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8月6日(月).
龍虎は夏の定期検診を受けるためにいつもの病院に入院した。例によって2日掛けて様々な部屋を回り、様々な検査を受けた。
身長・体重なども測られるが、身長も体重も3月の時から全く変わっていなかった。そしておちんちんのサイズだが3.4cmと言われた。3月に計られた時は4.0cmと言われたのでそれより数値的に0.6cm小さくなっている。
「おちんちん小さくなっているような感覚ある?」
と訊かれたが
「特に感じません。変わらないと思いますが」
と龍虎が答えると
「じゃ測定誤差か興奮度の差かな」
と主治医の加藤先生は言っていた。
《コウフン》って何だろう?と龍虎は思っていた。
最も心配な腫瘍の再発については、最新鋭で導入されたばかりの3テスラ型MRIで時間を掛けて詳細に検査したものの、再発の兆候は見られないということだった。
この手の病気では寛解(ほぼ症状が消えた状態)から5年経過しても問題なければ治癒したものとみなされる。龍虎の場合、あと1年はまだ油断のできない状態である。
3月の時は主治医の加藤先生が海外出張していて若い須和先生という人が代わりに診察してくれたのだが、今回は加藤先生が在院しており、直接診てくれた。MRI画像なども見て、検査の数値なども見て「うん、問題無いですね」と言ってくれる。
「お薬はちゃんと飲んでますか?」
と主治医が訊いたので
「はい、ちゃんと毎日1錠飲んでます」
と龍虎は答えた。
「1錠?」
「え?毎日1錠飲むように言われたので」
先生は難しい顔をすると、モニターで何かチェックしている。
「須和君」
と奥の方に声を掛けると、龍虎を3月の検診の時に見てくれた若い医師・須和が出てきた。
「これお薬出し忘れてるじゃん」
と文句を言っている。
うっそー!?
「あ、見落としていました。申し訳ありません!」
それで龍虎と長野支香に向かい直って謝る。
「大変申し訳無いです。お薬を出すよう指示しないといけないのを忘れていたようです」
「えっと、12月の時もお薬無かったんですが」
「え!?ほんと!?」
それでチェックしていたら、どうも12月の時も出し忘れだったようである。
「本当に申し訳無い。これは僕のミスです」
と先生は頭を抱えている。
「でも先生、お薬無しでも龍虎の経過に問題が無かったのなら、実は本当にお薬は不要なのでは?」
と長野支香は言った。
「そうかも知れないね。じゃ念のため、軽いのに変えて出しますから、それを飲んでもらえますか」
「分かりました」
「あれ?でもそしたら3月には何の薬を出したの?」
と加藤先生は須和に訊く。
「出してません」
加藤先生はこちらに訊く。
「ほんとうにお薬出た?」
「はい」
「その薬持ってる?」
「いいえ。一昨日最後の1個を飲んでしまって。ちょうどまた検診だからいいだろうと思って」
加藤医師は考えていた。
「すみません。御自宅に行って、その薬の殻(から)が無いかチェックしてもらえません?」
「電話してみます」
それで自宅に電話してみると、田代幸恵がゴミ箱から殻を発見してくれたのでこちらに持ってくるということであった。
そういう訳で、龍虎の入院はとりあえず1日延びた。
夕方になって龍虎の病室に主治医が来た。
「この頂いたお薬の殻ですが、この薬を長野さんに出したはずは無いのです」
「でしたら、ひょっとして誰か他の人の処方箋と取り違えたとか?」
「その可能性はあります」
その時ふと龍虎は3月に自分が似た名前の患者と間違えられそうになったことを思い出した。
「あのぉ、3月の検診の時にですね。ボク、ナガノユウコさんという患者さんと間違われそうになったんですが」
「ナガノユウコ?」
それで加藤先生はすぐに調べてくれた。
「永野夕子さんという小学生の子が確かに同じ日に検診を受けているね」
その子が・・・おちんちんを切って女の子の形のお股にしてもらったのだろうかと龍虎は考えた。ちょっとドキドキする。
「永野夕子さんなら、この薬を処方されておかしくないです」
と加藤。
「もしかして、その人用の処方箋を間違って受け取ってしまったのかも」
「ちょっと御本人に連絡を取ってみます。少し待ってて下さい」
加藤は30分後にやってきた。
「ちょっとお話したいのですが」
「はい」
「永野夕子さんのお母さんと話したのですが3月の検診の時、いつまでたっても処方箋が出て来なかったので、どうなっているんですか?と訊いたら、出したはずですがと言われたらしいです。しかし受け取っていないというので再発行してもらって、薬局に行ったそうです」
「だったら、やはり間違ってうちがその処方箋を受け取ってしまったのでしょうか?」
「どうもそういうことになるようです」
「あの、その処方された薬は?」
「実は微量の女性ホルモンと、抗男性ホルモンの混合薬なのです」
「え〜〜〜〜!?」
あはは、“やはり”この所おちんちんが縮んで、乳首が立っている感じだったのはそのお薬のせいかと龍虎は思い至った。
「龍虎はどうなるんでしょうか?」
「この薬は本来は月の半分だけ飲んで半分は休むようになっていますが、それだと半月経った時に飲むのを再開し忘れることがあります。それで実は半分はダミーのお薬なんですよ」
「へー!」
「ですから睾丸のある人がこれを飲んだ場合、効果はとても限定的です。ただ若干、思春期の到来を遅れさせるかも知れません」
「遅れるだけ?」
「むしろ種々の事情で思春期の到来を抑制させるためにこの薬を使います。ですからこの薬をやめれば、じきに思春期はちゃんと来ると思います」
「よかった。だったら実害は無いですね」
と支香が言うので、加藤医師は少しホッとしたような顔をした。この場合誰に責任があるのか微妙ではあるが、ひとつ間違えば裁判沙汰になりかねない問題である。
「念のため、再度龍虎君の身体の検査をさせてください。特に生殖器関係に異常が出ていないかを確認したいのですが。この費用は病院持ちにします」
「お願いします」
「それで問題がありそうなら、男性ホルモンの補充をしましょう」
と先生は言ったのだが、龍虎は言った。
「先生、ぼく身体自体がまだ小さいし、思春期はもう少し先でもいいと思っています。ですから男性ホルモンは要らないです」
「そう?まあ本人がそう思うなら、無理に男性ホルモンを入れなくてもいいかな?」
と主治医は支香に訊く。
「そうですね。それでいいと思います」
と支香は微笑んで言った。
そういう訳で龍虎の5ヶ月間にわたる性的モラトリアム!は一応終了したのである。
しかし支香は後で龍虎と2人だけになった時に訊いた。
「あんた、女性ホルモンと気付いてて飲んでたんじゃないよね?」
「え?そんなことないよ」
と龍虎が焦ったような顔をして言うので、支香は腕を組んで考えていた。
なお1日掛けて生殖器関係を検査されたものの、特に問題は無いと言われた。睾丸に針を刺して組織を採取して検査するなどという、とっても痛い検査もされたが「睾丸の組織は小学3〜4年生の子相応には存在しますよ」と言われた。それでボクはやはり男の子なんだなというのを龍虎は再認識する。
また乳首が立っていて、胸の付近に少し脂肪が付いている感じなのも、半年も経てば消えてしまうでしょうと言われた。龍虎はそれも惜しいような気がした。別におっぱいが女の子みたいに大きくなって欲しいという訳ではないけどね。。。
自宅に戻ってから、龍虎はそっと机の引き出しを開けた。教科書の一番下に入っている“辞書の箱”の中にある“お薬”のシートの束を見て「このお薬どうしようかなぁ」と考えた。
龍虎はお薬の中に「本物」と「ダミー」があるのにはすぐ気付いた。それで、この数ヶ月はわざとダミーの方ばかり飲んでいて「本物」はキープしておいたのである。だから実は初期の頃を除いては「本物」は週に1回くらいしか飲んでいない。自分で実は似た感じの錠剤を調達してきて、それで飲んでいる振りをしていた。
加藤先生は「半分がダミー」と言っていたが、実は1シート28錠の内の21錠が本物で7錠がダミーである。
そういうで実は龍虎は「本物」をまだ80個ほどキープしているのである。
貴司の次の合宿は8月7日(火)から10日(金)までであったが、今回貴司は、いつもの東京北区味の素ナショナル・トレーニング・センターではなく、愛知県刈谷市のステラ・エスカイヤの体育館にやってきた。今回は近くなので朝から出ても間に合う。それで6日(月)は普通に勤務し、久しぶりにチームの練習にも参加してから7日朝、新幹線と名鉄を乗り継いで刈谷にやってきた。
今回体育館を借りることになった、JBL所属のステラ・エスカイヤは Wリーグ所属のステラ・ストラダと兄妹チームである。元々エスカイヤの母体企業とストラダの母体企業が兄弟会社(どちらもグループ内主要6社の一つ)という関係にある。但しステラ・ストラダの本拠地は愛知県安城市(最寄駅:南桜井)、ステラ・エスカイヤの本拠地は愛知県刈谷市(最寄駅:富士松)で両者は16kmほど離れている。
今回は実は現在17名居る代表候補者が14人まで絞り込まれる前の最後の合宿である。この合宿の後で3人落とされるので、やや緊張感があった。
貴司は今回も刈谷市の富士松駅で降りた所でバストが消失したので、例によって下だけ誤魔化してブラジャーは着けずに!プレイしていた。
休み時間にまたまた龍良正蔵(たつよし・しょうぞう)がやってきて声を掛ける。
「細川君さ、トイレはいつも個室だよね?」
「そうですね。トイレに入るとボーっとしてたりするので個室の方が楽なんですよ」
「ふさがっているとずっと空くの待っているようだし」
「ええまあ」
「立ってすることないの?」
「立ってもしますよー」
それで龍良と一緒に(むろん男子用)トイレに入って連れションをした。龍良はわざわざ覗き込んでくる!
「ほんとにちんちんあるんだなあ」
「ありますよぉ。こないだも触ったじゃないですか!」
「残念だなあ」
しかし貴司は龍良に気に入られているお陰で、彼とも随分1on1をやり、そう簡単には勝てないものの、かなり鍛えられた。それで貴司の技術はどんどん上昇していた。
8月10日の夕方、練習していた選手たちが集められ、ウィリアム・ジョーンズ・カップの登録メンバー14名が発表された。落とされた3名、前山・田宮・藤谷はだいたい感じ取っていたようで、
「みなさん頑張ってきてください」
と言っていた。
貴司は自分と同様に今回初参加だった前山君が落とされたのは驚き
「また来年頑張ろう」
と握手をして送り出した。
「僕が入ったから彼が落ちたのかなあ」
などと貴司が小さな声で呟くと、それを耳にした龍良が言った。
「誰が入ったからとかは関係無い。代表チームはいつも激しい競争だ。代表の予備軍は100人くらい居てそのひとりひとりが代表になれるよう必死で努力している。今代表になっている者はそれ以上に練習していないと、チームに居続けることはできんぞ」
「・・・龍良さん、僕はもっと強くなりたいです」
「うん。お前は強くなれる」
「次の合宿まで3日空きますけど、龍良さんはチームに戻って練習するんですか?」
「うん。そうだけど」
「そこに僕がお邪魔したりしてはいけませんよね?」
「おお、歓迎歓迎。細川はJBLにもbjにも所属していないからうちの練習場に入れても苦情が出ないから」
「わぁ」
それで貴司は11-13日は大阪に戻らず、龍良と一緒に東京に向かい、彼が所属する東京リングビーツの練習場(渋谷区にある大学の体育館を借りている)に行って、リビングビーツの選手たちと練習させてもらった。
「細川君、来季うちに移籍してくる気は?」
と言われる。
「いえ、なかなか今のチームに義理があるもので」
と貴司は答えておいた。
なおこの間の宿泊は、龍良が自分のマンションに泊まっていいよと言ったが、どう考えても“貞操の危機”を感じるので、ホテルに4日間泊まった。