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■娘たちのリサイクル(20)

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貴司たちは決勝戦・表彰式が終わった後は、都内の割烹で「準優勝祝賀会」が行われ、その後はいったんNTCに戻った。そして翌23日の午前中にあらためてバスケ協会の会長、文部科学大臣に準優勝の報告をし、お昼にはバスケ協会会長主宰の食事会に出て、そのあと解散となった。
 
貴司は新幹線で大阪に戻る。
 
貴司の身体だが、例によって9月9日の最終合宿開始から大会最終日の9月22日夜まではバストは消失していたのだが、23日の朝には復活していた。男性器はずっと無いままである。それで新幹線の中ではずっと(普通の)ブラジャーをしていた。していないと胸が揺れて痛いのである。ちなみに貴司は女装癖があるわけではないのでパンツは男物のトランクスを穿いている。
 
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しかしこの身体になってしまってから2ヶ月半経ち、もうこの身体に慣れてしまった感じもする。
 
「ちんちんが付いてた頃のことを忘れつつある気がするなあ」
 

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自宅マンションに戻ったのは17時頃である。再度シャワーを浴びてから下着をつける。男物のトランクスとシャツだが、その内側にブラジャーをしている。また下半身にはハーネスを装着し、***も取り付けている。シャツはブラジャーの線が見えにくいように灰色の厚手である。
 
その上に身体の線が分かりにくいコットンのワークシャツを着てジーンズのパンツを穿き(***を付けているので股間はあるように見える)、貴司はA4 Avantに乗って神戸市内の阿倍子の家まで行った。
 
着いたのは20時頃である。
 
ピンポンを鳴らすが反応が無い。
 
居ないのかな?と思い、念のため預かっている鍵で中に入る。
 
阿倍子が倒れているのでびっくりする。
 
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「阿倍子さん、阿倍子さん」
と身体をゆすって呼びかけると、彼女は目を開けた。
 
「私死んでもいい?」
と阿倍子は言った。
 

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貴司は阿倍子が自殺を図ったのではないかと思った。それですぐに阿倍子を抱き抱えると自分のAudiの後部座席に寝せる。そして近くの総合病院まで走った。
 
「何の薬を飲んだ?睡眠薬?」
と医師が訊く。
「いえ、何も飲んでいません。でも死にたい気分で」
と阿倍子が言うので医師が貴司を見るが貴司は
「でも倒れて意識を失ってたんです」
と答える。
 
「私3日くらいごはん食べてなかったから」
「じゃ空腹で倒れてたの?」
「赤ちゃんが・・・赤ちゃんが・・・」
と阿倍子が涙を流して言葉にならないようなので、医師は尋ねた。
 
「君、妊娠してるの?」
「そうなんですけど、赤ちゃん、お腹の中で死んでいると言われて」
「何!?」
 
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偶然にも、産科医が院内に居たので来てもらった。
 
それで産科医が診察する。
 
「稽留流産していますが、これは極めて危険な状態です。赤ん坊が胎内で死んでから2ヶ月近くそのままになっています。これを放置していたら、奥さんまで死にますよ」
 
貴司は赤ん坊が死んでいると言われてショックだったものの尋ねた。
 
「どうすればいいんです?」
「直ちに掻爬する必要があります」
「すぐして下さい」
と貴司は言った。
 
「奥さんいいですか?」
「はい」
と阿倍子は力なく答えた。
 
それで深夜の緊急手術で、阿倍子の子宮の内容物は掻爬されたのであった。
 

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しかし・・・死んでから2ヶ月ということは、ひょっとして阿倍子のお父さんが亡くなったのと前後して、この子も死んでいたのでは?と貴司は思った。
 
手術自体は15分ほどで終わったのだが、本人の意識が回復してから、産科医が事情を聞いた。6日前、17日に稽留流産と診断されたこと、20日にも再度別の病院に行ってみたものの、同じ診断だったことを阿倍子は泣きながら語った。
 
「なぜすぐ僕に電話しないんだ?」
と貴司は怒って言う。
 
「ごめんなさい、ごめんなさい。あなたの赤ちゃんを」
「そんなことより、君の身体が大事だ」
と貴司が言うと、阿倍子は泣いていた。
 
貴司は大会中、やはり自分は阿倍子のことを全く愛していないことを再認識し、千里とのことは置いておいて、取り敢えず阿倍子には別れてくれと言おうと思い、実はカードローンでお金を借りて100万円の現金を手切れ金として持って来ていた。子供は認知し、養育費を毎月送金するという線で妥協してもらえないかと考えていた。
 
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しかし阿倍子がこの流産で精神状態が極めて不安定になっているのを見て、とても今は別れ話を切り出せないと思った。
 

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阿倍子が導眠薬をもらって眠ってしまった後、貴司は千里にメールした。
 
《阿倍子が流産した。稽留流産で2ヶ月も経っていて危険な状態だったけど何とか持ち堪えた》
 
するとすぐに返信があった。
《残念だったね。でもそういう状態なら、貴司しばらく付いててあげて》
 
千里って・・・何て優しいんだ?と貴司は思った。
 

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そんなメールをした千里を見て《いんちゃん》が
「千里が阿倍子の心配をするんだ?」
と訊いた。
 
「だって、この状態で阿倍子さん万が一にも死んだりしたら、阿倍子さんは貴司の心もそのまま持って逝ってしまう。貴司は阿倍子さんのことを忘れられなくなる。そしたら私は貴司の心を永遠に取り戻せない。だから、絶対に生きていてもらって、それで彼女から貴司を奪い返す」
と千里は言った。
 
「人間って難しいね」
と《きーちゃん》が言った。
 
「桃香ちゃんとの仲は復活させないの?」
と《たいちゃん》が訊く。
 
「そちらはもう終わったこと」
「ふーん」
 
「だったら私、阿倍子さんの身体のメンテしてくるよ」
と《びゃくちゃん》が言った。
 
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「お願い」
と千里。
 
それで《びゃくちゃん》は《りくちゃん》に乗せてもらって神戸に向かった。
 

さて、千里が「終わったこと」と言い切った、桃香との関係だが、それはこのようにして終わってしまったのである。
 
22日(土)に千里は貴司の試合を見終わってから、
「ちょっと精神的な浮気しちゃったかなあ」
 
などと思うと、急に桃香に申し訳無い気分になった。考えてみたら、京丹後に出かけて以来、9日間も桃香に会っていないことに気付く。それでケーキでも買っていこうと途中銀座で降りて有名洋菓子店のケーキを2つ買い、それから電車で西千葉駅まで帰った。
 
それで千里は22日の21時頃、桃香のアパートに戻った。
 
鍵を開け、「ただいまあ」と言って中に入るが電気は点いていない。
 
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「桃香、留守?」
などと言いながら、ケーキの箱を台所のテーブルに置き、襖を開けて部屋に入った。すると真っ暗な中で何かが動く気配があった。
 
「あれ?桃香寝てた?」
と言って、千里は蛍光灯を点けた。
 
「え?誰?」
と千里が声を掛ける。
 
桃香がギョッとした顔で飛び起きた。桃香は裸である。そしてその隣で裸で寝ていた美人の女の子も目を覚まして
 
「誰?」
と言って、こちらを見た。
 

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「信じられない!私だけを一生愛すというあの誓いは何だったのよ!?」
 
激怒した千里はそのあたりの物を手当たり次第桃香に投げつけた。
 
この時点で千里はここ数日貴司と「精神的な浮気」をし、“細川の婚約者”まで自称して、貴司たちのチームに贈り物をしていたことは、きれいに忘れている。千里は自分に都合の悪いことはすぐ忘れる性格である。
 
「待ってくれ、話せば分かる」
と桃香は防戦一方である。桃香と寝ていた女の子は慌てて服を着て逃げ出した。
 
「痛い。やめて。暴力反対。千里、君は物を投げる力が強すぎる」
「私、小学校の時はソフトボールのピッチャーだったし」
「それに私の顔にばかり飛んでくるんだけど」
と桃香は自分の顔を腕でガードしながら言っている。
 
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「当然、桃香の目に向かって投げてる」
「やめて〜。私が壊れる」
 
やがて投げるようなものが無くなって千里の攻撃は終了するが、千里の怒りは収まらない。
 
「私、出て行く。指輪も返す。サヨナラ」
と言うと、千里はバッグの中に入れていた結婚指輪と婚約指輪の入った2つのジュエリーボックスをやはり桃香に向かって投げつけ、荷物をまとめ始めた。
 

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桃香は必死で謝り、千里を何とか説得しようとした。
 
「済まなかった。二度と浮気しないから許して欲しい」
「私、もう冷めちゃった。私、元々ビアンの傾向は無いし。だから桃香との結婚は解消」
 
千里がその問題についてはどうしても譲らないと判断した桃香は“次善の策”を提案した。
 
「分かった。結婚解消は受け入れる。でも友だちではいてくれない?」
「まあ友だちというのならいいよ」
「だったら友だち同士、これまで通り、ルームシェアするという線ではダメ?」
 
千里もかなり怒って、物を投げつけたりして、少しは気が紛れていたので、
「分かった。じゃ同居は継続してもいい。でもセックスは絶対拒否。レイプしたりしたら警察に訴えるから」
と答えた。
 
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「分かった。絶対に手は出さない」
と桃香も誓った。
 
そういう訳で千里と桃香の結婚はわずか2週間で終了してしまったのである。
 

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「美味しそうなケーキの箱がある」
と桃香は言った。
「それも桃香に投げつければ良かった」
と千里。
 
「食べ物をムダにするの反対」
「それは同意だ」
 
「お茶入れるから一緒に食べようよ」
「そうだね。ケーキくらいは一緒に食べてもいいかな」
 
それで桃香が(服を着てから)紅茶を入れてくれて、一緒にケーキを食べた。千里もまだ顔は怒っているが、少しは気分が落ち着いた。
 
「これ美味しいね」
と千里が言うので、桃香も少しはホッとする。
 
「千里、お腹空いてない?」
と言って、桃香は頑張ってインスタントラーメンを作り、
 
「食べない?」
と言うと
「食べる」
と千里も言って、一緒に出前一丁を食べた。
 
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千里が結構落ち着いたかなというところで桃香は、あらためてエンゲージリングとマリッジリングのジュエリーボックスを千里の前に置いて言った。
 
「この指輪も千里だけのために作ったものなんだ。もしよかったら千里、これファッションリングとしてでもいいから再度もらってくれない?」
 
千里はまだかなりはらわたが煮えくりかえっていたのだが、桃香がほんとに低姿勢で頼むので妥協することにした。
 
「じゃダイヤの指輪はファッションリングということで。つける時は左手じゃなくて右手の薬指につける」
 
「うん。それでいい。石の入ってない方もつけてくれない?」
「じゃ右手中指につけて裁縫の指貫(ゆびぬき)代わりに」
「中指には多分入らないと思う」
 
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実際千里はプラチナのマリッジリングを右手中指に入れようとしたが、桃香の言う通り入らない。
 
「じゃ仕方ない。これも右手薬指につける」
「うん。それで」
「ただしこれ指貫だから。指輪じゃないから」
「それでいい。じゃ私も千里に合わせて右手薬指に付けるよ」
 
「私は右手の方が左手より小さいから左手薬指に合わせた指輪が右手薬指にも入るけど、桃香は入る?」
「試してみる」
と言ってやっていたが、やはり厳しいようである。
 
「これ宝石店でサイズ直してもらってくる。このくらいなら簡単に直せるはず」
「お金ある?」
「実は少し厳しい。季里子との指輪で100万使って、千里との指輪では120万使ってしまって、今蓄えが完璧に無くて」
 
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千里は自分との指輪に使ったお金の方が季里子との指輪に使ったお金より大きかったという話で少しだけ気分が改善された。
 
「じゃそれは私が出してあげるよ」
「済まん!」
「そもそも結婚指輪の代金の半分は私が出すべきものだったしね」
と言って、千里はその場で10万円桃香に渡した。
 
「こんな大金、千里いつも持ってるの?」
「まあたまたま持ってたし」
「これもらっても千里生活大丈夫?」
「うん。月末にはバイト代入るから大丈夫だよ」
 
それで千里と桃香はお揃いのマリッジリング(千里的解釈では“指貫”)を右手薬指に付けることにしたのである。
 
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