広告:放浪息子(7)-BEAM-COMIX-志村貴子
[携帯Top] [文字サイズ]

■娘たちのリサイクル(16)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

そしてワイシャツを着ようとして、それが1枚も無い!ことに気付く。
 
「えーん。どうしよう?」
「ブラウス着たら?こないだ川南ちゃんが買ってくれた可愛いブラウスあったじゃん」
「あれ可愛すぎる!」
 
「でも何か代わりになる服あったかしら?」
 
それで母も探してくれたのだが、可愛いブラウスが4枚も出てきたのに、ワイシャツはやはり1枚も見つからない。
 
「お店開くまで待っていたら遅れちゃうし今日はブラウス着るしかないよ」
 
ということで、シンプルなペールピンクのブラウス、キティちゃんのブラウス、物凄くドレッシーなブラウス、先日川南が買ってくれたレースたっぷりの赤い水玉模様のブラウスの中のどれを着るか?という選択になる。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ピンクのブラウスがいちばんマシな気がする」
「私もそれに賛成」
 
そういう訳で龍虎は、女の子下着(ブラジャーを含む)を着け、ピンクのブラウスを着た上で、男の子用のスーツ上下を着て、蝶ネクタイを締めてもらったのであった。スーツのズボンはハーフなので、龍虎はその下に白いタイツを穿いた。タイツはむろん女の子用である!龍虎はちんちんが短いので前開きのあるタイツを履いても無意味である。そして靴は普通の!?エナメルの子供用ローファー(えんじ色)を履いた。むろんこれも本当はガールズ用である。
 

↓ ↑ Bottom Top

それで母の運転するブルーメタリックのベルタに乗って、龍虎は会場に入った。
 
既に多数の生徒が来ているし、多くの先生やスタッフさんが動いていた。適当に座席に座っていたら、龍虎の担任の小鹿先生が通りかかる。
 
「あら、田代さん、今年は随分ボーイッシュな衣裳ね」
「あ、はい」
「もっと女の子らしい可愛い服を着れば良かったのに。でもそのブラウス可愛い」
「そうですか?」
「じゃ今日は頑張ってね」
 
それで行ってしまう。
 
「ねぇ、龍ちゃん、あの先生、龍ちゃんを女の子だと思い込んでいるということは?」
「そんなことないと思うけどなあ」
 
やがて彩佳とお母さんも来たが、彩佳のお母さんにまで
「龍ちゃん、ドレス着なくてよかったの?」
と言われた。
 
↓ ↑ Bottom Top

彩佳の母は龍虎の性別は知っているものの、女の子になりたい男の子だと思い込んでいるフシがある。実際龍虎がよくスカートを穿いていて女の子下着も着けているところを見ていれば、そう思い込むのが自然である!小学2年生の頃は実は彩佳と一緒にお風呂に入ったこともあるが、最近はさすがに龍虎が遠慮している。しかしそれで実は龍虎は彩佳のヌードを見たことあるし女の子のお股の形も知っている(彩佳は“普通の”男の子のお股の形を知らない)。
 
「でもボク男の子だから、こういう服で」
「あら、性転換しちゃうの?」
 
「龍は最初はドレスを着るつもりでこのドレスを買ったんだよ。でも少し男の子の意識が芽生えて、少しボーイッシュな服を着ることにしたのね。それでこのドレスが浮いたから私がもらったんだよ」
と彩佳が説明すると
「ああ。そういうことだったのね」
と彩佳の母は納得していた!
 
↓ ↑ Bottom Top

「でもその服でも充分女の子に見えるから大丈夫だよ」
と彩佳の母は言った。
 
「ちなみに龍、今日はその服でも女子トイレ使いなよ」
と彩佳は言う。
 
「え〜?この服で女子トイレに行ったら悲鳴あげられない?」
「むしろ男子トイレに入ったら、女子トイレが混雑しているからといって、女の子が男子トイレを使ってはいけないと叱られると思う」
と彩佳。
 
「まあそうだろうね」
と言って龍虎の母も笑いながら言っていた。
 
「そもそも龍は小便器使えないし」
「それはそうだけど」
 
あからさまに立っておしっこができないことを言われると龍虎もさすがに不愉快である。もっとも立ってしたい訳では無い。
 
「そうだ。龍。もっと女の子らしくするのに、その蝶ネクタイちょっと外させて」
と彩佳。
「え?なんで?」
と龍虎は言ったが、彩佳は勝手に龍虎の蝶ネクタイを外すと、可愛い赤いスカーフ(用意している所が確信犯)を取り出し、それを龍虎の首の所に締めてあげた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「これで可愛くなったよ」
と彩佳。
「あ、これはいいわね」
と田代の母も言っている。
「それで万が一にも性別を間違われることはないよ」
と彩佳が言うので、龍虎は悩んでしまった。
 

↓ ↑ Bottom Top

今日の発表会はだいたい初心者の子から始めて最後の方に上手い人が弾くようになっている。発表会は10時から始まり、彩佳は11時半頃に元気にトルコ行進曲を弾いてきた。
 
12時からいったん休憩に入るが、お昼は駐車場に駐めている車の中で朝から用意しておいたお弁当を食べた。ホールにはレストランもあるのだが、小さいので、とても今日の来場者が入りきれない。近くのガストに食べに行った人たちや、お弁当屋さんやコンビニに行ってきてやはり車の中で食べている人たちもいた。彩佳たちはガストに行ったようである。そして龍虎の方は、このベルタに電子キーボードも積んできているので、龍虎は車のシガーソケットからインバーターで電源を取って電子キーボードを駆動し、昼休み中に5回練習をしておいた。
 
↓ ↑ Bottom Top


13時半から発表会は再開される。後半はやはりレベルの高い人の演奏が続くので難しい曲が多く、眠ってしまう観客も多かった!
 
龍虎は14時半頃に登場する。
 
「次は田代龍虎ちゃん、曲はショパン『練習曲作品10-3ホ短調“別れの歌”』です。今日はちょっとボーイッシュな衣裳で登場ですが間違いなく女の子ですよ」
などと言われる。
 
(座席に座っていた田代母も、彩佳も吹き出した)
 
でも気にしないで龍虎はピアノに集中する。椅子に座り、両手を鍵盤の上に置いて弾き始める。
 
シ・ミーレミファー、ソソファソー、ララソドーシ、ラソレミファー
(ドレファソは半音上)
 
美しいメロディーだよなあ、と思い龍虎は弾いていく。
 
↓ ↑ Bottom Top

この曲は実は龍虎のように指の小さな子にはかなりきつい。そもそも譜面通りに弾くとどうやっても指が届かない所がたくさんある。しかし龍虎はそういう箇所を先生と話し合いながら、時間差を付けて弾いたり、左手で一部の音を弾いたり、最終的には一部の音を省いたりしながら、あまり違和感の無いような形の演奏を組み立てた。しかし練習している内に色々思いついた方法があり、初めの頃は省略していた音をちゃんと弾けるようになった箇所もかなりあって
 
「龍ちゃんはまるで手が3本あるみたいだ」
とまで言われた。
 
実際メロディーの2回目の所の後半は左手4和音・右手3和音というとっても辛い演奏になる。指が充分大きい人なら勢いで弾いてしまえる所だが、ここを龍虎は残響利用・時間差などを巧みに利用して、小さな指で美しく弾いた。やがて中間部を経て、臨時記号だらけの所に突入する。普通の人ならこの部分は譜面を見ただけで「パス」と言うが、龍虎は指さえ届けば臨時記号など全く平気である。それでここをパーフェクトに弾いていくので、会場内にはざわめきさえ聞こえた。そして最後はまた美しいハーモニーに戻って大団円へと進む。
 
↓ ↑ Bottom Top


龍虎が弾き終わった時、物凄い拍手があり、龍虎はまるでスカートの裾を両手で摘まむかのような感じの挨拶をして下がった。
 
彩佳から突っ込まれる。
 
「なぜ女の子式の挨拶をした?」
「あんな凄い拍手もらえるとは思ってもいなかったから、びっくりしちゃって、焦ったらあの挨拶になって『しまった。スカートじゃなかった』と思った」
 
「だからドレスで出れば良かったのに」
「うーん・・・」
 

↓ ↑ Bottom Top

発表会が終わってから、音楽教室の教室長さんから龍虎は声を掛けられた。
 
「田代さん、凄くうまかったね。まだ小さいのにあんなに弾けるって凄いよ。今度コンテストに出てみない?11月にあるんだけど」
「わあ、そんなのに出ていいんですか?」
「今日の演奏なら充分出られるよ。君の担任は小鹿先生だっけ?」
「はい、そうです」
「じゃ小鹿先生とも話しておくよ」
「よろしくお願いします」
 
「でも衣裳はドレスの方がいいかもね。女の子は可愛く装わなきゃ」
と教室長さんが言うので、田代母はおかしくてたまらない様子で、龍虎は困ったような顔をしていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

9月12日(水). 高岡の青葉の家で静養していた和実が東京に帰った。青葉がずっとヒーリングしてくれるので、かなり痛みも取れ、体力も回復してきたのである。9月15日(土)にエヴォン銀座店がオープンし、和実はそこの店長になることになっている。
 
9月17日(祝)には春奈も東京に戻った。この時、エスコート役として多忙な冬子が、わざわざこちらまで来て、連れ帰った。春奈はまだ万全ではない状態である。それなのに彼女は仕事が溜まっており、11月には全国ツアーもあるということだった。
 
その話を聞いて本人も不安がっていたので、冬子とも話し合い、青葉はこの春奈たちの全国ツアーに同行し、春奈のヒーリングをしてあげることになった。
 
↓ ↑ Bottom Top


9月14日、東京の大田区総合体育館で男子FIBAアジアカップが始まった。
 
この大会の名称だが、これは2018年現在のアジアカップとは全く別の大会であり、2018年現在のアジアチャレンジに相当する。
 
この当時は、偶数年に予選に相当するアジアカップが行われ、その優勝国および上位入賞国が所属する地域の上位国が奇数年のアジア選手権に出場していた。そしてアジア選手権の上位入賞国が世界選手権あるいはオリンピックに出場できる。
 
ところが2016/2017年からアジアカップがアジアチャレンジ、アジア選手権がアジアカップと改称されたので、名前が以前のとは紛らわしいことになっている。
 

↓ ↑ Bottom Top

千里は常総ラボを引き渡してもらった9月7日以降、毎日だいたい朝5時くらいに千葉のアパートを出てインプを運転して常総ラボに行き、午前中いっぱいひとりで練習をしていた。この時期はまだまだ暑いのだが、午前中なら空調を入れなくても結構いけるのである。
 
シュート練習では《すーちゃん》や《びゃくちゃん》が返球係をしてくれて、1on1は《こうちゃん》や《とうちゃん》が相手をしてくれた。
 
「千里、このくらいできるなら、男子日本代表になれるかも知れんぞ」
などと《こうちゃん》が言う。
 
「さすがに男子代表にはなりたくない」
と千里は答えた。
 
練習が終わると汗を掻いた服を着替え、インプで葛西に戻り、仮眠してからシャワーを浴び、午後から夜に掛けては作曲作業をする。通勤の混雑が落ち着いた21時頃にインプを運転して千葉に行き、晩御飯を作って桃香と一緒に食べる。この時期、桃香は一日中アパートに籠もって、大学院の入試を受けてもよい条件として課されたレポートを必死で書いていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「桃香お昼はどうしてるの?」
 
朝御飯は千里が出かける前に作ってラップを掛けて置いておくのである。
 
「カップ麺かレトルトカレーかほっかほっか亭か、あるいは千里がくれたピザのサービス券だな」
と桃香は言っている。
 
「自分で作ればいいのに」
「それは無理というものだ」
 
それでだいたい夜中0時頃には一緒にお布団に入って、イチャイチャしながら寝ていた。そして朝4時半頃には朝御飯を作って自分の分を食べてから出かけるというサイクルである。
 

↓ ↑ Bottom Top

千里はかなり悩んだのだが、貴司が出場するアジアカップを見に行くことにした。日本の試合はまずは予選リーグでは次のように組まれていた。
 
9.14 19:00 カタール対日本
9.15 16:30 台湾対日本
9.17 16:30 インド対日本
9.18 19:00 イラン対日本
 
チケットは最終日まで全ての日程分を、7月18日(性転換手術の当日)に先行発売になった時、《きーちゃん》に頼んで買ってもらっている。18日に入手できなかった日の分も7月21日の一般発売で購入してもらった。
 

↓ ↑ Bottom Top

9月13日(木)、朝、千里はまだ(裸で)眠っている桃香に「3日くらい留守にするね」と言ってから、インプレッサに満タン給油し、自分は後部座席に寝転がって《こうちゃん》に「よろしく〜」と言って眠ってしまった。それで《こうちゃん》はぶつぶつ言いながらインプを運転して、京丹後市を目指した。
 
東名→名神(米原JCT)北陸道→R27→若狭道(綾部JCT)京都縦貫道と走り、終点の宮津天橋立ICで降りた後はR176/R312を走って京丹後市杉谷の丹後文化会館に到達する。この間、600km,《こうちゃん》の運転なので6時間ほどで到達している。
 
直前のコンビニで《こうちゃん》が千里を起こし、千里もコンビニでトイレを借りてから最後は自分で運転して待ち合わせ場所に行った。
 
↓ ↑ Bottom Top

雨宮先生が手を振っている。
 
「本番用の車は?」
「もう主催者に渡した。チェック後、向こうで保管されるはず」
「じゃお昼食べましょう」
「うん。千里のおごりで」
「え〜〜!?」
 
それで一緒に近くの食堂に入り、カツ丼とうどんを食べる。
 
「イルザには東京でラリー用のインプに乗せて撮影したんだよ」
「なるほどー」
「土曜日には本人も来るはず」
「まあ来てくれないと困りますね」
 
「そうだ。イルザに1曲書いてくれない?」
「いいですよ。またAORですか?」
「そうそう。でも千里ってどんなジャンルでも書けるよな。ポップスでもロックでも演歌でも何でも書いてしまう」
 
「ポリシーが無いですから」
「それはある意味使い手があるよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「ケイみたいな天才と、私みたいな凡才では生きる道が違いますし」
と千里が言うと
「ふふふ」
と雨宮先生は笑っていたが、千里にはその笑いの意味は分からなかった。
 

↓ ↑ Bottom Top

午後は自由時間ということなので千里は旅館で寝ていた。
 
翌14日は朝4時半に起きて雨宮先生と一緒にインプに乗り文化会館前に行く。朝6:40からレッキなのである。ここで、イルザが共演者の暁昴・尾崎吉子および撮影スタッフと一緒にやってきた。撮影(される)用のインプと撮影する用のランドクルーザーの2台である。ランクルは制作会社のスタッフが運転しているが、インプを運転しているのは尾崎吉子。彼女は国際C級ライセンスを所有しており、ドラマでもイルザが演じる小島秋枝の指導者役で出演している。
 
撮影用に持って来ているインプは今回のラリー本番で千里たちが使用するWRXと同じ型式同じ色のものであるが、貼られている広告は実は番組スポンサーのものである!実はこの車で昨日ラリーコースを一周走ってきたらしい。大半は尾崎さんが運転しているが、イルザにもかなり運転させてそれをランクルや沿道のカメラから撮影してきたという。
 
↓ ↑ Bottom Top

「道が細いしジグザグで結構怖かったです」
とイルザは言っていたが、免許取ってまだ半年の初心者には舗装されているとはいえ、林道を走るのは辛かったろう。
 
「坂道でずいぶんエンストさせちゃったし」
と言っていたが、きっとこの番組が終わる頃には「ATなんかつまらない」と言うような子になっているかもね、と千里は思った。
 
サービスパークは6:00オープンなのだが、5:50に撮影のために中に入れてもらいイルザとコドラ役の尾崎さんがレッキにエントリーする所を撮影した。スタッフは本物のスタッフである!ロードブックも1冊頂いた。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 
娘たちのリサイクル(16)

広告:女声男子-2-ガンガンコミックスONLINE-険持-ちよ