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■娘たちのリサイクル(18)

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阿倍子は不安だった。
 
貴司ともう8月4日以来会っていないのである。その8月4日の前に会ったのは実は結納をした7月8日である。
 
実際問題としてここしばらくの貴司はひたすら代表合宿に出ていて、大阪に戻ってきたかと思うと、韓国や中国に仕事で出張している。社員選手って忙しいという話は聞いていたものの、ここまでとは思っていなかった。阿倍子はさすがに貴司との関係が自然消滅するのではという不安を持ち始めていた。
 
でもお腹の中の子の父親にはなってもらわなければならない。出産前に結婚するつもりなので胎児認知はしてもらっていない。結婚式は父の死で一周忌開けまで延ばしたものの婚姻届けは早く出したい。しかし貴司があまりに忙しくて、その話もできない。
 
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ただ、今東京でやっているらしい大会が終わったら、しばらく代表活動は休みということだったので、戻ってきてくれたら話そうと阿倍子は思っていた。
 

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9月16日(日).
 
阿倍子はこの日は貴司の試合が無いと聞いていたので、お昼休みを狙って電話してみた。
 
「お土産って結局何だったの?」
「ごめーん。あれ妹が持って来てくれていたんだよ。それを事務の人が恋人かと勘違いしたみたいで」
「何だ、そういうことだったのか。それでこちらにはいつ戻って来るの?」
「22日で大会は終わるから、23日にそちらに戻るつもり。お昼くらいに解散式があると思うから、夕方くらいになると思うけど」
 
「だったら、悪いけど23日の夜、うちに来てくれない?」
「まあいいよ」
 
夜遅く阿倍子の家を訪問した場合、セックスを求められないかという不安があるが、何とか切り抜けようと貴司は思った。
 
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「そうだ。つわりとかはどう?」
「最近はだいぶ収まってきたかなあ」
「なかなかそちらに行けなくて悪い。そうだ妊婦教室とかも行ってきたら?」
「ああ、そんなのやってるんだっけ?」
「自治体でしてるはずだよ」
「そうだね。問い合わせてみようかな」
 
それで電話を切ったが、貴司は阿倍子がバスケのことを何も訊いてくれないことに不満を感じた。
 

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龍虎はその日「またあのお薬飲んじゃおうかなぁ」と思い、両親とも居ない時間帯に、そっと机の引き出しを開けると、辞書の箱の中に入っている薬のシートを取り出した。
 
ドキドキしながら、1個取り出し、飲んでからたっぷりの水で流し込んだ。
 
この薬を飲むと速効で凄く女の子らしい気分になってしまう。それで龍虎は可愛いパンティとブラジャーにキャミソールを着て、アウターもキティちゃんのTシャツと、花柄のフレアースカートを穿いた。
 
まだ心臓がドキドキしている。なぜかちんちんも少し大きくなっている。
 
ボク、このまま女の子になっちゃったらどうしよう?などと考えている。
 
そしてシートを辞書の中にしまおうとして、ふと感じた。
 
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このお薬、以前より増えてない!?
 

千里と雨宮先生は16日は地元の居酒屋で祝杯をあげ、そのままこの日は旅館に泊まり、翌17日、各々の車で自走して東京に戻った。賞状と楯は先生が
「こういうのはメインドライバーが持っておけばいい」
と言うので、楯は千里が持ち帰ることにした。賞状はカラーコピーを取って、原本の方を先生にお渡しした。
 

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千里が東京に戻ったのは16時頃で、インプは《こうちゃん》に葛西へ回送してもらって千里は大田区総合体育館に行った。
 
この日の貴司たちは、16:30からインド戦で、この試合では貴司はスターターで出て行った。この日は控え組でスタートしたようである。この日は40分の内30分くらい出場して16得点10アシストの大活躍。試合は72-90で日本が勝った。
 
千里はこの日は丹後王国で買ったソーセージをボイル仕立ての状態で選手たちが控室に戻ってくる直前に届けた。ソーセージはまたまた一瞬で無くなった。
 
「おいしい〜〜!」
という声があがっていた。
 
「へー。丹後王国自家製ソーセージか」
「丹後って神奈川県だっけ?」
「京都でしょ。神奈川県は丹沢」
 
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「へー。あれ?でも一昨日も京都のお土産だったのに」
「一緒に買っていたのを今日暖めて届けてくれたんじゃない?」
 
「選手たちを迎えてやってくださいよと言ったのですが、新入り選手の家族があまり出しゃばってはいけないから帰りますと言って帰られたんですよ」
と事務の人は言っていた。
 
「ああ、そういう奥ゆかしさはいいなあ」
 

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18日は19:00から強豪のイラン戦であった。この試合では貴司は出番がほとんど無く、第3ピリオドに5分くらい出ただけであった。試合は71-65で負けた。
 
この結果、日本はBグループ2位となり、決勝トーナメントに進出した。準々決勝ではAグループ3位の中国と対戦することになる。千里は、これは厳しい相手になったなと思った。
 
千里は貴司にメールした。
 
《中国戦、頑張ってね。向こうの12番のスリーに気をつけて》
 

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千里のメールを受け取った貴司は龍良に相談した。
 
「私の友人が中国の12番、白(パイ)選手のスリーに気をつけろと連絡してきたんですよ」
「パイのスリー!?」
 
龍良は白選手について全く知らなかったが、キャプテンや監督とも相談してすぐにこの選手に関する情報を集めた。
 
「これは怖い」
「全然知らなかったなあ」
「中国はこれまでこの選手を使っていなかったね」
「隠し球にしてたんだな」
 
前山選手が言う。
 
「15日、17日と京都のお土産届けてくれた、細川君の彼女がスリーの名手だよね?」
「あ、うん」
「去年のU21世界選手権でスリーポイント女王取った人だっけ?」
 
とSGの勝田さんが言う。同じシューティングガードとして千里にも注目していたのだろう。
 
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「あ、はい」
 
「そうか。細川、だったらその彼女ともかなり1on1とかやってるだろ?」
と龍良。
 
「ええ。まあ、会う度に手合わせしているかな。僕たちのデートはいつも体育館なんですよ」
「ストイックなカップルだ」
 
「よし、だったら細川君、白の相手をして」
とキャプテンが言った。
 
「分かりました。頑張ります」
「何なら彼女をここに呼んで明日練習してもいいよ」
「すみません。あの子7月にちょっと手術受けて今リハビリ中なんですよ」
「ありゃりゃ」
「それは大変だったね」
「今回は直前に代表落とされたのが悔しかったから、リハビリが終わったらまた頑張ると言ってました」
「やはりリオ五輪では彼女たちの世代が中核になるでしょうしね」
と前山は言っていた。
 
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貴司はその夜、千里のプレイシーンを集めたビデオをたくさん再生した。いつも持ち歩いているパソコンに入っているのである。千里がコート上で物凄く輝いているのを見ている内に貴司は涙を流してしまった。
 
「千里、ごめんな、ごめんな」
と言って、貴司は呟くように何度も声に出していた。
 

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20日。準々決勝。中国は白(パイ)をスターターで使ってきた。それで貴司も最初から出て行った。
 
中国が攻めてきて白にボールが渡る。貴司は彼の動きを見ていてスリーだと判断。彼のシュートタイミングでジャンプして、きれいにブロックした。
 
シュートされたボールは放物線の軌道を描くが、その放物線の頂点より先の落下中に弾くとバスケットボールインタフェアになる。だからシュートされた直後の上昇中にブロックするしか無いのである。
 
(こういうルールが無かったら、ゴールそばに長身の選手がいると、その選手が全てのシュートをブロックしてしまうので、相手は全く得点できなくなる)
 
その後の貴司は白の動きやゲームの流れから、ここはスリーだとか、ここは突破してくると予測して白の動きを徹底的に封じた。
 
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だって・・・千里の方がもっと凄いもん、と貴司は思っていた。
 
白が完全に封じられているので、中国はとうとう白を下げてしまった。白は第3ピリオドにも出て行ったが、また貴司にきれいに抑えられた。
 
そういう訳で、日本はこの試合、白をきれいに抑えることができたことから、強敵の中国に50-60で勝つことができたのである。貴司はみんなにもみくちゃにされていて、千里はその貴司の様子を見て満足して会場を後にした。
 

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千里は京丹後から戻った後は、午前中は常総ラボに行って基礎トレーニングとシュート練習をし、午後からは葛西で作曲作業、夕方貴司の試合を見に行っては、夜はまた葛西で作曲作業をするという日々を送っていた。この時期は特にイルザのために書いた新曲のリファイン作業をずっとしていた。
 
それで千里は13日の朝「3日くらい留守にするね」と言って出てきて以来、千葉のアパートには戻っていない。
 
元々千葉のアパートに帰るのは月に5〜6回という生活だったので、その生活パターンに戻っただけである。千里は「3日くらい留守にする」と桃香に言い残しておいたことはきれいに忘れていた(千里は何でもすぐ忘れる性格)。
 

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阿倍子は貴司から妊婦教室にでも行って来たら?と言われたことから、保健所に問い合わせてみた。すると22日(土)に次は行われますよということだったので、予約を入れることにした。
 
「それでは当日は筆記具と母子手帳、それに以前も妊婦教室に出ておられた場合はその時のテキストを持って来てくださいね」
と言われる。ここで阿倍子は当惑した。
 
「すみません。母子手帳ってどこでもらえるんでしょうか?」
「まだ母子手帳をもらっておられないんですか?」
「あ、はい。保健所に行けばいいですか?」
「母子手帳はお住まいの区の区役所のこども保健係でもらえますよ」
「分かりました!もらいに行ってきます」
 
阿倍子は以前結婚していた時は、母子手帳をもらうような週齢まで胎児が育ったことが無かったのである。
 
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それで阿倍子は17日(月)、区役所に行ってこども保健係の場所を聞き、そこに行って「母子手帳が欲しいのですが」と言った。
 
「では妊娠届を出してください」
と言われ用紙を渡される。
 
しかし記入できない。
 
「すみません。分娩予定日とか分からなくて」
「病院で聞いてませんか?」
「すみません。まだ病院に行ってません!」
「妊娠してどのくらいです?」
「最終月経が6月上旬だったのですが」
「だったらかなり進んでますね。すぐ病院に行かれた方がよいです」
「あ、はい・・・」
と言って阿倍子が悩んでいるような顔をしているので職員さんが訊いた。
 
「受診するお金ありますか?」
「あ、えっと。彼から、この子の父親から借ります」
「まだご結婚はなさってないんですね?」
「ええ。そうなんです。ずっと彼、海外出張とかしてて」
 
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その言葉で、職員はこの人の彼氏って外国人でこの人を放置して帰国してしまったのでは?と思った。
 
「彼とは連絡取れます?」
「はい。取れます」
「もし受診にお困りでしたら、再度ここで相談して下さい。何とかしますから」
「分かりました。済みません!」
 
職員さんはわざわざ自分の名刺までくれた。
 
阿倍子は昼休みを狙って貴司に連絡した。すると貴司は「取り敢えず10万送る」と言って即阿倍子の口座にお金を振り込んでくれた。それで阿倍子は病院に行った。
 

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「流産しています」
と医師に言われて、阿倍子は信じられない思いだった。
 
「でも、でも、時々つわりもあるし。体温もずっと高温のままなんですけど」
「稽留流産(けいりゅう・りゅうざん)です。赤ちゃんが子宮内で死亡してしまったものの、何らかの理由で外に排出されずにそのまま留まっているんですよ」
 
「そんな・・・」
「これはこの状態になってから1ヶ月程経過しています。早く子宮内容除去術をした方がいいです。このままにしておくと子宮がそれを強引に排出しようとして、結果的に大出血になり、あなたの生命に危険が及ぶ場合もあります」
 
「でもでも、本当に赤ちゃんは死んでいるのですか?」
 
と阿倍子は医師に食らいつくように言った。
 
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「納得できないとおっしゃる方も多いんですよね。何でしたら他の産婦人科にも行ってセカンドオピニオンをお求めになりますか?」
 
阿倍子は考えた。
 
「分かりました。行ってみます」
「はい。どこか心当たりはありますか?それともどこか紹介しましょうか?」
「何とか探してみます」
 
阿倍子はこの医師から紹介された病院なら同じ診断をするかもと思ったのである。
 
「はい。お大事に」
 

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それで阿倍子は2日おいて20日、別の病院に行ってみた。わざわざ2日置いたのは日数を置けば、赤ちゃんが復活するかもという気がしたからである。
 
しかし医師の診断は同じだった。
 
「稽留流産です。これはその状態になってから既に6週間ほど経っています。あなたは妊娠16週のはずなのに、この胎嚢は10週程度のサイズなんですよ。ひじょうに危険なので、すぐにも掻爬手術をすべきです」
 
と医師は言った。
 
「分かりました。2〜3日考えさせてください」
「考えるのはいいですけど、これは一刻を争いますよ」
と医師が言うのを、強引に阿倍子はその病院を出た。
 

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娘たちのリサイクル(18)

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