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■神様のお陰・神育て(13)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-08-20
 
そんなことをしていた時、診察室から健診医が出てきて、理彩が泣いている様子に
「どうかなさいましたか?」
と聞く。
 
「あ、いえ大丈夫です」と理彩は涙を拭きながら言った。
 
その時、医師がまどかを見て驚いたように言った。
「西沢・・・先生?」
「ご無沙汰してました。有川先生」
 
「西沢先生も大阪に来ておられたんですか?」
「今奈良県に住んでるんですよ。もう仕事は引退しましたけど」
「引退だなんてもったいない。色々先生から教わりたいことは山ほどあるのに」
 
「じゃ、携帯の番号交換しましょか?」
「はい、ぜひ」
 
ふたりは携帯の番号とアドレスを交換していた。理彩はまどかが携帯電話を持っているとは知らなかったので内心驚いていた。そんなの持ってるのなら星がいなくなってた時、まどかの携帯に電話したかったよ!!
 
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「でも西沢先生は本当にお若い。私より10歳は年上の筈なのに」
「女の年齢のこと言ったら体温計が飛んできますよ」
「ちょっとそれ止めてください」
と有川医師が言う間もなく、体温計が飛んできて、有川に当たる。
 
「痛たた。西沢先生のこの手品には、いつも驚かされてましたから」
「うふふ。またその内いろいろ話しましょう」
「ええぜひ」
 
理彩が不思議そうに有川医師が去って行くのを見送る。
「お知り合いですか? でもまどかさんのこと先生って言ってた」
「ふふふ。まあ古い知り合いだわ」
 
「でもまどかさんが携帯持ってるなんて知らなかった。番号とアドレス教えて」
「うん。いいよ。但し、あっちの世界にいる時は圏外だからね」
「えー!?」
「だって基地局無いもん」
「そっかー!!」
 
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祈年祭から1ヶ月たった3月中旬。命(めい)と理彩が愛の営みをしようとしていたところに、久しぶりにまどかが吹田の家に現れた。
 
「ああ、疲れた。やっと祈年祭関係の仕事が片付いたよ」
「お疲れ様です。そんなに色々とすることがあるんですね?」
命(めい)も理彩も裸だが、お互いそういうのは気にしないことにする。
 
「うん。年間の仕事の3割くらいはこの期間にすることになるからね」
「わあ」
 
「星も元気みたいだね」
「ええ。さっき、おっぱい飲んで寝た所です」
 
そこに黒猫のロデムが寄ってくる。
「おお、ロデムごめんね〜。放置しておいて。とにかく忙しかったんだよ。理彩ちゃんたちにちゃんとお世話してもらってたみたいだね。良かったね」
ロデムはまどかに頬ずりをしている。
 
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「まあ、あんたたちには冷たい言い方して悪かったけど、修行の期間や方法を決めるのは私たちじゃないからね」
「とっても偉い方たちなんですね?」と命(めい)。
 
「まあ、そんな感じ。言葉で表現できないもの。名前を付けた途端その名前が指すものとは違ってしまう。『存在』という表現にもなじまない。」
 
「誕生日から修行が始まることになってるんですか?」
 
「誕生日までは神様の卵。誕生日に神様になって、神社の東脇殿に納まるようプログラムされてるのさ。だから天に還る儀式が必須なんだけどね。そして、このことはその儀式の前には人には言ってはいけないことになってるんだよ。それと実は修行自体は今までもしていたんだけど、誕生日から本格的になる。最低でも最初の一週間は行きっぱなし。その後はその神様各々の都合や事情で変わる。一週間で終わってしまう人もあるけど、10年、20年とひたすら修行する人もいるよ」
 
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「へー」
「私も5年くらいやってたからね」
「わあ」
 
「もちろん最初の集中訓練が終わっても、人間体が寝ている間に霊体が修行を続ける。今星は半分くらいは寝て過ごしてるだろうから、その半分は修行してる。それは10年か15年は続くよ」
「なるほど」
 
「ただ、星が1ヶ月で解放された要因のひとつはやはり育てているあんたたちの感情だよ」
「じゃ、僕たちが星の帰還を祈ってたのは無駄じゃなかったんですね」
「だね。もうひとつの要因は一番基本的な部分が、あんたたちのこの1年間の教育で身についてたこともあるよ。私は親から放置されて何も教えられてなくて、どちらかというと悪いことばかり教えられていて劣等生だったんだよ。最初の1年で身についていたものって結構大きいんだ。それが間違ってると修正に5年も10年も掛かる」
 
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「ああ」と命(めい)が少し疲れたような笑顔を見せたが、理彩は
「なるほど。出来が悪かったから長く訓練されたんですね」
と言って、飛んできたマニキュアの瓶が頭に当たり「痛た」と言っている。
 
「でも星が5年も戻って来なかったら、多分僕死んでました。いや半年もせずに死んでたかも」
「ああ。元々あんたは身体が弱いからね。自殺しなくても心労で死んでたろうね。今回ばっかりは私ももう助けきれないと思ってたんだけど、星が早く帰って来てくれて私も助かったよ。あんたを生かしておくのは、私の趣味だからさ」
「ふふ」
 
「だけど、ひとりの神様を育てるには人間の一生を使ってしまうからね。星が昇天するまでこれから50年、あんたたちの『神育て』は続く。ま、私もそれまで命(めい)が死なないように、身体のメンテをしてあげないといけないけど」
 
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「50年後・・・・70歳か。自分がそんな年齢まで生きるのが想像できない」
「まあ、楽しく50年過ごして行こうよ」
「そうですね。今後もまたよろしくお願いします」
 
「うん。今日は気分いいから、命(めい)を完全に女に変えてあげようか?もう男には戻せないやり方で」
「あ、いいですね」と理彩。
「それはやめてー」と命(めい)が言うと
 
「じゃ、いつもの普通のやり方で、セックスチェンジ!」
と言って、まどかは命(めい)を女の身体に変える。
理彩が命(めい)の身体を確認して「おおっ!」と嬉しそうな声をあげる。
「ついでに理彩も下半身だけ男にしちゃえ」
とまどかが言うと、理彩のバストはそのままで股間に立派な男性のシンボルができる。
「おおおっっ!!」と理彩が喜んで?いる。
 
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そしてまどかは「んじゃ」と言いロデムを連れて去っていった。
 

時を50年ほど巻き戻して、1959年9月26日。
 
この日の夕方、潮岬に上陸した台風15号は極めて強い勢力を保ったまま日本列島を縦断した。後に言う伊勢湾台風である。
 
その頃、「名前を付けることができず存在という表現にも馴染まないもの」の中で5年半にわたって教示や訓練を受けてきた「怨(えん)」は「もう修行は終わり」
という意志を受け取った。
 
修行は終わりと言ってもどこに行けば良いのだろうと悩んだ。本当なら自分の生まれた村の神社に行けば良いのだろうが、元々生まれて1年後に人間の身体をいったん離れて神社の指定の座に収まるようプログラムされていたのが、その前に人間の身体が滅んでしまったため、プログラムが空振りになってしまっていた。誰かが何かの方法で召喚でもしてくれない限り、そこに行くことはできない。
 
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そもそも母から聞かされていた村の様々な話から、自分としてもその村に親しみなどを感じることができなかったので、自分を探そうとしている父神・珠龍神にも自分の存在を察知されないよう隠していた。その頃怨(えん)は多分珠だけが自分をあの神社に召喚できるだろうと思っていた。
 
怨(えん)が悩んだ素振りを見せた時「名前を付けることができず存在という表現にも馴染まないもの」は「名古屋に行って母を助けなさい」と言った。見ると、名古屋が洪水になっている。母・多気子の住んでいるアパートも1階が完全に水没し、2階の部屋に住んでいる多気子が、どうしようかとオロオロしていた。怨(えん)はいい気味だと思った。自分はあの部屋で母に殺されたようなものである。母やその恋人に虐待された辛い日々の記憶が蘇る。
 
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「今のような感情を持つのは良くない。私達の命令だと思って母を助けなさい」
「分かりました」
 
怨(えん)は素直に答えると、母の目の前に自分が死んだ時のままの姿を現した。青ざめる多気子。
「ごめんよー、怨(えん)。私自身があまり辛くて、お前に当たっちまった」
 
怨(えん)は一言「飛び降りて」と言った。
「私に死ねと言うのね? そうだね。私もお前の所に行きたい」
多気子は怨(えん)のことを幽霊と思っているようである。そして、怨(えん)の言う通りに窓の外を流れる濁流に飛び込んだ。
 
そこにちょうど1本の材木が流れて来て、多気子は反射的にそれに掴まった。
「しっかり掴まってて」
と怨(えん)は言うと、自分もその材木の上に乗る。ふたりを載せた材木は濁流となった町の通りを流れて行った。
 
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30分後。材木は偶然にも半壊した工場の鉄骨に引っかかった。そして翌朝、多気子は自衛隊に助けられ、奇跡の生還を果たした。怨(えん)は自衛隊員が近づいてきた所でスッと姿を消した。「お母ちゃん、またね」と怨(えん)はなぜか言ってしまった。
 

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多気子が避難所で数日を過ごしていた時、
「あれ?東川さん」
と声を掛ける者がいた。
 
「西沢君!」
それは中学時代の同級生の男の子・西沢和史であった。元々多情な性格の多気子が攻略しようとしたものの、ついに落とせずに終わった「片想いの人」である。彼は高校に入る直前に転校して余所に行ってしまっていた。
 
身を寄せる所が無いという多気子に西沢は
「もし良かったら、うちに来る?」
と誘い、東京の自宅に連れて行った。
 
西沢はあくまで友人として振る舞い、多気子に指1本触れなかったし、最初は自分が敷金とか貸すから、アパートを借りようなどと言ってくれたのだが、多気子は「洪水のショックでひとりで寝るのが怖い」と言って、しばらく西沢のアパートに同居を続ける。
 
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そして数ヶ月の同居を経て、さすがの西沢も多気子に情が移り、ふたりは恋人になった。多気子としては10年越しの恋を実らせたようなものであった。
 
多気子が台風の時に、自分が産んで10ヶ月で死なせてしまった子の幽霊が自分を助けてくれたと言うと、西沢は「水子供養をしてあげようよ」と言った。
 
お寺に行き、位牌を作ってもらって、それを毎日拝むようにした。怨(えん)は他に行く所も無かったし、ふたりが住む部屋で何となく過ごしていたが、姿は見せていなかった。西沢は大手自動車メーカー系のディーラーで自動車のセールスをしていたが、怨(えん)は何となく気が向いて彼の成績が上がるように仕組んであげた。
 
そんなある日、西沢の伯母さんという人が突然アパートを訪れた。そして西沢が多気子ともう半年以上一緒に暮らしていると聞くと「あんたら何やってんの?ちゃんと籍を入れなさい」と言った。
 
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多気子が、以前子供を死なせてしまったので、結婚に踏み切る気になれなくてと言うと「ふーん」と言って、部屋の中に祭られている水子供養の位牌や線香立てを見る。そしてその時「あれ?」と言って、伯母は怨(えん)の方に向いた。
 
『あなたが怨(えん)ちゃん?』
と「意志の声」で話しかけられたので、怨(えん)は驚く。誰にも気付かれないように居たつもりだったのに!
 
あんまり驚いたので『はい』と答えてしまう。
『でも・・・・あなた幽霊じゃない。 うーん。かなり高次の存在だよね?』
『えっと、そんな感じのものです』
 
『詳しいお話聞きたいな。ちょっとうちに来てお話しない?』
 
怨(えん)はどうせ暇なので、その伯母さんに付いていくことにした。
 
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西沢和史の伯母さん、西沢公子の家に行った怨(えん)は台風の時に多気子に見せた赤ん坊の姿ではなく、年齢相応の7歳の男の子の姿を見せた。
 
「君、可愛い男の子だね」と公子が褒める。
「僕、男の子って嫌い。乱暴で。虫とか解体したりするし。僕が赤ん坊の時も、母ちゃんより、彼氏の方にたくさん殴られてたし、母ちゃんも彼氏に殴られてた。今の彼氏は優しいみたいで母ちゃんを殴ったりしないけど」
 
「ふーん。男の子が嫌いなら、いっそ女の子になる?」
「あ、それもいいかもね」
と言って、怨(えん)は自分を女の子の姿に変えた。
 
「へー。そういうの自由自在なんだね」
「もともと男も女もないから」
「じゃ、しばらく女の子として過ごしてみたら? 女の子だと可愛い服着られるしね。そしてうちで普通の子供として、私と一緒に御飯やおやつ食べたり、遊んだりしない?」
 
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「そうだね。私、暇だからおばちゃんに付き合ってもいいよ」
「うん。じゃ、付き合おうよ。だけど怨(えん)って名前は少し酷いよね。名前を変えない?」
 
「あ、それは自分でも思ってた」
「女の子だし、何か可愛い名前がいいなあ」
 
公子は名付けの本を開き、何か気に入った名前が無い? と聞く。適当にページをめくっていた怨(えん)はやがて「まどか」という名前の所で指が止まった。
 
「ああ、まどかって名前も可愛いね」
「じゃ、私、まどかになろうかな」
「うん。それでいいんじゃない? 漢字だと『円』かな。あ、偶然だけど、元々お母さんが付けた名前と音読みが同じだよ」
「ああ」
 
こうして「まどか」となった彼女はそのまま数ヶ月、ふつうの子供のようにして、公子の家で暮らし、時々、母たちのアパートの様子も見に行っていた。
 
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