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■神様のお陰・神育て(11)

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10月の下旬。吹田の家で夕食の後で星にお乳をあげていたら、星が『あっ』
と脳内直伝で命(めい)と理彩にだけ聞こえるように言った。
 
「どうしたの?」と命(めい)。
『えっとね、こないだ僕を抱っこしてくれたお姉さんの一人が死のうとしてる』
「何?」
『こういうのも、ただ見てればいいんだっけ?』
「助けなきゃ! どのお姉さん?」
『紗麒さんって言ったかな。あ、今お薬たくさん飲んだ』
「彼女の住所分かる?」
『《住所》ってよく分からないや』
 
命(めい)は少し考えて紗麒と親しそうな元クラスメイト、柚花の携帯に電話を掛けた。
 
「ごめん。緊急事態なんだけど、紗麒ちゃんの住所知ってる?」
「うん。分かるけど」
「紗麒ちゃんが今自殺しようとして薬を飲んだみたいなんだ」
「えー!?」
「救急車を呼びたいから住所教えて」
「うん」
 
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柚花から聞いた住所をメモする。
「じゃ、いったん切るね。すぐ119するから」
「お願い。私、7〜8分くらいで行けると思うから、駆けつけてみる」
「うん。頼む」
 
命(めい)は119して、友人が薬を大量に飲んで自殺を図ったようなので助け出して欲しいと連絡し、その住所を伝えた。「すぐ手配します」という応答で命(めい)は電話を切る。
 
そばで聞いていた理彩が言う。
「でもその部屋、鍵開いてるのかな?」
「ああ。星、その部屋の鍵を解除できる?」
『うん・・・外したよ』
「ありがとう」
『助かるといいね』
「うん」
 
『それとも助けた方がいい?』と星。
「そうだね。。。。ここまでしたら、後は本人の運に任せようか」
『やっぱり人助けって難しいなあ』
 
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「命(めい)って結構ドライなんだね」と理彩が言った。
「そう?」
「私なら、すぐ飲んじゃった薬を外に移動させて、とか言いそう」
「そういう自然の摂理に反することはしてはいけないんだよ」
と命(めい)は言う。
 
「神様だって、ちゃんと宇宙の法則に従って行動しないといけない。ただ、選択や偶然によって、あり得る未来に誘導することはできるんだ」
 
「例えばお金が無くて困っている人に現金100万を目の前に積み上げるようなことはしてはいけない。でもその人が仕事を成功させて100万儲けることができるように誘導するのは良いんだよ」
「難しい」と理彩が言ったが、『難しいよぉ』と星も言った。
 
様子を眺めていたまどかは微笑んで、東京時代の友人としていたトランプの方に意識を戻した。《私も西沢のおばちゃんに昔似たようなこと言われたな》と思う。そして、しばらくしてから、ふと思い出すかのように、星の意識がそちらを向いてない隙を狙って紗麒に吐き気を催させた。
 
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その後、柚花からの連絡で命(めい)も病院に駆けつけたが
 
「大量に飲みすぎたせいか、自分で吐いちゃって、それで助かったみたい」
という柚花のことばに、命(めい)は『ありがとう』と、例の方角に向かって言った。
 

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その年の村の収穫は、ふだんの年よりは落ちたものの、凶作というほどではなく、村人はホッとした。
 
「真祭が10分で終わったにしては上出来です。これも命(めい)さんたちの毎日のお勤めのお陰ですよ」
と辛島和雄宮司が言った。
 
「宮司さん、かなり滝行なさってたでしょう。あれも大きいですよ」
と命(めい)は言う。
 
「今の神様は、宮司さんのお父さんに恩があるから、宮司さんが色々すると、効くんですよ」
「親父が何かしたんでしょうか?」
 
「今の神様が生まれた時に、お父さん、辛島利雄さんが赤ちゃんとそのお母さんを守ってくれたんです」
「そうだったんですか」
「他にもいろいろあったみたいで。あまり詳しくは聞いてないですけど」
 
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命(めい)は、理から聞いた範囲のことだけを話した。まどかから直接聞いた話は、基本的に理彩以外には話さないことにしている。特に利雄が自分の寿命と引き替えに、まどかを村の神社に召喚したことはとても話せないと思った。利雄が持っていた召喚法のメモ(元々は命理が書いたもの)は、危険なので命(めい)がまどかに頼み密かに回収して他人の目に触れないよう厳重に保管している。
 
「でもそのお母さんはどうしたのでしょうか」
「村を追い出された後、名古屋にしばらく居て、それから東京で暮らしていたようですが、10年ほど前に亡くなったようです。亡くなる時に、お前は私も村も恨んでるかも知れないけど、私はとうに村の男たちへの怨みは消えてるから、お前が神様なら、あの村を守ってくれと言い残したそうです」
 
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「そうですか。神様にも色々葛藤があるのでしょうね」
 

半年ほど前、命(めい)はまどかに訊いた。
 
「そもそもあの真祭の踊りって、何のためのものなの?」
「あの禁足地に湧出している吉野の山のパワーを取り出して村に広めるためだよ」
「ああ、あそこってパワースポットなんだ?」
「うん。第一級の強烈なパワースポットだよ。その気になれば天下を取れるだろうね」
「ふーん」
 
「真祭で踊る踊りは、古い田楽踊りがベースで、農作業の色々な型が組み込まれているんだよ。踊りが短いと取り出す量が少ないから、作物の実りが落ちる」
「だったら来年からはせめて1時間踊ってよ」
「やだ。疲れる」
「じゃ40分」
「15分。これ以上は嫌だ」
「30分」
 
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「そうだなあ。巫女舞にも効果があるよ」
「へー」
「だから祈年祭の朝には巫女舞をするのさ。あの巫女舞自体に大地のパワーを取り出す力があるし、舞う場所はパワースポットの力を利用できる特殊ポイントなんだ。まあ、そんな所を撮影しようとしたら、そのパワーがそこに漏れ出て、とんでもないことになるわ。死んでもおかしくない」
 
「ああ。そしたら、僕が吹田の家の分社で巫女舞を奉納したら、少し効果出る?」
 
「出るだろうね。あの分社の前は村の神社の拝殿と空間的に同質。そこで命(めい)みたいな超優秀な霊媒が舞えば、村にエネルギーが放出されるよ。但し舞うのは祝詞を唱えてからだよ。それで霊的なチャンネルがつながるから。理彩でも効果ある。効力としては命(めい)の半分くらいになっちゃうけど」
 
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「じゃ、朝時間がある限り、巫女舞を踊ることにするよ」
「命(めい)、舞と踊りは違う」
「へ?」
 
それからまどかの「舞と踊り」に関する講義は実技指導まで含めて1時間ほど続いたのであった。
 

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2014年のお正月。命(めい)と理彩は星を連れて村に帰る。留守の間は、大阪在住で、神社の息子という友人に、朝晩の祝詞をあげてもらうことにしている。
 
初詣は、命(めい)も理彩も振袖を着て、星にも和服を着せて神社にお参りした。参拝していたら、まどかも振袖を着てやってきて、一緒にお参りした。
 
「ここの御祭神まどかさんが今主神でしょ? 自分で自分に参拝するの?」
と理彩が訊く。
「コックさんも自分が作った料理食べるでしょ?」
「ああ、そういうものか!」
と理彩は納得したようだが、命(めい)は微笑んでいた。
 
「でもその振袖、5月に買ったのと違いますよね」
「うん。若い頃作った振袖。でも成人式には5月に買ったの着て来るよ」
「へー」
 
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その成人式は翌1月2日に行われた。田舎ではお正月にみんなが帰省したタイミングで成人式をやってしまう所が大多数である。理彩と命(めい)は昨日着た振袖を今日も理彩の母に着付けしてもらって着た。
 
「あんたが高校生の頃、成人式には振袖着る?なんて冗談言ってたけど、本当に振袖着ちゃったね」
などと、その日の朝、命(めい)の母は言った。
 
「あれ冗談だったの? 凄く本気に聞こえたけど」
と命(めい)は笑って言う。
 
「まあ、あの頃から本人、振袖着る気が満々でしたからね」
と理彩。
「命(めい)ちゃんの振袖姿、高校時代に何度か見たけど、ほんとに可愛かったね」
と理彩の母。
 
成人式の会場に行っても、誰も命(めい)が振袖を着ていることに突っ込みを入れない。ただ
 
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「上等な振袖着てるね〜。高かったでしょう?」とか
「あれ、理彩と命(めい)ってお揃いの振袖着てるんだね」
などと言われたりする程度である。
 
「私たち結婚したからお揃いの振袖着たんだよ」
と理彩が言って左手薬指のマリッジリングを見せると
「おお、いつの間に。でも既婚でも振袖でいいんだっけ?」
と言われる。
「成人式なんて着たい服を着ればいいからね〜。ほら。あそこの河合君なんて好きな服着てる」
 
と言われた河合君は、仮面ライダー風のコスプレをしている。
 
「これ割と格好いいだろ?」などと本人は言っているが、
「仮面ライダーやるなら顔も全部覆っておけば良かったのに」
などと浩香に言われている。
 
正美は振袖姿を男子の友人にも女子の友人にも褒められて、少し恥ずかしそうな顔をしながらも、嬉しそうにしていた。
 
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「あ、そういえば西川君は?」
「ああ、西川は東京の方の成人式に出るって言ってた。こちらの中学には3年生途中から半年くらいしか居なかったしな。元々東京生まれで東京が長かったから」
「ああ」
 
西川君は電気通信大学に通っている。お父さんが元々東京の人なのだが大阪や九州・仙台などを経て中3の夏に隣町に引越してきて、高校は3年間一緒になった。
 
しかし同じ中学の出身で違う高校に行った子などとは久しぶりの再会なので、みんな話が弾んでいた頃に、豪華な振袖を着たまどかがやってくる。
 
「あつかましくやってきたよ〜」
と少しはにかんだ顔でまどかが言うと、
「いらっしゃーい。一緒に楽しみましょう」
と言って理彩がまどかにハグすると、まどかは続けて、命(めい)、春代ともハグした。
 
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「理彩、そちらはどなた?」
と質問が入る。
 
「この村出身のお姉さんで、私と命(めい)が子供の頃からよくお世話になった人なのよね〜。でも20歳の時に成人式をしそこなったというから、今回一緒にやりましょうって誘ったの」
 
「うん。この年で振袖着るの少し恥ずかしかったが頑張ってみた」
「お姉さんなら、振袖まだまだ行けますよ」
「ってか、豪華な振袖。すごーい」
「お仕事は何しておられるんですか?」
 
「えーっと」とまどかが少し躊躇っていると、「お医者さんだよ」と命(めい)が言った。
「へー。凄い。さすが高収入さんの着物!」などと言われている。
 
そして命(めい)が突然
「今から5分間限定。まどかさんとハグした女子は、宝くじが1万円以上当たるよ」
と言うと
「えー!?」
と言って、ハグ希望者が相次ぐ。
 
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「は〜い、ここまでで終了」
と携帯のタイマーで時間を計っていた命(めい)が宣言して、イベントは終了した。しかし、これがきっかけで、まどかはみんなに和やかに受け入れられた感じであった。
 
記念写真を中学の時のクラス単位で撮ったが、まどかは理彩と春代の両方に引っ張っていかれて、2回写っていた。まどかはひじょうにご機嫌であった。
 

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成人式からの帰り道、まどかが言った。
 
「私、来週から祈年祭の準備で忙しくなるから、しばらく出てこられないと思う」
「あれ?でも去年はけっこう僕のお見舞いに来てくれたよね?」
「あんたが神様の子供を産むってんで特に忙しい所出てきてたんだよ」
「そうだったのか。ありがとう」
 
「それに去年はまだ私とコーちゃんの共同主催だったけど、今年はもう私ひとりでしないといけないからね」
「ああ、大変そう」
「まあ、何かあった時は何とかするよ」
「よろしくー」
 

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お正月休みが終わり大阪に戻ると、年賀状に混じって星の「12ヶ月健診のお知らせ」
のハガキが来ていた。
 
「ああ。いつ頃連れて行こうかな」
「お誕生日過ぎてからでいいんじゃない?」
「そうだねー」
などとその日は言っていた。
 

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