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うっそー!?と思ったものの、龍虎は目をつぶったまま、服を脱いでみせた。
「田代さん、なんで女の子用のシャツを着ている?」
「これしか見つからなかったから」
「パンティも女の子用じゃん」
「これしか見つからなかったから」
実は数少ない男の子用の下着を母がうっかり(?)洗濯してしまって、お陰で龍虎は大量にある女の子用下着を着けてくるハメになったのである。
それでパンティまで脱いでしまうと、女の子たちが寄ってくるのを感じる。
「ね、胸があるよね?」
という声がある。
「龍虎はA60のブラジャーを時々つけてる」
と彩佳がバラすと
「すごーい!」
という声があがっていた。
「どっちみち、ちんちん無いじゃん」
「小さいのがあるんだけど」
「ん?」
目をつぶっているのでよく分からないのだが、大量に女の子たちが近づいて龍虎の股間を見ている感じがする。
「割れ目ちゃんは無い」
とまず確認される。
「これちんちん?」
「やや大きめの、おマメさんでも通る気がする」
「どっちみちタマタマは無い」
「一応あるんだけど」
「いや、無いように見える」
(睾丸も陰嚢も小さいので、ほぼ身体に張り付いていて、龍虎の陰嚢は垂れ下がったりしない。昨年末にタックした時は無理矢理引っ張って処理している)
そういう訳で、龍虎は学校の女子たちの多くに股間の状態を見られてしまったのである。
「やはりおちんちんが無いから、いつも女子トイレ使っているのね」
と、龍虎の女子トイレ使用に若干の疑問を持っていた感じの子も納得したようだ。
「実はこれ握れないから男の子みたいに立ってできないんだよね」
「まあ確かにこれは握れない」
「そもそもズボンの前開きから出ないんじゃない?」
「引っ張っても無理っぽいね」
と言って本当に引っ張ってみているのは彩佳である!ちょっとぉ!!
「した後は濡れるからちゃんと拭いてる」
と龍虎が言うと
「じゃホントに女の子と同じなんだね」
とみんなは納得しているようだ。
「この程度なら、女の子のバリエーションということでいいんじゃない?」
と学級委員の麻耶が言っている。
「うん。全然問題ない」
「これ、この付近に毛が生えてきたら、女の子のお股にしか見えなくなるよね」
「じゃ、龍ちゃん、私たちと一緒に女湯に入ろうよ」
と多くの子たちから声があがった。
そんなぁ・・・・
(これ以降龍虎のことを「田代さん」ではなく「龍ちゃん」と呼ぶ女子が増えた。だいたい男子の多くが「○○君」と呼ばれるのに龍虎だけ「田代さん」という女の子に準じた呼ばれ方だったのである)
「だって龍ちゃん、女の子になりたいんでしょ?心が女の子なら女の子の仲間でいいと思う」
という声まである。
えっと、何と言い訳しよう。
「女の子になりたいから、劇でも女の子役に立候補したんだよね?」
何か変な話になってきてない??
「でも男の子かもという疑いもあるから、龍は目を開けないこと」
と彩佳が言っている。
「そうする!」
この彩佳の提案で、女子たちの空気が変わったのを龍虎は感じた。いくら女の子と似た感じだからといっても・・・と思っていた子も龍虎に見られないのなら構わないかという雰囲気になったのであるが、そこまで龍虎は理解していない。
「目をつぶっていたら危ないから私が手を引いてあげるよ」
と彩佳が言って、手を握ってくれた。
そういう訳で龍虎はクラスメイトたちと一緒に女湯に入ってしまったのである。
しかし目をつぶったままでも何とか入浴できるもんなんだなあと龍虎は思った。移動する時は彩佳が色々注意してくれたので危なげも無かった。
浴槽の中では多数の女子たちとおしゃべりする。他のクラスの女子たちとも随分仲良くなった気がした。おっぱいやお股にも随分触られた!しかし最初はかなり居心地の悪い思いをしていた龍虎も20分近く女の子たちと裸の付き合い?をして「ボクここに居てもいいのかな」という気分になってしまった。
脱衣場に戻って服を着る時、目を開けられないので服が分からない。
「私が取り出してあげるね」
と言って彩佳が勝手に龍虎のバッグを開けている。
「まずパンティ、こっちが前だよ」
「ありがとう」
どうも自分の着替えはみんなに見られているようなだなあと思いながら龍虎は普通にパンティを身につける。あ、コットンのパンティだ、と思ったら
「水玉のパンティ可愛い」
という声があがっている。うっ・・・これ水玉のか。
彩佳が次に取り出したものにざわめきが起きる。
「ブラは難しいだろうから私が着けてあげるね」
「それ要らない!」
やはりブラだったのか。
「いや、龍には必要だと思う」
「そもそも着換えにブラジャー持って来たということは着けるつもりだったんでしょ?」
「お母ちゃんが用意してくれたんだけど、なんでブラジャーとか入っていたんだろう」
「5年生にもなったらブラジャーくらい着けてもいいと思うよ」
と宏恵が言っている。
たぶんこの場にいる女の子でブラジャーを着けているのは、宏恵を含め数人しかいない。
「あまりカップが余ってないね」
と何人かの女子がわざわざ龍虎のブラの中に指まで入れている!
「龍はたぶん近い内に生理も始まるね」
と彩佳。
「そんな馬鹿な」
と龍虎は言うが
「いや、龍ちゃんなら生理が来ても驚かない」
などという声がしている。
「あ、スカートも入っている」
「これ穿いたら?」
「恥ずかしいよぉ」
「何を今更」
「龍、小学2年の頃は何度かスカート穿いて学校に来たじゃん」
「あれ、ズボンが全部洗濯中だったんだよ。梅雨時で乾かなかったし」
「下手な言い訳してる」
「これロングスカートだからキャンプファイヤでも穿いてていいと思うよ」
ともかくもそれで龍虎は結局ロングスカートと、可愛いカットソーを着るハメになった。
他の女子と一緒に荷物を部屋に置いてから営火場に行くと、龍虎の格好を見た西山君が「可愛い!」と言った。
「何かこれ着る羽目になった」
と龍虎は情けない顔をして言うが
「でも持って来ていたんだろ?」
と西山君。
「そうそう。着る気満々だったと思う」
と桐絵が言っていた。
キャンプファイヤに点火された後、みんなでキャンプやジャンボリーっぽい歌をたくさん歌う。『アルプス一万尺』『キャンプファイヤの歌』『おお牧場はみどり』『おおブレネリ』『森の熊さん』『踊ろう楽しいポーレチケ』などといった所である。
龍虎のそばで歌を聞いていた西山君が
「田代さん、ほんとに歌が上手いよね」
と言っていた。
「やはり龍は歌手になるべきだよね」
と彩佳。彩佳はどさくさ紛れに龍虎に身体をくっつけて座っている。
しかし龍虎は
「ボク、実は歌手より俳優になりたいなあと思っている」
と言った。
「へー」
「いや、龍虎は俳優ではなく女優になると思う」
と向こうから宏恵が言うと
「確かに」
とみんな、納得する声があがっていた。
歌をたくさん歌った後は男子と女子で二重の輪を作り、フォークダンスを踊った。増田先生と小林先生がお手本を見せるので、それを見ながら、ジェンカ、マイムマイム、タタロチカ、コロブチカ、そしてオクラホマミキサーなどもする。むろん龍虎は最初から女子の輪の中に居る。「ボクどうしよう?」と言ったら「スカート穿いてる子は女子の輪」と言われた。
タタロチカまでは各々の輪で完結するがコロブチカは男女の絡みがあり、オクラホマミキサーになると完璧に男女ペアになる。ここで男子の輪から数人女子の輪の方に移動した。西山君や立石君はいつものことなので自主的に女子の方に移動している。龍虎は西山君とペアになりそうだったので、彼とならペアでもいいかなと思っていたら、彼が女子の方に来たことで藤島君とのペアになった。彼はわりと格好いいので女子の人気が高い。案の定、龍虎が彼と組むと嫉妬のような視線を感じる。もう!
龍虎が背が低くて長身の藤島君とは組むのがけっこう大変だったのだが、彼が長い腕でしっかりサポートしてくれたので龍虎は踊りやすかった。もっとも藤島君も後から「田代さんが上手いから踊りやすかった」と言っていた。彼の後は金野君、内海君・・・と続いて最後は伊東君だった。
そこで音楽が終わったが
「田代さん、触ると普通に女の子の手の感触だね」
と彼が言っていて、また龍虎を悩ませるのであった。
8月4,11,12日に土浦市の水郷体育館と新治体育館で第10回シェルカップが行われた。
この大会にローキューツは“1.2軍”で臨んだ。元々は気軽なオープン大会だったのが、最近どんどんレベルが上がってきていることから、やや本気で行こうかということになったことと、もうひとつは実は来月の全日本クラブ選抜の“選手枠選考”大会とすることを事前にメンバーに告知したのである。それで今回の登録メンバーは下記である。
選手(16名) ★主将
8.原口揚羽(C) 9.松元宮花(PG) 11.水嶋ソフィア(SG) 15.東石聡美(SF) 17.杉山蘭(PF) 18.岡田瀬奈(SG/SF) 19.沢口葉子(SF) 22.五十嵐岬(PF) 23.愛沢国香(PG/SF) 24.岸原元代(PF) 27.深山三葉(SF) 30.後藤真知(SF) 31.真田雪枝(SF) 35.長門桃子(C)★ 36.鴨川絵美(PF) 37.宮中春江(PF)
桃子を玄海カップに続いて主将として登録した。身長の高い桃子は、キャプテンと言われると物凄く説得力がある。
参加しないメンバー(5名.クラブ選抜出場確定)
4.歌子薫(SF) 6.森田雪子(PG) 7.風谷翠花(PF) 16.馬飼凪子(PG) 33.森下誠美(C)
参加しないメンバー(3名.クラブ選抜不出場確定!)
20.島田司紗(GF) 25.長居茜(PF) 26.弓原玉緒(SF)
3月31日に送別会&新人歓迎会をした時にはまだ居なかったメンバーが4人増えている。いづれも4月に加入したメンバーである。括弧内は生年度と身長。
9.PG.松元宮花(1992 162cm)東京U学院→SK化学
27.SF.深山三葉(1993 169cm)旭川L女子高→都内の企業
36.PF.鴨川絵美(1993 172cm)茨城K高校→千葉S大学(元代の後輩)
37.PF.宮中春江(1993 173cm)前橋B高校→千葉J大学(岬の後輩)
結局今年の新加入は11名になった。26名の登録者の内11名が新人である。
松元宮花はソフィアと一緒にSK化学にいた人だが、湘南自動車の松元ツバメの妹でもある。SK化学の解散で姉のチームにも加入を打診したもののどうしても枠に入れなかったらしい。それでどこか入れそうな適当なレベルのチームを探していたのをソフィアが勧誘したのである。マクドナルドのバイトをしながらチームに参加することになった。
深山三葉は旭川L女子高の出身で、麻依子・翠花らの勧誘で加入した。鴨川と宮中は今年大学に入ってキャンパスを歩いていた所を長身なので、各々元代・岬が勧誘したのである。
今回の選手選考方法は下記の指標の高い人から順に8名を当確とし、残り3名はバランスを考えて決めると司紗が!宣言した。
指標計算方法
加算分 45.75×得点 + 22.55×リバウンド + 32.8×アシスト + 58.2×スティール + 38.37×ブロック数
減算分 48.65×ターンオーバー + 39.73×シュート失敗数 + 20.6×フリースロー失敗数 + 18.68×ファウル数
指標=(加算分−減算分)÷出場分数
これは waynewinston.com というサイトが提案している選手評価指標である。単純な計算式なのに、評価は高いものの計算が複雑すぎて分かりにくいPER(Player Efficiency Rating)ととても近い数値になるらしい。
この指標では(PERでもそうだが)ゴールを決めると91ポイントもらえるのに失敗しても40ポイントしか減点されない。それでこれはゴール確率の低い「数撃てば入る」系のプレイヤーに有利である。またこの指標はどうしてもガード系選手の点数が高くなりフォワード系選手の点数が低くなる傾向がある。またこの手のスタッツに現れないもの、たとえばディフェンスやボール運びのうまいプレイヤーは必ずしも活躍内容と指標が連動しない。また出場分数で割るということは体力があり出場時間の長い人より、出場時間が短くその間に集中してプレイする人の方が有利になる。
そのあたりの欠点を追加3名の協議選考(選考者は薫・翠花・司紗)で補おうという趣旨であると司紗は全員に説明した。
ローキューツはこれまでの実績から4日の予選は免除で11日の2回戦から参加した。まずは午前中に行われた2回戦では栃木のクラブチーム、つくもレーサーズに快勝する。そして夕方近くに行われた3回戦で茨城県内の高校生チームに10点差で勝って本戦に進出した。
そして今回最終日に残ったのはこの4チームである。
ローキューツ、TSブライト、江戸娘、伊豆ホットスプリングス
「何これ、むっちゃ強い所ばかり残ってるじゃん」
と桃子が言ったが、
「きっと他の3チームも同じこと言ってる」
と岬は言った。
なおTSブライトはTS大学の2年生のチームなのだが、この大会には1年生のチームTSコーヒーメイトも出場していた。しかし3回戦で江戸娘に敗れている
(4年生チームがフレッシャーズ、3年生チームがマリーム。コーヒーメイトというのは、日本でクレマトップを売っているネスレが欧米で販売している商品でいわば姉妹品。香り付きのものが多い。実はこの分野の商品の草分けである)。
それで準決勝の相手はそのコーヒーメイトを破った江戸娘である。1月の関東クラブ選手権の決勝で戦って以来だが、お互い結構メンバーが入れ替わっていた。
「あれ?秋葉さんは?」
「どうも辞めたみたいね」
「向こうも何で村山さんが居ないの?とか言ってるよ」
江戸娘との試合は激しい戦いになった。
「マチが欲しい〜!」
と桃子が声をあげていたが
「モモちゃんが頑張りなさい」
とチームベンチのすぐ後ろの応援席に座る誠美は言っていた。
「ボクが性転換したら、後はモモちゃんがやるしかないし」
「マチ、男の子になるの?」
「男の子になりたい気もするけど、男でやっていく自信はあまりない」
などと誠美は言っている。
ゲームは追いつ追われつ、点を取りつ取られつのシーソーゲームであったが、最後は深山三葉のブザービーターでローキューツが逆転勝利を収めた。試合後あちこちでハグしあう光景が見られた。
そして決勝の相手はTSブライトである。伊豆ホットスプリングスを接戦で下して勝ち上がってきた。
2月の大会でもここと当たり、ローキューツは大敗している。それもあって、向こうは何だか明るいムードであった。
ところが試合が始まると、向こうは「うっそー!?」という顔である。最初ローキューツが一方的に攻めてあっという間に4-12などというスコアになる。すぐに主力を投入して何とか挽回していくものの、なかなか追いつけない。結局第1ピリオドは14-29というダブルスコアになった。
「まあ2月に戦った時とは勝手が違うだろうね」
「こちらも気を引き締めて行くよ」
それで第2ピリオドはかなり競った展開になり、18-18の同点で終える。
第3ピリオドも激しい攻防が続く。こちらは疲れが溜まらないようにどんどん選手を入れ替えながら戦ったが、結果的に向こうはこちらの誰に付くかが混乱していた感じもあった。第3ピリオドが16-24となり、ここまで48-71である。
第4ピリオド、向こうはオールコート・プレスを使って何とか挽回しようとするが、これは激しい消耗を伴うプレイである。最初の3分で12-6とリードするも、疲労が出てくるとどうしても動きが遅れがちになり、足が停まり始めると、ローキューツの攻勢に耐えられなくなる。
タイムを利用したり、何度かファウルも使って時間を取り疲労を何とか抑えようとするも、たまらず通常の守備に戻してしまった。
結局このピリオドは22-16で終え、70-87でローキューツが勝利した。
これでローキューツは1年半ぶり2度目の優勝を成し遂げたのである。