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ドリームボーイズは2001年にデビューしたポップロックバンドである。メンバーは蔵田孝治(Vo) 大守清志(B) 増田勇次(Dr) 滝口将人(Gt) 原埜良雄(KB) 野村博之(Sax) の男性6人である。
ドリームボーイズは「格好いいことをしない」「ださい、ひどい、と言われることを誇りとする」というポリシーであり、楽曲名にしても
『噂の目玉焼きガール』『虹の向こうで味噌カツ』『哀しみの親子丼』など、ほんとに酷いタイトルが多い。
他の歌手への提供曲もだいたいこのノリなので、松原珠妃は『愛のドテ焼き』という曲を歌わされそうになった(この曲はその後『ドテ焼きロック』の名前で公開され、最終的には『鯛焼きガール』の名前で発売された)。
ステージでもメンバー全員(美しくない)女装で出てきたこともあれば、白い木綿のシャツに縞模様のトランクス・腹巻きというスタイルのこともあったし、ワゴンセールの売れ残り品というコンセプトでほんとに酷い衣裳だったこともある。ダンスチームにしても、電信柱とか携帯電話に擬態させられたり、大根やバナナだったり、モップや水道管だったりした。一度はおちんちんの形に擬態させられそうになったが、直前に気付いた社長から毛筆に変更させられたこともある。
そのダンスチームだが、基本的に女性のみで構成することになっている。
これは専属のチームであり、他の歌手のバックで踊ったりすることはないのだが、人数は不定で、メンバーもツアーごとに違ったりするものの、地方公演で現地調達された人を除くと、だいたい30-40人くらいのメンツの中でその時に都合がつく人で構成されている。中でも特に出演頻度の多い人はファンにも名前が結構知られており、ファンサイトに写真まで載っている(肖像権侵害だが事務所も黙認している)。
それが、葛西樹梨菜(別名高木倭文子)、松野凛子(別名夢原礼子)、竹下ビビ、梅川アラン、花崎レイナ(別名諏訪ハルカ)、柊洋子(別名ピコ)、鮎川ゆま、木場千絵美、浜坂アリナ、高崎充子、などといった所である。
高木倭文子、夢原礼子はこの名義でソロ歌手としてもデビューしている(実際にはほとんど売れなかった)。諏訪ハルカは従妹の夢路カエルと組んで《プリマヴェーラ》として活動しているが(名前の由来は「遙かなるスワニー河/夢路より帰りて」)、このユニットは一定のファン層を獲得して結構なCDセールスとライブ動員もしている。高崎充子は現在AYAのマネージャーをしている。
さて、このダンスチームのメンツの中で柊洋子(別名ピコ)というのが、KARIONの準メンバー(と当時は思われていた)であるというのはこの時期、ごく一部の人(2007-8年のKARIONライブを見ていた人)だけに知られていた。
この柊洋子がローズ+リリーのケイではないのかというのは、2008年秋に彗星のごとくローズ+リリーが登場した時、KARIONファンの間でも議論されたのだが、当時は様々な状況証拠から否定的な見方が多かった。しかしその後、柊洋子がKARIONライブに姿を見せないようになり、更にはケイもローズ+リリーの活動休止であまり公の場に現れないようになったことから議論は下火になっていた。
そしてドリームボーイズが8月26日(日)夕方の関東ドーム公演で解散することになったのである。
この公演では葛西樹梨菜(リーダー蔵田孝治の婚約者なのだが、この時点ではまだ婚約したことは公表していない)が呼びかけて、上記の10人でバックダンサーを務めようということになった。これには同日日中に大阪でライブ予定の入っていた諏訪ハルカもライブ終了後新幹線で駆けつけてくることになったし、引退して母親業専任になっていたいた梅川アランも2ヶ月前からダンスのレッスンに通って身体を鍛え直すということであった。ラッキーブロッサム解散後、音楽教室の講師などをしていた鮎川ゆまも参戦を表明した。
そして柊洋子=ケイなのだが、この日8月26日はちょうどローズクォーツの横浜公演と時間的にもぶつかってしまい、さてどうしようかと悩んで楠本京華に相談したのである。
実際にはケイ(冬子)は今回のローズクォーツのツアー全部を身代わりさんに代行してもらったので、本人は夜だけマリと一緒に泊まるホテルに行き、日中は各々の町でレンタカーなどで出歩き、曲の構想などを練っていた。
20日(月)は夕方から仙台公演だが、冬子自身はレンタカーで鳴子まで行き、温泉に浸かりながら曲の構想を練っていた。夕方仙台のホテルに帰還し、21日は政子と一緒に金華山を訪れる。
23日(木)は大阪公演であるが、冬子自身は翌日の下見も兼ねて琵琶湖を一周しながら、途中の道の駅やスーパーの駐車場に駐めて楽曲を書いていた。そして24日は政子と一緒に竹生島に行った。
冬子は25日の朝から東京に戻り26日は眠っている政子をマンションに放置して朝から関東ドームに入った。
しばらく見ていなかったダンスチームのメンバーたちとハグしあったりして交歓する。
「そういえば結局洋子とローズ+リリーのケイって同一人物なんだっけ?」
と質問があるが
「ケイなら、今夜横浜でローズクォーツのライブに出るはず」
と冬子が言って、今朝○○プロの中沢課長からもらったパンフレットを見せる。
○○プロはこのキャンペーンツアーのことを全然知らなかったらしく、すぐにこういうパンフレットを作ってあちこちに配り、須藤さんに強引に言ってテレビスポットも流させたらしい。
「洋子は元々神出鬼没だから、東京と横浜で同時にライブやるくらいは朝飯前だと思う」
と松野凛子が言うと
「いや、そもそもそんなパンフレットを持っているということがケイと洋子が同一人物であることを示している」
と竹下ビビが鋭い所を突いてきた。
「まあ、その内分かることもあるでしょう」
と言って冬子は笑っておいた。
鮎川ゆまは「寝坊した寝坊した」と言って9時半頃やってきた。ドリームボーイズのメンバー自体は大守さんが朝8時頃から来ていたが、他のメンバーは9時頃からぼちぼちとやってきて、ラストは蔵田さんが樹梨菜と一緒に現れた。それで10時頃には花崎レイナ以外揃う。花崎レイナは15時すぎにプリマヴェーラの大阪公演が終わるので、その後、新大阪駅に移動して15:50の《のぞみ238号》に乗れた場合、関東ドームには19時頃到着する予定である。2曲目か3曲目付近から参加できると本人は言っていた。
さて、蔵田さんはやってくるなり「腹減った」と言い、お寿司の出前を取ろうとしたが、本番前に生ものを食べるのは禁止と前橋社長から言われて、ピザに変更した。それでピザを30枚!注文したが、出演者と$$アーツや★★レコードの人など25人ほどで1時間で食べ尽くしてしまった(ピザ屋さんも何度かに分けて持って来てくれた。複数店での対応になったもよう)。
11時すぎからリハーサルをするが、あまり熱心にやると疲れるという理由で、軽く流し、曲も短めの演奏にして13時頃には終了した。その後、
「リハーサルでまた腹減った」
と言って、ケンタッキーのチキンを200本!(さすがに事前に予約していた)ほっかほっか亭のお弁当を各種取り混ぜて60個ほど用意させていたのをこれも1時間ほどで食べ尽くした。
ダンスチームのメンバーからは
「こんなに食べたら太っちゃう」
という声もあったが
「だったら食うなよ」
と言われると
「いや食べる」
と言って、ケンタッキーをほおばっていた。
15時から別室でドリームボーイズのメンバー6人と$$アーツの前橋・大島、★★レコードの加藤・佐々木の10人で、記者会見を行った。その間、ダンスチームのメンバーはリハーサルの時に少し疑問のあった点の確認などをしていた。16時くらいからは休憩になるので、仮眠しているメンバーなども多かった。
開場したのは17時頃である。身分証明書の照合をしながら入場させるので、時間が掛かる。ファンクラブ会員(ドリームボーイズのFC会員のみでなく、AYAなど$$アーツおよび関連事務所の他のアーティストの会員証も使える)の場合は顔認証でスムーズに入場できるが、運転免許証や学生証などとの照合の場合は写真と本人の顔を厳密に見比べる。55000人ほど入場させるがこの照合チェックで300人ほど入場拒否が出たらしい。過去のドリームボーイズのドームコンサートでは100人程度だったのだが、今回はラストコンサートということで過熱したようである。
18時頃から全員本番用の衣裳に着替える。今回のダンスチームの衣裳は魔女風である。
「なぜこんなにまともなの?」
という声があがるが、
「竹輪にされそうだったのを変更させた」
と樹梨菜が言う。
「ああ、竹輪は酷い」
「バナナとかウィンナーというのも過去にあったよね」
「水道管も酷かった」
「おちんちんが一番酷かった」
「毛筆に改造されてホッとした」
「竹輪にしろバナナにしろ、おちんちんを想像させるものをやらせたいようだ」
18:50.全員スタンバイして開演を待つばかりになっていた時に花崎レイナが到着した。
「早かったね!」
「大阪の会場から新大阪駅までと、東京駅からここまで、バイクに乗せてもらった」
「すごーい!」
「すぐ着換えて」
と言って、凛子が衣裳を渡す。
「ありがと。なんか今日の衣裳はまともじゃん!」
「樹梨菜のおかげ」
「ああ。何となく想像つく」
それで花崎レイナもそろった所で一緒にステージに上がる。
それで2012年8月26日19時から2時間半にわたってドリームボーイズの最後の熱演が行われたのであった。
冬子は打ち上げも終えてから深夜1時頃にマンションに帰宅した。政子はまだ起きていて
「冬、お腹が空いた〜!」
などと言っている。
「これお土産」
と言って、打ち上げの時のお肉を折り詰めにしたものと、デザートのケーキを出す。
「わあ、美味しそう」
と言って、政子はニコニコして食べていた。
冬子は微笑みながら、台所のテーブルの上に積み上げられているカップ麺の殻の山を眺めていた。
台湾でWilliam Jones Cupを戦った男子日本代表チームは大会最終日の翌日8月27日(月)に帰国した。
松山空港7:45-11:45羽田空港 (3h)
羽田で記者会見をしたのだが、その前に、数人のコンパニオンの女性が選手たちに花束を渡してくれた。
「お疲れ様でした」と言われて渡される花束を貴司ももらって「ありがとう」と言ったのだが、受け取ってからそのコンパニオンの顔を見てギョッとした。
「千里!?」
しかしコンパニオンの女性はすぐ後ろを向いて向こうへ行ってしまう。でもあの長い髪は・・・と思って貴司はそちらを目で追っていたものの、彼女はその後1度もこちらを振り向かなかった。むろん記者会見が始まるので貴司は追う訳にもいかない。
記者会見が終わった後、貴司は千里の携帯に電話をしてみた。
桃香の部屋で千里の携帯が鳴った。
長く鳴っている。千里はあいにく買物に出かけている。千里はしばしば携帯を忘れて出歩くのである。桃香が携帯を見ると「たかこ」と表示されているので女性の友人か親戚だろうと思い、桃香は携帯を開いた。
「もしもし。こちら村山千里の友人ですが」
「あ。すみません。村山さんの高校時代の友人なのですが、村山さんは近くにおられます?」
と男性の声がするので桃香はギョッとした。
「今買物に出ているのですが、というか今富山県の高岡に来ているんですよ」
「ああ。富山でしたか。すみません。ではまた後で連絡します」
「あ。いえ」
桃香は電話を切ったあと「うーん」と考えた。男性の友人をわざわざ女性っぽい名義で登録するというのは・・・怪しい!それとも男の声だけど実は女だってことはないか?
ちなみに桃香もしばしば電話で男性と間違われる。ただ気合いを入れたらちゃんと高い声も出るので「男性でそんなに女性的な声が出せるって凄いですね」としばしば言われる!
なお、桃香は電話があったことを千里に伝えるのを忘れてしまった!
貴司は電話を切ってから考えた。
千里は今富山にいると言う。千里が共同生活している高園さんの実家に行っているのだろう。そもそも今電話に出たのが高園さんだろう。
しかし千里が富山にいるということは、さっき見たコンパニオンが千里のはずはない。そもそも千里がコンパニオンなどしているはずもない。
似た人だったのか、あるいは見間違いなのか、と貴司は考えていた。