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■神様のお陰・神育て(3)

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この吹田市の家に入って最初に困ったのが雨漏りである。
 
「ねえ、こんなに雨漏りしたんじゃ、祭壇作ってもびしょ濡れだよ」
などと理彩が言い、命(めい)もどうしたものかと困っていたら、まどかが現れた。
 
「今日は堂々と出て来たね」
「まあ、星が寝てるしね。雨漏り修理してあげるよ」
と言うと、座敷の雨漏りがピタリと止まる。
「おお、凄い」
「じゃね」
と言って、まどかは姿を消した。
 
「忙しい人ね」
「でも助かった」
 
などと思っていたら、直ったのは座敷の雨漏りだけで、2階の雨漏りは直ってなかった!
 
「まどかさ〜ん、ここもお願いできる?」と言うと、
『自分の居場所が濡れると困るから座敷は直したけど、そこは命(めい)が自分で何とかしなさい』と声だけ聞こえてきた。
「うーん。。。」
 
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理彩とふたりでしばし悩む。
 
「雨漏りするというのは、瓦がずれてるんだと思うのよね。だから屋根に登って瓦をチェックして、ずれてる所を直せばいいと思う」と理彩。
「雨漏りってそんな単純なことだとは思わないけどなあ」
「取り敢えず屋根をチェックしてみようよ」
「それ誰がやるの?」
 
「か弱い女の子にさせるつもり?」
「僕に何かあったら星に誰がおっぱいあげるのさ?」
「大丈夫、大丈夫。もし落ちたりしたら、まどかさんが助けてくれるよ」
「あの人、そんなに親切じゃないよ」
 
などと言いながらも、命(めい)は翌日屋根に登ってチェックする。古い家らしく昔風の土葺きである。命(めい)はここ築40年じゃなくて築50年か60年では?とも思う。でもこれなら、ずれている所があればそれを直すだけでも効果はありそうだという気になる。しかしどこかずれてるかが全然分からない!
 
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困っていたら『ママ、もう少し左』という星の声。おお!ここに親切な神様がいた! ということで星の声に従って少し左の方に移ってみると、確かにずれてる感じの瓦がある。ここか! というので正しい位置と思われる所にずらす。『次はもう少し上、右手』などというので移動して探す。
 
そんなことをしばらくやっていたら、『これで当面大丈夫だよ』という星の声。『ありがとね、星』『降りる時、気を付けて降りてね』『うん。ありがとう』
 
といった経緯で、星のお陰で、2階の雨漏りは応急処置することができたのであった。(瓦に関しては翌年の春、大家さんが業者に依頼して瓦の位置調整と土の補填、古い瓦の交換をしてくれた)
 

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この吹田の家からの通学手段だが、モノレールの摂津駅まで行ってそこから命(めい)は柴原まで乗るコース、理彩は万博記念公演で乗り換えて阪大病院前まで行くコースになる。しかし摂津駅まで歩くとけっこう掛かるので、車を1台買って、そこまで車で往復しようということになった。朝ふたりで一緒に摂津駅まで行き、帰りは早く帰ってきた方が車で自宅まで戻り、後から帰ってくる方は、電話して迎えに来てもらう、という方式である。
 
(阪大まで直接車で行っても20分ほどで行くが、キャンパス内は特に許可を取った車以外、進入禁止である)
 
それで通学用に1台車を買おうと、星も連れて3人で中古車屋さんに見に行った。最初軽でいいかなと思ったのだが、やはりベビーシートを設置して、大人が3人(理彩と命(めい)にどちらかの母)乗るケースを考えると、軽では辛いかもと考え、コンパクトカーにターゲットを絞る。
 
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最初理彩が目を付けたのは3万円という値札が貼り付けてあるコルトだ。
「これ安〜い。私、安いの大好き」
「これは多分距離が・・・・かなり行ってますよね?」と命(めい)。
「そうですね。35万km走ってますが」
「走る奇跡だな。たぷん乗ってるとメンテナンス代の方が掛かるよ」
「うーん」
 
「こちらはどうですか?」
と副店長さんが勧めてくれたのは13万円のヴィッツ。距離は9万kmである。「なんでだろ?私、この車好きになれない」と理彩。
「うん。僕も。変だな。車はきれいにしてるのに」と命(めい)。
 
その時、星が何か言いたそうにしてるので耳を近づける。
『事故』
と星は言った。
「ああ、これ事故車でしょ?」と命(めい)。
 
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「お客さん、鋭すぎます」と副店長さん。
「じゃ、こちらは如何ですか? 同じ年式のヴィッツですが事故車ではありませんし、禁煙車です。少し距離は行ってますが」
「何kmですか?」
「14万kmです」
 
星を見る。ニコニコとしている。理彩もそういう星の表情を見て
「いい車ですね。これが15万円なんて素敵」と言う。
「え?いや、お客さん、これ24万円ですが」
「あら、16万円ですか。まあ、そのくらいまではいいかな」
「困ったなあ。じゃ、23万円」
「17万」
「22万。これ以上は負けられません」
「じゃ、今キャッシュで払うから、費用込みでその値段で」
 
「それは無茶ですよ〜。じゃ、現金払いで、保険をうちで契約してくださるなら、込み28万ってのでどうです?」
「買った」
 
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と言うことで、理彩の値切りで破格値でこの車を買うことができた。明細を見たら車両本体価格は19万円ということにされていた。
 

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ふたりはヴィッツを駐めるのに、不動産屋さんの仲介で自宅近くの駐車場と、摂津駅近くの駐車場の契約をし、自宅近くの駐車場で車庫登録をした。また、星を乗せるのにレーマーのベビーシートを買った。
 
乳幼児兼用のも検討したのだが、どうしても大きくなるので狭いヴィッツで使うなら、ベビーシートとチャイルドシートは別にした方が良いと判断した。2年後にもうひとり赤ちゃんを作る予定であることからふたつ買っても無駄にならないし、その時はふたり目のベビーシートと星のチャイルドシートを並べればいいし、というのもあった。
 
大阪に結局一週間滞在して、また村に戻った。
 

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3月27日は星の本来の出産予定日であったので、みんなでお祝いをした。そしてその夜、数ヶ月ぶりに理が命(めい)の前に姿を現し、星の顔を見ていく。理は命(めい)に5月から7月までのことについて詫びを入れ、また星を産み育ててくれていることに感謝した。命(めい)は新しい家に村の神社の分霊を祭って朝晩奉仕することで新しい主神(円)の怒りを少しでも鎮めたいと言い、賛成してもらった。
 
また、命(めい)は理に、この村を繁栄させていくために、神様に当ててもらった宝くじの資金を使って何か事業を始めたいと思っていると言った。理は最初、工場の類を建てるとか、遊園地のようなのを作るのかと思ったようで、それでは村が荒れると言って難色を示したが、命(めい)がそうではなくブランド作物を作り農業で村おこしをすることを考えていると言うと、賛成してくれた。ただこの時、理は、美味しいお米でも作るのかと思い込んでいたらしい。
 
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実は農業で村おこしというのは、昨年の秋頃から考えていたことだったのだが、実際に何の作物を作るのがいいかについて、命(めい)はかなり悩んでいた。村の気候や降水量を考えていくつかの作物に絞ったのだが、未知数の部分が多く、かなり迷う。
 
迷いながらある日、命(めい)が星におっぱいをあげていたら、星が『桃』と言った。
 
「桃ジュース飲みたい? じゃ、後で買ってくるね」と言ったら
『作る』と言う。
 
「村の作物?」
『うん』
 
なるほど!と命(めい)は思った。桃は耐干性があるので、うちの村のような保水力の弱い傾斜地でも何とかなる気がする。どうしても水分が足りないようであれば、地下に高分子吸収体のシートを敷くなどの対策を取る手が使えるかも知れない。気候的にはたぶん適合範囲になる気がした。雨が多すぎるとまずいのだが、あの村は山奥は無茶苦茶降るが、里の近辺はそんなに降らない。
 
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そして何よりも、桃はまどかの大好物だ!
 
これは行ける、と思い、命(めい)はそれから桃を第一候補に考えて調査を始めたのであった。
 

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4月1日、吹田の家に辛島宮司に来てもらい、1階の座敷北端に神殿を設置してもらい村の神社から持ってきた分霊を入れてもらった。ここに命(めい)たちは毎日お供え物をすると共に、朝晩祝詞をあげるようにした。
 
その年の祈年祭で「神様との踊り」がわずか10分で終わってしまったのを受け、神様の怒りを鎮めるのに少しでも寄与したいということから命(めい)が提案したものであったが、朝祝詞をあげる時に、毎日ではないものの、できるだけ巫女舞も奉納するようにしていた。
 
この巫女舞は元々村の若い女性に伝えられているもので、祈年祭の朝に奉納する習わしになっている。この舞を理彩は高校卒業直後「命(めい)も村の娘なんだから」などと言って、命(めい)に覚えさせていた。そこでそれも一緒に奉納することにしたのである。命(めい)が舞をするので、朝の祝詞を理彩が代行する時は、理彩も舞を舞うようにしていた。
 
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「でも、命(めい)の舞もだいぶ上達したね」と理彩。
「先生が良かったからね」と命(めい)。
 
「村の女はみんなこの舞を踊れるからね。これで命(めい)も村の女の一員だよ」
 
「えっと、舞は踊るんじゃなくて、舞うんだよ」と命(めい)。
「へ?」
「舞と踊りは別もの」
「そうなんだっけ?」
「舞はワルツなんかと同じで回転運動。踊りはジャズダンスなんかと同じで跳躍や縦の動きなどが中心」
「ああ、そう言われたらそうだ。へー。舞と踊りって違うものだったのか!」
 
「けっこうごっちゃにしてる人いるよね。日本の踊りは古い時代の田楽などから来ている。民謡大会の上位入賞者なんかでも、両方をゴッチャにした新作の舞とも踊りともつかぬものを演じる人がいたりするから」
 
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「うーん」
「舞と踊りをミックスするのは、八宝菜にフランスパン添えるようなもの」
「・・・・それ私、平気で食べる」
「そうか」
 
「でも詳しいね、命(めい)」
「実は、まどかさんからの受け売り」
「ああ」
 
「ここだけの話だけど、巫女舞してってのも、まどかさんから言われた」
「そっか。じゃ私も朝の祝詞を命(めい)の代わりに読む時は、巫女舞をするね」
「ありがとう」
 

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4月の中旬から命(めい)は自動車学校に通い始めた。そもそも昨年の春免許を取っておけば良かったのが、ぼんやりして取っていなかったので、あちこち移動する時にいつも理彩に運転してもらっている。早く自分も取らなきゃと思っていた。更に吹田の一軒家に引っ越して来て通学用にヴィッツを買ったものの、自分は免許が無いので、復学するまでに免許を取らないと、またまた理彩に負担を掛けてしまう。そこで1ヶ月程度以内には取ろうと思った。
 
星のお世話はあるものの自分が外出中は自分の母と理彩の母が交替で面倒を見てくれる。そもそも休学中で時間の都合は付けられるので、ほぼ毎日出て行くことにした。
 
ネットで申し込みをして振込用紙をプリントし、コンビニでパックコースの料金を支払う。そして「新婚旅行」から帰ってから1日休んだ4月16日(火)の午後、入校手続きをした。写真撮影、適性検査、オリエンテーションのあと、すぐに最初の学科教習、そしてシミュレータによる予備練習を経て、即最初の実習になる。
 
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きゃー、初日からいきなり運転するのかとは思いながら実習の待合室に行く。先生が来て名前を呼ばれるのを待ちながらふと教習原簿を眺めていて「え?」
と思う。
 
性別が女になってる。。。。。
 
申込書で性別の丸印を付け間違ったかなあ、と考えてみるも、性別の所というのはふつうの人以上にいつも意識しているので、確かに男の方に丸を付けたという記憶がある。
 
『入力する時に間違われたんだよ。命(めい)って外見を見たらどうみても女の子だもん』とまどかの声。
『まどかさんのしわざ?』
『人聞きの悪い。単純ミスだよ。命(めい)、声も女の子の声で話してたろ?』
『あ・・・。でも僕、もう随分長く男の声出してない気がする』
 
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そもそも初日の命(めい)はドレッシーなブラウスに運転の時に足を動かしやすいようにとミニスカートを穿いてきている。これを見て男と思う人はまずいない。
 
『それじゃ女と思われても無理ないね』
『これ、訂正してもらわなくていいかなあ』
『別に性別なんてどうでもいいんじゃない?』
『そうだろうか?』
 
やがて講師の人が呼びに来て、命(めい)は(建前上)初めての運転席に就いた。最初はとにかく車を動かし、ハンドルで車の進行をコントロールすることだ。
 
「運転うまいね。実は運転してたでしょ?」などと講師から言われる。
「えーっと、それはしてない、という公式見解で」
 
「ははは、まあいいですよ。斎藤さんは女子大生ですか?」
「あ、はい」
 
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「どちらの大学です?」
「阪大ですが」
「おお、凄い!才媛なんですね」
 
あはは・・・やはり、女の子と思われてるよね。ま、いっか!
 

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