃん』。おばちゃんじゃないよ」
 
これがきっかけで、まどかはしばしば命(めい)と理彩の様子を見に来るようになった。時には理彩と命(めい)にだけ会って、利雄にも会わずに帰ることもあった。また暇な時はよくふたりの様子を東京の住まいから水晶玉で眺めていた。
 
まどかが村に頻繁に来るようになったことで、現役神様の理(ことわり)も
「おお、助かる。これちょっとやってくれない? ひとりだともうてんてこ舞いでさ。休む暇も無いんだ」などと言って色々用事を頼んでいた。
 

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その時期、まどかのもうひとつのひそかな楽しみが、神社の禁足地に足を踏み入れ禁足地の中にある「呪いの地」に立ち、復讐をすることだった。この神社に初めて来た時、そこに呪いを掛けるのに絶好の場所があることに気づき、その計画を思い立ったのであった。理は「やめときなよー」と言っていたが。
 
まどかは自分の母・多気子にも結構な怨み(というよりわだかまりに近い)を持っていたが、その多気子を苦しめた男たちにはもっと怨みを持っていた。
 
多気子のかつてのボーイフレンド10人の内、ひとりだけ貧乏で資金力は無かったものの、産後の多気子を気遣って御飯などを持ってきてくれていた男だけは許すことにしていたしむしろ運気を上げてやった。まどかが最初にターゲットにしたのは、自分の祖母を殺し、多気子と自分も殺そうとした男である。その男は今は某市で市会議員をしていた。
 
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まどかはその男に「呪いの地」から呪いを掛け、約4年掛けてありとあらゆる苦しみを体験させてから殺した。この男を呪い殺したのは他の男たちへの警告・見せしめでもあった。
 
他の8人に関してはその後、運気を落とす呪いを掛けることで苦しませた。破産させたり社会的な地位を失わせたり、汚職などで摘発されるように仕組んだり、痴漢の冤罪をでっちあげたり。色々な苦しませ方をすることで、まどかは自分の心の中にあった母親への怨みまでも解消していった。ただしまどかは、この8人の命(いのち)は奪わなかった。
 
まどかの基本的なポリシーは「目には目を」なので、祖母の命(いのち)を奪った男の命(いのち)だけ奪えば充分だったのである。
 
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このまどかの復讐劇は7年ほどで完了した。まどかが復讐を止めたのは理彩と命(めい)と一緒に山の中の温泉に入った時、命(めい)たちから「お母さんを許してあげましょうよ」と言われたのがきっかけであった。実際問題としてまどかの男達への復讐は、母への怨みを解消する代替の色合いもあった。
 
まどかは命(めい)と理彩にほんとによく気を配り目を掛け、色々世話を焼いていたが、そうやって命(めい)たちを育てて行くのと同時に、自分も成長して行っているという気がすることもあった。ふたりから思わぬことを指摘され考えさせられることがよくあった。
 
この村に来た頃ドライで結構冷淡な性格だったまどかが、命(めい)・理彩との接触を通してけっこう親切でまろやかな性格に変わっていった。理龍神の前などでは敢えて「荒ぶる神」を演じていても、実は結構理に気付かれないように情けを掛けたりしていた。
 
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命(めい)・理彩への「悪ふざけ」は楽しいので、窮地に陥れてふたりがどう対処するのか眺めて楽しんだりすることもあった。ふたりをわざと迷子にしてみた時、理彩が命(めい)を励まし5mの崖を登ってまどかの結界を脱出した時は「この子たちやるね!」と思わず叫んだ。命(めい)が色々考えて対処し理彩が体当たりで打破していくのは、いいコンビだなと思った。
 
理彩が「大変な時は神様が助けてくれるよ」と言うのに対して、命(めい)は「天は自ら助くる者を助くだよ」と言うのも考えさせられた。そして命(めい)の言うように、自分で何とかしようとしている者には助けの手を差し伸べるようになっていった。
 
「私を成長させてくれるこのふたりに、次の神様を育てさせるのも面白いかも知れないな」と、いつしかまどかは思うようになり、綿密な計画を練り始めた。その時、ふたりの内どちらに次の神様を産ませるかについては、まどかは最初から命(めい)の方だと決めていた。
 
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まどかが次の神様を命(めい)に産ませたいと思ったのは「その方が面白いことになりそう」という単純な発想によるものである。
 

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